交通事故と慰謝料のすべて
交通事故に遭ったら、相手に対して慰謝料を請求できることは、よく知られています。
ただ、交通事故の慰謝料にはどのような種類があって、どのようにして請求するものかは、一般的に広く知られてはいません。
また、慰謝料の計算基準には3種類があり、採用する基準によって請求できる慰謝料の金額が全く異なってきます。その差が2倍以上になることも珍しくはないので、慰謝料請求をする場合には、もっとも高い基準である「裁判所・弁護士基準」を採用する必要性が高いです。
今回は、このような交通事故と慰謝料のすべての必要な知識を網羅的に解説します。(文責: 弁護士 佐藤 寿康)
―――― 目次 ――――
- 1. 交通事故の慰謝料は3種類
- 2. 交通事故の慰謝料には3つの基準
- 3. 入通院慰謝料
- 4. 後遺障害慰謝料
- 5. 死亡慰謝料
- 6. 慰謝料が増額されるケース
- 7. 当事務所の慰謝料増額事例
- 8. 慰謝料が支払われるのはいつ頃か
- 9. 慰謝料の時効について
- 10. 適正な慰謝料を手にするには
1.交通事故の慰謝料は3種類
ただ、慰謝料はどのような交通事故のケースでも発生するわけではありません。慰謝料が発生するのは、人が死傷した人身事故のケースのみです。
単に車や物が壊れただけの物損事故の場合には原則として慰謝料は発生しません。また、交通事故の慰謝料には3つの種類があります。
1つ目は入通院慰謝料、2つ目は後遺障害慰謝料、3つ目は死亡慰謝料です。

入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故で怪我をしたことにより、入通院治療が必要になったことに伴う慰謝料です。
傷害慰謝料とも言われますが、入通院日数が長くなればなるほどその金額が高額になります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故で怪我をしたことによって後遺障害が残った場合に、後遺障害の内容や程度によって認められる慰謝料のことです。後遺障害には最も重い1級から最も軽い14級までの等級がありますが、等級が重い後遺障害であるほど、後遺障害慰謝料が高額になります。
死亡慰謝料
3つ目の死亡慰謝料は、交通事故で死亡したことによって発生する慰謝料のことです。
死亡した人がどのような人であったか(たとえば一家の大黒柱であったのか配偶者であったのか子どもであったのか、高齢者、独身者であったのかなど)によって金額が変動しますし、扶養者の有無によって金額が変わることもあります。
死亡した人以外の近親者にも独自の慰謝料が認められるケースもあります。
以上のように、交通事故の慰謝料は上記の3種類があることを、まずは押さえておくことが重要です。
2.交通事故の慰謝料には3つの基準
ただ、交通事故事件処理で使われる慰謝料の計算基準は一律ではなく、ケースによって使い分けられており、結果として算出される慰謝料の金額も大きく異なります。
具体的には、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所・弁護士基準」の3種類があるので、以下で個別にご説明します。

自賠責基準
自賠責基準とは、自賠責保険での保険金計算時に利用される基準です。自賠責保険は、必ず加入する必要がある強制加入の保険ですが、被害者の最低限度の救済をはかることを目的とするものです。
交通事故に遭ったとき、加害者は強制加入の自賠責保険には最低限加入しているはずなので、最低限、被害者は自賠責からの補償を受けることができます。
自賠責保険は、このように「最低限度の保険」である以上、その賠償金額は低くなっており、自賠責基準は、3つの慰謝料計算基準の中でも最も安くなることが多いです。 すなわち、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料のすべてにおいて最も低い数字となることが多いですし、自賠責保険全体での限度額も設けられているので、さらに低い金額になる可能性があります。
たとえば、人身事故の場合で治療費が高額になりすぎた場合には、限度額との関係で自賠責保険から入通院慰謝料の支払いを受けること自体が難しくなるケースもあります。
