保険会社による休業損害の打ち切り宣告への対応

最終更新日:2025年12月08日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q保険会社から休業損害の打ち切りを宣告されました。どう対応すればよいですか?

打ち切りを告げられても、必ずしもそれに従う必要はありません。

医師が引き続き治療や休業が必要だと判断しているなら、次のような対応を考えましょう。

  1. 段階的に職場復帰する
  2. 加害者の任意保険会社に延長を要請する
  3. 労災保険に請求する
  4. 人身傷害保険に請求する
  5. 休業を続けて後日裁判で請求する

ご自身の状況に応じて適切な選択肢を検討することが大切です。

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休業損害とは

休業損害とは、交通事故のけがが原因で仕事を休まざるを得ず、そのせいで収入が減ってしまった分の損害のことです。専業主婦などが家事をできなくなった損害も含みます。

休業損害は、加害者側に賠償請求をすることができます。

休業損害の金額を決める要素は、主に次の2つです。

  1. 基礎収入:事故に遭う前の収入額
  2. 休業期間(日数):けがの治療のために仕事を休む必要があった期間

仕事を休めば直ちに休業損害が払われるわけではなく、症状や治療のために休業の必要があると認められる必要があります。

この休業の必要性について、保険会社と被害者で意見が食い違うことが多く、その結果、休業損害が途中で打ち切られたり、説明に納得できなかったりするケースがあります。

休業損害の打ち切りが予想されるタイミング

交通事故における休業損害の支払いが打ち切られるのは、主に次の4つのタイミングが考えられます。

医師が仕事に復帰できると診断したとき

医師から「復職可能」「就労可能」と診断されると、休業損害の支払いが打ち切られる可能性があります。

休業損害は、事故のけがや治療のために働けず、収入を得られない状態を補償するものです。医師が「仕事に復帰できる」と判断すれば、保険会社は「もう働けない状態ではない」と捉え、休業損害を支払う根拠がなくなったと主張してきます。

また、「医師が積極的に休業を指示していない」という理由で、休業損害を打ち切るケースもあります。

休業の必要性の認定においてもっとも重要なのは医師の医学的な判断です。仕事の内容や業務による負荷をきちんと医師に説明して、休業の必要性・復職のタイミングを継続的に医師に相談することが望ましいです。

全く相談していないと、仕事内容をよく理解しないまま仕事に復帰できると判断されてしまうリスクがあります。

医師から症状固定と判断されたとき

休業損害は、原則として症状固定までの期間が対象となります。

症状固定とは、医学的に適切な治療を続けても、これ以上症状が良くならない状態のことです。

症状固定日をもって休業損害の支払いは終了し、それ以降に残った症状について後遺障害が認定された場合は、逸失利益として別途計算されることになります。

相当な治療期間が経過したとき

加害者側の任意保険会社は、医師の判断による症状固定とは関係なく、独自の判断で治療費や休業損害の支払いを打ち切ることがあります。

支払いが打ち切られる代表的なケースとして、保険会社が「事故による治療に必要とされる相当な期間を経過した」「相当期間を経過したので休業の必要が認められない」と判断した場合が挙げられます。

たとえば、むちうち(頚椎捻挫)のような傷病では、事故から約3~6か月が経過したタイミングで、治療費の一括対応を打ち切る旨が通告されるケースが多く見られますが、休業損害はそれよりも早いタイミングで打ち切りが通告されることが多いです。

むちうちの場合、治療期間は一般的に3?6か月程度が目安という考え方があり、治療期間中全て休業する必要はないという理由からです。

事故とは別の原因でけがが悪化したとき

休業損害は、「交通事故によるけがが原因で仕事を休んだ期間」に対して支払われるものです。そのため、事故とは関係のない持病や既往症の自然な悪化によって働けなくなった場合には、その期間の休業について補償が打ち切られる可能性があります。

たとえば、事故後しばらくして別の病気が悪化し、その影響で就労できなくなった場合には、「その休業は事故とは無関係」と判断されることがあり、事故による損害として認められない可能性があるのです。

保険会社による休業損害の打ち切り宣告への対応

保険会社から休業損害の打ち切りを宣告されても、すぐに同意する必要はありません。たとえば、医師がまだ治療や休業が必要だと判断しているなら、補償を継続してもらえる可能性は十分にあります。医師がはっきりと休業を指示していなくても、交渉によって延長が可能なケースもあります。

