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交通事故の注目の裁判例

2020/04/09 更新

事故2か月前に骨折していた原告が同一の部位を別の事故で再度骨折した事案において、5割の素因減額が適用された事例

千葉地裁佐倉支部 平成31年2月28日判決

自保ジャーナル2049号

今回は、事故の約2か月前に、転落事故で右踵骨骨折を受傷していた原告が再度事故にあい、右踵骨骨折の傷害を負い、本件非接触事故での右踵骨再骨折の受傷を認め5割の素因減額を適用した裁判例をご紹介します。

被害者である原告は、平成24年10月26日午後1時30分頃、交差点を普通貨物車を運転して左折中、被告運転の対向乗用車が右折してきたため、接触を避けようと急ブレーキを踏み込んだ際に、右踵骨骨折の傷害を負い、約2年間通院して、右足知覚障害等から自賠責14級9号後遺障害認定を受け、既払金を控除し571万9433円を求めて訴えを提起しました。

右踵骨骨折

今回は、本件裁判例における争点の中で、受傷の有無と素因減額の争点に絞ってご紹介させていただきます。

1 受傷の有無について

受傷の有無について、裁判所は下記のように判断しました。

「原告は、前提事実(5)のとおり、平成24年8月8日の転落事故により事故前骨折を負っていたところ、証拠(略)によれば、同月9日にB病院の整形外科を受診し、明らかな骨症なしとされ、非ステロイド性鎮痛剤と湿布が処方され、症状増悪時再診とされたが、内果付近の腫脹が続いていたために、同年10月25日に再度同病院の整形外科を受診したこと、その際、レントゲン撮影により、踵骨後方に骨折が確認されたが、踵骨を押しても圧痛がなかったことから、全荷重歩行は許可するが、足関節の踏み込み動作をしないように医師から指示されていたことが認められる。

ところが、上記1で認定したとおり、原告は、その翌日である同月26日の本件事故の際、被告車両との衝突を避けるために、右足で急ブレーキを踏んでしまったことから、同日、同病院の整形外科を受診し、右踵部腫脹あり、圧痛ありとして足関節シーネ固定の処置がとられ、その後、同年11月1日からはギブス固定にて加療されていることが認められる。
 以上の治療経過及び本件事故の態様からすれば、本件事故の際、原告が右足で急ブレーキを踏んだ際に傷害を負ったことは明らかというべきであり、これに反する被告の主張を採用することはできない。」

2 素因減額等について

素因減額等について、裁判所は下記のように判断しました。

前提事実(5)のとおり、原告は、平成24年8月8日、転落事故により事故前骨折の傷害を負っているところ、上記2で判示したとおり、原告は、内果付近の腫脹が続いていたために本件事故の前日である同年10月25日にB病院の整形外科を受診し、レントゲン撮影により、踵骨後方に骨折が確認されたというのであり、本件事故の際に急ブレーキを踏んだだけで、被告車両と衝突していないにもかかわらず、原告が右踵骨再骨折の傷害を負ったものは、原告に既往症である事故前骨折があったからにほかならない。

そうすると、原告の損害は、本件事故のみによって通常発生する程度、範囲を超えているものということができ、かつ、その損害の拡大について原告の身体的素因(事故前骨折)が寄与していることは明らかであるところ、証拠(略)によれば、本件事故当日のレントゲン撮影では「前回と比べて大きく変化なし」とされ、また、同年11月1日のレントゲン撮影では、「踵骨骨折部明らかな開大なし」とされていたことが認められることからすれば、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し、原告の損害から50%素因減額するのが相当である。

弁護士のコメント

被害者が事故以前から有していた素因(心因的要因及び身体的要因)によって、被害者の損害が拡大した場合においては、過失相殺の考え方を類推して、被害者の損害賠償額を減額する素因減額という方法がとられることがあります。本件において裁判所は事故の約2か月前に発生した転落事故での受傷と、2か月後に発生した受傷を認定したうえで、その素因の割合を5割と認定しました。素因減額5割という判断が示された貴重な裁判例であるため、今回注目の裁判例としてご紹介させていただきました。

(文責:弁護士 松本 達也