大腿骨頚部骨折
最終更新日:2025年12月04日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
大腿骨頚部骨折とは、股関節にある大腿骨の付け根の部分の骨折です。関節内の骨折であるため可動域の制限を起こしたり、血流が悪い部分であるため癒合不全となるリスクがあります。
この記事では、大腿骨頚部骨折について、原因や治療法、後遺障害の認定基準などを交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
大腿骨頚部骨折は専門的な判断が必要です。気になることやお悩みがある場合は、まずはよつば総合法律事務所へお問い合わせください。

目次
大腿骨頚部骨折
大腿骨は、人体の中で最も太く、そして長い骨です。上半身の重さを受け止めながら、歩行などの運動を行う上で重要な役割を果たしています。
大腿骨の付け根部分(股関節部分)は、股関節に近いところから、「大腿骨頭→大腿骨頚部→転子部」と呼ばれる3つの部位に分かれています。
大腿骨は「転子部→頚部」で内側に屈曲しています。そして、大腿骨頭を骨盤の寛骨臼蓋が覆うように被さり、股関節を形成しているのです。

大腿骨頚部骨折の原因と診断
大腿骨近位部の骨折は、大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折、転子部よりも下が折れる大腿骨転子下骨折の3つに分類されます。
3つの分類の中で発生頻度が高いのが、大腿骨頚部骨折です。
転倒や転落の際には、大腿骨の屈曲した部分に荷重が集中しやすく、細くくびれている大腿骨頚部は骨折しやすい形状となっているのです。
交通事故では、自転車やバイクを運転している際や歩行中に、股関節部分に強い外力が加わると、大腿骨頚部骨折となる例が多いです。
また、骨粗鬆症で骨が脆くなった高齢者は、この部分を骨折することが多いとされています。
50歳代から少しずつ目立ち始め、80歳代がピークです。高齢者ほど軽微な外傷で骨折を生じる傾向があります。
大腿骨頚部骨折を受傷した場合、事故直後から、痛み、腫れ、関節の可動域制限等を訴え、歩行できないことが一般的です。
大腿骨頚部骨折の多くは、レントゲン画像で分かります。ただし、骨折線が映りにくいこともあります。このときは、CT撮影やMRI撮影を行います。
頚部骨折は股関節内の骨折であることから、骨折による腫れが外部に現れるのには時間を要しますし、肘や膝などの骨折ほど腫れが大きくは現れません。しかし、健側と比較すると明らかであることが多いです。

大腿骨頚部骨折の治療
大腿骨頚部骨折の場合、骨折の態様にもよりますが、手術で治療をすることが基本です。
保存的治療を選択すると、骨癒合に失敗しやすい骨折だとされています。その理由として挙げられているのは次のようなものです。
- 患者が高齢者であることが多く、患者の骨再生能力が低下していることが多い
- 骨折面が斜めになるため、大腿骨の横方向からの力(剪断力)が働き、骨癒合を妨げ、変形癒合や偽関節に至りやすい
- この骨折は大腿骨頚部を走行している動脈を損傷して血行が断たれやすく、血行障害による骨癒合不良や骨頭壊死に至りやすい
- 年齢からくる意欲の低下等で、効果的なリハビリがスムーズに実行できない
手術を行う場合は、釘やプレートを用いて骨折部を内固定する方法や、重傷の場合、人工骨頭置換術を行う方法があります。
人工骨頭置換術とは、大腿骨頭と頚部の一部を切除して取り除き、大腿骨頭を人工骨頭ヘッドに置き換える手術です。大腿骨壊死を防ぐ、骨がくっつくのを待たずに手術後すぐに歩行訓練が可能になるといったメリットがあります。
術後は、筋力低下や関節の拘縮を防ぐため、速やかに歩行訓練やリハビリを行う必要があります。
大腿骨頚部骨折の種類
大腿骨頚部骨折は、次の4つに分類されています。

