シートベルト不着用と過失相殺

最終更新日:2026年07月31日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Qシートベルト不着用は過失相殺の対象になりますか?

シートベルト不着用は過失相殺の対象になることが多いです。シートベルトをしていなかったことでけがが重くなったと判断されると、被害者側の落ち度とみなされ、賠償金が5%から20%程度減額される傾向にあります。

ただし、シートベルトをしていなかったというだけで、必ず過失相殺されるわけではありません。シートベルトをしていてもけがの程度が変わらなかったときや、着用義務が免除されているときは、過失相殺が否定されることもあります。

過失相殺されるかどうか、過失割合が何%になるかは、事故の状況やけがの程度によって大きく変わります。保険会社に「シートベルトをしていなかったから過失がある」と指摘されても、すぐにあきらめる必要はありません。

この記事では、シートベルト不着用と過失相殺の関係について、弁護士が解説します。

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シートベルトのルール

シートベルトを着用していなかった場合、事故後の損害賠償で「被害者側にも落ち度がある」と判断され、過失相殺の対象になることがあります。

もっとも、シートベルト不着用が過失相殺につながるかを考えるには、まずシートベルトの着用義務がどこまで及ぶのかを確認しておく必要があります。

シートベルトの着用が義務づけられていることは、多くの方がご存じでしょう。とはいえ、どの席まで義務があるのか、例外はないのかを正確に把握している方は、それほど多くありません。

特に後部座席の扱いは、平成20年に着用義務の扱いが大きく変わりました。後部座席の不着用も、事故後の過失相殺で問題になることがあります。

そこで、過失相殺の話に入る前に、まずは現在のシートベルトのルールを整理しておきましょう。

シートベルトの着用義務

自動車を運転するときは、シートベルトを着用しなければなりません(道路交通法71条の3)。

しかも、この義務が及ぶのは運転者本人だけではありません。運転者は、同乗者にもシートベルトを着用させる義務を負っています。シートベルトをしていない人を乗せたまま走ること自体が、法律違反となるのです。

違反したときの扱いは、座席の位置と道路の種類によって変わります。シートベルト着用義務違反の違反点数は、次のとおりです。

着用していなかった席 一般道路 高速道路
運転席・助手席 違反点数1点 違反点数1点
後部座席 点数なし(口頭注意のみ) 違反点数1点

違反点数は、いずれの場合も運転者に加算されます。なお、どの座席であっても、反則金や罰金は科されません。

後部座席の着用義務

現在は、後部座席にも着用義務があります。これは高速道路に限った話ではなく、一般道を走るときも同じです。

後部座席の着用は、かつては「できるだけ守るべきだが罰則はない」という努力義務にとどまっていました。ところが平成19年の法改正で正式な義務へと格上げされ、平成20年6月から施行されました。

それでも、「後部座席の義務は高速道路だけ」と思い込んでいる方は、今なお少なくありません。原因はおそらく、違反点数の有無にあります。後部座席の不着用で違反点数がつくのは高速道路だけで、一般道では口頭注意にとどまるからです。

ただし、一般道で違反点数がつかないのは、あくまで取り締まり上の扱いにすぎません。一般道であっても、後部座席でシートベルトを着用する義務があることに変わりはありません。

また、違反点数や反則金がないからといって、事故後の損害賠償の場面でも問題にならないとは限りません。シートベルトを着用していなかったことでけがが重くなったと判断されると、被害者側にも一定の落ち度があるとして、受け取れる賠償額が減額される可能性があります。

そのため、「取り締まりを受けにくいこと」と「事故後の賠償で不利にならないこと」は、分けて考える必要があります。

シートベルトを着用しなくてよい場合

シートベルトは、運転席・助手席・後部座席のいずれであっても、原則として着用しなければなりません。もっとも、やむを得ない事情があるときは、例外的に着用義務が免除されます。

「やむを得ない事情」の代表例としては、①けがや障がい、あるいは②妊娠中であることにより、シートベルトの装着が療養上または健康保持上適当でないケースが挙げられます。

このほか、座高が著しく高い、または低い、著しく肥満しているなど、体格の都合で正しく装着できないケースも含まれます。

さらに、①自動車を後退させるとき(運転席のみ免除)、②乗車定員の範囲内でシートベルトの数を超える人数の子どもを乗せるとき、③宅配便やごみ収集のように頻繁に乗り降りする業務に従事するときなども、免除の対象とされています。免除されるケースの詳細は、道路交通法施行令26条の3の2に定められています。

