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交通事故知識ガイド遷延性意識障害

遷延性意識障害について

解説者の弁護士大澤一郎

遷延性意識障害とは、頭部外傷等により昏睡状態に陥り、開眼できる状態まで回復したものの、周囲との意思疎通をすることが困難となった症状です。

俗に言う、とても甚大で大変な怪我を負った状態です。

遷延性意識障害の立証上の定義

遷延性意識障害の場合には以下の6つの条件が3ヶ月以上継続するかどうかにより、認定されます。

  • 自力で移動できない。
  • 自力で食物を摂取できない。
  • 糞尿失禁を見る。
  • 目で物を追うが認識できない。
  • 簡単な命令には応じることもあるが、それ以上の意思の疎通ができない。
  • 声は出るが意味のある単語ではない。

遷延性意識障害の後遺障害等級の認定基準

遷延性意識障害の場合には、通常1級1号の後遺障害に該当します。

遷延性意識障害か否かがそもそも争われるということはあまりなく、むしろ、遷延性意識障害であることを前提として、損害額をどのように決めるかという点が争いとなる傾向にあります。

遷延性意識障害の慰謝料の相場は?損害賠償額にまつわる3つのキーワード

遷延性意識障害の成年後見問題

交通事故で遷延性意識障害になったとき、成年後見の問題が必ず関係してきます(被害者の方が未成年者の方のときは別です。)

成年後見制度とは

後見・保佐・補助の3種類がありますが、今回は後見についてのみお書きします。

健常者であれば、買い物をしたり、不動産を売買したりといった財産管理を、自分で判断して行うことができます。しかし、こうした判断を自分ですることができなくなった方は、自分で財産を管理することができなくなります。
そこで、このような方の代わりに財産管理をする人を選任しようというのが、成年後見制度です。

なぜ成年後見制度が関係してくるのか

遷延性意識障害になった方は、自分で判断することはできなくなっています。ですから、成年後見制度を利用することができます。

「でも、日常に必要な買い物は家族がやっているし、不動産を売買するなんていう予定もありません。それなのに、成年後見制度を利用する必要なんてないのでは。」との御質問をお受けします。ごもっともなことです。

⑴ 損害賠償請求の場面

交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を有しています。遷延性意識障害になった被害者の方も、この損害賠償請求権を有しています。この損害賠償請求権を行使するのも、財産管理の一環です。したがいまして、被害者の代わりに損害賠償請求権を行使する人として、成年後見人が必要になるという理屈です。

⑵ その他の場面でも

銀行などでは、口座名義人の方が遷延性意識障害になったということが分かると、口座からの出金に応じないところもあります。こうしたときは、成年後見人でないと、銀行口座から預貯金を下ろすことができなくなります。

成年後見人を利用したい時はどこに行けばいいの?

御家族の方が家庭裁判所に成年後見の申立てをします。必要な書類は戸籍・住民票や診断書程度です。本人名義の財産のリストを書いて提出する必要もあります。書類の書き方は、家庭裁判所の職員が詳しく説明してくれます。

実際の損害賠償請求の場面では成年後見人が必要になります!

  1. 裁判所を利用して損害賠償請求を行う⇒成年後見人が必要
  2. 紛争処理センターを利用して損害賠償請求を行う⇒成年後見人が必要
  3. 示談解決⇒原則として成年後見人が必要ですが、相手の保険会社によっては、利害関係のある人すべての同意書を取り付けることで成年後見人なしで解決できる可能性があります。

お伝えしたいこと

交通事故の被害で遷延性意識障害になったとき、損害の賠償を受けた後の介護もありますので、適切な賠償を受けて頂きたいと考えております。そのためには、成年後見制度を利用するのが肝要です。ご不明な点がございましたら、御自身の弁護士に相談してください。

遷延性意識障害の損害賠償額の費目・相場

交通事故で遷延性意識障害と診断されてしまった場合、どのような費目について損害賠償請求をすることができるのでしょうか。遷延性意識障害の慰謝料はどのくらい?また賠償額の相場はどのくらいになるのでしょうか。

遷延性意識障害など、交通事故において身体の被害にあってしまった場合、

財産上の損害

  • 積極損害(被害者の方が実際に支出した費用など、既存財産が現実に減少したことによる損害)
  • 消極損害(給料の支払いを受けることができなくなったなど、本来得られるはずの財産が増加しなかったことによる損害)

精神上の損害(慰謝料)

について賠償を請求することができます。

積極損害について

  • 治療費
  • 将来の治療費
  • 付添費
  • 将来介護費
  • 交通費
  • 家屋改造費
などについて賠償を請求することができます。

消極損害について

  • 休業損害(事故による収入減少)
  • 逸失利益(事故がなければ得られたであろう収入の減少) などについて賠償を請求することができます。
などについて賠償を請求することができます。

精神上の損害について

  • 入通院に対する慰謝料
  • 後遺障害に対する慰謝料(本人、近親者)
などについて賠償を請求することができます。

遷延性意識障害の損害賠償額の相場について

遷延性意識障害と診断されてしまった場合、後遺障害の等級として1級が認定されることが多いです。1級が認定された場合、本人の後遺障害慰謝料として2,800万円を請求することができます。

重度の昏睡状態であることから、労働能力を喪失しています。そのため、将来得たであろう収入の100%を請求することができます。また、将来にわたって介護するために必要な費用や、在宅介護のために必要な家屋改造費用も発生します。 

その結果、賠償される金額は億単位と、非常に高額となります。損害項目の計算は複雑であり、交通事故に詳しい弁護士のサポートは不可欠です。必ず弁護士に相談されることをお勧めします。