任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が示談交渉をするときに用いる慰謝料計算基準です。 交通事故が起こったとき、賠償金を支払ってもらうためには、相手の保険会社と示談交渉をしなければなりません。このとき、弁護士に対応を依頼しない限り、被害者が自分で任意保険会社と直接交渉することになります。
このときに任意保険会社が適用してくる基準が任意保険基準です。任意保険基準は、どこかにはっきりした規定があるわけではなく、各任意保険会社がそれぞれの判断で策定し、自主的に運用しているので、任意保険会社によってまちまちになります。ただ、だいたいの相場というものはあります。
任意保険基準は、自賠責基準よりは高額になることが普通ですが、次にご説明する裁判所・弁護士基準よりは低額です。
裁判所・弁護士基準
裁判所・弁護士基準は、交通事故事件が裁判になったときに裁判所が判決を出すために使う基準です。裁判をすると、必ず裁判所・弁護士基準が適用されることになりますし、弁護士が任意保険会社と交渉をする場合にも裁判所・弁護士基準が適用されます。
これは、もし弁護士が交渉するときに低額な任意保険基準によって計算されると、弁護士はすぐに裁判を起こすことが可能ですし、その場合裁判所・弁護士基準が適用されるためです。
裁判所・弁護士基準は、3つの基準の中でも最も慰謝料の金額が高くなります。
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料のすべてにおいて最も高額な数値となり、他の基準によって計算する場合と比べて2倍以上の差額が発生することも珍しくありません。
そこで、弁護士に示談交渉を依頼すると、被害者が自分で交渉していたときと比べて、賠償金が2倍や3倍になってくることも一般的に起こってきます。
3.入通院慰謝料
各慰謝料計算基準によって入通院慰謝料を計算すると、具体的にどのくらいの数値になるのか、計算方法と相場をご説明します。
(1)自賠責基準
まずは、自賠責基準の場合を見てみましょう。
自賠責基準で入通院慰謝料を計算する場合、基本的には1日あたりの金額に日数を掛け合わせた数字になります。1日あたりの金額は4,300円(※1)であり、採用される日数は、入通院期間と、実通院日数×2のどちらか低い方になります。(※2)
具体的には、以下の通りです。
「4,300円×実通院日数×2」
の少ない方
たとえば、交通事故でむちうちになって2ヶ月(60日)通院した場合、2ヶ月の中で45日通院した場合には、実際の入通院期間は60日ですが、実通院日数×2は90日となって、60日の方が少なくなります。そこで、入通院期間としては60日を採用して、
4,300円×60日=258,000円となります。
2ヶ月間(60日)の入通院期間でも、実通院日数が20日の場合なら、実通院日数×2=40となって、こちらの数字の方が小さくなります。
そこでこの場合には、
※2 但し治療終了事由が「継続」「中止」等と記載された場合、対象日数が7日加算される可能性があります。
(2)任意保険基準
次に、任意保険基準による入通院慰謝料の計算方法をご紹介します。
任意保険基準の場合、入通院日数が長くなればなるほど入通院慰謝料の金額が上がります。
自賠責基準と異なり、同じ治療期間なら、通院期間よりも入院している日数が長い方が、入通院慰謝料の金額が高くなります。
たとえば、ある保険会社の基準を前提とした場合、通院1ヶ月の場合には、126,000円程度の慰謝料が認められますし、通院2ヶ月の場合には252,000円程度となります。実通院日数によって影響を受けることもあります。同じ2ヶ月間の入通院日数でも、入院1ヶ月、通院1ヶ月の場合には、378,000円となります。
通院3ヶ月なら378,000円、通院6ヶ月なら642,000円程度になります。 このように、任意保険基準で入通院慰謝料を計算すると、自賠責基準よりはかなり高額になることがわかります。
(3)裁判所・弁護士基準
裁判所・弁護士基準によって入通院慰謝料を計算すると、どのようになるのでしょうか?
