車両保険を使うのが望ましい場合
最終更新日:2026年02月12日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故で車両保険を使うのが望ましいのはどのような場合ですか?
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自損事故、加害者不明の事故、相手が無保険の事故、自分が加害者側であったり、一定の過失がある場合などは車両保険の使用が望ましいです。
また相手が100%悪い事故でも、早く確実に車を修理したいときは車両保険を使う選択肢があります。
ただし車両保険を使うと通常翌年以降の保険料が上がります。修理費と保険料上昇分を比較して判断することが大切です。

目次

車両保険とは?
車両保険は、ご自身が契約している自動車が、偶然の事故によって損害を被った場合に保険金が支払われる保険です。
自動車保険の一種で、法律で加入が義務付けられている自賠責保険とは異なり、任意で加入します。
車両保険の補償内容
車両保険は、次のような事故によって契約車両に損害が生じた場合に、その修理費などが支払われるのが原則です。
- 衝突、接触、墜落、転覆
- 物の飛来、物の落下
- 火災、爆発
- 盗難
- 台風、洪水、高潮などの自然災害
ただし、地震、噴火またはこれらによる津波による損害は、基本的に補償の対象外です。
また、補償されるのは原則として車両本体の損害です。修理が可能な場合は修理費が支払われますが、修理できない場合や修理費が車の価値(時価)を超える場合は、時価額を限度に保険金が支払われます。
修理中の代車費用や、事故によって車の価値が下がったことによる損害(評価損)は、特約を付けていない限り補償されないのが一般的です。
車両保険には免責金額があることが多い
車両保険の契約には、「免責金額」が設定されていることが多くあります。免責金額とは、保険金が支払われる際に、ご自身で負担しなければならない自己負担額のことです。
たとえば、免責金額が10万円の契約で、車の修理費が50万円だった場合、保険会社から支払われる保険金は40万円となり、残りの10万円は自己負担となります。
車両保険を使うと翌年以降の保険料が上がる
自動車保険には、契約者の事故歴に応じて保険料の割引率が変わる「等級別料率制度」があります。等級は1等級から20等級まであり、等級が上がるほど割引率が高くなります。
1年間保険を使わなければ翌年に1等級上がります。しかし、事故で車両保険を使うと、原則として翌年の契約では等級が3つ下がり、さらに「事故有係数」という割増の料率が3年間適用されます。これにより、翌年以降の保険料が大幅に上がってしまうのです。
そのため、修理費が少額な場合に車両保険を使うと、支払われる保険金よりも、その後の保険料の値上がり分の方が大きくなり、結果的に損をしてしまう可能性があります。
なお、契約内容によっては、無過失事故の場合、車両保険を使っても保険料が上がらないタイプの特約もあります。
車両保険を使うのが望ましい場合
では、どのような場合に車両保険を使った方が良いのでしょうか。具体的なケースを見ていきましょう。
① 自損事故(単独事故)
電柱に衝突した、ガードレールに擦ってしまったなど、相手がいない単独事故の場合、損害を賠償してくれる相手が存在しません。このような場合、ご自身の車の修理費は全額自己負担となります。
一般的に、車両保険に加入していれば、このような自損事故による修理費やレッカー代などを補償してもらえます。
ただし、車両保険のタイプによっては単独事故が補償対象外となることもあるため、補償範囲を契約内容にて確認しましょう。
② 自分が加害者側などの事故
ご自身が加害者側である、あるいは被害者側であっても一定の過失がある場合、相手の保険会社から修理費の全額を支払ってもらうことは期待できません。ご自身の過失割合に相当する分は、自己負担となります。
このような場合に車両保険を使えば、ご自身の過失分の修理費をカバーできます。
③ 加害者が不明の被害事故
当て逃げや駐車場でのいたずらによって車両が損傷した場合、加害者がわかりません。この場合も、損害を請求する相手がいないため、修理費は自己負担となってしまいます。
車両保険は、このような加害者が不明な事故による損害も補償の対象となります。
④ 加害者が無保険の被害事故
加害者が、車の修理費を賠償する「対物賠償責任保険」に加入していない場合があります。
加害者に支払い能力があれば直接請求することも可能ですが、現実的には回収が困難なケースも少なくありません。
このような場合に車両保険を使えば、ご自身の保険から修理費の支払いを受け、速やかに車を修理することができます。
⑤ 過失割合や損害額などを合意できない被害事故
事故の当事者間で、過失割合や損害額について意見が対立し、交渉が長引くことがあります。また、相手の保険会社が修理費の支払いを拒否したり、支払いが遅れたりするケースもあります。
このような場合、相手方との交渉の決着を待っていると、いつまでも車を修理できません。
先に自分の車両保険を使って車を修理し、その後の加害者側への請求は保険会社に任せる、という対応が有効です。
車両保険を使う場合の注意点
車両保険を使う際にはいくつか注意すべき点があります。
