加害者が無保険の場合の対処法
最終更新日:2026年03月13日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q加害者が無保険でした。どうすればよいですか?
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加害者が無保険でも、補償を受け取れる可能性はあります。具体的には、次のような対処法があります。
- 加害者本人への直接請求
- 加害者の雇用主や車両所有者への請求
- ご自身の保険の利用(人身傷害保険、無保険車傷害保険、車両保険)
- 労災保険の利用(業務中・通勤中の事故の場合)
- 政府保障事業の利用(加害者が自賠責保険にも未加入の場合)
どの方法が最適かは、事故の状況や加害者が加入している保険によって異なります。

目次

自賠責保険と任意保険
自動車保険には「自賠責保険(強制保険)」と「任意保険」の2種類があります。加害者が「無保険」といっても、どちらの保険に入っていないかによって対応が変わります。
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自賠責保険(強制保険)
すべての車やバイクに加入が義務付けられています。
【補償の範囲】- 対人賠償(他人を死傷させた場合)のみ
- 物損事故は対象外
- 傷害:120万円
- 死亡:3000万円
- 後遺障害:後遺障害等級に応じて75万円~4000万円
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任意保険
加入は任意ですが、自賠責保険ではカバーしきれない損害を補います。任意保険の加入率は7割程度といわれており、約3割のドライバーが任意保険に未加入です。
【補償の範囲】- 対人賠償の上乗せ(無制限も可能)
- 対物賠償(他人の車や物を壊した場合)
- 契約内容によって異なります。
けがのない事故で加害者が任意保険に入っていない場合の対処法
けが人がおらず、車やガードレールなどの物だけが壊れた「物損事故」の場合、対人賠償を目的とする自賠責保険は利用できません。
加害者が対物賠償をカバーする任意保険に加入していない場合は、次の方法で損害の補償を求めることになります。
① 加害者への直接請求
交通事故の加害者は、被害者に対して損害を賠償する法的責任を負っています。
そのため、まずは加害者本人に対して車の修理費などを直接請求するのが基本的な対応です。
加害者と話し合いで示談が成立すれば、その内容に基づいて賠償金を受け取ることができます。話し合いで解決しない場合は、民事調停や訴訟といった法的な手続きを検討することになります。
ただし、加害者に支払い能力がない場合、判決を得ても実際に賠償金を回収することは困難なことが多いです。
② (仕事中の事故の場合)加害者の職場への請求
加害者が業務中に起こした事故であれば、その雇用主(職場)に対しても損害賠償を請求できる可能性があります。会社は従業員が業務中に起こした事故について「使用者責任」を負うためです。
職場への請求の場合、個人よりも会社の方が支払い能力が高いことが多いため、賠償金を回収できる可能性が高まります。
③ 自らの車両保険への請求
ご自身の自動車保険に「車両保険」が付帯している場合は、これを利用してご自身の車の修理費の支払いを受けることができます。
車両保険は迅速に保険金を受け取れるというメリットがある一方で、車両保険を利用すると翌年度以降の保険料が上がる可能性がある点には、注意が必要です。
けがのある事故で加害者が任意保険に入っていない場合の対処法
加害者が任意保険に未加入でも、自賠責保険には加入しているケースが多いです。このような場合、加害者の自賠責保険に対して治療費・休業損害・慰謝料などを請求することができます。
ただし、自賠責保険には支払限度額(傷害の場合120万円)があります。損害がこれを超える場合は、別途以下の方法で請求していくことになります。
① 加害者への直接請求
物損事故の場合と同様に、加害者本人に対して損害賠償を直接請求できます。
被害者には、不法行為(民法709条)や運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)に基づいて、自賠責保険で補償されない部分の賠償を求める権利があります。
② (仕事中の事故の場合)加害者の職場への請求
加害者が業務中に起こした事故であれば、その雇用主に対しても損害賠償を請求できる可能性があります。物損事故の場合と同様、使用者責任に基づく請求が可能です。
③ 車両所有者(運行供用者)への請求
事故を起こした運転者だけでなく、その車の所有者などの「運行供用者」に対しても損害賠償を請求できる場合があります。
運行供用者とは、その自動車の運行を支配し、運行によって利益を得る立場にある人のことで、通常は車の所有者がこれにあたります。
したがって、運転者と車の所有者が異なる場合は、所有者に対しても請求できる可能性があります。
④ (業務中や通勤中の事故の場合)労災保険への請求
被害者自身が仕事中や通勤の途中で事故に遭った場合は、勤務先が加入している「労災保険(労働者災害補償保険)」を利用できます。
労災保険は、業務上または通勤による労働者の負傷などに対して保険給付を行う制度です。業務災害とは営業先への移動中など仕事中に起きた事故などのことで、通勤災害とは自宅と職場の間の合理的な経路での通勤中に起きた事故などのことです。
労災保険の給付を受けるには、所轄の労働基準監督署に必要な届出をする必要があります。手続きについて不明な点がある場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
⑤ 人身傷害保険への請求
ご自身の自動車保険に「人身傷害保険」が付帯している場合、この保険を利用することができます。
人身傷害保険は、ご自身や同乗者のけがによる損害(治療費、休業損害、慰謝料など)を、ご自身の過失割合にかかわらず、契約した保険金額を上限として補償してくれる保険です。