この場合にも、入通院の期間に応じた計算方法となります。
入通院期間が長くなればなるほど入通院慰謝料の金額は高くなりますし、同じ治療期間なら通院期間が長いよりも入院期間が長い方が慰謝料の金額が上がります。

また、裁判所・弁護士基準の入通院慰謝料の基準には、2種類があります。
1つは、むちうちなどの傷害の場合で、他覚所見がない場合です。
他覚所見というのは、医師などの第三者が客観的に把握できる症状(レントゲンやMRIなどの画像によって発見される異常など)のことですので、他覚所見がない場合というのは、「痛い」「しびれる」などの患者による自覚症状しかない場合ということです。
もう1つは、それ以外の他覚症状もある一般的な傷害のケースです。
自覚症状しかないケースでは入通院慰謝料は比較的低くなり、それ以外の他覚症状が認められる一般的なケースの方が入通院慰謝料の金額が上がります。
ただ、自覚症状しかないケースであっても、任意保険基準や自賠責基準よりは金額が高くなります。
むち打ち・打撲等軽傷の場合(他覚症状がなく、自覚症状しか認められないケース)
入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | |
1ヶ月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 |
2ヶ月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 |
3ヶ月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 |
4ヶ月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 |
5ヶ月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 |
6ヶ月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 |
7ヶ月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 |
8ヶ月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 |
9ヶ月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 |
10ヶ月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 |
骨折等重症の場合(他覚症状がある一般的な傷害のケース)
入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | ||
1ヶ月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | |
2ヶ月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | |
3ヶ月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | |
4ヶ月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | |
5ヶ月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | |
6ヶ月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | |
7ヶ月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | |
8ヶ月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | |
9ヶ月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | |
10ヶ月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 |
たとえば、2ヶ月間通院した場合、他覚症状がなくても入通院慰謝料は36万円になりますし、他覚症状があれば52万円になります。
1ヶ月通院、1ヶ月入院して合計2ヶ月間治療を継続した場合には、他覚症状なしの事案で52万円、他覚症状ありの事案で77万円になります。
3ヶ月通院したら53万円(他覚症状なし)~73万円(他覚症状あり)になりますし、6ヶ月通院したら89万円(他覚症状なし)~116万円(他覚症状あり)になります。