保険料が上がることを計算してから使う
車両保険を使うと翌年以降の保険料が上がります。特に、数万円程度の少額な修理の場合、保険を使わずに自己負担で修理した方が、長期的に見て支出が少なく済むことがあります。
保険を使う前に、保険会社に連絡して、保険を使った場合の翌年以降の保険料がどのくらい上がるのか、試算してもらうことが重要です。その上で、支払われる保険金と、将来の保険料の増加分を比較検討しましょう。
車両保険を使ったほうがよい事例
車両保険を使うかどうかは、修理費用と保険料の上昇額を比べて判断します。次のようなケースでは、車両保険を使ったほうがよいでしょう。
車両保険を使う場合の受取額
- 自損事故で車両が大破
- 修理費用:80万円
- 車両保険の免責金額:5万円
- 実際の受取額:75万円
車両保険を使う場合の保険料の増額分
- 現在の年間保険料:8万円(車両保険込み)
- 事故後の保険料:12万円(3等級ダウン、事故有係数適用)
- 3年間の保険料増加分:合計12万円
計算結果
- 保険金受取:75万円
- 保険料増加:12万円
- 差し引き:63万円の得
この場合、保険を使わずに自腹で払うと80万円かかりますが、保険を使えば実質17万円(免責5万円+保険料増加12万円)で済むため、明らかに得になります。
※上記の金額はあくまで一例です。実際の保険料の上がり幅は、現在の等級や保険会社、走行距離などの条件によって異なります。ご自身の保険会社に試算を依頼してください。
車両保険を使わないほうがよい事例
修理費用が少額の場合、保険を使うと保険料の上昇によりトータルで損をすることがあります。次のようなケースでは、車両保険を使わないほうがよいでしょう。車両保険を使う場合の受取額
- 自損事故で軽微な損傷
- 修理費用:15万円
- 車両保険の免責金額:5万円
- 実際の受取額:10万円
車両保険を使う場合の保険料の増額分
- 現在の年間保険料:8万円(車両保険込み)
- 事故後の保険料:14万円(3等級ダウン、事故有係数適用)
- 3年間の保険料増加分:合計18万円
計算結果
- 保険金受取:10万円
- 保険料増加:18万円
- 差し引き:8万円の損
この場合、保険を使わずに自腹で払うと15万円で済むところが、保険を使うと実質23万円(免責5万円+保険料増加18万円)かかるため、明らかに損になります。
※上記の金額はあくまで一例です。実際の保険料の上がり幅は、現在の等級や保険会社、走行距離などの条件によって異なります。ご自身の保険会社に試算を依頼してください。
よくあるご質問
ここでは、交通事故に遭った際に車両保険を使うことに関するご質問にお答えします。
車両保険を使って保険料が上がった場合、損害として加害者に請求できますか?
交通事故によって車両保険を使用し、その結果として翌年以降の保険料が上がった場合でも、その増額分を加害者に対する損害として請求することは、原則としてできません。
車両保険は被害者が自らのリスクを回避するために契約するものであり、事故後にその保険を利用するかどうかは被害者の自由な判断に委ねられていると考えられるからです。
相手が100%悪くても車両保険を使ったほうがよいですか?
車両保険を使った方がよい場合があります。
たとえば、相手方が任意保険に加入しておらず資力もない場合や、何らかの理由で相手方の保険会社からの修理費の支払いが遅延している場合などです。
このような場合、ご自身の車両保険を使えば、相手の対応を待たずにすぐに車を修理できます。ご自身の保険会社が立て替えた修理費は、その後、保険会社が相手方に請求します。
なぜ自分が被害者なのに、自分の車両保険を使うのですか?
一番の理由は、ご自身の車を「早く」「確実に」修理するためです。加害者との交渉が長引けば、その間ずっと車を修理できず不便な生活を強いられます。
また、加害者が無保険であったり、支払い能力がなかったりすると、最終的に賠償金を受け取れないリスクもあります。
車両保険を使うことで、このような時間的な不利益や、賠償金回収不能のリスクを回避できます。
被害者が車両保険を使えば、加害者は何も負担しないのですか?
加害者にも負担はあります。
被害者が車両保険を使って保険金を受け取った場合、被害者の保険会社は、支払った保険金の範囲で、加害者に対する損害賠償請求権を被害者に代わって取得します。
そして、保険会社が加害者に対して、支払った保険金の回収を行います。したがって、最終的な負担は、事故を起こした加害者が負うことになります。
まとめ:現状を踏まえた現実的な解決を目指す
交通事故で車両保険を使うかどうかは、ご自身の置かれた状況を踏まえた現実的な判断が求められます。
相手方との交渉が長引くストレスや、車が使えない不便さを早期に解消できるというメリットは、金銭には代えがたい価値があります。
一方で、少額の修理のために安易に保険を使い、翌年以降の保険料負担に悩まされるという事態は避けたいところです。
車両保険を使うべきかどうかの判断に迷われた場合は、ご自身の保険会社や、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

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弁護士 粟津 正博