遷延性意識障害の賠償上の論点

ここでは、遷延性意識障害において特に問題となる賠償上の論点をご説明します。

1、将来の費用についての論点

遷延性意識障害となってしまった場合、被害者の方に付き添い、看護をしていくために大変な労力を伴います。加害者(保険会社)と賠償の交渉をする際には、事故から現在まで取り組んできたことの労力を評価するほか、将来必要となる労力・費用を評価して、賠償を受ける(示談をする)ことになります。しかしながら、将来のことを踏まえて交渉することは、専門的な知見を要し、決して容易なことではありません。遷延性意識障害の場合、問題・論点となる将来の費用としては以下のものがあります。

①将来介護費

被害者の方を、将来付添介護していくために必要な費用は当然賠償の対象となります。

将来介護費は、日額の付添介護費に、平均余命を掛け合わせて計算して決められることが多いです。例えば、裁判実務上参照される基準(赤本基準)によれば、近親者の付添介護費を1日8,000円と評価する基準が紹介されていますが、日額8,000円を平均余命分まで支払うとした場合、将来介護費の合計額はかなり高額になります。若年者の場合付添介護費だけで億単位の賠償が命じられることもあります。日額付添費は、上の基準はあるものの、具体的看護の状況により増減するとされていますので、将来の介護計画をなるべく策定し交渉することが望ましいです。また、職業人付添人の介護費用はより高額になることが多いため、この必要性をめぐって論点になることも多いです。

②自宅改造費

例えば自宅介護となる場合、被害者の方が生活していくために既存の自宅を改造する費用等も賠償の対象となることがあります。浴室・便所・出入口・階段さらには外出の際に必要となる自動車などについて改造費の賠償を認めた例があります。

③将来雑費

将来必要となる雑費についても賠償の対象となります。
裁判で認められた例としては、おむつ代、エプロン代、ゴム手袋代、人工的な導尿のためのカテーテル代などがあります。

2、保険会社の反論としてよくあるもの

上に挙げたものに関連して、保険会社から反論としてよくあるものは次のものがあります。

①平均余命

上で述べたように、将来の費用については、被害者の方が今後生き続ける期間(余命)分認められます。そこで、保険会社から、統計などを用いて、遷延性意識障害の場合、通常人より長く生きられない、平均余命よりも短い期間で余命を算定すべき、という反論を受けることがあります。これに対しては、サンプルが的確でない、データが古いなどと反論して、統計には根拠がないことを指摘すべきです。

②生活費控除

被害者の方は、事故により就業が困難となり、今後得られたであろうはずの給料・収入を逸失します。このような逸失利益も賠償の対象となります。一方で、保険会社は、事故によりかからなくなった生活費を観念し、一定割合を賠償の対象から、控除する旨主張することがあります。これを生活費控除といい、死亡事故の場合通常考慮されている概念です。 遷延性意識障害においても、被服費、交際費、交通費等がかからなくなるはずだという内容をもって生活費控除が主張されることがあります。 現在、遷延性意識障害において、生活費控除を認めた判例・否定した判例いずれも存在します。将来の雑費等の費用がどれだけ賠償されるかとも関連する問題ですが、被害者側としては、要する生活費を慎重に吟味して反論する必要があります。

【まとめ】遷延性意識障害の保険金額決定のポイント

赤い本

遷延性意識障害の被害を負われた方の場合、将来の介護費や自宅の建て替え費用等が裁判で争いとなることがあります。
特に将来の介護費は多額の金額が発生することとなりますのできちんとした証拠を集める必要があります。

遷延性意識障害の事案に限らず全ての事案に共通することですが、きちんとした証拠があるかないかは交通事故の賠償額を決めるにあたって極めて重要な要素となります。

遷延性意識障害の被害の場合、被害者ご本人が保険会社と交渉をすることはできません。
そのため、成年後見の申立を裁判所に対して行い、ご家族が被害者の代わりとなって請求をすることになります。

ご家族で誰を成年後見人にするかという点で意見が一致しない場合には、第三者である弁護士が成年後見人となります。
遷延性意識障害の場合、損害額も高額となることが多いので、きちんと責任をもってお金を管理ができる方を成年後見人とすることをお勧めします。

遷延性意識障害の場合、何歳まで生きることを前提に損害額を計算するかという点が争いとなることがあります。
裁判では通常の寿命を使って計算をすることが多いですが、保険会社は遷延性意識障害の場合には通常よりも短い寿命を使って損害額を計算してくることがありますので注意が必要です。

遷延性意識障害の場合、死亡の事件と同じように、「生活費控除」と言って損害額を減額した主張を保険会社がしてくることがあります。
遷延性意識障害の場合には入院をし続けることが予想されますので、生活費はそれほどかからず、したがって、損害額を減らしてもよいという考え方です。裁判では生活費控除を遷延性意識障害の事案では行わないことが多いので、保険会社からの提案があった場合には注意が必要です。

遷延性意識障害の場合、定期金賠償を保険会社が提案してくることがあります。
定期金賠償とは、一括払いで保険金を受領するのではなく、毎年保険金を受領するという方法です。被害者の方がお亡くなりになられた場合には定期金賠償は終了します。

一般には、定期金賠償よりも一括払いで保険金を受領した方が有利なことが多いですが、この点はケースバイケースの判断となります。
また、遷延性意識障害の事案で裁判で判決となった場合には、定期金賠償ではなく一時金賠償の方法での支払が保険会社に対して命じられることが大半です。

【動画で見る交通事故】遷延性意識障害の将来介護費

(解説:弁護士 川﨑 翔)

ここでは、交通事故で遷延性意識障害となった場合についてを解説しました。