ここからは、実際に取り得る5つの対応策をご紹介します。

① 段階的に職場復帰する

保険会社から休業損害の打ち切りを通告されても、無理をしてすぐにフルタイムで復帰する必要はありません。体調や症状が十分に回復していないなら、会社と相談しながら、負担の少ない形で徐々に職場に戻ることを検討してみてください。

まずは、上司や人事担当者と現状の症状を共有し、次のような働き方が可能か相談してみましょう。

  • 時短勤務での復帰
  • 出勤日数を減らす
  • 負担の軽い業務に変更する

こうした段階的な復職プランを会社と調整していることを保険会社に伝えると、「完全に業務復帰できるわけではない」「一定期間は休業が必要である」ことを説明しやすくなります。

その結果、完全な打ち切りではなく、部分的に休業継続を認めてもらえるなど、保険会社が支払い方針を柔軟に見直してくれる可能性も生まれるでしょう。

② 加害者の任意保険会社に延長を要請する

休業損害の打ち切りの通告があったら、まず医師に相談しましょう。

医師がまだ就労は困難と判断している場合、その旨を保険会社に伝え、休業損害の支払い延長を要請します。

保険会社に延長を要請するときは、単に「まだ痛いから働けません」と一般的な主張をするだけでは、保険会社に納得してもらうことは難しいでしょう。重要なのは、「具体的な症状」と「具体的な業務内容」を結びつけて、なぜ休業が必要なのかを説得力をもって主張することです。

「首を左に向けると激痛が走るため、車を運転する配送業務ができない」「腰痛で長時間の立ち仕事が困難なため、接客業務を続けられない」といった具体的な説明ができると、保険会社も納得しやすくなります。

医師の診断書に業務の支障が明記されていれば、さらに説得力が増すでしょう。

③ 労災保険に請求する

交通事故が業務中または通勤中に発生した場合は、労災保険から休業補償を受けられる可能性があります。これは、加害者の保険会社からの支払いとは別の制度です。

加害者側の保険会社から休業損害の支払いを打ち切られた後も、療養のために働けず賃金を受けられない状態が続く場合は、労災保険に休業損害を請求できることがあります。

保険会社が休業の必要性がないと判断しても、労働基準監督署では休業の必要性があると判断することがあるためです。

請求書は厚生労働省のホームページからダウンロードでき、郵送での提出も可能です。請求書には、医師の証明や事業主の証明が必要となります。なお、請求権は賃金を受けない日ごとに発生し、その翌日から2年で時効となるため、早めの手続きが大切です。

④ 人身傷害保険に請求する

加害者側の保険会社から休業損害の支払いを打ち切られた場合でも、ご自身が加入している人身傷害保険に休業損害を請求することが可能です。

人身傷害保険は、交通事故の被害者が迅速な救済を受けられるように開発された保険で、次のような特徴があります。

  • 迅速な支払い

    加害者側との示談交渉の終了を待たずに、保険金の支払いを受けられる。

  • 過失割合に左右されない

    被害者自身の過失割合に関わらず、発生した損害額に対する補償が受けられる。

加害者側の保険会社が休業損害の支払いを停止した後でも、示談や裁判が確定する前に、人身傷害保険へ休業損害を請求できることがあります。加害者の保険会社が休業の必要性がないと判断しても、ご自身の保険会社は休業の必要性があると判断することがあるためです。

ご自身の保険契約内容を確認し、人身傷害保険が付いているか確認してみましょう。

⑤ 休業を続けて後日裁判で請求する

保険会社との交渉が決裂し、休業損害の支払いが打ち切られた場合でも、医師の指示のもとで休業を続け、治療に専念するという選択肢もあります。

その場合、打ち切られた期間の休業損害については、後日、裁判で請求することになります。

ただし、この方法は決して簡単ではありません。裁判で休業損害を認めてもらうには、被害者側が「なぜその期間、休まざるを得なかったのか」を具体的かつ客観的に証明する必要があります。

そのためには、診断書やカルテ、診療報酬明細書などの医療記録、職場の業務内容を証明する資料、休業の必要性を示す医師の意見書など、多くの資料を収集・整理し、整合性のある主張を組み立てなければなりません。

また、どんなに入念に準備をしたとしても、裁判所が主張を認めてくれるとは限らないのが現実です。保険会社も徹底して争ってくる可能性が高く、時間・手間・費用だけでなく、精神的な負担も覚悟しておく必要があります。

安易に選べる手段ではないからこそ、裁判での請求を本気で考えるなら、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

よくあるご質問

ここでは、休業損害の打ち切りに関して、よくいただくご質問にお答えします。

勝手に保険会社が休業損害を打ち切ってよいのですか?

