―――― 目次 ――――
- 1. むちうちとは
- 2. 外傷性頚部症候群(むちうち)の分類
- 3. 交通事故によるむちうち治療について
- 4. むちうちと後遺症
- 5. むちうちの後遺障害等級について
- 6. むちうちと後遺症逸失利益について
- 7. むちうちと示談
- 8. むちうちQ&A
むちうちとは

交通事故の被害にあった場合、いわゆる「むちうち」の症状となることが多々あります。ここでは、むちうちの知識について解説します。
「むちうち」とは、医学用語では外傷性頚部症候群と言われます。また、ムチウチ、鞭うち、鞭打ち、むち打ち、等の表記もあります。
外傷性頚部症候群(むちうち)の分類
むちうちの分類には色々ありますが、一番有名なのは「土屋の分類」と呼ばれているものです。
これは、むちうちを5つの症状にわける分類で以下になります。
頚椎捻挫型(むちうち①)
頚部、項部筋繊維の過度の伸長・部分的断裂から靱帯の過度の伸長・断裂などまでの段階に留まる場合です。むち打ちの中では比較的軽い症状です。
根症状型(むちうち②)
頚神経の神経根症状が明らかなものです。鞭打ちの中では比較的重い症状で後遺障害14級又は12級となる可能性もあります。
バレ・リュー症状型(むちうち③)
頭痛・めまい・耳鳴り・吐き気・視力低下・聴力低下などの不安症状を有するものです。ムチウチの中で症状としては重いのですが後遺障害非該当となってしまうケースが多いです。
根症状、バレ・リュー症状型(むちうち④)
上記の2つの症状が併存している場合です。
脊髄損傷型(むちうち⑤)
深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状がある場合です。鞭うちの中でも重篤な症状が残ってしまうことがあります。
交通事故によるむちうち治療について

上記の各タイプによって、むちうちの治療方法は異なってきます。一番多い頚椎捻挫型のむちうちでは、3ヶ月以内に大方は改善すると言われています。
開業医の整形外科での診察・リハビリ、投薬により効果があります。
ただし、むちうちの場合、骨折等と異なり明確な画像所見がないことが多いです。
そのため、治療の必要性・相当性等について争いとなることが多いので、病院の主治医との良好な関係を作りよく相談した上で、むちうちの治療を行いましょう。
むちうちと後遺症
むちうち(鞭打ち、ムチウチ、むち打ち)となった場合に交通事故の後遺症が発生してしまうのはどの位の確率なのでしょうか。
むちうちと後遺症の確率
一般的な統計によると、むちうちとなった場合、後遺症を残さずに3ヶ月以内で治癒率は70%とされています。
つまり70%位の方は適切な治療を受けることによって、むちうちの後遺症を残さないということになります。(むちうち損傷研究会のデータによる)
むちうちで6ヶ月以上の治療となる場合
一般的な統計によると、むちうちとなった場合、6ヶ月以上の治療を要するものは全体の3%位とのことです。(むちうち損傷研究会のデータによる)
つまり、後遺症を残すような重篤なむちうちの症状となるのは全体の3%位ということになります。もちろん、事故は1回限りのことですので、皆様の症状が残念ながら上記の3%に該当してしまい、後遺症が残ってしまうこともありえます。
むちうちの後遺症として残りやすい症状について
交通事故後以下のような症状が発生した場合には、むち打ちを理由とする後遺症が発生する可能性があります。まだ病院へ通院していない場合には早期に通院を開始しましょう。
- (1)頚部痛
- (2)頭痛
- (3)めまい
- (4)頭部・顔面領域のしびれ
- (5)眼症状
- (6)耳鳴り・難聴
- (7)吐き気・嘔吐
- (8)四肢症状
- (9)腰痛
- (10)自律神経症状
- (11)認識障害
- (12)うつ状態
- (13)頚部痛
- (14)全身知覚過敏
- (15)繊維筋痛症
上記のような症状が残った場合には、むちうちの後遺症が発生する可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。
交通事故で鞭打ちの被害にあった場合、事故前の体に戻すことが一番大切なことです。