このように、すべての場合において、裁判所・弁護士基準によって計算したら、入通院慰謝料が高額になっていることが確認できます。
ただし、通院の頻度が少ない場合、実際に通院した日数による修正を受け、上記の金額が減額されるケースもあります。詳細は弁護士にご相談下さい。
【動画で見る交通事故】慰謝料は「通院日額4300円」は嘘!?正しい慰謝料の計算方法
(解説 : 弁護士 坂口 香澄)
4.後遺障害慰謝料
次に、3つの慰謝料計算基準によって後遺障害慰謝料を計算したら、それぞれどのようになるのかを見てみましょう。
後遺障害慰謝料の金額は、それぞれの後遺障害の等級によって決まっていますが、採用する慰謝料計算基準によって金額が異なります。
具体的には、以下の表のとおりとなります。
等級 | 自賠責基準※1 | 任意保険基準(推定)※2 | 裁判所・弁護士基準 |
---|---|---|---|
1級 | 1,150万円 | 1,300万円 | 2,800万円 |
2級 | 998万円 | 1,120万円 | 2,370万円 |
3級 | 861万円 | 950万円 | 1,990万円 |
4級 | 737万円 | 800万円 | 1,670万円 |
5級 | 618万円 | 700万円 | 1,400万円 |
6級 | 512万円 | 600万円 | 1,180万円 |
7級 | 419万円 | 500万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 400万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 300万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 200万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 150万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
※1 令和2年4月1日以降発生の事故を対象とした基準です。
※2 任意保険基準は保険会社によって異なります。
この表を見ると、裁判所・弁護士基準によって算出された慰謝料が他の2つの基準よりも圧倒的に高額な金額になっていることがわかります。
たとえば、1番重い1級の場合、自賠責基準なら1,100万円、任意保険基準でも1,300万程度ですが、裁判所・弁護士基準の場合には2,800万円になり、他の基準の2倍以上の金額になっています。
すべての等級において2倍~3倍程度の金額になっており、むちうちなどで多い14級の場合でも、裁判所・弁護士基準なら110万円となります。自賠責基準なら32万円、任意保険基準なら40万円なので、弁護士に示談交渉を依頼したら70万円の慰謝料増額が見込めることになります。
交通事故で後遺障害が残る事案では、弁護士に依頼すると後遺障害慰謝料が大きく増額されるので、たとえ一番低い等級である14級の場合であっても、弁護士費用を支払って充分経済的なメリットがあるということになります。
【動画で見る交通事故】交通事故で賠償が認められる慰謝料
(解説 : 弁護士 川﨑 翔)
5.死亡慰謝料
次に、3つの基準によって死亡慰謝料を計算すると、どのような計算方法になるのかを見てみましょう。
(1)自賠責基準
自賠責基準によって死亡慰謝料を計算する場合、本人の慰謝料と近親者(遺族)の慰謝料の2種類があります。また、本人に扶養者があったかどうかによっても慰謝料の金額が変わります。
基本的には、死亡者本人の慰謝料の金額は一律で350万円となります。被害者の年齢や家族構成、性別などに無関係に一律計算になります。
これ以外に、遺族固有の慰謝料が認められます。自賠責保険で固有の慰謝料が認められるのは、被害者の父母、養父母、配偶者、子ども(養子や認知した子ども、胎児を含む)で、請求出来る遺族の人数によって慰謝料の金額が変わります。請求権者が多ければ多いほど、死亡慰謝料の金額は上がります。
また、遺族の中に被害者によって扶養されていた人がいた場合には、慰謝料の金額がそれぞれ200万円増額されます。
以上をまとめると、以下の表の通りとなります。
死亡慰謝料の金額
被害者本人 400万円※1
遺族固有の慰謝料 | 被扶養者がいない場合 | 被扶養者がいる場合 |
---|---|---|
請求権者が1人 | 550万円 | 750万円 |
請求権者が2人 | 650万円 | 850万円 |
請求権者が3人以上 | 750万円 | 950万円 |
(2)任意保険基準
次に、任意保険基準の場合、死亡慰謝料がどのようになるのかをご説明します。
