紛争処理機構
最終更新日:2026年07月14日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q紛争処理機構の手続きはどのようなものですか?
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紛争処理機構とは、交通事故に関する自賠責保険の支払い結果に納得できないときに、第三者の立場からもう一度判断してもらう機関です。たとえば、後遺障害等級が認定されなかった場合や、認定された等級に納得できない場合などに利用されます。
手続きは、基本的に書類のやり取りだけで進みます。申請書や必要書類をオンラインまたは郵送で提出すると、弁護士や医師などで構成される委員会が、自賠責保険の判断が適切だったかを確認します。
費用は原則として無料ですが、利用できるのは、原則として1つの案件につき1回限りです。紛争処理機構の判断にも納得できない場合は、最終的に裁判で争うことになります。

目次

紛争処理機構
紛争処理機構は、交通事故の被害者が自賠責保険の判断に不服があるときに利用できる機関です。
ここでは、紛争処理機構がどのような機関で、どのような問題を扱っているのかを順を追って見ていきましょう。
紛争処理機構とは
紛争処理機構とは、交通事故に関する自賠責保険の判断が適切だったかを、第三者の立場から審査する機関です。
審査を担当するのは、弁護士や医師、学識経験者などの専門家です。これらの専門家は「紛争処理委員」と呼ばれ、複数の委員で構成される「紛争処理委員会」が、申請書や関係資料をもとに公平・中立な立場で判断します。
紛争処理機構で行われる手続きは、「調停」と呼ばれます。調停というと、当事者が集まって話し合う手続きをイメージするかもしれません。しかし、紛争処理機構の手続きは、基本的に書類の審査によって進みます。
そのため、裁判を起こす場合に比べて、時間や費用の負担を抑えながら、自賠責保険の判断について第三者の審査を受けられる点が特徴です。このような仕組みは、裁判外の紛争解決手続、いわゆるADR(裁判外紛争解決手続き)の1つとされています。
審査できる内容
紛争処理機構が審査するのは、自賠責保険の支払いに関する紛争です。
審査の対象になるのは、たとえば次のようなケースです。
- 後遺障害等級が、想定していたより軽い等級に認定されたケース
- 後遺障害に「該当しない」(非該当)と判断されたケース
- 交通事故とけがとの関係が認められない、または一部しか認められないケース
- 過失の有無や、過失の割合の判断に納得できないケース
- 治療費や休業損害の認定額に納得できないケース
なお、物損、つまり車や物の損害は自賠責保険の対象外です。そのため、物損に関する争いを紛争処理機構に持ち込むことはできません。
利用できない場合
紛争処理機構は、すべてのケースで利用できるわけではありません。
主に次のような場合は、申請が受け付けられません。
- 当事者の間で争いがすでに解決しているとき
- ほかのADR機関などで、同じ案件についてすでに手続き中のとき
- 不当な目的での申請と認められるとき
- 同じ案件について、過去に紛争処理機構で判断を受けたことがあるとき
- 自賠責保険から支払われる金額に影響がないとき(例:支払限度額まですでに支払われている場合など)
特に注意したいのは、申請は1つの案件につき1回限りという点です。
一度結果が出ると、同じ件で再び申請することはできません。そのため、申請前には、必要な資料や主張内容をきちんと整理しておくことが大切です。
なお、紛争処理機構は、自賠責保険の判断について審査する機関です。加害者側との示談交渉や、任意保険会社との損害賠償の話し合いを進める場ではない点にも注意しましょう。
後遺障害の認定結果に納得できない場合の3つの方法
自賠責保険から後遺障害の認定結果が届いたとき、「思っていた等級と違う」「非該当と言われたが納得できない」というケースは少なくありません。
このようなときに被害者が取れる方法は、大きく3つあります。
1つ目は、認定を行った機関にもう一度審査してもらう「異議申立」です。
2つ目は、第三者機関に判断してもらう「紛争処理機構への申請」です。
3つ目は、裁判所で争う「民事裁判」です。
それぞれにメリットとデメリットがあるため、状況に応じて使い分けることが大切です。
異議申立
最初に検討したいのが「異議申立」です。
異議申立は、後遺障害の認定結果について、もう一度見直しを求める手続きです。最初に後遺障害等級認定を行った「損害保険料率算出機構(自賠責保険の等級認定を行う機関)」が、改めて審査を行います。
最大のメリットは、時効になる前なら何度でも申立てができる点にあります。手数料もかかりません。