しかし、残念ながら後遺症が残ってしまうこともあります。後遺症がむちうちで残った場合には、後遺障害の申請を必ずしましょう。
【動画で見る交通事故】むちうち症の後遺症
今回は「むちうち症の後遺症」を説明します。
(解説:弁護士 川﨑 翔)
むちうちの後遺障害等級について
むちうち(鞭打ち、ムチウチ等とも言います)となった場合、交通事故の後遺障害の等級はどのようになるのでしょうか。
後遺障害等級認定の可能性について
むちうちとなった場合、後遺障害の可能性としては以下の3つの可能性があります。
(2)局部に神経症状を残すもの(14級9号)
(3)非該当
むちうちの後遺障害等級14級認定のためには
局部に神経症状を残すものという表現は抽象的な表現ですので、具体的な基準を知る必要があります。
一般的にはむちうちに起因する症状が神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできないが、受傷時の状態や治療の経過などから一貫性/継続性が認められ説明可能な症状であり単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるものであることが必要です。
さらに具体的には、神経学的所見の検査(ジャクソンテスト・スパーリングテスト等)である程度のむちうちを裏付ける結果が出ていること、腱反射である程度むちうちを裏付ける結果がでていること、筋萎縮の検査である程度むちうちを裏付ける結果が出ていること、MRI等の画像である程度むちうちを裏付ける結果が出ていること等がポイントです。
後は、自覚症状が事故時から一貫していること、自覚症状と神経学的所見の検査結果や画像所見がある程度一致していること等も後遺障害認定のために重要です。
むちうちの後遺障害等級12級認定のためには
一般に後遺障害12級というとかなり重い後遺障害の場合と考えられます。
12級の後遺障害等級認定のためには、上記の後遺障害14級の場合に加えて、筋電図検査等で陽性の結果があると有利になります。
また、むちうちの12級の場合には、事故直後から肩・腕・手指のあたりにかなり強いしびれが発生している場合が多いと言えます。
むちうちで後遺障害等級が非該当となってしまった場合
むちうちで後遺障害等級が非該当となってしまった場合、異議申立をするにあたってのポイントは大きくわけて2つあります。
(1)自覚症状の記載が不十分であること(むちうちの後遺障害非該当への対策1)
診断書・カルテの記載や後遺障害診断書の記載にむちうちの自覚症状の記載が不十分であることがあります。
この場合は実際に治療をしてもらった医師に後遺障害診断書の加筆を依頼したり、神経学的所見の推移や頚椎の症状の推移について等の書類の作成を依頼したりして、後遺障害を裏付ける自覚症状が本当にあったことを記載してもらいます。
ただし、自覚症状の記載は多ければよいというものではありません。むちうちで通常発生する以外の自覚症状を記載してしまうと、むしろ嘘ではないかという疑いを抱かれてしまうこともあります。
また、後遺障害の定義とは事故による障害でこれ以上治療を継続しても回復の見込がないと医学的に認められる心身の支障を言います。
そのため、「寒いときに痛い」「時々痛みがある」というような表現が後遺障害診断書にあると、むしろ、普段は問題ないのだから後遺障害にはならないと言われてしまうこともあります。
むちうちの後遺障害では客観的な状況に整合する後遺障害診断書の自覚症状の欄の記載を心がけましょう。
(2)検査を追加で依頼すること(むちうちの後遺障害非該当への対策2)
後遺障害の認定のためには医師の検査結果が必要です。むちうちで後遺障害非該当となってしまった場合には、医師に検査を追加で依頼して、その結果を一緒に後遺障害の異議申立をすることがよいでしょう。
後遺障害の申請は、現状の体の状態を正しく医師に診察してもらい、後遺障害診断書等の書類に正しく記載をしてもらうことが一番大切です。
むちうちと後遺症逸失利益について