加害者側の保険会社が休業損害や治療費の支払いを「打ち切る」こと自体は違法ではありません。あくまで「先払いサービス」の終了であり、損害賠償請求権そのものがなくなるわけではないからです。

この先払いはあくまで「保険会社が任意で提供しているサービス」であり、法律で義務づけられた支払いではありません。

そのため、保険会社が独自の判断で先払いを停止したとしても、「違法な打ち切り」には当たらないとされています。

とはいえ、打ち切りが不当な場合は、最終的に示談や裁判で適切な金額を請求できます。「打ち切り=補償がもらえない」ということではありません。

どのような場合に休業損害が打ち切られやすいですか?

次のようなケースでは、休業損害の支払いを打ち切られやすい傾向があります。

軽傷とされる傷害で休業が長期化している場合

比較的軽傷とされるけがで休業が長期化すると、保険会社から「軽傷なのにそこまで休業が必要なはずがない」と判断され、打ち切りを打診されやすくなります。

特に、むちうちなど画像検査で明確な異常が見つかりにくいけがは、「そろそろ復職できるはずだ」と判断されやすいです。

けがと業務内容の関連性が低いと保険会社に判断される場合

たとえば、腰椎捻挫を負ったシステムエンジニアのケースでは、「デスクワークなら可能だろう」という理屈で、支払いを渋られる可能性があります。「手や腕のけがではないから、パソコン作業はできるはず」といった判断をされることもあります。

実際には、長時間座っていることで腰に負担がかかり、デスクワークも困難な場合があるのですが、保険会社にそれを理解してもらうには、具体的な説明が必要になります。

突然休業損害を打ち切られにくくするにはどうすればよいですか?

突然の打ち切りを回避し、適切な期間の補償を受けるためには、次の点を心がけることが重要です。

医師に具体的な症状と仕事への支障を伝える

診察の際には、単に「痛い」と伝えるだけでなく、「どのような動作で痛みが出るか」「その痛みが具体的な業務にどう影響するか」を詳細に説明し、カルテに記録してもらいましょう。

具体的な業務内容を主張する

保険会社との交渉の際には、ご自身の職種だけでなく、業務内容を詳細に説明し、「現在の症状があるとなぜその業務が困難なのか」を具体的に主張することが重要です。

復職の目途を検討し保険会社に伝える

「事故から2か月」など復職の目途を伝えると保険会社も対応することが多いです。反対に復職の見込みが不明な状態で休業を続けると打ち切りの対象になることが多いです。

医師や勤務先と相談しながら可能な範囲で復職の目途を検討し、保険会社に伝えましょう。

自己判断で通院を中断しない

痛みが残っているにもかかわらず自己判断で通院をやめてしまうと、「治癒したもの」とみなされ、休業損害だけでなく治療費まで打ち切られることになりかねません。医師の指示に従い、必要な治療を継続してください。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

休業損害の交渉は、特に「いつまで休業が必要だったのか」をめぐって、保険会社と対立しやすいポイントです。医学的な判断や就労状況の説明が求められる場面も多く、被害者ご自身で対応するのは難しいこともあるでしょう。対応を誤れば、本来受け取れるはずだった補償がもらえないおそれもあります。

保険会社から休業損害の打ち切りを告げられて困っている方、交渉の進め方に不安を感じている方は、一人で抱え込まずに、早めに弁護士へご相談ください。

弁護士に依頼することで、医学的な観点も踏まえて休業の必要性を適切に主張し、保険会社と対等に交渉を進められるようになります。また、裁判になった場合の見通しや、適切な和解金額についても的確なアドバイスを受けることが可能です。

よつば総合法律事務所では、交通事故専門チームの弁護士がご相談を担当いたします。お一人お一人に専任の弁護士・スタッフがつき、最後までしっかりとサポートさせていただきます。休業損害の打ち切りでお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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