交通事故証明書の甲乙の決め方
最終更新日:2025年09月19日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故証明書の甲欄と乙欄はどのように決まりますか?
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交通事故証明書では、実務上、甲欄に加害者、乙欄に被害者が記載されることが多くなっています。
これは事故を担当した警察官が現場での確認や事情聴取をもとに判断しますが、その判断は必ずしも正確とは限りません。事故態様が複雑な場合や証拠が不十分な場合には、実際には乙欄の当事者の過失が大きい場合もあります。

目次

交通事故証明書とは
交通事故証明書は、交通事故が発生した事実を公的に証明する書類です。
交通事故が起きた場合、まず警察に届け出を行う必要があります。警察は現場に赴き、事故の日時や場所、当事者の氏名や住所、車の登録番号、免許証の情報などを確認します。さらに、事故状況や関係者の供述内容も記録し、それらをもとに作成されるのが交通事故証明書です。
交通事故証明書には、事故の当事者、事故の種類、発生場所、日時などが簡潔にまとめられています。そのため、保険会社への保険金請求や、相手方への損害賠償請求といった手続きを進めるためには、事故があったことを証明する基本的な書類として必要になります。
引用元: 交通事故に関する証明書(自動車安全運転センター)
交通事故証明書の甲欄と乙欄とは
交通事故証明書には、事故の当事者を記載する「甲欄」と「乙欄」があります。この甲乙の欄は、事故を担当した警察官が決定し、各当事者の氏名や住所、車両番号などの基本情報が記載されます。
多くの場合、甲欄は過失の大きい側(加害者)、乙欄は過失の小さい側(被害者)となりますが、必ずしもそうとは限りません。
甲欄が加害者で乙欄が被害者のことが多い
実務上、交通事故証明書の甲欄には加害者、乙欄には被害者が記載されるケースが大多数です。これは、事故の責任が大きい人物を甲欄に、責任の小さい人物を乙欄に記載する運用が広く行われているためです。
ただし、すべての事案がこの原則通りになるわけではありません。事故の態様が複雑で現場での判断が難しい場合や、当事者双方に過失があり責任の差が小さい場合には、甲欄が必ずしも加害者とは限りません。また、警察官の認定に誤りがあるケースもあります。
そのため、「甲欄が加害者」「乙欄が被害者」と断定するのは避けるべきです。
警察が甲欄と乙欄を決める方法
甲欄と乙欄の決定は、現場での警察官の調査と事情聴取をもとに行われます。具体的には、次のような情報を総合的に判断します。
- 当事者や目撃者からの聞き取り
- 車両や道路の損傷状況
- ブレーキ痕や衝突位置などの物的証拠
- 道路交通法違反の有無(信号無視、優先道路の通行など)
これらをもとに、どちらの過失が大きいかを暫定的に判断し、甲欄と乙欄に割り当てます。ただし、警察が決めるのはあくまで証明書上の甲乙の記載だけであり、最終的な過失割合を決定する権限はありません。
証明書の下部にも、「なお、この証明書は損害の種別とその程度、事故の原因、過失の有無とその程度を明らかにするものではありません。」と断りの文言が通常記載されています。
過失割合は、保険会社を通じた当事者間の話し合い、または裁判手続によって確定するものです。したがって、交通事故証明書の甲乙が、そのまま法的な責任割合を意味するわけではありません。
過失割合の決定方法
交通事故の過失割合は、当事者同士が合意して初めて確定します。双方が話し合い、納得できる割合にたどり着けば決定しますが、合意できない場合は裁判所が判断します。
実務では、当事者本人が直接交渉することは少なく、それぞれが加入している任意保険会社が話し合いを進めます。多くの場合は「保険会社同士の交渉」になりますが、保険会社に過失割合を一方的に決める権限はありません。提示された割合はあくまで保険会社の主張であり、当事者が同意しない限り確定しません。
なお、警察は事故現場での状況確認や実況見分を行いますが、過失割合そのものを決める権限はありません。現場で警察官が「あなたは悪くない、過失はない」「この事故は3対7くらいですね」といった発言をすることもありますが、それは個人的な意見にすぎず、公式な決定ではありません。当然保険会社との交渉や裁判にもほぼ影響を与えません。
よくあるご質問
ここでは、交通事故証明書や過失割合に関して、被害者の方からよく寄せられるご相談の中でも特に多い質問をまとめました。
警察に言えば甲と乙を変更してくれますか?
警察に申告しても、甲乙を警察が変更する可能性は低いでしょう。交通事故証明書は発行時点の記録に基づくもので、後から当事者の主張だけで変更すると記録の正確性が損なわれるためです。
ただし、明らかな人違いや車両番号の誤記など、事実と異なる記載がある場合は、修正に応じてもらえることがあります。このようなときは、証明書を発行した自動車安全運転センターや、事故を担当した警察署に相談しましょう。
過失割合に納得できない場合はどうすればよいですか?
過失割合に納得できないときは、感情的に同意するのではなく、まず提示された割合が妥当かを確認しましょう。そのために次の3点を検討します。
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過去の類似事例の調査ご自身の事故の状況と似た判例や基準を調べ、提示割合と比較します。特に、民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)に記載されている内容を参考にすることが多いです。
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客観的な証拠の確認現場写真、ドライブレコーダー、防犯カメラ映像、目撃証言などを集めます。有利な事実がないか注意深く検討しましょう。
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修正の余地がある事情の検討相手の速度超過、合図なし、その他重大な過失と評価できる法令違反などがあれば、基本割合を変更できる可能性があります。
そのうえで取りうる手段としては、次のようなものがあります。
保険会社に反論する
集めた証拠や類似事例をもとに、提示された割合の根拠を確認し、必要があれば修正を求めます。「なぜこの割合なのか」という説明を求めるだけでも、条件が改善することがあります。相手にドライブレコーダー等の資料がある場合は、資料の開示を求めるべきです。
交通事故紛争処理センターを利用する
裁判までは考えていないが、公正な第三者に判断してほしい場合に有効です。全国各地に窓口があり、無料で相談や和解あっせんを受けられます。和解あっせんとは、話し合いによる解決を促す手続きのことです。
民事裁判を利用する
保険会社や相手方と折り合いがつかない場合は、裁判所に判断を委ねます。裁判では提出した証拠と双方の主張をもとに過失割合が決まり、確定すれば相手はその内容に従って賠償金を支払う義務があります。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
交通事故証明書の甲欄・乙欄は、多くの場合「甲は加害者」「乙は被害者」ですが、異なることもあります。また、甲乙の記載は警察が事故時点の状況から判断したものであり、過失割合そのものを確定するものではありません。
過失割合は当事者同士の合意によって決まり、合意できなければ裁判所が判断します。提示された割合に納得できないときは、証拠を集め、必要に応じて保険会社への反論や裁判などの方法を検討しましょう。
ただし、過失割合や損害賠償の交渉は法的知識と経験が必要で、被害者一人で進めるのは負担が大きいものです。弁護士に相談すれば、事故状況に応じた適切な判断や交渉を代わりに行ってもらえるため、納得のいく解決に近づける可能性が高まります。特に弁護士費用特約があれば、費用負担なく依頼できる場合もあります。
事故後の対応や交渉に不安があるときは、早めに交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

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弁護士 粟津 正博