任意保険基準では、各任意保険会社がそれぞれの基準を作っているのと、ケースによっても異なるので、死亡慰謝料の金額は一律ではありません。
ただ、死亡した人が一家の大黒柱なら比較的高額になりますし、配偶者ならそれより低くなり、子どもや高齢者などの場合にはさらに低くなる、という傾向にあります。
幅はありますが、だいたい以下のような金額になります。
被害者の属性 | 任意保険基準(推定) |
---|---|
一家の大黒柱 | 1,500万円~2,000万円程度 |
配偶者や母親 | 1,300万円~1,600万円程度 |
独身者 | 1,200万円~1,500万円程度 |
高齢者 | 1,100万円~1,400万円程度 |
子ども | 1,200万円~1,500万円程度 |
この数字には、基本的に遺族の慰謝料も含まれているという考えなので、自賠責保険のように、別途遺族固有の慰謝料が認められることは通常ありません。
ただ、自賠責保険の死亡慰謝料を合計しても、任意保険基準による金額の方が、自賠責保険による死亡慰謝料よりは高額になることが多いです。
※1 令和2年4月1日以降発生の事故。令和2年3月31日以前発生の事故については350万円となります。
(3)裁判所・弁護士基準
最後に、裁判所・弁護士基準によって死亡慰謝料を計算するとどれくらいの金額になるのかを見てみましょう。
この場合にも、被害者の属性によって金額が変わります。一家の大黒柱の場合に最も高額になり、配偶者や母親であればそれより安くなり、高齢者や子どもの場合にはさらに安くなる、という傾向があります。
被害者の属性 | 裁判所・弁護士基準 |
---|---|
一家の大黒柱 | 2,800万円~3,600万円程度 |
配偶者や母親 | 2,500万円~3,200万円程度 |
独身者 | 2,000万円~3,000万円程度 |
高齢者 | 1,800万円~2,400万円程度 |
子ども | 1,800万円~2,600万円程度 |
被害者の属性 | 任意保険基準(推定) |
---|---|
一家の大黒柱 | 1,500万円~2,000万円程度 |
配偶者や母親 | 1,300万円~1,600万円程度 |
独身者 | 1,200万円~1,500万円程度 |
高齢者 | 1,100万円~1,400万円程度 |
子ども | 1,200万円~1,500万円程度 |
裁判所・弁護士基準の場合にも、基本的には遺族の慰謝料が上記の金額に含まれているという理解なので、遺族固有の慰謝料が別途認められることは少ないですが、親や兄弟姉妹、祖父母などの近親者に固有の慰謝料が認められる例もあります。
そして、上記の数字を比べてみると一目瞭然ですが、裁判所・弁護士基準によって計算すると、他の2つの慰謝料計算基準による場合よりも大幅に慰謝料の金額が上がります。 死亡者が一家の大黒柱であった場合には、他の基準の2倍以上になることもありますし、他の場合であっても数百万円~1000万円以上の差額が発生することが多いです。
死亡事故が起こった場合であっても、適正な慰謝料の支払いを受けるためには弁護士に手続を依頼する必要があります。
6.慰謝料が増額されるケース
交通事故の慰謝料には増額事由があります。
事故のケースはいろいろで、個別の事情がありますが、上記でご紹介した慰謝料計算方法は、基本的な相場を前提としており、個別の事情は考慮していません。
そこで、特殊な事情がある場合には、上記で説明した相場よりも慰謝料が増額されることがあります。

具体的な増額事由としては、以下のようなものがあります。
交通事故が原因で働けなくなって退職せざるを得なくなったり、自営業を廃業せざるを得なくなったりした場合に増額が認められたケースがあります。被害者の年齢や再就職の可能性なども考慮されますし、自営業の人の場合には投資していた金額なども考慮されます。
入学、留学できなくなった
事故が原因で大学や専門学校に入学できなくなったり、留学ができなくなったりした場合などにも慰謝料が増額されます。
留年した
事故によって学業が遅れて留年した場合です。
昇進が遅れた
事故によって仕事ができなくなり、決まっていた昇進がなくなったり昇進が遅れたりした場合です。
流産、中絶した
妊娠中に交通事故に遭った場合で、事故によって流産したり、状態が悪くなって中絶せざるを得なくなったりした場合にも、慰謝料が増額される可能性があります。
離婚した
交通事故が原因で家族関係が悪化して離婚に至ったケースなどでも慰謝料が増額される可能性があります。
加害者側に故意や重過失があったり、不誠実な態度があったりする場合
たとえば、加害者が飲酒運転やスピード違反をしていた場合、ひき逃げ事案などで加害者側の過失や違法性が大きい場合には、慰謝料が高めになることが多いです。
