高次脳機能障害患者向けの福祉サービス

最終更新日:2026年06月02日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q高次脳機能障害患者向けの福祉サービスにはどのようなものがありますか?

主なものとして、次の3つが挙げられます。

  1. 障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス
  2. 介護保険法に基づく介護サービス
  3. 障害者手帳制度による支援

これらは、本人の状態、年齢、世帯の状況に合わせて組み合わせて利用することができます。

本記事では、それぞれのサービスの内容と、交通事故被害者として知っておくべき損害賠償との関係について、順を追って解説します。

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高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、交通事故や病気によって脳に損傷を受けたことで、記憶や注意、計画的な行動、感情のコントロールといった「高次の脳機能」が低下する障害です。

医学的には「器質性精神障害」(脳の組織そのものに生じた損傷による精神障害)として位置づけられています。

外見からはわかりにくい障害であるため、周囲に理解されにくく、本人・家族ともに孤立しやすいという難しさがあります。

主な症状は次のとおりです。

症状の種類 具体的な症状
認知障害 新しいことを覚えられない(記憶障害)、複数の作業を同時にこなせない(遂行機能障害)、注意が散漫になる(注意障害)など
行動障害 状況に応じた適切な行動がとれない、社会的ルールを守れないなど
人格変化 感情の起伏が激しくなる、怒りっぽくなる、やる気が低下するなど

さらに、脳の損傷部位によっては、身体の麻痺や歩行障害を伴うこともあります。症状は複数が重なって現れることも多く、個人差が大きい点が特徴です。

福祉サービスの種類

高次脳機能障害のある方が利用できる福祉サービスは、大きく3つに分けられます。原因疾患や年齢、身体・精神の状態によって利用できるサービスが異なるため、まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談するところから始めましょう。

障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス

障害者総合支援法は、障害のある方が地域で自立した生活を送れるよう、必要なサービスを総合的に提供することを目的とした法律です。高次脳機能障害のある方も、この法律に基づくサービスの対象となります。

サービスは大きく、①介護給付、②訓練等給付、③地域生活支援事業の3つに分かれます。

① 介護給付(日常生活の介護・支援)

介護給付は日常生活に必要な介護を提供するサービスです。主なものは次のとおりです。

  • 居宅介護(ホームヘルプ):自宅での入浴・食事・排泄などの介助
  • 重度訪問介護:重度の障害のある方への長時間の訪問支援
  • 生活介護:日中の活動支援や創作的・生産的な活動の機会の提供
  • 短期入所(ショートステイ):介護者が病気・旅行などで一時的に離れる際の施設での一時受け入れ

② 訓練等給付(自立・就労に向けた訓練)

訓練等給付は社会復帰や就労を目指すための訓練・支援を提供するサービスです。

  • 自立訓練:日常生活に必要な動作や認知機能のリハビリ
  • 就労移行支援:一般就労を目指す方への職業訓練・就職活動のサポート(利用期間は原則2年)
  • 就労継続支援(A型・B型):一般就労が困難な方が、作業所などで働きながら能力を伸ばすための支援

③ 地域生活支援事業

地域生活支援事業は、各自治体が地域の実情に合わせて独自に実施する事業です。

外出時の付き添い(移動支援)や、コミュニケーションの補助(意思疎通支援)などが含まれます。サービスの種類や内容は自治体によって異なります。

障害福祉サービスを利用するには

  1. 市区町村への支給申請と決定

    障害福祉サービスを利用するためには、まず市区町村に支給申請を行う必要があります。

    申請を受けた市区町村は、本人の心身の状態や生活状況などについて聞き取り調査を行い、必要に応じて医師の意見書なども踏まえて審査を行います。介護給付を利用する場合には、この過程で支援の必要度を示す「障害支援区分(区分1~6)」の認定が行われます。