| StageⅠ | 不完全な骨折 |
|---|---|
| StageⅡ | 完全骨折だが、転位が全くないもの |
| StageⅢ | 完全骨折で、骨頭が回旋転位(不完全転位)しているもの |
| StageⅣ | 完全骨折で、骨折部が離開(完全転位)しているもの |
ⅠまたはⅡのように転位のないものは、保存的治療も可能ですが、近年は手術による固定術が実施されることが多いようです。
保存治療を選択する場合、長期間のベッド上の安静と牽引を必要とするため、全身状態が良好で合併症が深刻でなく、かなりの長期間寝続けることに耐えられる状態である必要があります。高齢で長期の臥床により、全身の機能低下(廃用症候群)が進んでしまうリスクがある場合は勧められません。
ⅢまたはⅣのように、関節の中で骨折し、骨折部に転位が生じたときは、骨頭に栄養を送る血液の流れが遮断され、骨頭壊死を起こし、最悪の場合には骨頭が潰れる可能性があります。そこで、このようなときは、大腿骨骨頭を取り換える人工骨頭置換術を行うことが一般的です。
大腿骨頚部骨折の後遺障害
大腿骨頚部骨折は関節内の骨折であるため、股関節の可動域制限や痛みなどの後遺症が残りやすい外傷です。
交通事故が原因で人工骨頭置換術を行った場合には、原則として後遺障害が認定されます。
大腿骨頚部骨折で認定されうる主な後遺障害は、機能障害(下肢)、神経障害の2種類です。
| 8級7号 | 1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの |
|---|---|
| 10級11号 | 1下肢の三大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
| 12級7号 | 1下肢の三大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
|---|---|
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
機能障害(関節の動く範囲の制限)
機能障害は、関節が動く角度を測定し、異常があるときの後遺障害です。動かない程度が大きいほど上位の等級になります。
大腿骨頚部骨折の場合、股関節の機能障害が考えられます。
| 8級7号 | 1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの |
|---|---|
| 10級11号 | 1下肢の三大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
| 12級7号 | 1下肢の三大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
股関節の可動域制限の場合、原則として屈曲と伸展または外転と内転による運動を参照します。


可動域の測定にはルールがあります。詳細は関節可動域表示並びに測定法(日本リハビリテーション医学会)をご確認下さい。
認定のためには、単に数値上の基準を満たすだけではなく、そのような可動域の制限が生じることについて医学的な説明ができることが必要です。
「用を廃したもの」(8級)
「用を廃したもの」(8級)とは次のいずれかの場合です。
- 関節が全く動かない場合
- 関節の可動域が、負傷していない側の1/10以下に制限されている場合
- 人工骨頭置換術を行い、可動域が負傷していない側の1/2以下に制限されている場合
著しい機能障害(10級)
「関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級)とは次のいずれかの場合です。
- 関節の可動域が、負傷していない側の1/2以下に制限されている場合
- 人工骨頭置換術を行った場合
機能障害(12級)
「関節の機能に障害を残すもの」(12級)とは次の場合です。
- 関節の可動域が、負傷していない側の3/4以下に制限されている場合
神経障害
神経障害の後遺障害認定基準は次のとおりです。
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
|---|---|
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級は、画像や検査結果から客観的に異常が分かり、痛みが残ることが医学的に証明できる場合です。
たとえば、次のような場合は12級になることがあります。
- 骨が変形してあるいは不正に癒合して、これが原因で痛みが生じる場合
- 関節面に不正を残して骨癒合して、これが原因で痛みが生じる場合
14級は、痛みが残ることが医学的に証明されているとまではいえないが、医学的に説明可能な場合です。
つまり、客観的な所見から痛みが生じる原因が明らかとはいえないものの、受傷態様や治療内容、症状の一貫性などから、将来にわたり痛みが残ることが医学的に説明できる場合です。
まとめ:大腿骨頚部骨折の後遺障害
大腿骨頚部骨折は股関節部分の骨折です。大腿骨頚部は、血流が乏しく骨が付きにくいという特徴があります。高齢の方の受傷例が多く、股関節の可動域や歩行機能に支障をきたさないように注意が必要です。
後遺障害は、主に機能障害・神経障害があり、8級から14級まで等級があります。人工骨頭置換術を行っている場合は、原則として10級以上の後遺障害が認定されます。
大腿骨頚部骨折の後遺障害は専門的な判断が必要です。お困りの際は、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

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弁護士 粟津 正博