むちうちで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害の申請をします。むちうちの後遺症は14級9号又は12級13号です。この場合、ムチウチの後遺症の逸失利益の期間について注意が必要です。
裁判所の基準ですと、むちうちで他覚症状がない場合には、14級で5年、12級で10年程度に後遺症の逸失利益を限定する方向性にあります。
しかし、むちうちだけではなく他の原因も競合して後遺症となっている場合も多々あります。このような場合には安易に5年、10年の逸失利益の期間で合意すべきではありません。
運動障害・機能障害を伴う後遺症がある場合には、5年、10年に限定せずに、むちうちの場合であったとしても、67歳までの期間の後遺症逸失利益を請求していく方がよいでしょう。また、むちうちではなく、脳に損傷を負った場合も、5年、10年に後遺症の逸失利益の期間を限定しないで主張をしていくことが重要です。
【動画で見る交通事故】むちうち症の場合の逸失利益の計算方法
今回は「むちうち症の場合の逸失利益の計算方法」についてを説明します。
(解説:弁護士 川﨑 翔)
むちうちと示談
むちうちとなった場合、いつのタイミングで示談すればよいのでしょうか。
むちうちの場合、症状に応じていつ示談すればよいのかという差があります。
医者から治療終了と言われ鞭打ちが治ったケース
大部分のむちうちの場合には、3ヶ月以内に医者から治ったと言われ、皆様自身も治ったと感じるケースです。このような場合には治療終了時点で示談交渉を開始することになります。
示談にあたって重要な点は、過失割合、慰謝料の額、休業損害の額です。保険会社との示談にあたっては慰謝料の額が極端に少ないケースもありますので安易に示談しない方がよいです。
6ヶ月程度通院したがムチウチの症状が改善しないケース
事故から6ヶ月程度の通院を続けた結果、むちうちの症状が改善しないケースがあります。
このような場合には、肩・腕・手の先にしびれがあったりすることも多いです。
6ヶ月経過し、医師からそろそろ治療終了と言われた段階で示談の前に後遺障害診断書の作成を医師に依頼します。この後遺障害診断書の作成にあたってはポイントが色々ありますので、実際に医者に頼む前に弁護士等の法律の専門家に相談することをお勧めします。
診断書の作成→保険会社への認定→後遺障害の認定という流れが終わった段階で、始めて示談交渉を開始するという流れになります。
示談の際には、過失割合、休業損害、入通院慰謝料の他に、後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料にも注意が必要です。
むち打ちの示談の際の一般的ポイント
(1)示談とは、正確な法律用語ではありません。
法律的な意味では示談とは和解契約という民法上の契約となります。前提となる権利関係が争いがあることを前提に示談(和解契約)をしますので、一度示談をしてしまうと、後でその内容を変更することが難しくなります。
錯誤(勘違い)、詐欺(騙された)という主張は和解契約の場合難しいです。
そのため、むちうちの示談をするに際しては、内容に間違いがないかどうかよく確認をして、これ以上保険金・損害賠償金は請求できないということを十分に理解した上で示談をしましょう。
(2)示談の際に、病院への通院と接骨院への通院では(特に裁判の場合)、慰謝料や休業損害に影響を与えることがあります。
示談交渉を有利に進めるためには、病院(整形外科)でのリハビリをお勧めします。
(3)示談を一度するとやり直しはききません。
これは示談一般に言えることですが、特にむちうちの場合、むちうちの症状がまだ治っていないとしても示談の書類にサインをした以上は後でその内容をひっくり返すことはほぼ不可能です。
つまり、一度示談をしたらその金額で確定ということになります。示談の際には注意しましょう。
ここでは、むちうちと示談について解説しました。
むちうちの場合、いつ示談をするかという問題が重要な問題になってきますし、後遺障害の申請をするかどうかという点がもっと重要な問題となります。一度弁護士等の法律の専門家に相談してみましょう。
むちうちと交通事故Q&A
交通事故が原因のむちうちで注意すべき点をQ&Aで解説します。