交通事故で人身事故扱いにしないで後悔した事例5選

最終更新日:2025年07月25日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q交通事故の被害者です。人身事故扱いにしないで後悔した事例にはどのようなものがありますか?

人身事故として届け出なかったことで、被害者が次のような不利益を受けて後悔した事例があります。

  1. 治療費が支払われなかった
  2. 休業損害が支払われなかった
  3. 慰謝料が少なくなってしまった
  4. 過失割合が不利になった
  5. 加害者が処罰されなかった

事故直後にけがの程度が軽いと判断して物損事故扱いにしてしまうと、その後の補償や手続きに影響することがあります。

けがをした場合は、できるだけ早く医師の診断を受け、人身事故として警察に届け出ることをおすすめします。

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人身事故と物件事故とは

交通事故は、けがをしたかどうかによって「人身事故」と「物件事故(物損事故)」に分けられます。

人身事故とは、交通事故によって人がけがを負った場合です。軽度な打撲やむち打ちといった症状であっても、「人の身体に損害が生じた」という事実があれば、人身事故として扱われます。人身事故として届け出ると、警察は実況見分を行い、事故状況の詳細な記録を残します。また、加害者には行政処分や刑事責任が科される可能性があり、事故の扱いもより重大なものになります。

これに対して物件事故(物損事故)とは、交通事故により車両や建物、ガードレールなど「モノ」だけに損害が生じた場合です。人にけががない場合はこちらに該当し、警察による処理も比較的簡易に行われます。実況見分調書や当事者の供述調書も作成されず、事故の記録も限定的になりがちで、将来的な紛争時には証拠が不十分になるおそれもあります。

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人身事故として届け出ておけば、治療費慰謝料通院交通費休業損害の請求、さらに後遺障害の認定手続きに進むうえでも、警察の取扱いが人身事故になっているという点で事故による受傷は明らかですから安心です。反対に物件事故として処理してしまうと、事故によるけがが軽かったのではなどと不利な見方をされてしまうことがあります。

事故直後に症状が軽くても、あとから痛みや後遺症が出ることは少なくありません。
そのため、少しでもけがの可能性があるなら、病院で診断を受けてから、警察に人身事故として届け出ることをおすすめします。

実際に、人身事故として届け出るかどうかの判断が、後々の補償に影響した事例も少なくありません。

ここからは、実際の事例を通して注意点を詳しく見ていきましょう。

事例① 治療費が支払われなかった

事故後、首に軽い痛みを感じていたものの、「そのうち治るだろう」と考え、被害者は物損事故のまま警察に人身事故の届出をしませんでした。病院にも行かず、加害者や保険会社にも「大したことはないので、特に対応は必要ありません」と伝えてしまっていました。

しかし数日後、痛みがどんどん強くなり、仕事にも支障が出てきました。とうとう我慢できず、事故から1週間経ってやっと整形外科を受診します。医師からは「頚椎捻挫(いわゆるむち打ち)」との診断を受けました。

この段階で被害者は初めて、治療費を加害者の任意保険会社に請求しようと考えます。

ところが、保険会社からは次のような回答がきます。

「事故直後に病院を受診しておらず、人身事故としての届け出もないため、事故とけがとの因果関係が明らかでない」

被害者としては、「事故が原因なのだから当然治療費は支払ってもらえるだろう」と思っていたため、大きなショックを受けました。

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交通事故の損害賠償では、まず「事故によってそのけがが生じた」こと、つまり因果関係があることが大前提になります。

しかし、受診が遅れてしまったことで、保険会社が因果関係に疑問を抱く結果になってしまいました。加えて物損事故として届け出ている場合、警察による実況見分も行われず、事故当時の状況が記録に残りにくいです。さらに、人身事故の届出をしていないことが「補償の対象にならない」口実にされてしまったのです。

結果として、被害者が必要な治療を自費で負担せざるを得なくなり、精神的にも大きなストレスを抱えることになります。

けがが軽く思えても、自己判断せず、まずはすぐに整形外科を受診しましょう。そして医師の診断を受け、人身事故として警察に届け出ることが、自分を守ることにつながります。

事例② 休業損害が支払われなかった

アルバイト勤務の被害者は、交通事故のあと体に違和感があったものの、「勤務に支障はなさそう」と判断し、物件事故として処理しました。

そのまま数日働いたものの、痛みが悪化し、医師からは1週間程度の安静が必要と診断されます。

やむを得ず欠勤した日数分の給与の補償を求め、加害者の保険会社に休業損害を請求しました。

ところが、保険会社からは以下のように対応されてしまいました。

「人身事故として届け出ていないうえに、事故直後も通常通り勤務されているため、事故による欠勤とは認めがたい」

このように、事故と体調不良の因果関係が証明できないとして、休業損害が支払われないケースは珍しくありません。

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休業損害は、「けがにより仕事を休まざるを得なかった」という医学的根拠と客観的証拠(診断書・勤務記録など)が必要です。

この件では、事故直後は働けていたことが休業損害を支払わない理由の1つですが、物件事故扱いであることが休業損害を支払わない理由の1つとされてしまうこともあります。

人身事故として届出をし、事故とけがの関係を明確にしておくことが、正当な補償を受けるためにはおすすめです。

事例③ 慰謝料が少なくなってしまった

事故により首や肩に痛みが出たものの、「骨も折れていないし、穏便に済ませたい」と考えた被害者は、物損事故として警察に届出します。症状が軽いと判断し、人身事故としての届出や診断書の提出は不要と考えてしまったのです。