ただし、同じ資料を出すだけでは、結果が変わる可能性は低いでしょう。新しい医師の意見書や検査結果、カルテなどを追加で提出し、「これまでの判断のどこに問題があったか」を具体的に主張することが重要です。
実務では、まず異議申立を尽くしたうえで、それでも結果が変わらないときに次のステップへ進むのが一般的です。
紛争処理機構への申請
異議申立を行っても結果が変わらないときに、次の手段として検討されるのが紛争処理機構への申請です。
紛争処理機構は、後遺障害等級認定を行った機関とは別の第三者機関です。そのため、認定に関わった機関とは違う立場から、これまでの資料を改めて確認し、自賠責保険の判断が妥当だったかを審査します。
ただし、紛争処理機構への申請は、原則として1つの案件につき1回限りです。そのため、申請するタイミングや、提出する資料の内容には特に注意が必要です。
なお、費用は無料です。
民事裁判の提起
異議申立や紛争処理機構への申請をしても結果に納得できない場合は、裁判所に訴えを起こすことができます。これが民事裁判です。
民事裁判では、裁判所が証拠にもとづいて、後遺障害の有無や等級、損害額などを判断します。紛争処理機構との主な違いは、判断のしかたにあります。
| 手続き | 判断の特徴 |
|---|---|
| 紛争処理機構 | 自賠責保険の認定ルールにもとづいて判断する |
| 民事裁判 | 自賠責保険の認定ルールに縛られず、裁判所が証拠にもとづいて独自に判断する |
そのため、自賠責保険では非該当とされたけがでも、民事裁判で後遺障害が認められるケースもあります。
もっとも、民事裁判は、解決までに時間がかかりやすく、弁護士に依頼すれば弁護士費用などの負担も大きくなります。
自賠責保険の認定ルールの中で見直しが期待できる場合は、まず異議申立や紛争処理機構へ申請することをおすすめします。一方、自賠責保険の認定ルールだけでは適切な判断が難しい場合は、民事裁判を検討するのがよいでしょう。
紛争処理機構の手続きの特徴
紛争処理機構の手続きは、裁判のように法廷で顔を合わせて争うものではなく、書類のやり取りで進む「書面審理」が大きな特徴です。被害者本人が出向く必要がないため、心身の負担を抑えやすい仕組みになっています。
ここでは、紛争処理機構への申請方法から結果が出るまでの流れを詳しく見ていきます。申請方法・必要書類
紛争処理機構への申請は、オンラインまたは郵送で行います。
オンライン申請には、ウェブサイト上のフォームに入力する方法と、記入した申請書をアップロードする方法があります。郵送で申請する場合は、申請書をダウンロードして記入し、必要書類とあわせて紛争処理機構へ送付します。
申請に必要な主な書類は、次のとおりです。
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紛争処理申請書
紛争処理の手続きを開始するために提出する書類です。書式や記入要領は一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構のWebサイトから入手できます。
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別紙
申請書だけでは書ききれない内容を記載する書類です。認定結果のどこに納得できないのか、どのような判断を求めるのかなどを、具体的に記載します。
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同意書
紛争処理機構が審査に必要な資料を関係先から取り寄せることや、個人情報の取り扱いなどについて同意するための書類です。
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交通事故証明書
交通事故証明書は、事故が発生したことを証明する書類です。自動車安全運転センターから交付を受けたものを提出します。警察に届け出ていないなどの理由で提出できない場合は、代替書類が必要になることがあります。
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保険会社・共済組合からの通知書(回答書)
自賠責保険会社や共済組合が判断した支払内容や、後遺障害等級などを確認するための書類です。
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その他の事故関係書類(画像、ドライブレコーダーデータなど)
レントゲン画像、MRI画像が入ったCD、ドライブレコーダーデータが入ったDVDなど自賠責保険会社から返却された資料は申請時に再度提出する必要があります。
診断書や診療報酬明細書、後遺障害診断書など自賠責保険会社に提出済みの資料は、自賠責保険会社から紛争処理機構に引き継がれますので、申請時に提出し直す必要はありません。
