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交通事故の注目の裁判例

2018/09/27 更新

顔面醜状から自賠責9級16号認定を受ける15歳女子の後遺障害逸失利益を14%の労働能力喪失率で認定した判例

名古屋地裁 平成30年3月16日判決

自保ジャーナル2021号

今回は、自賠責9級16号の後遺障害に関する逸失利益を、労働能力喪失期間52年間、労働能力喪失率14%で認めた判例をご紹介します。

被害者(女性 高校生)は、平成27年5月、自転車で走行中、乗用車に衝突され、頭部挫傷等の傷害を負いました。 被害者は1年弱の期間通院しましたが、左前頸部から左眉毛部、左瞼にかけてのL字型の線条痕が残ってしまいました。この部分について、自賠責では、顔面部に相当程度の醜状を残すものとして、9級16号の後遺障害が認定されました。その後、損害賠償額をめぐって裁判となりました。

本件では、特に後遺障害の逸失利益が争点となりました。

被害者(原告)は、今回の後遺障害による労働能力喪失率は35%であると主張しました。 保険会社側(被告)は、今回の後遺障害は、客観的に対人関係や対外的な活動に消極的になることが当然で労働能力に影響を与えると言い得るほどに外貌の美的状態を損なうものではなく、労働能力は何ら制限されない(労働能力喪失率0%)と主張しました。

裁判所は以下のとおり、判断して、後遺障害に関する逸失利益を、労働能力喪失期間52年間、労働能力喪失率14%の喪失率で認めました。

原告の負った後遺障害である醜状障害は、顔面の左前部から左眉毛部、左瞼にかけてのL字型の線条痕であり、本件事故から2年5か月ほどが経過した平成29年10月18日時点においても、周囲の皮膚色との差は明らかで、その存在が写真に写り込む程度のものであること、この部位にツッパリ感や痛みの神経症状があることが認められる。この醜状障害は、その部位、程度からすると。眼鏡や髪の毛で相当程度隠すことが可能で、他人に特段の不快感をもたらすものではないと評価できるものの、原告は本件事故当時15歳であり、これを理由として、将来の職業選択が狭められることや、就職の前提となる学業や職業訓練に消極的となることが考えられるから、一定の労働能力喪失があり、後遺障害による逸失利益が生じたと認められる。

今回の事件では、顔面部に5センチメートル以上の傷跡を残すものとして、自賠責9級16号の後遺障害が認定されていました。この傷跡が残ったことが、将来の労働能力にどのように影響を及ぼすかという点については、その割合及び期間をめぐって難しい議論があり、しばしば問題になります。保険会社側は醜状障害の逸失利益をゼロと主張してくることが多いように思います。以前も「9級16号認定の外貌醜状を残す16歳男子高校生の後遺障害逸失利益を2.5%の労働能力喪失で認めた判例」(東京地裁平成29年4月25日判決、自保ジャーナル2015号)をご紹介させていただきました。

この点、例えば平成23年赤い本下巻、鈴木尚久裁判官「外貌の症状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取扱について」で、「現在の職業を前提とすれば労働能力に対する具体的影響はさほど高くないように思われるとしても、被害者の年齢、職歴、現在置かれている環境その他諸般の事情によって将来の就職、転職、配転等の可能性が認められる場合において、職業選択の制限等の一定の不利益が見込まれるようなときは、具体的な労働能力を喪失したと評価できることもあると考えられます。」と論じられているように、醜状障害を伴う後遺障害・逸失利益は、後遺障害等級がついたからといって当然に労働能力喪失率が導かれるものではなく、被害者の現在の就労状況を前提として、労働に与える影響、将来の転職・昇進等に与える影響等を具体的に議論しなければなりません。

本件裁判例では、被害者の後遺障害は、眼鏡や髪の毛で相当程度隠すことが可能で、他人に特段の不快感をもたらすものではないと評価できるとされたものの、将来の職業選択が狭められることや、就職の前提となる学業や職業訓練に消極的となること将来の転職の可能性を考慮して、後遺障害逸失利益について労働能力喪失期間52年、労働能力喪失率14%の労働能力喪失率で認定しました。

醜状障害の後遺障害・逸失利益について、比較的被害者に有利に判断したものとして、今回参考になる事例としてご紹介させていただきます。

(文責:弁護士 粟津 正博

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