その後、被害者は数週間にわたり通院を続け、症状は徐々に回復しました。治療がひと段落したタイミングで、加害者側の保険会社に慰謝料の支払いを請求しましたが、提示された金額は予想よりもはるかに少ないものでした。

理由を尋ねたところ、保険会社からは「物損事故扱いのため、事故とけがとの因果関係が明確でなく、自賠責基準での最低限の補償しかできません」との回答がありました。

「自賠責基準」とは、交通事故の慰謝料算定において最も低い基準です。国が定めた最低限の補償制度で、原則として1日あたり4,300円という定額で慰謝料が支払われます。

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被害者はその後、通院記録や診療明細を改めて提出して自身で交渉しましたが、物損事故扱いのままでは補償基準の引き上げには限界があり、慰謝料の金額が大きく増えることはありませんでした。事故直後に人身事故として警察に届け出を行い、診断書を提出していなかったことが、大きな障壁になってしまったのです。

正当な金額の慰謝料を受け取るためには、事故直後に医師の診察を受け、できる限り早く警察に人身事故として届け出を行い、診断書を提出して「けがの事実」を記録に残すことが重要です。

また、保険会社の提示額は低額であるため、弁護士に依頼をすることで、裁判所の基準による請求が可能になり、慰謝料を増額することもできます。慰謝料の交渉になったら弁護士への相談をおすすめします。

事例④ 過失割合が不利になった

交差点での車同士の事故です。加害者は徐行せず、すごいスピードで何の合図も出さずに曲がってきました。被害者は避けようのない事故でした。

交通事故から数日後も首の痛みが続いた被害者は、整形外科を受診します。もっとも、事故当初は軽い打撲だと思い、警察への届出は物件事故として済ませていました。

その後示談交渉に進んだ際に、保険会社から被害者にも2割の過失があると言われました。

被害者は、相手方が徐行していないこと、合図を出していないことなどを主張しましたが、保険会社は証拠がないとして取り合いませんでした。ドライブレコーダーの記録も交渉時にはありませんでした。

被害者は2割の過失を受け入れざるをえませんでした。

過失割合

このようなケースは物件事故扱いであったがために警察の実況見分がなされず、客観的な証拠が入手できずに過失割合が不利になる典型的な例です。

もし人身事故の届出をすれば、警察が実況見分調書を作成し、相手方が徐行していないこと、合図を出していないことなどが判明していたかもしれません。その結果、被害者の過失がゼロになる可能性もあったのです。

また、警察が事故後速やかに加害者車両のドライブレコーダーのデータを提出させ、解析した捜査記録を残していた可能性もあります。

少しでも過失が問題になりそうな事案では、人身事故として届出を行い、警察記録を残しておくことをおすすめします。

事例⑤ 加害者が処罰されなかった

信号のない横断歩道を渡っていたところ、右折してきた車にはねられて転倒した被害者です。
幸いにも骨折などの大きなけがはありませんでしたが、足を打撲し、病院で治療を受けることになりました。

被害者は「けがは軽いし、穏便に済ませたい」と考え、警察には物件事故として届け出ました。
しかし、その後、加害者は反省がないのはもちろんのこと、周囲に自分は悪くない、被害者が飛び出してきたなどと言って誠意ある対応をせず、保険会社の手続きも遅延します。

これだけの事故を起こしたのにもかかわらず、何事もなかったかのように運転を続けているのも納得できません。被害者は精神的に大きな苦痛を感じるようになりました。

加害者の処罰を求めたいと思い、後から「人身事故に切り替えたい」と警察に申し出ましたが、実況見分がされていなかったことや、事故から日数が経っていたことなどを理由に、刑事処分の対象とすることは難しいと言われてしまいました。

人身事故として届け出をすれば、加害者には過失運転致傷などの刑事責任が課される可能性があります。しかし、物件事故扱いのままだと、加害者に対する刑事処罰は基本的に行われません。

事故の内容によっては、加害者に対する処分や記録を残すことが被害者自らの安心や納得につながる場合があります。

行政処分も同じです。人身事故の届出をすることで、加害者が免停等の処分を受ける可能性があるのです。

適切な処分がなされるようにするためにも、けがをしたときは人身事故として警察に届け出ておくことが大切です。

まとめ:けがをした場合は人身事故の届出がおすすめ

交通事故でけがをした場合は、事故の時点で人身事故として警察に届け出ることが大切です。

物損事故として届け出てしまうと、あとになって治療費や休業損害、慰謝料を支払わない理由とされたり、過失割合が不利になったり、後遺障害の認定が受けられなかったり、加害者が処罰されなかったりするおそれがあります。

物損事故のままでは、事故とけがとの因果関係が曖昧だと判断されやすく、保険会社との交渉も不利になることがあります。

また、加害者が処罰されないことで精神的な苦痛が残るという声も少なくありません。

事故の時点で体に痛みや違和感があるなら、その場で医師の診断を受け、人身事故として警察に届け出ましょう。

もしすでに物損事故として届け出てしまっていた場合でも、一定の期間内であれば人身事故に切り替えることができます。

医師から診断書をもらい、警察署に提出して手続きをして、人身事故として記録してもらうことができます。

ただし、事故から日数が経ちすぎると警察が対応できないこともあるため、なるべく早く切り替えを行いましょう。

加害者や保険会社から「物損で処理してほしい」と言われることがありますが、被害者にとってそのメリットは少ないことが多いのが実情です。
判断を急がず、自分の身体と今後の生活を守るために、事故の初動から正しく対応することが大切です。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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