2016/07/12 更新後遺障害

既存の障害と新たな障害の関係について判断した事例

東京高裁 平成28年1月20日判決

判例時報2292号

今回は、既存の障害を持つ方が、事故により新たな障害を生じた場合の、後遺障害の認定・賠償について新しい判断をした判例をご紹介します。

本件の原告は、脊髄損傷により、両下肢麻痺等の既存障害を有する男性でした。車椅子で交差点を進行中、一時不停止の被告車両に衝突され、車椅子から投げ出されるほどの衝撃を受けました。

この事故により、原告には、新たに頸部痛・両上肢の痛み及び痺れが発症し、パソコンを使ったキーボードへの入力作業等に支障が生じるようになりました。

そこで、原告は、加害者及び相手方加入の自賠責保険会社を訴え、これらの新たな障害について、本件事故による後遺障害として賠償を受けるべきことを主張しました。

被告側は、既存障害について「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(施行令別表第1の第1級1号)との認定を受けており、新たな障害について賠償が認められないと主張していました。

この点裁判所は、
「施行令2条2項にいう、「同一の部位」とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきであるところ、本件既存障害と本件症状は、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位にあたるとは認められないから、「同一の部位」であるとはいえない」と判断し、原告の主張を認めました。

既存の障害と、新たな障害の関係について、自賠法施行令2条2項は、「自賠法13条1項の保険金額は、すでに後遺障害のある者が傷害を受けたことによって、同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第1又は別表第2に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあった後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする」と定めています。この「同一部位」の解釈については、労災補償における「同一系列」と同義であると考えられ、この考え方によれば、本件についても既存障害、新たな障害がともに「神経系統の機能又は精神の障害」という「同一系列」に包含されるものとも考えられます。

しかし、本件の第一審判決では、「胸椎と頸椎とは異なる神経の支配領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるものであるから、本件既存障害と本件症状とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たると解することはでき」ないと判断して、上記運用と異なる判断を示しました。そして、控訴審である本件判決でもこの判断を肯定しました。

第一審判決で判示されているとおり、胸椎と頸椎とは異なる神経の支配領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えると考えられ、現に、両下肢の機能障害を有していた原告が、事故により上肢にも障害を有するに至ったのですから、この新たな障害についての賠償を否定される理由はないように思います。

今後の、後遺障害の認定実務にも影響を与える重要な判例になるものと思われ、ご紹介いたします。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。