加害者が任意保険に未加入の場合、人身傷害保険を利用することで、早期に支払いを受けられます。治療費の立て替えや加害者との交渉といった負担を避けられる点が大きなメリットです。
ただし、支払基準は保険約款で定められており、慰謝料などは裁判所の基準と比べて低額になることが多いです。
⑥ (後遺障害がある場合)無保険車傷害保険への請求
ご自身の自動車保険に「無保険車傷害保険」が付帯している場合、利用できる可能性があります。
無保険車傷害保険とは、加害者が任意保険に加入していないなどの理由により十分な損害賠償を受けられない場合に、被害者自身が契約している保険会社から保険金が支払われる保険(特約)です。
加害者が任意保険に未加入の場合でも、自賠責保険の支払限度額を超える損害について、この保険を利用することで補償を受けることができます。
ただし、補償の対象となるのは、交通事故によって死亡した場合、または後遺障害が残った場合の損害に限られます。後遺障害を伴わない、けがのみの損害については補償の対象外となる点に注意が必要です。
支払われる保険金の額は、加害者が法律上支払うべき損害賠償額をもとに算定することが多いです。ただし、実際に支払われるのは、その損害額から加害車両の自賠責保険などによってすでに支払われた金額を差し引いた不足分となります。
けがのある事故で加害者が自賠責保険に入っていない場合の対処法
加害者が、加入が義務付けられている自賠責保険にすら入っていない「完全無保険車」であった場合、被害者救済のための最後の砦として「政府保障事業」を利用することができます。
政府保障事業とは、無保険車による事故やひき逃げ事故で自賠責保険からの救済が受けられない被害者を救済するため、政府(国土交通省)が損害を補償する制度です。
この制度を利用することで、被害者は加害者に代わって政府から保障金を受け取ることができます。ただし、この制度を利用する際には、いくつかの注意点があります。
まず、政府保障事業の利用はあくまでも「最終手段」であるということです。
健康保険や労災保険など、他の社会保険からの給付がある場合には、そちらが優先されます。また、加害者に支払い能力がある場合は、加害者本人からの賠償が優先され、保障金は支払われません。
保障される金額は、自賠責保険の支払基準と同じです。傷害の場合は120万円、死亡の場合は3000万円、後遺障害の場合は後遺障害等級に応じて75万円から4000万円までとなります。
請求手続きは被害者本人のみが行うことができ、損害保険会社(組合)の窓口で受け付けています。手続きから支払いまで相当な時間がかかる点にも注意が必要です。
よくあるご質問
ここでは、加害者が無保険の場合の交通事故について、よくいただくご質問にお答えします。
ひき逃げで相手がみつかりません。どうすればよいですか?
ひき逃げのように加害者が不明な場合も、被害者救済の対象となります。
この場合、「政府保障事業」に請求することで、自賠責保険とほぼ同じ内容の補償を受けることができます。
また、ご自身が加入している人身傷害保険や無保険車傷害保険、車両保険なども利用できる場合があります。業務中や通勤中の事故であれば労災保険も利用できます。
警察への届出を行い、交通事故証明書を取得しておくことが重要です。
「お金がない」と加害者が言っています。どうすればよいですか?
加害者に支払い能力(資力)がない場合、加害者本人からの賠償を期待するのは難しいかもしれません。このような場合でも、被害者の方が利用できる制度があります。
まず、ご自身が加入している保険が使えないか確認しましょう。人身傷害保険や無保険車傷害保険などが該当します。業務中や通勤中の事故であれば、労災保険が利用できます。加害者が自賠責保険に未加入で、かつ資力がない場合は、政府保障事業による救済を受けられる可能性があります。
また、治療費については健康保険を利用することで、窓口負担を3割に抑え、自賠責保険の限度額内で他の損害項目を確保できるという効果もあります。
加害者相手に裁判をすれば賠償金が支払われますか?
裁判を起こして勝訴判決を得れば、法的には加害者に対して賠償金を支払うよう強制することができます。しかし、加害者本人に支払い能力(資力)がなければ、たとえ判決が出ても実際に賠償金を回収することは困難な場合です。
加害者の資力が乏しい場合は、健康保険や労災保険を使用して持ち出しを少なくし、裁判を起こす前に、ご自身の任意保険を利用して損害を回復できないかを優先的に検討する方が現実的です。
加害者の資力調査を行い、回収可能性を見極めることが重要です。また、使用者や運行供用者など他に賠償責任を負う人がいないかも確認しましょう。
自分の健康保険や労災保険、任意保険を利用したら加害者は賠償責任を免れますか?
ご自身の健康保険や労災保険、人身傷害保険や無保険車障害保険を利用した場合、原則として保険給付を行った国・任意保険会社が、加害者に対して給付分の請求を行います。
したがって、ご自身の保険を使ったとしても、加害者が責任を免れることにはなりません。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
交通事故の加害者が無保険であっても、被害者が損害の補償を受けるための方法は複数存在します。
加害者本人への請求のほか、加害者の雇用主や車両所有者への請求、ご自身の保険(人身傷害保険、無保険車傷害保険、車両保険)、労災保険、健康保険、そして最終手段としての政府保障事業など、さまざまな選択肢を検討することができます。
しかし、どの制度をどのような順序で利用するのが最も適切なのか、損害額の計算はどうするのか、保険会社との交渉はどう進めるべきかなど、専門的な知識がないと判断が難しい場面も少なくありません。
特に、重傷事故や死亡事故の場合、賠償額は数千万円から1億円を超えることも珍しくなく、適切な対応が求められます。
加害者が無保険で対応に困ったら、一人で悩まず、交通事故問題に詳しい弁護士に早めに相談することをおすすめします。弁護士は、あなたの状況に合わせて最善の解決策を提案し、複雑な手続きをサポートできます。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博













