労災保険
最終更新日:2026年02月06日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

仕事中や通勤中に交通事故にあった場合、加害者の保険だけでなく「労災保険」を利用できるケースがあります。労災保険は、けがの治療や休業中の生活を支える制度です。
この記事では、交通事故で労災保険の利用を考えている方に向けて、制度の基本から補償内容、利用するメリット・デメリット、手続きの流れ、よくある質問まで解説します。
目次
交通事故で労災保険が使える場合
労災保険(労働者災害補償保険)は、仕事によるけがや病気、または通勤中の災害に対して必要な補償を行う制度です。
交通事故であっても、次のいずれかに当てはまるときは労災保険の対象になります。
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業務災害
仕事中に発生した事故が対象です。たとえば、社用車で営業先へ向かう途中の事故や、現場や構内での作業中に車両に衝突された事故などが含まれます。
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通勤災害
通勤の途中で起きた事故が対象です。自宅と職場を合理的な経路や方法で往復している間に発生した事故が該当します。
労災保険の補償内容
労災保険には、交通事故でけがをした労働者やその家族を支えるために、さまざまな種類の保険給付が用意されています。交通事故に関連する主な給付は次のとおりです。
① 療養給付
業務災害または通勤災害による傷病の治療を受けるための給付です。給付内容は次のとおりです。
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療養の給付
労災病院や労災保険指定医療機関で治療を受ける場合、窓口での費用負担なく、原則として自己負担なく治療が受けられます。
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療養の費用の支給
近くに指定医療機関がないなど、やむを得ない理由により指定医療機関以外で治療を受けたときは、一度費用を立て替えた後、請求によってその全額が支給されます。
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通院費
一定の要件を満たせば、通院にかかった交通費も「療養の費用の支給」として支給される場合があります。
給付は、傷病が治癒または症状固定するまで受けることができます。「症状固定」とは、傷病の状態が安定し、これ以上治療を続けても改善が見込めない状態を指します。
また、治癒・症状固定後も、特定の傷病については、再発予防などの目的で診察や保健指導を受けられる「アフターケア制度」を利用できる場合があります。
② 休業給付
治療が必要で働けず、賃金を受け取れないときの収入を補う給付です。休業が始まった日から3日間は待期期間となり、4日目から支給されます。給付内容は次のとおりです。
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休業補償給付1日につき給付基礎日額(原則として平均賃金に相当)の60%が支給されます。
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休業特別支給金社会復帰促進等事業として、上記に加えて給付基礎日額の20%が支給されます。
合計すると、休業中は給付基礎日額の80%に相当する額が補償されます。
③ 障害給付
障害給付は、業務災害や通勤災害による傷病が症状固定となったあと、後遺障害が残った場合に支給される給付です。障害の等級に応じて給付される内容が変わります。給付内容は次のとおりです。
後遺障害等級1級から7級
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障害(補償)等年金
症状固定後、障害等級1級から7級に該当する後遺障害が残った場合に支給される年金です。偶数月に2か月分がまとめて支給されます。
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障害特別年金
後遺障害等級1級から7級に該当する場合、障害(補償)等年金とは別に支給される年金です。ボーナスなどの特別給与を基礎として計算します。
後遺障害等級8級から14級
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障害(補償)等一時金
症状固定後、障害等級8級から14級に該当する後遺障害が残った場合に支給される一時金です。支給は一度のみです。
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障害特別一時金
後遺障害等級8級から14級に該当する場合、障害(補償)等一時金とは別に支給される一時金です。ボーナスなどの特別給与を基礎として計算します。
後遺障害等級1級から14級
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障害特別支給金
労働者の社会復帰促進を目的とした事業の一環として支給される一時金です。障害給付の受給権者、つまり障害等級1級から14級に該当する全ての者が対象となります。
後遺障害1級から7級の給付額
障害等級1級から7級に該当する比較的重い障害が残った場合の給付額は次のとお通りです。
| 障害等級 | 障害(補償)等年金 | 障害特別年金 | 障害特別支給金 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 313日分 | 313日分 | 342万円 |
| 2級 | 277日分 | 277日分 | 320万円 |