こうした事情にあてはまるときは、シートベルトをしていなくても違反にはなりません。そしてこの点は、のちに述べる過失相殺の場面でも、重要な意味を持つことになります。

シートベルト不着用と過失相殺

シートベルトの不着用は、交通事故の賠償額に影響することがあります。では、実際にどのような仕組みで、どの程度減額されるのでしょうか。その鍵をにぎるのが、「過失相殺」という仕組みです。

過失相殺とは、被害者側にも落ち度があったとき、その分だけ賠償金を減額する制度をいいます(民法722条2項)。

交通事故では、被害者側の不注意が、事故の発生やけがの程度に影響しているケースがあります。それにもかかわらず加害者側に全額を賠償させるのは、必ずしも公平とはいえません。そこで、被害者側の落ち度も考慮に入れたうえで、最終的に受け取れる賠償金を調整するのが過失相殺です。

そして、被害者と加害者それぞれの落ち度を数字で表したものを「過失割合」といいます。

たとえば被害者の過失割合が10%であれば、賠償金は10%減額されます。総額が1000万円のケースなら、実際に受け取れるのは900万円です。わずか数%の違いが、数十万円から数百万円もの差につながることも珍しくありません。

シートベルト不着用は過失相殺の対象になることが多い

裁判実務でも、シートベルト不着用は過失相殺の対象とされることが多くあります。シートベルトを着用していれば、けがそのものを防げたり、その程度を軽くできたりした可能性があると考えられるためです。

つまりシートベルト不着用は、事故そのものを引き起こした原因ではなくても、けがの発生や悪化に影響した事情として扱われることがあるのです。その結果、事故の主な原因が加害者側にあるケースでも、不着用を理由に賠償金の一部が減額されることがあります。

シートベルト不着用で減額される割合は、5%から20%の範囲におさまる例が一般的で、なかでも10%程度とされる事案が多く見られます。

ただし、これらの数字はあくまでも目安にすぎません。不着用が結果にどれほど影響したかによって、評価は変わってきます。

たとえば、シートベルトをしていなかったために車外へ投げ出され、重いけがを負ったようなケースでは、過失割合は高めに判断されやすくなります。実際、運転者自身がシートベルトを着用していなかった事案で、義務違反の点を重くみて20%の過失相殺を認めた例もあります。

高速道路の場合

高速道路での不着用は、一般道のときよりも厳しく評価される傾向にあります。走行スピードが速いぶん事故の衝撃も大きく、シートベルトの有無が結果を大きく左右しやすいためです。

後部座席であっても違反点数がつくのは高速道路だけであり、この点も、法律が高速道路での不着用を重くみていることの表れといえるでしょう。

したがって、高速道路でシートベルトをせずに大けがを負ったケースでは、過失割合が通常より高めに判断されることがあります。

後部座席の場合

後部座席のシートベルト不着用も、過失相殺の対象になることが多くあります。平成20年に後部座席のシートベルト着用が義務化されて以降は、後部座席についても過失相殺を認める裁判例が増えてきました。

もっとも、減額の幅は運転席や助手席の場合より小さめで、過失割合は5%または10%とされることが多いです。

ここで注意したいのは、保険会社の主張する割合が、常に適正とは限らないことです。「後部座席だから過失は関係ない」とはいえない一方で、相場より高い割合を提示されているケースも見受けられます。示談に応じる前に、提示された数字の根拠をしっかり確かめておくことが大切です。

シートベルト不着用でも過失相殺されないケース

ここまでは、シートベルト不着用によって過失相殺される場合を中心にみてきました。もっとも、シートベルトをしていなかったからといって、必ず賠償金が減るわけではありません。実務上、過失相殺が否定されるのは、主に次の3つのケースです。

シートベルト不着用とけがとの間に因果関係がない場合

1つ目は、シートベルト不着用とけがとの間に因果関係がないケースです。因果関係とは、原因と結果のつながりを指します。「シートベルトをしていなかったから、けがが重くなった」といえないのであれば、不着用は過失相殺の理由にはなりません。