事故後、加害者が嘘をついたり被害者を罵倒したり、一切謝罪をしなかったりして、加害者の対応が悪いケースでも慰謝料が増額されることがあります。
7.当事務所の慰謝料増額事例
【死亡事故】死亡慰謝料の増額
無職の被害者の死亡事故について6,900万円の賠償金を獲得した事例
【遷延性意識障害・後遺障害等級1級】親族固有の慰謝料
歩行中の被害者が遷延性意識障害により1級1号の認定を受け約1億1,000万円を獲得した事例
【後遺障害10級】慰謝料について裁判基準100%の事案
女子高校生が、左上腕骨頚部骨折に伴う左肩関節の機能の症状について後遺障害10級10号の認定を受け、約1,900万円(既払い金を含めると約2,150万円)の損害賠償を受領した事例
【慢性硬膜下血腫・後遺障害12級】2種類の慰謝料についていずれも裁判所基準で示談成立
弁護士依頼により休業損害が17倍以上に増額するなど総額で約220万円増加
【頸椎捻挫・後遺障害14級】2種類の慰謝料について…示談交渉開始当初裁判所基準の8割→裁判所基準での示談解決
8.慰謝料が支払われるのはいつ頃か
以上、慰謝料の種類、基準等についてご説明をしてきましたが、いずれの基準でも入通院や後遺障害の内容が決まらないと金額を計算することが原則としてできません。そこで、慰謝料が支払われるのは通常、入通院が終了し、後遺障害はある場合にはこれが確定した後ということが多いです。
もっとも被害者の事情や個別の事案によっては、慰謝料の一部が先に支払われるケースもあります。
9.慰謝料の時効について
慰謝料も人身損害の一部ですので、治療費や休業損害といったその他の損害項目と同様に、時効の期間が定められています。
例えば、令和2年4月1日以降発生した交通事故の場合、損害及び加害者を知ってから5年というが時効の期間として定められています(短期)。
10.適正な慰謝料を手にするには
(1)慰謝料請求の重要性
いくらお金を支払ってもらっても納得できるものではないかもしれませんが、現在の法制度によると、慰謝料をはじめとした賠償金を受け取ることによってしか、満足を受けることができません。また、慰謝料請求権は法律で認められた重要かつ正当な権利でもあります。そこで、交通事故に遭ったら、少しでも高額な慰謝料を請求して獲得することが大切です。

(2)裁判所・弁護士基準で計算する
適正な慰謝料を手にするには、まずはそれぞれの慰謝料について、裁判所・弁護士基準で計算する必要があります。
自賠責保険から支払いを受ける際には自賠責基準が適用されますが、任意保険から支払いを受ける際、被害者が自分で示談交渉をすると、低額な任意保険基準で慰謝料を計算されてしまうので、支払いを受けられる金額が一気に低くなってしまいます。
ただ、被害者が自分で任意保険会社と示談交渉をしている限り、任意保険会社は低額な任意保険基準を適用してくるので、裁判所・弁護士基準で慰謝料を計算してくることはまずありません。
そこで、裁判所・弁護士基準を適用して高額な慰謝料を獲得するには、示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。弁護士が示談交渉に介入すると、当然のように裁判所・弁護士基準を適用して慰謝料計算をすることになるので、任意保険会社は大幅に増額した示談金の提案をしてきます。
このことにより、被害者が自分で交渉していたときと比べて、慰謝料の金額が2倍3倍になることも珍しいことではありません。
(3)過失割合を適切に計算する
交通事故では過失割合も重要な問題になります。
被害者が自分で示談交渉をしていると、任意保険会社は被害者に大きく過失割合を割り当てた上(厳密には過失割合と既払い金の充当方法の問題が生じ得るところです)で過失相殺をしてくるので、結果的に最終的に受け取る慰謝料が減額されてしまうことがあり、このような場合は注意が必要です。
弁護士が示談交渉をすると、適切に交渉を行うことによって被害者側の過失割合を抑えてくれます。
このことにより、過失相殺で減額される割合が少なくなって、自分で交渉していたときよりも支払いを受けられる慰謝料の金額が上がるのです。
(4)弁護士に依頼することが重要
以上のように、適正な慰謝料支払いを受けるためには、何より弁護士に手続を依頼することが大切です。
弁護士に依頼すると弁護士費用が気になる方がいるかもしれませんが、何らかの後遺障害が残る場合(14級でも可)には、弁護士費用を支払っても充分弁護士に依頼するメリットがあります。
今交通事故に遭って悩んでいる方や、周りに交通事故に遭って困っている人がいる方は、まずは一度、交通事故問題を専門的に取り扱っている弁護士に相談することをおすすめします。