加害者からの接触の注意点

最終更新日:2025年06月19日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q交通事故の加害者からの接触がありましたが、どうすればよいですか?

加害者側とのやりとり次第では、損害賠償額が減ったり、加害者の刑が軽くなったりすることがあります。接触する際は慎重に対応しましょう。

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加害者が接触してくる場面

交通事故の被害者になると、事故後しばらくしてから加害者側から何らかの接触を受けることがあります。接触の目的はさまざまですが、対応を誤ると不利になる恐れがあるため、冷静かつ慎重に行動することが大切です。

ここでは、加害者側からの接触がどのような形で行われるのか、主な3つのパターンに分けて解説します。

① 事故直後の加害者本人との接触

交通事故が発生すると、多くの場合、その直後に加害者本人と直接やりとりすることになります。この場面では、加害者から謝罪の言葉をかけられたり、連絡先の交換を求められたりすることがあります。中には、「病院代はこちらで支払います」などと、賠償の意思を口頭で伝えてくる加害者もいます。

しかし、この段階で安易に「大したことないです」「自分にも責任があります」といった発言をしてしまうと、後の損害賠償請求に不利に働く可能性があります。発言内容が録音・メモされていると、裁判や交渉で「過失割合」や「けがの程度」に関する主張と矛盾を指摘されかねません。

事故直後は混乱しやすいため、感情に流されず、「やりとりは保険会社を通してください」と伝える程度がよいでしょう。

② 加害者の保険会社からの接触

事故後数日以内に、加害者側の加入する自動車保険会社の担当者から連絡が入ることがあります。これは、加害者が任意保険に加入している場合に、損害賠償に関する対応を保険会社が代行するからです。

保険会社の担当者は、被害者から事故状況やけがの状態を詳しく聞き取り、損害の評価や賠償額の算定を進めます。ここで注意したいのは、保険会社はあくまで加害者側の代理人として行動しているという点です。被害者の立場に立って交渉してくれるわけではありません。

また、言葉巧みに示談を急かされたり、早期の治療打ち切りを勧められたりするケースもあります。納得できない内容はその場で返事をせず、よく検討してから回答するのが安心です。

③ 加害者が刑事事件の弁護のために依頼した弁護士からの接触

加害者が刑事責任等に不安を感じたり、刑罰を軽くするために弁護士を依頼すると、その加害者側の弁護士から、被害者に対して直接連絡が来ることがあります。通常は検察官から連絡先を入手して、連絡が来ます。目的は主に次のいずれかです。

  • 刑事事件の量刑軽減のために謝罪や被害弁償を申し入れる
  • 民事上の示談交渉などを持ちかける

こうした連絡は文面や態度が丁寧に見えることもありますが、あくまでも加害者の利益を守る立場で行動している点に注意が必要です。被害者のためではなく、加害者の処分を軽くするための活動の一環であることを理解しておきましょう。

仮に、示談金の提示などが書面で届いたとしても、その金額が適正かどうかを判断するのは簡単ではありません。内容に軽々しく同意してしまうと、後から不利な証拠として利用される可能性もあります。

加害者側の弁護士からの連絡を受けた際は、いったんその場での回答を控え、被害者自身の立場に立って対応してくれる、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。

民事事件で損害賠償額が減る可能性

交通事故の被害者は、けがや通院、後遺障害などについて加害者側に損害賠償を請求することができます。しかし、加害者とのやりとりの中でうっかり誤った情報を伝えてしまうと、その後の賠償額が減額されてしまう恐れがあります。

ここでは、民事上の損害賠償に悪影響を及ぼす代表的なケースを紹介します。

① 事実と異なる事故状況を伝えてしまったとき

事故直後や保険会社とのやりとりで、実際とは異なる事故状況を話してしまうと、被害者の落ち度(=過失)が大きいと判断され、損害賠償額が減ってしまう恐れがあります。

たとえば、本当はどの位の速度で走っていたか明確な記憶がないのに、混乱して速度超過を認めてしまうと、著しい過失があると判断され、被害者の過失割合が重く見られる可能性があります。

「過失割合」と「過失相殺」

過失割合とは、交通事故の原因に対して、加害者と被害者のどちらにどの程度の責任があるかを数値(%)で表したものです。たとえば、加害者80%・被害者20%と判断されると、「過失割合は8:2」という評価になります。

過失相殺とは、この過失割合に基づいて、被害者に支払われる損害賠償額を減額することをいいます。たとえば、本来100万円の損害賠償が認められる場合でも、被害者の過失が20%とされると、80万円しか受け取れなくなるという仕組みです。

加害者側の話に無理に合わせたり、自分の責任を強調しすぎたりすると、実際よりも過失割合が高く評価されてしまい、請求できる損害賠償が大きく減ってしまうことがあります。

