夫が家族のために家事などを行っています。この場合にも休業損害は認められますか?
―――― 目次 ――――
いわゆる主夫の場合でも休業損害は認められる!

主夫とは、「家事を切り盛りする夫」のことをいいますが、主婦ではなく主夫でも、他人のために家事労働に従事している場合には、その家事労働が財産的利益を生むものであると評価できます。そのため、主夫が、交通事故によって負った怪我のため家事労働に従事できなくなった場合には、休業損害が認められることとなります。
ちなみに、法律の世界では、主夫・主婦のことを家事従事者(かじじゅうじしゃ)と呼びます。
専業主夫の場合の休業損害

専業主夫の場合の休業損害を計算するにあたって、基礎収入はどのように算定するのでしょうか。
主婦の場合と同様、主夫として家事労働に従事していても現実収入を得ているわけではないことから、この場合も賃金センサスの平均値を基礎収入として計算します。
主夫は男性ですが、賃金センサスの男性の全年齢平均賃金ではなく、女性の全年齢平均賃金を基準とします。これは、男性か女性かによって家事の内容が変わるわけではなくその家事に対する経済的評価も同様であって然るべきであるというのがその理由とされています。よって、主夫の場合であっても、女性の全年齢平均賃金を基礎収入として休業損害を計算します。
兼業主夫の場合の休業損害

兼業主夫の場合は、兼業主婦と同様、女性の全年齢の賃金センサスの平均賃金と現実収入を比較して、高い方を基礎収入として休業損害を計算します。
この場合も兼業主婦の時と同様、平均賃金に現金収入を加算したものを基礎収入とすべきではないかという問題がありますが、兼業主夫が家庭外で労働に従事している分、家事労働を十分に行えていないとの理由で、加算は認めないとする考え方が多いです。兼業をしていると「家事を十分に行えていない」という考え方には「おいおい何を言っているんだ」と言いたくなってしまいますね。今後議論が進むことを期待しています。
主夫の休業損害Q&A
- Q主夫の休業損害はどの位の期間認められますか?
- A事案によりますが、受傷により家事労働に従事しなかった期間認められます。
- Q1日当たりの金額はいくらになりますか?
- A事故年度の賃金センサスの全女性学齢計の金額を基礎とします。令和2年の場合、以下の計算式の通り、1日あたり10463円となります。
賃金センサス全女性学歴計年収3,819,200円÷365日=10,463円 - Q賃金センサスとは何ですか?
- A厚生労働省が行う賃金構造基本統計調査の結果です。
参考:厚生労働省 賃金構造基本統計調査の結果の概要 - Q主夫であることの証明はどうすればよいですか?
- A同居家族全員がわかる住民票、同居家族全員の収入がわかる資料などで証明することが必要です。
- Q裁判をしなくても保険会社は主夫であることを認めますか?
- A交渉で認められる事案は経験上少ないです。交渉で認められる事案には高齢の夫婦2人暮らしで女性が病気などで家事ができないような事案があります
- Q男性主夫の休業損害が認められた事案を教えて下さい?
- A次のような事案があります。
- 名古屋地方裁判所平成30年12月5日判決
【理由】
主夫兼ダンスインストラクター(43歳)で収入は月額4万円
炊事・洗濯などの家事を主夫として行っていた
内縁関係にある交際相手の女性の収入によって生活【結論】
実通院日数148日について1日50%家事ができないと認められた。
具体的には、71万円が休業損害として認められた。 - 横浜地方裁判所平成24年7月30日判決
【理由】
夫(52歳)は専業主夫として洗濯・掃除・料理等の家事労働に従事
夫の後遺障害は右手関節の機能障害で10級10号
妻が正社員として勤務【結論】
賃金センサス女性学歴系全年齢平均(約1万円)を基礎にして入院中は100%、通院3年の期間は25%家事ができないと認められた。
具体的には、380万円が休業損害として認められた。
- 名古屋地方裁判所平成30年12月5日判決
まとめ
- 主夫の休業損害も認められる。
- 受傷により家事労働に従事しなかった期間認められる。
- 1日の金額は事故年度の賃金センサスの全女性学齢計の賃金を基礎とする。令和2年の場合には、1日あたり10463円となる。
- 主夫であることの証明は同居の家族全員の収入関係がわかる資料などが必要となる。