| 3級 | 245日分 | 245日分 | 300万円 |
| 4級 | 213日分 | 213日分 | 264万円 |
| 5級 | 184日分 | 184日分 | 225万円 |
| 6級 | 156日分 | 156日分 | 192万円 |
| 7級 | 131日分 | 131日分 | 159万円 |
- 障害(補償)等年金は、給付基礎日額に対応する日数分が年金として毎年支給されます。給付基礎日額とは、概ね被害者の事故前の平均賃金に相当する額です。
- 障害特別年金は、算定基礎日額に対応する日数の支給です。算定基礎日額とは、概ね被害者の事故前のボーナス等の特別給与を基に算定する額です。
後遺障害8級から14級の給付額
障害等級8級から14級に該当する比較的軽い障害が残った場合の給付額は次のとおりです。
| 障害等級 | 障害(補償)等一時金 | 障害特別一時金 | 障害特別支給金 |
|---|---|---|---|
| 8級 | 503日分 | 503日分 | 65万円 |
| 9級 | 391日分 | 391日分 | 50万円 |
| 10級 | 302日分 | 302日分 | 39万円 |
| 11級 | 223日分 | 223日分 | 29万円 |
| 12級 | 156日分 | 156日分 | 20万円 |
| 13級 | 101日分 | 101日分 | 14万円 |
| 14級 | 56日分 | 56日分 | 8万円 |
④ 遺族給付
遺族給付は、労働者が業務災害または通勤災害により死亡した場合に、その収入で生計を立てていた遺族の生活保障を目的として支給される給付です。
遺族給付には、受給資格のある遺族がいる場合に支給される「遺族(補償)等年金」と、年金の受給資格者がいない場合などに支給される「遺族(補償)等一時金」の2種類があります。
さらに、これらの保険給付に加えて、社会復帰促進等事業から「遺族特別支給金」が上乗せで支給されます。
遺族(補償)等年金
遺族(補償)等年金は、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた遺族のうち、一定の要件を満たす「受給資格者」がいる場合に支給されます。
受給資格者となれるのは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。ただし、妻以外の遺族については、一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害状態にあることが必要となります。
受給資格者のうち、最も優先順位の高い者だけが、実際に年金を受け取る「受給権者」となります。受給権者が複数いる場合は等分されます。最先順位の受給権者が死亡や婚姻などによって失権すると、次の順位の遺族に受給権が移ります(これを「転給」といいます)。
給付内容は、次のとおり、遺族の人数によって異なります。
| 遺族数 | 給付額 |
|---|---|
| 1人 | 153日分 |
| 2人 | 201日分 |
| 3人 | 223日分 |
| 4人以上 | 245日分 |
- 給付額は、給付基礎日額に対応する日数の支給です。給付基礎日額とは、概ね被害者の事故前の平均賃金に相当する額です。
- 遺族が1人の場合で、遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は、給付基礎日額(算定基礎日額)の175日分となります。
また、受給権者は希望により、年金給付基礎日額の1000日分を上限として、年金の一部を一時金として前払いで受け取ることも可能です。
遺族(補償)等一時金
遺族(補償)等一時金は、次のいずれかの場合に支給されます。
- 労働者の死亡当時に、遺族(補償)等年金を受け取ることができる遺族がいない場合
- 遺族(補償)等年金の受給権者がすべて失権し、他に年金の受給資格者がおらず、かつ、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合
一時金の受給権者は、次の順番で最も優先順位の高い方となります。年金の受給資格者とは異なり、生計維持関係がなくても対象となる遺族が含まれます。
- 配偶者
- 労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた子、父母、孫、祖父母
- その他の子、父母、孫、祖父母
- 兄弟姉妹
給付内容は、年金の受給資格者がいない場合、給付基礎日額の1000日分です。
年金受給者が失権したために一時金が支給される場合は、給付基礎日額の1000日分から、すでに支払われた年金の合計額を差し引いた額が支給されます。
遺族特別支給金
遺族特別支給金は、労働者が業務上の事由または通勤によって死亡したときに、その遺族の申請に基づいて支給される一時金です。これは社会復帰促進等事業から、労災保険の遺族(補償)給付に上乗せして支給されるもので、保険給付とは別に支払われます。
支給額は一律300万円で、遺族(補償)等年金または遺族(補償)等一時金の受給権を有する遺族に対して支給されます。
受給できる遺族が複数いる場合は、300万円を人数で割った金額が各人に支給されます。
⑤ 葬祭給付
死亡した労働者の葬儀を行う方に支給される給付です。受給者は必ずしも遺族とは限らず、社葬として会社が葬儀を行ったときは会社が受け取ることもあります。
次のいずれか多い方の金額が支給されます。
- 31万5000円+給付基礎日額の30日分
- 給付基礎日額の60日分
⑥ 傷病年金
療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治らず、その障害の程度が法令で定められた傷病等級(1級から3級)に該当する場合に、休業補償給付に代わって支給される年金です。
傷病年金は労働者からの請求ではなく、労働基準監督署長の職権による決定で支給されます。
