神経心理学的検査
最終更新日:2026年10月07日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 根來 真一郎
- Q神経心理学的検査とは何ですか?
神経心理学的検査とは、記憶力や注意力、言葉を使う力、判断能力、物事の順序を考えて進める力など、脳のさまざまな働きを調べる検査です。
交通事故で高次脳機能障害が疑われるときに、症状の程度や特徴を客観的に確認するために行います。後遺障害の認定でも参考にされますが、検査結果だけで高次脳機能障害の有無や後遺障害等級が決まるわけではありません。
この記事では、代表的な神経心理学的検査の種類や内容、後遺障害等級の認定で確認したいポイントを、弁護士がわかりやすく解説します。

目次

高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳が損傷することで、記憶力や注意力、判断能力、物事を順序立てて進める力、感情や行動のコントロールなどに問題が生じる障害です。
たとえば、事故後に「新しいことを覚えられない」「集中が続かない」「計画どおりに行動できない」「怒りっぽくなった」といった変化がみられることがあります。
手足の欠損などと比べると外から気づきにくく、本人も自分の変化を十分に認識できないことがあります。
高次脳機能障害が認定されるポイント
交通事故による高次脳機能障害が認定されるには、事故によって脳が損傷し、その影響で記憶や注意、判断、感情のコントロールなどに支障が生じていることが重要です。
具体的には、特に以下の2つの条件を満たしていることが非常に重要です。
- CTやMRIなどで脳の損傷が確認できるか?
- 事故直後に一定時間以上の意識障害(昏睡や健忘など)があったか?
画像で脳の明らかな損傷が確認できない場合には、神経心理学的検査で異常があっても、実務上、高次脳機能障害として認定を受けることは非常に困難です。そのため、事故後適切な時期にMRIなどを撮影し、脳の微細な損傷を医学的に証明することが重要です。
これらを前提とした上で、さらに以下のような点を含めて総合的に判断します。
- 事故後にどのような症状が現れ、どのように経過しているか?
- 事故前と比べて、日常生活や仕事、学業などにどのような変化があるか?
- 神経心理学的検査などで、記憶や注意などの機能にどのような変化が確認できるか?
- 医師の意見や家族などから見た事故前後の変化が、ほかの資料と整合しているか?
等級認定における神経心理学的検査の位置づけ
神経心理学的検査は、高次脳機能障害によって記憶や注意などの脳の働きがどの程度低下しているかを確認する検査です。後遺障害等級を認定するときの重要な資料の一つですが、検査結果だけで等級が決まるわけではありません。
たとえば、感情を抑えにくくなった、周囲とうまく関われなくなったといった行動や性格の変化は、検査では十分に捉えられないことがあります。
そのため、等級認定では、神経心理学的検査のみではなく、「仕事や家庭生活でどのような支障があるか」、「どの程度の見守りや手助けが必要か」なども確認します。家族や職場の人から見た事故前後の変化も重要な判断材料です。
神経心理学的検査とは
神経心理学的検査は、1つの検査の名前ではありません。記憶力や注意力、言語機能、知能、遂行機能など、脳のさまざまな機能の状態を確認する検査の総称です。
1つの検査ですべての働きを調べられるわけではありません。そのため、症状や調べたい機能に応じて、複数の検査を組み合わせることがあります。
代表的な検査は次のとおりです。
| 主に確認する機能 | 代表的な検査 |
|---|---|
| 認知機能全般 | MMSE、HDS-R |
| 知能 | WAIS、WISC |
| 記憶力 | ウェクスラー記憶検査、三宅式記銘力検査 |
| 言語機能 | SLTA、WAB失語症検査 |
| 注意力・遂行機能 | TMT |
| 遂行機能 | BADS、WCST |
ミニメンタルステート検査(MMSE)や長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、記憶や理解などの認知機能を広く確認する検査です。ただし、高次脳機能障害のすべての症状を調べられるわけではありません。
どの検査を受けるかは、症状や治療の経過によって異なります。検査の種類や受ける時期は、主治医に相談しましょう。
知能検査
知能検査は、全体的な知的能力の状態を確認する検査です。代表的なものに、成人を対象とするウェクスラー成人知能検査(WAIS)、児童を対象とする児童向けウェクスラー式知能検査(WISC)、幼児を対象とするウェクスラー就学前幼児用知能検査(WPPSI)などがあります。
検査では、言葉を理解する力、目で見た情報をもとに考える力、情報を一時的に覚えて処理する力、作業の速さなどを確認します。
記憶検査

記憶検査は、新しいことを覚える力、覚えたことをしばらく保ち、必要なときに思い出す力などを確認する検査です。
代表的なものに、ウェクスラー記憶検査(WMS-R)、三宅式記銘力検査、ベントン視覚記銘力検査、リバーミード行動記憶検査などがあります。
記憶力が低下すると、「約束を忘れる」「同じ質問を何度もする」「少し前に聞いたことを忘れる」といった変化がみられることがあります。
こうした症状があるときは、検査結果だけでなく、実際にどのようなことが起きたのかを記録しておくと、事故前後の変化を具体的に伝えやすくなります。
言語検査