    その後、相談支援専門員などが「サービス等利用計画案」を作成し、市区町村がその内容を踏まえてサービスの種類や利用量を決定します。

    支給決定が行われると受給者証が交付され、事業者と契約することで実際のサービス利用が可能になります。

  2. 障害福祉サービスの自己負担額

    障害福祉サービスの利用にあたっては、原則としてサービス費用の1割が自己負担となります。ただし、実際の負担額には世帯の所得に応じた月額上限が設けられており、生活保護世帯や住民税非課税世帯などでは自己負担が生じない場合もあります。

    このように、自己負担額は世帯の収入状況に応じて調整される仕組みになっています。

  3. 障害者手帳との関係

    障害福祉サービスの支給申請においては、必ずしも障害者手帳の所持が必要とは限りません。身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を持っている場合はそれらを利用できますが、手帳がないときでも、医師の診断書などにより障害の状態が確認できれば申請が可能です。

    精神障害の場合には、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療受給者証(精神通院医療)を利用するケースも多く、これらの資料や医師の診断書などを基に、市区町村がサービスの支給の可否を判断します。

介護保険法による介護サービス

介護保険法に基づく介護サービスは、主に高齢者を対象とした制度ですが、次の方も対象になります。

  • 65歳以上で、支援や介護が必要と認定された方
  • 40歳以上65歳未満で、脳血管疾患など「特定疾病」が原因で要支援・要介護状態になった方

高次脳機能障害の原因が脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患である場合には、40代・50代であっても介護保険サービスを利用できる可能性があります。

利用できるサービスの例は次のとおりです。

  • 訪問介護(ホームヘルプ):自宅での身体介護や生活援助
  • 通所介護(デイサービス):日中に施設に通い、リハビリや入浴などを受けるサービス
  • 短期入所生活介護(ショートステイ):介護施設への一時的な入所
  • 福祉用具貸与:車いすなど、必要な福祉用具の貸与を受けるサービス

利用を希望する場合は、まずお住まいの市区町村の窓口または地域包括支援センターに相談し、「要介護認定」の申請を行う必要があります。

障害者手帳制度に基づく福祉サービス

障害者手帳を取得することで、生活のさまざまな場面でサポートを受けることができます。高次脳機能障害のある方が対象となる手帳は、主に次の3種類です。

  1. 精神障害者保健福祉手帳
  2. 身体障害者手帳
  3. 療育手帳

① 精神障害者保健福祉手帳

高次脳機能障害は「器質性精神障害」として、精神障害者保健福祉手帳の申請対象となります。日常生活や社会生活に支障があると医師が診断すれば、精神科医以外(リハビリテーション科医・神経内科医・脳神経外科医など)が作成した診断書でも申請できます。

申請の際には、初診日から6か月以上経過した後に作成された診断書が必要で、診断書作成日から3か月以内に申請する必要があります。

等級は1級から3級に分かれており、障害の程度が重いほど上位の等級が認定されます。等級によって受けられるサービスや割引の範囲が変わるため、主治医とよく相談しながら申請することをおすすめします。

② 身体障害者手帳

手足の麻痺や言語障害など、身体的な障害がある場合には、身体障害者手帳の対象にもなります。また、身体・精神の双方に症状がある場合は、2種類の手帳を同時に申請することも可能です。

等級は1級から7級まであり、障害の種類と程度によって認定されます。高次脳機能障害の場合、「平衡機能障害」「音声・言語またはそしゃく機能の障害」「肢体不自由」などに該当することがあります。

③ 療育手帳

18歳未満で受傷・発症し、知的障害があると判定された場合には、療育手帳(自治体によっては「愛の手帳」「みどりの手帳」などとも呼ばれます)の申請対象となります。

交通事故で未成年のうちに高次脳機能障害を負った方は、対象となる可能性があります。判定は各自治体が指定する機関で行われます。

手帳により受けられるサービス

手帳を持つことで受けられる主なサービスは、次のとおりです。

  • 電車・バス・タクシーなどの交通機関の運賃割引
  • 各種税金(所得税・住民税など)の控除・減免
  • 公共施設の利用料減免
  • 高速道路の利用料割引
  • NHKの放送受信料の免除
  • 障害者法定雇用率への算入による就労支援
  • 障害福祉サービスの利用手続きの円滑化