傷病年金の受給権者には、保険給付である傷病(補償)等年金に加えて、労働者の福祉増進を目的とする社会復帰促進等事業の一環として、次の2種類の特別支給金が支給されます。
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傷病特別支給金傷病等級に応じて定められた金額が、一時金として支給されるものです。
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傷病特別年金年金として支給されるもので、ボーナスなどの特別給与を基に算定される「算定基礎日額」を基礎として計算されます。
それぞれの金額は次のとおりです。
| 傷病等級 | 傷病(補償)等年金 | 傷病特別支給金 | 傷病特別年金 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 313日分 | 114万円 | 313日分 |
| 2級 | 277日分 | 107万円 | 277日分 |
| 3級 | 245日分 | 100万円 | 245日分 |
- 傷病(補償)等年金は、給付基礎日額に対応する日数の支給です。給付基礎日額とは、概ね被害者の事故前の平均賃金に相当する額です。
- 傷病特別年金は、算定基礎日額に対応する日数の支給です。算定基礎日額とは、概ね被害者の事故前のボーナス等の特別給与を基に算定する額です。
⑦ 介護給付
障害補償年金または傷病年金の受給者のうち、障害の程度が特に重く、常時または随時介護を必要とする状態にある場合に、介護にかかる費用を補うために支給されます。
労災保険を使うメリット
交通事故において労災保険を利用するメリットとしては、次のようなものがあります。
- 治療費が打ち切られにくい
- 休業損害が打ち切られにくい
- 後遺障害認定がされやすい
- 特別支給金を追加でもらえる
- 被害者の過失が考慮されない
- 加害者に関係なく補償がある
労災保険を使うデメリット
一方で、労災保険を利用すると、次のようなデメリットがあります。
- 手続きが面倒なことが多い
- 会社が協力してくれないことがある
労災保険を使ったほうがよい場合
交通事故の状況によっては、加害者側の保険(自賠責保険・任意保険)だけで対応するのではなく、労災保険を積極的に利用したほうがよいケースがあります。
自らに一定の過失がある
交通事故では、被害者側にも過失があった場合、その割合に応じて受け取れる賠償金が減額されます(過失相殺)。
しかし、労災保険の給付は、労働者に過失があっても原則として減額されません。そのため、ご自身の過失割合が大きくなりそうな事故では、労災保険の利用が特に有利になります。
加害者側が治療費を支払わない
加害者側の任意保険会社が、治療の必要性を認めず、治療費の支払いを拒否することがあります。
このような場合でも、労災保険の療養給付が認められれば、自己負担なく治療を継続することができます。
加害者側が支払っていた治療費が打ち切られた
医師がまだ治療が必要と判断しているにもかかわらず治療費が打ち切られた場合、労災保険に切り替えることで治療を継続できる可能性があります。
労災保険は労働者保護を目的としており、主治医が必要性を認めている限り、療養補償給付は比較的打ち切られにくいです。これにより、被害者は安心して治療に専念できます。
加害者が無保険である
加害者が任意保険に加入していない「無保険」の状態だと、自賠責保険からの補償しか受けられず、その上限額(交通事故によるけがの場合120万円)を超えた損害は加害者本人に直接請求するしかありません。
加害者に支払い能力がなければ、事実上、十分な賠償を受けられないリスクがあります。
このような場合でも、労災保険を使えば治療や休業に対する補償を受けることができます。
加害者が不明である
ひき逃げ事故などで加害者が特定できない場合、損害賠償を請求する相手がいないため、自賠責保険や任意保険からの補償は受けられません。
このようなひき逃げなどのケースでも、業務災害や通勤災害の要件を満たしていれば、労災保険からの給付を受けることができます。
労災保険の手続きの流れ
労災保険を申請する際の一般的な流れは次の通りです。
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会社への報告と書類の準備
労災事故が発生したことを速やかに勤務先の会社に報告します。その後、給付の種類に応じた請求書を用意しましょう。
請求書は、労働基準監督署で入手するか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることも可能です。
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請求書の作成
請求書に、氏名、住所などの基本情報、災害の発生状況などを具体的に記入します。
請求書は、請求する給付の種別によって異なります。医師の証明欄があったり、障害補償給付の請求には医師の診断書の添付が必要となったりします。
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事業主の証明
作成した請求書を会社に提出し、災害の発生日時や原因などについて、事実と相違ないことを証明する署名・捺印(事業主証明)をもらいます。
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労働基準監督署への提出
必要事項を記入し、事業主の証明を受けた請求書を、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。請求書の提出は郵送でも可能です。
よくあるご質問
ここでは、交通事故における労災保険の利用についてよくあるご質問にお答えします。
自らの過失がどのくらいの場合、労災保険を使ったほうがよいですか?
