2016/10/20 更新その他

行動調査の違法性

大阪地裁平成28年2月25日判決

自保ジャーナル1973号

この裁判例は、交差点を横断中の歩行者が四輪自動車に衝突された事故において、歩行者であった被害者が損害賠償請求を行った事案です。

争点は複数ありますが、ここでは、任意保険会社が調査会社を使って被害者の行動調査を行って尾行や写真撮影などをしたことが、生活の平穏を侵害する違法なものであるとして慰謝料請求がされたことについてお書きします。

注目の裁判例「行動調査」にお書きしましたとおり、任意保険会社が被害者の訴える症状などに疑問をもって被害者の行動調査を行うことはあります。

この件では、調査会社の従業員が5日間、朝の通勤中に被害者を尾行して歩行状況を撮影しました。

これについて裁判所は、次の点を指摘し、尾行や撮影が違法であるとはいえないとし、慰謝料請求を認めませんでした。

  1. 被害者が自宅を出たところから通勤途中や駅などの公共の場所にいるときのみ、尾行や撮影が行われた。
  2. 尾行や撮影の態様が、不当に被害者の生活の平穏を害するものであったとは認められない。

たとえば自宅内部を望遠レンズで撮影したというのであればプライバシー侵害の程度は高いといえるでしょうけれども、道路や公共交通機関などにいるときにされた尾行や写真撮影はプライバシー侵害の程度はそれほど高くないと、この裁判例は判断しました。

なお、この尾行や写真撮影が行われたのは、交通事故による損害賠償請求訴訟が提起された後です。自賠責保険の後遺障害等級認定手続では、足関節の可動域制限が10級11号に該当するとされましたが、治療中に突然可動域が悪化したという経過があることから、任意保険会社は争い、最終的に裁判所は被害者に10級11号の後遺障害が残ったと認めませんでした(残った後遺障害は12級13号にとどまると判断しました。)。

この行動調査は、被害者が歩行に不自由があるかどうかを確認するために行われたものだと考えられます。実際、加害者側は、尾行の結果、被害者は健常者と同様に歩き、階段の昇り降りも問題なく行っていることが確かめられたことを主張しました。裁判所は、行動調査の結果を10級11号を否定する根拠にはしませんでしたが、結論に事実上影響を与えた可能性は否定できません。

治療中に関節の可動域が突然悪化した理由は分かりませんが、通常は考えられない治療経過です。被害者の訴える症状などに任意保険会社が強い疑いを抱けば、行動調査が行われることも考えられます。 行動調査が行われたことを知った被害者の方は当然心情を害されます。ですが、そのこと自体を理由に慰謝料の請求が認められるのは困難だといえます。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。