手帳の交付は市区町村の窓口で申請できます。千葉県にお住まいの方は千葉県の障害者手帳のご案内ページもご参照ください。

その他の支援制度

障害福祉サービスや手帳制度と並行して活用できる制度として、次の2つも押さえておきましょう。

自立支援医療(精神通院医療)

高次脳機能障害のために通院やリハビリを継続している方は、「自立支援医療(精神通院医療)」の利用も検討に値します。

これは、精神疾患の治療・リハビリのために継続的な通院を必要とする方の医療費自己負担を軽減する制度で、認定を受けると通院医療費の自己負担が原則1割になります。

自立支援医療受給者証の有効期間は1年間のため、毎年更新手続きが必要です。お住まいの市区町村の窓口にご相談ください。

障害年金

障害者手帳とは別の制度として、「障害年金」があります。障害年金は、病気やけがによって生活や仕事が著しく制限されるようになった場合に、年齢を問わず受け取ることができる公的年金です(国民年金加入者は障害基礎年金、厚生年金加入者は障害厚生年金)。

高次脳機能障害の場合、原因となった病気・けがの初診日から1年6か月が経過した時点から申請できます。詳しくは日本年金機構または最寄りの年金事務所にご相談ください。

なお、障害年金を受給した場合は、その金額分が損害賠償額から差し引かれる(損益相殺)ことになります。二重取りはできない仕組みですので注意が必要です。

介護料(自動車事故対策機構)

自動車事故対策機構は、安全な自動車の普及・促進をはかるために交通事故発生防止や交通事故被害者の救済を行う独立行政法人です。

自賠責の等級において1級ないし2級が認定されている人が介護料の対象となり、介護に要した費用として自己負担した額毎月支給されます。ただし、介護保険法の規定による介護給付を受けた場合などは支給の対象外となります。

介護料を受給しても、その金額分が損害賠償額から差し引かれることはありません。

よくあるご質問

ここでは、高次脳機能障害患者向けの福祉サービスについて、よくいただくご質問にお答えします。

高次脳機能障害でも障害者手帳はもらえる?

はい、取得できる可能性があります。

高次脳機能障害は「器質性精神障害」として位置づけられているため、精神障害者保健福祉手帳の申請対象になります。また、手足の麻痺など身体的な障害がある場合には身体障害者手帳も申請できます。複数の手帳を同時に申請・取得することも可能です。

手帳の交付は、医師の診断書をもとに各自治体が審査を行い、認定基準に該当するかどうかを判断します。主治医に相談の上、まずはお住まいの市区町村の福祉担当窓口へご相談ください。

障害福祉サービスと介護保険のどちらを優先して使う?

原則として障害福祉サービスよりも介護保険サービスが優先されますが、年齢や原因疾患によって利用できる制度が異なります。

介護サービス利用方法(交通事故による高次脳機能障害)

① 原因が脳血管疾患で、40歳未満の場合

脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患が原因であっても、40歳未満の方は介護保険の被保険者ではないため、介護保険サービスは利用できません。

この場合は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスのみが対象となります。市区町村に「障害支援区分」の認定を申請したうえで、介護給付・訓練等給付などを利用します。

② 原因が脳血管疾患で、40歳以上の場合

脳血管疾患は介護保険法上の「特定疾病」に該当するため、40歳以上であれば介護保険の被保険者として、要介護認定を受けることで介護保険サービスを利用できます。

この場合、介護保険サービスと障害福祉サービスの両方が利用できる立場になりますが、原則として介護保険サービスが優先されます。ただし、介護保険にはない独自のサービス(自立訓練・就労移行支援など)については、介護保険とは別に障害福祉サービスを使うことが可能です。

つまり「介護保険で賄えない部分を障害福祉サービスで補う」という組み合わせ利用が認められています。

③ 原因が外傷性脳損傷・低酸素脳症・脳炎などで、65歳未満の場合

交通事故による外傷性脳損傷(頭部への衝撃による脳損傷)や、低酸素脳症・脳炎などが原因の場合、これらは介護保険法上の「特定疾病」には該当しません。そのため、65歳未満であれば介護保険サービスは利用できません。