明確な基準はありませんが、経験上、ご自身の過失割合が2割から3割以上になるようなケースでは、過失相殺の影響が大きくなるため、労災保険の利用を積極的に検討する価値があるでしょう。
ただし、「過失」の判断は法的な評価を伴うため、ご自身で判断せず、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
労災事故の場合、健康保険は使えますか?
労災事故の場合、健康保険は使えません。
業務災害や通勤災害といった労災事故によるけがや病気の治療には、健康保険を利用することはできません。労災保険と健康保険は、根拠となる法律も目的も異なる別の制度です。
労災事故の場合は、労災保険を利用して治療を受けてください。
労災保険を使った場合、治療費の自己負担はありますか?
原則として治療費の自己負担はありません。
労災保険の療養補償給付を利用し、労災指定病院で治療を受ける限り、窓口で治療費を支払う必要はありません。もし指定外の病院で治療を受け、一時的に費用を立て替えた場合でも、後からその費用を請求することができます。
なお、差額ベッド代など、労災の支給対象外となる治療費も一部あります。
労災保険を使っても慰謝料はもらえますか?
労災保険の給付項目に「慰謝料」は含まれていません。
労災保険は、あくまで治療費や休業による減収といった経済的な損害を補填するための制度です。
事故によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、労災保険とは別に、加害者やその保険会社に対して請求する必要があります。
労災保険の利用に会社が協力してくれない場合、どうすればよいですか?
会社が事業主証明を拒否するなど、手続きに協力してくれない場合でも、労災申請を諦める必要はありません。
その場合は、労働基準監督署に相談し、会社が協力してくれない旨を伝えて請求書を提出することができます。また、会社との対応にお困りの場合は、弁護士に相談することも有効な解決策です。
会社に黙って車通勤中に事故にあいました。労災は使えますか?
会社に黙って車通勤中の事故でも、原則として使えることが多いでしょう。
ただし、会社に届け出た交通手段と異なる方法で通勤していた場合、労働基準監督署はその経路や方法が合理的かどうかを詳細に確認します。
交通事故の労災保険の後遺障害認定はどのような手続きですか?
労災保険の後遺障害の認定手続きは労働基準監督署が行います。不服があるときは、審査請求、再審査請求、行政訴訟が可能です。
交通事故の労災保険の時効は何年ですか?
2年または5年です。期限を過ぎると請求できません。早めに請求しましょう。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
通勤中や業務中の交通事故では、労災保険を利用することで、治療費の心配をせずに治療に専念できたり、休業中の生活保障が手厚くなったりと、多くのメリットが期待できます。
しかし、加害者側の保険会社との関係をどうするか、どのタイミングで申請すればよいかなど、判断に迷う場面も少なくありません。
労災保険を使うべきか、手続きの進め方がわからない、会社が協力してくれないなど、交通事故と労災に関するお悩みは、一人で抱え込まずによつば総合法律事務所までご相談ください。
専門家として、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案し、複雑な手続きや交渉をサポートします。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博













