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交通事故の注目の裁判例

2019/10/11 更新

「12級左肩関節機能障害等を残す83歳女子1人暮らしの退院後の施設入所を4年間に限り本件事故との因果関係を認めた」裁判例

名古屋地裁 平成30年7月26日

自保ジャーナル2034号

今回は、12級左肩関節機能障害等を残す83歳女子1人暮らしの退院後の施設入所を4年間に限り本件事故との因果関係を認めた裁判例について、解説します。

本件事故態様は、被告車両が東西方向の道路を東から西へ向かって走行し、本件交差点を直進通過しようとしたところ、同道路を北から南に横断歩行中の原告と衝突したというものです。

被告は、本件事故の際、自動車を運転して交差点に進入するにあたり、前方左右の安全を確認すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があり、他方で、原告にも、車道を横断するに当たって、車両の動静等の確認を怠った過失があるため、本件事故の過失割合は、原告20%、被告80%であることに争いはありませんでした。

争点となったのは、本件事故と原告の施設入所との間の相当因果関係です。

原告は、本件事故当時、原告は、介護を必要とする状態ではなく、原告所有の自宅で一人暮らしをしていたところ、本件事故による受傷、入院及び後遺障害の残存の結果、施設入所を余儀なくされたのであるから、本件事故と本件施設入所との間には相当因果関係があると主張しました。

他方、被告は、原告の後遺障害の内容、程度は、介護付き施設への入所を必要とするようなものではない。また、原告は、本件事故以前から、要支援1の認定を受けていたほか、自己免疫性肝炎、糖尿病及び骨粗鬆症に罹患し、ロコモティブシンドロームを基礎とした廃用症候群の状態にあったものである。さらに、原告は、入院中、リハビリによって歩行能力が改善しつつあったものであるが、入院中及び本件施設入所後のリハビリに対する消極的な姿勢のため、十分な歩行能力の改善が図られなかったものである。したがって、本件事故後に原告の生活機能が低下した直接の原因は、上記事情によるものであり、本件事故との間に相当因果関係はないと主張しました。

裁判所は、リハビリの経過等を細かく事実認定しつつ、「本件事故当時、原告は83歳と高齢であり、要支援1の認定を受けていたものであるところ、骨折及び長期間の入院によって筋力が著しく低下し、リハビリによっても完全に筋力が回復せず、自宅において1人暮らしをすることができるレベルにまで達しなかったとしても、特段、不自然、不合理とは言えない。」「また、原告は、本件事故当時、自己免疫性肝炎及び糖尿病に罹患していたものの、いずれも内服によるコントロールができる程度のものであったし、骨粗鬆症も年齢相応の範囲を超えるものではなかったものであり、現に、本件事故前は自宅で1人暮らしをし、右手で杖を突きながら外出することもできたのであるから、自宅への帰宅が困難となった主たる原因は、やはり本件事故による骨折及び長期間の入院であると認めるのが相当である。」として、本件事故と施設入所との間には相当因果関係が認められると判断しました。

しかし、裁判所は当時の被告の状況から「本件事故がなくても、近い将来、施設入所が必要となった蓋然性が認められるため、本件事故と相当因果関係のある施設入所の期間については、入所日から4年を限度として認めるのが相当である。」としてその範囲を限定しました。

将来の介護費用・施設費用は、症状の程度により必要な範囲で損害と認められます。通常、かなり上位の等級がついた場合に将来の介護費・施設費用等が支払われることが多いです。12級左肩関節機能障害等が認定されても、将来の介護費・入所費用が損害と認められるケースは極めて少ないです。

本裁判例は、事故前の生活状況、リハビリの状況、症状の推移等を細かく事実認定したうえで、12級左肩関節機能障害等の認定であっても一定の範囲について本件事故と施設入所との間には相当因果関係が認められると判断した点が注目すべきといえます。

(文責:弁護士 辻 悠祐

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