事故状況について聞かれた際には、あいまいな発言は避け、記録・写真・実況見分調書などの客観的な証拠に基づいて、冷静に事実を伝えることが大切です。

記憶があいまいな場合は、無理に答えようとせず、「確認してからお答えします」と伝えるのがよいでしょう。

② 事実と異なるけがの状況を伝えてしまったとき

加害者や保険会社とのやりとりで、けがの状態について「そこまで痛くありません」「すぐ治ると思います」「もうよくなりました」といった軽い表現をしてしまうと、のちに重い後遺障害が残った場合でも、その説明との矛盾を指摘されて適切な賠償を受けられなくなる恐れがあります。

特に注意が必要なのは、事故直後に自覚症状が軽いケースです。むち打ち症脳への影響(外傷性脳損傷など)は、時間が経ってから症状が重くなることがあり、最初の説明が「軽傷だった」とされると、因果関係を否定されるリスクが高まります。

医師の診断が出たり、症状について自信を持って伝えたりできるまでは、けがの程度について断定的な発言をしないようにしましょう。

刑事事件で刑が軽くなる可能性

交通事故で人を傷つけたり命を奪ったりしてしまった場合、加害者には刑事責任が問われます。その場合、被害者とのやりとりが刑事手続きに影響を与えることもあります。

ここでは、被害者の行動が加害者の刑事処分にどのような影響を与える可能性があるのかを、代表的な3つの場面に分けて説明します。

① 加害者とやりとりをしたとき

加害者と個人的にやりとりをして、許すような言動をすることで、「被害者は加害者に対してそれほど怒っていない」「すでに一定の理解や許しを得ている」と受け取られることがあります。

特に、加害者側が弁護士を通じて検察官や裁判所に「被害者と円満に話し合っている」と伝えると、加害者に有利な情状として評価される可能性があります。

たとえば、電話や面会で加害者から謝罪の言葉を受け入れたり、あいまいな返答をしたりすると、それが加害者の弁護活動に利用される恐れがあります。

そのため、加害者と安易に連絡を取り合うことは避け、接触があった場合は必ず日時や内容を記録しておきましょう。

② 被害弁償を受けとったとき

加害者が「お詫び」として現金や物品を差し出してくることがあります。こうした金銭は「被害弁償」と呼ばれ、たとえ示談に至っていなくても、被害者が受け取ったという事実だけで、加害者の反省が評価され、刑が軽くなることがあります。

被害弁償の申し出があった場合は、一人で判断せず、弁護士に相談することをおすすめします。

③ 示談の合意をしたとき

人身事故では、示談が成立していれば不起訴になることが多く、起訴されたとしても執行猶予がつくケースが一般的です。

加害者側の弁護士は、「前科を避けたい」「早く終わらせたい」といった理由で、被害者に早期の示談を求めてくることがあります。しかし、示談書の内容をよく確認せずに合意してしまうと、損害賠償額が不当に低くなったり、今後追加の請求ができなくなったりする恐れがあります。

さらに、加害者は示談の成立を「被害者からの許しを得た証拠」として検察に提出し、裁判などで「反省している」「被害者が納得している」と情状(=刑を軽くする事情)として主張することがあります。このような主張が認められると、不起訴や減刑といった結果につながり、加害者にとって有利に働く可能性があります。

そのため、示談を進める際には、金額や条件が妥当かどうか、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ:加害者側との対応に悩んだら弁護士に相談

交通事故の被害を受けた直後は、心身のダメージが大きく、冷静に対応するのが難しい状況です。そんな中で加害者本人やその保険会社、弁護士から連絡があると、戸惑いや不安を感じるのは当然のことです。

しかし、加害者側とのやりとり次第では、損害賠償額が減ってしまったり、加害者の刑が軽くなってしまったりする可能性があります。一つひとつの言動が、思わぬ形で自分に不利に働く恐れがあるため、慎重に行動することが大切です。

対応に迷ったときや、不安を感じたときは、一人で抱え込まずに弁護士への相談を検討してみてください。弁護士に相談することで、法律的な視点からアドバイスを受けられ、今後の対応方針がはっきりするだけでなく、加害者側とのやりとりも代理してもらえます。

  • 「相手の話にどう返事をすればいいかわからない」
  • 「この金額で示談してもいいのか判断できない」
  • 「保険会社との交渉が不安」

こうした悩みがある方は、早い段階で弁護士に話を聞いてもらうことで、安心して適切な判断ができるようになります。

よつば総合法律事務所では、交通事故の被害者からのご相談を数多くお受けしており、加害者側との接触に関するご相談にも丁寧に対応しています。不安を感じたときは、お気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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