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交通事故の注目の裁判例

2019/12/06 更新

後遺障害1級の案件について、時効の完成を認め、請求棄却となった裁判例

大阪地裁 平成29年11月29日判決

今回は、四肢不全麻痺、言語障害等の症状を残し、自賠責1級1号が認定された当時23歳バーテンダーの交通事故被害の損害賠償請求権について、消滅時効の完成を認めた裁判例について解説します。

本件事故は、本線の第4車線を走行していた被告車の左前部と、本線の第3車線から第4車線に向かって斜めに走行していた23歳の被害者男性が運転する車の右側部とが接触した事故です。

被害者は、本件事故による怪我の治療を約1年7カ月間続けましたが、四肢不全麻痺、言語障害等の症状を残し、自賠責1級1号の認定を受けました。
裁判では、そのうえで、消滅時効の完成が問題になりました。
被害者側代理人弁護士は、相手方保険会社が、被害者側代理人に対し、既払金の明細書の送付を行った行為は、諸般の事情を考慮すると、単に過去の支払履歴を明らかにするにとどまらず、債務の存在を承認して支払交渉を継続する意思があることを、少なくとも黙示的に示したものであると主張しました(時効は完成していないと主張しました。)。
これに対して、加害者側は、上記既払金の明細書の送付は、被害者側代理人から支払履歴を書面で明らかにしてほしいとの要請を受けたことに応じて、事務的に、当該時点における過去の支払履歴を明らかにしたものであって、当該時点で被害者の損害賠償請求権が存在していることを知っている旨を表示したものではないと主張し、消滅時効が成立していると反論しました。
この消滅時効の完成の争点について、裁判所は概ね次のように判断して、結論として、本件交通事故被害の損害賠償請求権について、消滅時効の完成を認め、原告の請求を棄却しました。

①被告側保険会社は、本件事故により被害者に生じた治療費等の損害について、平成24年2月23日まで保険金を支払ったが、同日の支払を最後に保険金の支払は行っていない
②被害者側代理人は、被告側保険会社に対し、平成25年7月11日頃、既払金の明細書を送付するよう依頼した。

これに対し、被告側保険会社は、被害者側代理人に対し、同月17日頃、同日付け「書類送付のご案内」と題する平成25年案内書面を、同月12日付け「自動車対人事故賠償額のお支払い状況について」と題する書面(以下「平成25年明細書」という。)、平成23年案内書面、平成23年明細書等と共に送付し、同月18日頃、被害者側代理人は、同書面を受領した。
③被告側保険会社は、被害者の傷害が平成22年3月31日に症状固定した後も、平成24年2月23日まで保険金を支払っていたが、同日の最終の支払から本件訴えが提起された平成28年5月11日までに、消滅時効期間である3年以上が経過している。
④治療費の最終支払があった平成24年2月23日から平成25年7月に被害者側代理人が既払金の明細を明らかにするよう依頼するまでの間、被告側保険会社が債務を承認した事実や時効の進行を妨げるような事情は認められない。
⑤以上のような経緯の中で、平成25年7月に、被害者側代理人から既払金の明細を明らかにしてほしいと求められた被告側保険会社が、被害者側代理人に対し、平成25年案内書面と共に送付した平成25年明細書には、同月12日時点における同明細書記載の損害賠償額に対して全て支払がされている旨が記載されており、平成25年案内書面や平成25年明細書に、本件事故による被告の原告らに対する残債務があることや、被告側保険会社において債務が存在することを前提に示談交渉をする意思があることをうかがわせる記載はない。そうすると、被告側保険会社は、被害者側代理人の依頼に応じて、同年7月12日時点での既払金の明細を明らかにしたにとどまり、平成25年案内書面等の送付によって、債務を承認したものと認めることはできない。

<コメント>
この判決によれば、消滅時効は、保険会社からの最終の支払日(治療費など)から起算するという判断になっています。
そして、「保険会社から既払金の明細書の提出があった」というだけでは債務承認にはならないということも判断されています。
この判決から、保険会社が治療費を支払っている間は、債務承認が継続しておこなわれている(時効が完成しない)、ということが確認できましたが、保険会社からの支払いが止まって以降の保険会社とのやり取りについては、債務の承認には当たらない場合があることが判断されています。
高い等級の後遺障害等級が認定されている事案の場合には、将来介護費用の目途がたつまでに時間がかかったり、成年後見の申立に時間がかかったりと、時間がかかる一方、交通事故による損害賠償請求権の金額が大きいため、消滅時効が完成しないよう細心の注意を払う必要があります。消滅時効が完成してしまうと、加害者への請求が認められない結果になってしまいます。このような事態を避けるためにも、大きな交通事故に遭われた際には、一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。

(文責:弁護士 大友 竜亮

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