ただし、後遺障害診断書の内容が修正・追記等され変更になっている場合は、新たな医証として提出することになるでしょう。後遺障害の審査では、医師が作成した書類や画像などの客観的な資料が非常に重要になります。
手続きの流れ・期間
申請から結果が出るまでの流れは、おおむね次のとおりです。
- 申請者が必要書類を紛争処理機構に提出する
- 紛争処理機構から「受付通知」が届く
- 紛争処理機構が自賠責保険会社などから資料を取り寄せる
- 紛争処理の対象になるかどうかが判断される
- 受理された場合、申請者に「受理通知」が届く
- 専門家で構成される紛争処理委員会が審査を行う
- 結果が「調停結果通知」として、申請者と保険会社などに通知される
審査は基本的に書面で行われるため、申請者が出席する必要はありません。確認が必要な事項がある場合も、紛争処理機構から文書で問い合わせが行われます。
手続きにかかる期間は、事案の内容や資料の量によって異なります。目安としては、申請が受理されてから審査結果が出るまで、3か月から半年ほどかかることが多いです。
紛争処理機構の特徴・注意点
紛争処理機構には、被害者にとって利用しやすい特徴があります。
1つ目の特徴は、自賠責保険会社が紛争処理機構の判断に従う仕組みになっている点です。
自賠責保険の約款や紛争処理業務規程では、保険会社が紛争処理機構の調停結果を遵守すると定められています。つまり、紛争処理機構で自賠責保険の判断が変更されると、保険会社はその調停結果に従って保険金を支払うことになります。
そのため、たとえば自賠責保険の判断で後遺障害が非該当とされていた場合でも、紛争処理機構の調停で14級に該当すると判断されれば、自賠責保険会社は14級を前提に保険金を支払うことになります。
もう1つの特徴は、被害者にとって不利な変更がされない点です。
すでに認められている等級が紛争処理機構の判断で引き下げられたり、支払い済みの金額の返還を求められたりする心配はありません。
一方で、注意点もあります。
まず、紛争処理機構への申請は、原則として1つの案件につき1回限りです。一度結果が出ると、同じ件で再び申請することはできません。
そのため、申請前には、必要な資料や主張内容を十分に整理しておくことが大切です。
もし新たな医学的証拠を獲得した場合、それをもって異議申立をして自賠責保険会社への異議申立を行うか、それとも一度きりの紛争処理機構への申請を行うか、慎重な検討が必要です。
また、紛争処理機構への申請をしても、自賠責保険に対する請求権の時効は止まりません。
自賠責保険に保険金を請求できる期間は、原則として3年です。この期限を過ぎると、保険金を請求できなくなるおそれがあります。
そのため、時効が近づいている場合は、紛争処理機構への申請とは別に、自賠責保険会社へ時効の更新を申し出る必要があります。
申請の際のポイント
紛争処理機構で適切な審査を受けるためには、申請前の準備が重要です。
審査は、これまで自賠責保険の認定に使われた資料と、申請者が新たに提出する資料をもとに行われます。そのため、申請前に次のような必要な資料を整理し、自賠責保険の判断のどこに問題があるのかを明確にしておくことが大切です。
- 主治医に、症状の根拠を丁寧に記載した意見書を作成してもらう
- CT・MRI・神経学的検査など、必要な検査結果や画像を整える
- 後遺症が日常生活や仕事に与える具体的な影響を、記録として残す
- 過去の同種事例で、どのような認定がされているかを調べておく
医学的な根拠や、日常生活への影響を裏付ける資料は、紛争処理機構が自賠責保険の判断を見直すうえで重要になります。
必要な資料の選び方や提出のタイミングには専門的な判断が求められるため、交通事故に詳しい弁護士のサポートを受けながら進めると安心です。
よくあるご質問
ここでは、紛争処理機構への申請を検討するうえで、多くの方から寄せられる疑問にお答えします。
異議申立と紛争処理機構への申請はどちらがよい?
実務では、まず異議申立を先に行うのが一般的です。理由は、それぞれ利用できる回数が違うためです。
異議申立は時効にかかる前であれば何度でも行うことができます。一方、紛争処理機構への申請は、原則として1つの案件につき1回限りです。
そのため、新しい証拠が手元にあるなら、まずは異議申立で提出し、そこで結果が変わらなかったときに紛争処理機構へ申請するのが効果的です。
一方で、異議申立を繰り返しても結論が変わる見込みが薄いケースもあります。そのような場合は、紛争処理機構や民事裁判を検討することになります。
どの方法を選ぶかは、事案によって判断が分かれるところです。ご自身で判断するのが難しいと感じたら、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
後遺障害の認定結果が非該当でも申請できる?