わかりやすいのは、車が原形をとどめないほど大破した事故でしょう。シートベルトをしていても同じけがを負っていたといえる場合には、不着用がけがを重くしたとは評価できないからです。

実際の裁判でも、シートベルトを着用していても同程度のけがを負った可能性があるとして、過失相殺を否定した例があります。こうした判断は、事故の態様やけがの部位をもとに、医学的な観点もふまえながら行われます。

加害者側の過失が非常に大きい場合

2つ目は、加害者側の過失が非常に大きいケースです。事故の主な原因が加害者の無謀な運転にあるにもかかわらず、被害者の不着用だけを取り上げて賠償金を減らすのは公平を欠く、という考え方にもとづくものです。

たとえば、加害者が運転する車の後部座席に、シートベルトをせずに同乗していた被害者が亡くなった、という事故があります。加害者が時速144kmもの猛スピードで走行した末に、スリップして道路の側壁に衝突したという事案です。

この事故について、裁判所は過失相殺を認めませんでした。加害者の運転があまりにも無謀であったためです。また、被害者は同乗中ほとんど眠っていたうえ、運転者からシートベルトの着用を求められてもいなかったからです。これらの事情から、裁判所は、「被害者が危険の増大に関与していた」あるいは「危険を容認していた」とはいえないと判断したのです。

シートベルト着用義務が免除される場合

3つ目は、そもそも着用義務が免除されているケースです。義務がない以上、着用しなかったことを落ち度として責めることはできません。

妊娠中の方や、病気・障がいのため着用できなかった方が、その代表例です。実際に、著しい肥満のためシートベルトを着用できなかった事案で、不着用には相当な理由があるとして過失相殺を否定した裁判例もあります。

よくある質問

ここでは、シートベルト不着用と過失相殺について、よくいただくご質問にお答えします。

子どももシートベルトを着用しなければいけない?

子どもにも着用義務があります。ただし、年齢によって着けるものが変わります。

6歳未満の幼児については、シートベルトのかわりにチャイルドシートの使用が義務づけられています(道路交通法71条の3第3項)。

そして6歳以上になると、大人と同じように、運転席や助手席だけでなく後部座席も含めて、通常のシートベルトを着用させる義務があります。

もっとも、6歳以上でも体が小さく、シートベルトが首やお腹に食い込んでしまうような場合は、ベルトがかえって体を傷つけるおそれがあります。シートベルトはおおむね身長140cm以上の体格を前提に作られているため、それに満たないうちは、ジュニアシート(補助シート)を使うことが望ましいとされています。

過失相殺との関係でいうと、子ども自身に「不注意があった」と責任を問うことはできませんが、チャイルドシートやシートベルトを使わせなかった親側の落ち度として、5%から10%程度の過失相殺が認められることがあります。

シートベルトを着用していない同乗者の過失は?

誰に対して賠償を請求するかによって、結論が変わることがあります。事故の相手方に請求する場合には、シートベルト不着用を理由とする過失相殺が認められることが多いです。

一方、自分が乗っていた車の運転者に請求する場合、運転者側にも「同乗者に着用させる義務」があるため 、一般的な事故相手への請求に比べると減額の割合が低くなったり、過失相殺が否定されたりすることがあります。ただし、同乗者自身にも自分の身を守る義務があるため、運転者相手の請求であっても不着用を理由に減額されるケースは少なくありません。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

シートベルトの着用は、運転席や助手席だけでなく、後部座席にも義務づけられています。これを怠ったまま事故に遭うと、不着用がけがを重くした一因であると判断され、賠償金が減額されることがあります。減額の幅は5%から20%程度で、後部座席の場合は5%または10%にとどまる傾向にあります。

その一方で、シートベルトをしていても同じけがを負っていたといえるとき、加害者の過失が非常に大きいとき、着用義務が免除されているときなどには、過失相殺が否定されることもあります。

このように、過失相殺の有無や割合は、事故の衝撃の強さやけがの部位、走行していた道路といった個別の事情によって決まります。保険会社が提示してくる過失割合が、いつも適正であるとは限らないのです。

保険会社に提示された内容に疑問を感じたら、示談に応じる前に、一度弁護士へ相談してみてください。

よつば総合法律事務所は、交通事故案件を数多く取り扱ってきました。シートベルト不着用を理由に減額を主張されてお困りの方に対し、適正な賠償金の獲得をサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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