この場合も、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスのみが対象です。交通事故による高次脳機能障害の多くはこのパターンに当てはまります。

④ 原因を問わず、65歳以上の場合

65歳以上であれば、原因疾患にかかわらず介護保険の第1号被保険者として要介護認定を受けることができます。この場合も、原則として介護保険サービスが優先されます。

なお、自立訓練や就労移行支援など介護保険に相当するサービスがないものについては、65歳以上であっても障害福祉サービスを利用することが可能です。

なお、どの制度が利用できるかは個別の状況によって変わるため、詳細はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にご相談ください。

障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスを受けると、もらえる損害賠償額は減る?

障害福祉サービスを受けても、原則として損害賠償額は減りません。

損害賠償においては「損益相殺」という考え方があります。損益相殺とは、被害者が損害と同一の原因によって利益を得た場合に、公平の観点からその分を賠償額から差し引くことをいいます。

障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(居宅介護・訓練等給付など)は、付添看護や日常生活支援といった損害を補うものであり、事故による賠償とは性質が異なることが多いです。したがって、賠償額から控除されないケースが多いのです。

とはいえ、損益相殺の対象範囲や損害項目の判断は専門的な法的知識を要します。適切な賠償を確保するためにも、弁護士にご相談ください。

介護保険法に基づく介護サービスを受けると、もらえる損害賠償額は減る?

介護保険サービスと損害賠償の関係は、「すでに利用したサービス(既払分)」と「将来利用する見込みのサービス(将来分)」で取り扱いが異なります。

すでに利用したサービス(既払分):賠償額から差し引かれる

介護保険法の規定により、市区町村は負担したサービス費用の限度で、被害者が加害者に対して持つ損害賠償請求権を取得します。

つまり、すでに利用した分については市区町村が加害者に直接請求する仕組みになっており、被害者本人の損害賠償額からその分が差し引かれます。

将来利用する見込みのサービス(将来分):原則として差し引かれない

将来の介護費用を算定する際に、将来受けることが見込まれる介護保険サービスの費用をあらかじめ差し引くべきかという点については、裁判実務では原則として控除しない取り扱いが一般的です。

理由は、介護保険制度では6か月ごとに要介護認定を受け直す必要があり、将来も同様のサービスを受け続けられるかどうかが不確定なためです。裁判例によれば、損益相殺的な調整が認められるには将来の利用が確実であることが必要とされており、介護保険の将来分はこの要件を満たさないと判断されています。

車椅子や介護用ベッドなどの介護用品についても、将来分の控除を否定する裁判例が多く存在します。

もっとも、将来介護費の算定方法や損害項目の判断は高度な法的専門知識を要します。適切な賠償を確保するためにも、早期に弁護士にご相談ください。

障害者手帳制度に基づく福祉サービスを受けると、もらえる損害賠償額は減る?

障害者手帳制度に基づく福祉サービスを受けている場合でも、それだけを理由として交通事故の損害賠償額は減額されません。

公的な障害者福祉サービスは一般に、前述した「損益相殺」の対象とはならないと考えられています。

その理由は、障害者福祉制度による給付は、加害者の損害賠償義務を肩代わりするためのものではなく、障害者の生活保障や社会参加の支援を目的として設けられた社会保障制度だからです。制度の趣旨が根本的に異なるため、賠償額から差し引く根拠がないと考えられています。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、本人も自分の変化に気づきにくいという特性があります。記憶障害や感情の変化によって日常生活・仕事・人間関係のすべてに支障が生じ、患者本人だけでなく家族にとっても大きな負担となります。

こうした状況を支えるために、①障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス、②介護保険法による介護サービス、③障害者手帳制度に基づく福祉サービスという3つの制度が用意されています。

さらに、自立支援医療(精神通院医療)や障害年金といった制度も、状況によっては活用できる可能性があります。

これらを組み合わせて活用することで、日常生活の安定や社会復帰への道筋を開くことができます。まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談し、利用できるサービスを確認しましょう。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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