後遺障害の認定結果が非該当でも、紛争処理機構への申請は可能です。
「後遺障害に該当しない(非該当)」と判断されたケースは、紛争処理機構で扱われる典型例の1つです。
非該当の理由に納得できない場合は、紛争処理委員会が医学的・法的な観点から、自賠責保険の判断が適切だったかを改めて審査します。実際に、非該当の判断から14級9号(むちうちなどで認定されることの多い等級)が認定されるケースもあります。
ただし、紛争処理機構への申請は1回限りです。
そのため、新しい診断書や医師の意見書、検査結果などがある場合は、まず異議申立で提出することを検討しましょう。異議申立で結果が変わらなかった場合に、紛争処理機構への申請を次の手段として利用することをおすすめします。
申請した場合、認定結果が今より不利になる可能性は?
紛争処理機構に申請したことで、現在の認定結果より不利になることはありません。
紛争処理機構の審査では、被害者に不利益な変更はしない運用がとられています。そのため、すでに認められている後遺障害等級が引き下げられたり、支払い済みの保険金の返還を求められたりする心配はありません。
紛争処理機構の結果に納得いかないときはどうする?
紛争処理機構の調停結果に納得できない場合、次の手段として考えられるのは民事裁判です。
紛争処理機構への申請は、原則として1つの案件につき1回限りです。そのため、同じ件について、紛争処理機構にもう一度判断を求めることはできません。
民事裁判では、加害者本人などを相手に訴えを起こし、裁判所に後遺障害の有無や等級、損害額などを判断してもらいます。
ただし、紛争処理機構で出した資料や主張と同じ内容のままでは、裁判で異なる判断を得るのは簡単ではありません。そのため、裁判では、新しい証拠を追加したり、これまでとは違う角度から主張したりすることが重要になります。
どのような証拠を追加すべきか、どのように主張を組み立てるべきかは、事案によって異なります。裁判を視野に入れる場合は、交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
交通事故紛争処理センターとの違いは?
名前がよく似ているため混同されがちですが、「紛争処理機構」と「交通事故紛争処理センター」はまったく別の機関です。両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 紛争処理機構 | 交通事故紛争処理センター |
|---|---|---|
| 扱う紛争 | 自賠責保険の判断が妥当だったかを再審査する | 被害者と加害者側の保険会社などとの間に入り、示談成立に向けた話し合いを進める |
| 進め方 | 基本的に書面で審査する | 当事者が出席して話し合う |
| その他 | 原則として1つの案件につき1回限り | あっせんに納得いかない場合、審査会での審査を求めることが可能 |
一般的には、自賠責保険の判断を争うなら紛争処理機構、加害者側との示談金額を争うなら交通事故紛争処理センターを利用することになります。
もっとも、どちらを利用すべきかは事案によって異なります。判断に迷う場合は、交通事故に詳しい弁護士へ相談し、適切な機関を選ぶことが大切です。
新しい医学的証拠は出せる?
紛争処理機構への申請では、新しい医学的証拠を提出することができます。
ここでいう医学的証拠とは、診断書や画像、検査結果、医師の意見書など、けがの内容や後遺症の程度を裏付ける資料のことです。
自賠責保険に提出していない新しい医学的証拠についても、紛争処理機構への申請時に提出できるようになっています。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
交通事故で後遺障害の認定結果に納得がいかないときは、紛争処理機構に申請し、第三者の立場から改めて審査してもらうことができます。
ただし、紛争処理機構への申請は、原則として1つの案件につき1回限りです。異議申立と紛争処理機構への申請をどう組み合わせるか、どのような資料を準備するか、結果に納得できないときに裁判まで進むかなど、検討すべき点は多くあります。
これらの判断には、医学的な知識と法律の知識の両方が求められます。ご自身で対応するのは負担が大きく、判断を誤ると本来得られたはずの結果を逃してしまうこともあります。
少しでも有利な結果を目指すためには、交通事故に詳しい弁護士に早めに相談することをおすすめします。
よつば総合法律事務所には、交通事故の後遺障害認定について経験が豊富な弁護士が複数在籍しています。異議申立の段階から、紛争処理機構への申請、必要に応じた民事裁判まで、状況に応じた方針をご提案します。
後遺障害の認定結果でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博













