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交通事故の注目の裁判例

2020/07/14 更新

逸失利益について被害者が67歳になるまで毎月定期の支払いが認められた裁判例

最高裁 令和2年7月9日判決

最高裁判所令和2年7月9日判決

交通事故の損害賠償については、示談あるいは判決等のタイミングで一括で支払われることが通常です。これは、後遺障害が残存した場合などに、将来にわたる労働能力の喪失・収入の減収があった場合の請求(逸失利益)についても同様でした。もっとも、将来にわたる損害を、一時金で先払いを受けることになると、その間の利息を控除しなければならず(中間利息控除)、被害者の受領額が減額されるのではないかという問題がありました。
今回逸失利益について、一時金ではなく、被害者が67歳になるまで毎月定期の支払いが認められた最高裁判例が出ましたのでご紹介をさせていただきます。

1、事案の概要

今回の事件は、当時小学4年生の男の子が、道路を横断中トラックに轢かれ、高次脳機能障害として、自賠責3級3号の後遺障害が残存してしまったというものです。男の子は、進級するに従って他の子との能力差が拡大し、小学5年生から特別支援学級に入らざるを得なかったという経過があるようです。
被害者は、後遺障害により労働能力が100%喪失したとして、逸失利益について、事故がなければ就労できたはずの18歳から67歳まで毎月約45万円を支払うことを求めていました。
この場合、被害者が受け取る逸失利益としての金額の総額は約2.6億円になります。
一方で、一時金としてこれを受け取ると、中間利息を大幅に控除することになるため、逸失利益として支払われる金額は約6500万円になってしまうという事案でした。

2、原審(札幌高等裁判所)の判断

札幌高等裁判所は、次のように判断して被害者の主張を認めました。

本件における被害者の後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高いものと考えられること、被害者側において定期金賠償によることを強く求めており、これは後遺障害や賃金水準の変化への対応可能性といった定期金賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであると理解することができること、将来介護費用についても長期にわたる定期金賠償が認められており、本件において後遺障害逸失利益を認めても、保険会社らの損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にはならないと考えられることなどの事情を総合考慮すれば、本件においては、後遺障害逸失利益について定期金賠償を認める合理性があり、これを認めるのが相当である

3、最高裁判所の判断

最高裁は、次のように判断して被害者の主張を認めました。

  • 不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。
  • このような目的及び理念に照らすと、交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき、将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに、上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。
  • 以上によれば、交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。
  • 以上を本件についてみると、被上告人は本件後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めているところ、被上告人は、本件事故当時4歳の幼児で、高次脳機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというのであり、同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえる。これらの事情等を総合考慮すると、本件後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることは、上記損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるというべきである。

4、従来の問題

上述のとおり、従来は逸失利益の算定において、中間利息控除をする結果獲得できる金額が減額されてしまうという問題があり、特に若年者が被害者である場合に顕著でした。これは、中間利息控除の際に運用される法定利率が市場金利と比較して5%と高すぎることが一つの要因でしたが、本年の民法改正により、是正がなされています。

(詳細は以下の記事を併せてご参照ください。
「民法改正に伴い損害賠償のルールが変わります(法定利率)」

5、今後の課題

なお、定期金賠償が認められた場合、後遺障害が回復するなど事情変更があると、再度金額について裁判を申し立てることが可能です(民事訴訟法117条)。そうすると、保険会社もこのような可能性を探るため、事故後長期間にわたり経過を照会・観察することも想定されます。例えば今回の裁判では保険会社は外出の様子を被害者に秘匿して調査、撮影し、その様子を裁判所に証拠提出しました。これらの証拠に基づき、被害者の後遺障害は軽いと主張していましたが、当該保険会社の主張は退けられましたが、このような調査方法が裁判後もなされる可能性も否定できません。
従来は重度の後遺障害が残存した場合に発生する将来にわたる介護費については、定期金賠償認めた裁判例がありました。本裁判例で逸失利益についても、定期金賠償が認められたことで、被害者として今後どのような場合に定期金賠償を求めていくべきかが問題になると思われます。
また、どのような場合に逸失利益の定期金賠償が認められるか、さらにどのような事情があると定期金賠償金額の見直しがなされるのかについても、裁判例の蓄積がまたれます。

6、おわりに

今回被害者のために逸失利益の定期金賠償の請求をする道が開かれたことは、非常に望ましいことだと思います。今後の実務の変化に注視しながら、被害者にとって最善の方法を検討して、対応していきたいと思います。

(文責:弁護士 粟津 正博