言語検査は、言葉を理解する力、話す力、読み書きする力などを確認する検査です。失語症が疑われるときには、標準失語症検査(SLTA)、WAB失語症検査などを行うことがあります。
交通事故のあとに「言葉が出にくくなった」「相手の話を理解しにくくなった」「文章を読んだり書いたりすることが難しくなった」といった変化があるときは、医師に具体的に伝えましょう。
言葉の問題によって、仕事や日常会話にどのような支障が出ているかも重要な情報です。
注意力検査
注意力検査は、一つの作業に集中し続ける力や、多くの情報の中から必要なものに注意を向ける力、複数のことに同時に注意を配る力などを確認する検査です。
代表的なものに、標準注意検査法(CAT)や注意機能スクリーニング検査(D-CAT)などがあります。
注意力が低下すると、集中が続かない、作業中の見落としやミスが増える、複数のことを同時に行うのが難しくなるといった問題が生じることがあります。
このような変化があるときは、どのような場面で、どの程度の支障が生じているのかを具体的に整理しておくことが大切です。
前頭葉検査

前頭葉は、予定を立てて行動したり、その場に合った判断をしたり、感情を抑えたりするときに働く脳の部分です。前頭葉の働きを簡単に確認する検査として、前頭葉機能検査(FAB)などがあります。
前頭葉の働きに問題が生じると、計画どおりに行動できない、その場に合った行動ができないといった変化がみられることがあります。事故前より怒りっぽくなるなど、感情や性格が変わることもあります。
ただし、こうした変化は検査結果だけでは十分にわからないことがあります。そのため、家族や職場の人から見た事故前後の変化も重要です。
遂行機能検査
遂行機能とは、目的を決め、手順を考えて行動し、必要に応じてやり方を修正しながら物事を進める力です。「段取りをつけて行動する力」と考えるとわかりやすいでしょう。
代表的な検査には、遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)、ウィスコンシンカード分類課題(WCST)、トレイルメーキング検査(TMT)などがあります。
遂行機能が低下すると、自分で予定を立てて行動できない、複数の作業を並行して進めることが難しい、状況の変化に応じて行動を変えられないといった支障が生じることがあります。
評価にあたっては、検査結果だけでなく、仕事や家事、金銭管理、外出などの日常生活にどのような支障があり、どの程度の手助けが必要かも重要です。
その他の検査
高次脳機能障害では、見たものを正しく認識できるかなど、症状に応じて上記以外の検査を行うこともあります。
また、等級認定では、医師が作成する「頭部外傷後の意識障害についての所見」や「神経系統の障害に関する医学的意見」、家族などが作成する「日常生活状況報告」も重要な資料です。
日常生活状況報告では、「怒りっぽくなった」「忘れっぽくなった」といった抽象的な説明だけでなく、「同じ質問を何度も繰り返す」など、事故前後の変化がわかる具体的な出来事を整理しておくことが大切です。
よくある質問
最後に、高次脳機能障害における神経心理学的検査についてよくいただくご質問にお答えします。
神経心理学的検査に異常がないと高次脳機能障害は認定されない?
いいえ、必ずしも否定されるわけではありません。たとえば、怒りっぽくなる、その場に合った行動ができないといった「社会的行動障害」などは、知能や記憶の検査では異常として現れにくい場合があります。
ただし、多くのケースでは、神経心理学的検査での数値の低下が認定の重要な証拠となります。検査で異常がないと認定を受けるのが難しいこともあるため、日常生活での具体的な支障やトラブルを家族が詳細に記録するなど、別の角度からの証拠集めがより一層重要になります。
なるべくたくさん検査をしたほうがよい?
検査は、多ければ多いほどよいわけではありません。本人にどのような症状があるかを確認し、その症状を評価するために必要な検査を選ぶことが大切です。
また、検査結果だけでなく、事故前後の生活や仕事の変化、家族や職場の人が見た具体的な出来事も重要です。どの検査が必要か迷うときは、主治医などに相談しましょう。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
神経心理学的検査は、高次脳機能障害による記憶力や注意力、言葉を使う力、物事を順序立てて進める力などを確認するために行います。
ただし、後遺障害が認定されるか、どの等級になるかは、検査結果だけで決まるわけではありません。CT・MRIなどの画像、事故直後の意識障害、症状の経過、事故前後の日常生活や仕事の変化なども含めて判断します。
そのため、家族や職場の人が気づいた事故前後の変化を具体的に整理し、医師に伝えることも大切です。
自賠責保険に提出する書類の内容や後遺障害等級の認定に不安があるときは、交通事故に詳しい弁護士への相談も検討しましょう。
よつば総合法律事務所では、高次脳機能障害を含む交通事故のご相談を受け付けています。ぜひお気軽にご連絡ください。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 根來 真一郎













