2019/10/16 更新高次脳機能障害

頭部を轢過され2級高次脳機能障害を残す63歳男子の将来介護費を、妻が67歳になるまで日額8000円、それ以降は職業付添人により日額1万8000円で認定した裁判例

さいたま地裁 平成31年3月19日判決

自保ジャーナル2046号

今回は、高次脳機能障害により自賠責2級を認定された63歳男性の将来介護費について、妻が67歳になるまでは日額8000円、それ以降平均余命までは職業付添人による介護費用として日額1万8000円が認められた裁判例について解説します。(本件の争点は多岐に渡りますが、今回は将来介護費の問題に絞って解説します。)

本件では、63歳男性(原告)が店舗敷地内の観音扉式マンホールの蓋を開いて作業中に、敷地内に進入してきた乗用車に頭部を轢過され、外傷性クモ膜下出血等の傷害を負い、その結果、自賠責2級1号の高次脳機能障害が認定されました。本件訴訟では、過失割合や傷害慰謝料等についても争点になりましたが、将来介護費について、裁判所は次のような判断をしました。

将来介護費について、①原告の日常生活の状況について、「食事動作はときどき介助等を要し、排せつ動作はほとんどすることができず、入浴や歩行、階段昇降は不能 であり、車椅子操作はときどき介助等を要するというものであったこと、②原告のこうした日常生活動作の状況は、現在においてもほとんど変化はなく、同居する原告妻及び原告子が、適宜に分担しつつ、週に3日の通所によるデイケアサービスを利用しながら、介護等に当たっていること、③原告には、易怒性はみられず、情動面では安定しており、特段の問題行動はないことが認められる」が、「原告については、その日常生活動作の観点からみる限りは、随時の介護で足りるものの、現実には、常時に近い適宜の見守りが必要ということができる」とし、「原告子は、親子としての情誼から、原告と同居してその介護に当たっているが、その年齢等からすれば、こうした情誼による介護を所与の前提とするのは相当ではなく、近く独立して別に居を構えた生活をするであろうことを想定すべきものといえる」として、「原告妻が67歳となるまでの7年間は、原告妻及び原告子による近親者介護として日額8000円とするのが相当であり、以降の原告の平均余命となる12間については、職業付添人による介護を想定し、また、原告の情動面が安定しているのは、近親者である原告妻及び原告子がその介護に当たっていることによるところが大きいと考えられ、今後、職業付添人がこれに当たることとなった場合、現在のような情動面の安定が保たれるとは限らないことも考慮して、その費用を日額1万8000円とするのが相当である」として、妻が67歳になるまでの7年間は日額8000円、以降平均余命までの12年間は職業付添人による介護を前提とした金額である日額1万8000円で、将来介護費を計算することとしました。

結論として、将来介護費として、5828万61円が認められました。

〈コメント〉
一般的に重度の後遺障害が残るような事案では、将来の付添介護が必要とされ、将来介護費が、被害者本人の損害として認められています。

将来介護費の金額が問題となりますが、一般的には、近親者付添人については、1日当たり8000円、職業付添人については、実費全額が認められるとされていますが、裁判例では、職業付添人については、1日当たり1万2000円から2万円程度の認定例が多いようです。

本件では、職業付添人による将来介護費について、「原告の情動面が安定しているのは、近親者である原告妻及び原告子がその介護に当たっていることによるところが大きいと考えられ、今後、職業付添人がこれに当たることとなった場合、現在のような情動面の安定が保たれるとは限らない」という具体的な事情を考慮して日額が計算されており、比較的高額な将来介護費が認められました。

(文責:弁護士 前田 徹

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。