交通事故で人身事故扱いにしないで後悔した事例5選
最終更新日:2025年12月25日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の被害者です。人身事故扱いにしないで後悔した事例にはどのようなものがありますか?
-
人身事故として届け出なかったことで、被害者が次のような不利益を受けて後悔した事例があります。
- 加害者が処罰されなかった
- 過失割合が適切に認定されなかった
- 治療費が早めに打ち切られた
- 休業補償が早めに打ち切られた
- 後遺障害が認定されなかった
事故直後にけがの程度が軽いと判断して物損事故扱いにしてしまうと、その後の手続や補償に大きく影響します。
けがをした場合は、できるだけ早く医師の診断を受け、人身事故として警察に届け出ることをおすすめします。

目次

人身事故と物件事故とは
交通事故は、けがをしたかどうかによって「人身事故」と「物件事故(物損事故)」に分けられます。
人身事故とは、交通事故によって人がけがを負った場合を指します。軽度な打撲やむちうちといった症状であっても、「人の身体に損害が生じた」という事実があれば、人身事故として扱われます。
人身事故として届け出ると、警察は実況見分を行い、事故状況の詳細な記録を残します。また、加害者には行政処分や刑事責任が科される可能性があり、事故の扱いもより重大なものになります。
これに対して物件事故(物損事故)は、交通事故により車両や建物、ガードレールなど「モノ」だけに損害が生じたケースを言います。人にけががない場合はこちらに該当し、警察による処理も比較的簡易に行われます。実況見分調書や当事者の供述調書も作成されず、事故の記録も限定的になりがちで、将来的な紛争時には証拠が不十分になるおそれもあります。
人身事故として届け出ておけば、治療費や慰謝料、通院交通費、休業損害の請求、さらに後遺障害の認定手続きに進むうえでも、警察の取扱いが人身事故になっているという点で事故による受傷は明らかですから安心です。
反対に物件事故として処理してしまうと、事故によるけがが軽かったのではなどと不利な見方をされてしまうことがあります。
事故直後に症状が軽くても、あとから痛みや後遺症が出ることは少なくありません。そのため、少しでも症状があるなら、病院で診断を受けてから、警察に人身事故として届け出ることをおすすめします。
実際に、人身事故として届け出るかどうかの判断が、後々の手続や補償に影響した事例も少なくありません。
ここからは、実際の事例を通して注意点を詳しく見ていきましょう。
事例① 加害者が処罰されなかった
信号のない横断歩道を渡っていたところ、右折してきた車にはねられて転倒した被害者です。幸いにも骨折などの大きなけがはありませんでしたが、足を打撲し、病院で治療を受けることになりました。
被害者は「けがは軽いし、穏便に済ませたい」と考え、警察には物件事故として届け出ました。
しかし、その後、加害者は反省や謝罪がないのは当然、周囲に「自分は悪くない」「被害者が飛び出してきた」などと言って誠意ある対応をしません。これだけの事故を起こしたのにもかかわらず、何事も無かったかのように運転を続けているのも納得できません。被害者は精神的に大きな苦痛を感じるようになりました。
加害者の処罰を求めたいと思い、後から「人身事故に切り替えたい」と警察に申し出ましたが、実況見分がされていなかったことや、事故から日数が経っていたことなどを理由に、刑事処分の対象とすることは難しいと言われてしまいました。
人身事故として届け出をすれば、加害者には過失運転致傷などの刑事責任を問われる可能性があります。しかし、物件事故扱いのままだと、加害者に対する刑事処罰は基本的に行われません。
事故の内容によっては、加害者に対する処分や記録を残すことが被害者自らの安心や納得につながる場合があります。
行政処分も同じです。人身事故の届出をすることで、加害者が免停等の処分を受ける可能性があるのです。
適切な処分がなされるようにするためにも、けがをしたときは人身事故として警察に届け出ておくことが大切です。
事例② 過失割合が適切に認定されなかった
被害者は交差点を車に乗って直進中、対向から右折してきた加害者の車両に衝突されました。加害者は交差点を徐行せず猛スピードで右折を開始し、右折の合図も出さず、明らかに早回りをしており、被害者は避けようのない事故でした。
交通事故から数日後も首の痛みが続いた被害者は、整形外科で治療を受けながら仕事を続けていました。事故当初は軽い打撲だと思い、警察への届出は物件事故として済ませていました。
その後示談交渉に進んだ際に、保険会社から被害者にも2割の過失があると言われました。
被害者は、相手方が徐行していないこと、合図を出していないこと、早回りをしていることを主張しましたが、保険会社は証拠がないとして取り合いませんでした。
被害者の車のドライブレコーダーはついておらず、加害者の車のドライブレコーダーも保険会社によればデータが消えてしまっており、残っていないとのことでした。
被害者は2割の過失を受け入れざるをえませんでした。
このようなケースは物件事故扱いであったために警察の実況見分がなされず、客観的な証拠が入手できずに過失割合が不利になる典型的な例です。
もし人身事故の届出をすれば、警察が実況見分調書を作成し、相手方が徐行していないこと、合図を出していないこと、早回りをしていることを証明して、被害者の過失がゼロになる可能性もあったのです。
また、警察が事故後速やかに加害者車両のドライブレコーダーのデータを提出させ、解析した捜査記録を残していた可能性もあります。あるいは、付近の防犯カメラや周囲の車両のドライブレコーダーを保全して、決定的な証拠になることもあるのです。
少しでも過失が問題になりそうな事案では、人身事故として届出を行い、警察記録を残しておくことが重要です。
事例③ 治療費が早めに打ち切られた
事故後、首に軽い痛みを感じていたものの、「そのうち治るだろう」と考え、当初通院はしませんでした。しかし、数日後、痛みがどんどん強くなり、仕事にも支障が出てきました。とうとう我慢できず、事故から1週間経ってやっと整形外科を受診します。幸い骨折等はなかったものの、「頚椎捻挫(むちうち)との診断を受けました。
被害者は、そこまで大ごとにする必要はないと考え、物損事故扱いのまま、警察へ人身事故の届出をしませんでした。保険会社からも、物損事故のままでも治療費や慰謝料は支払うので安心してくださいと言われていました。
ところが、首の痛みは3カ月経過してもなかなか良くなりません。まだ治療が必要だと思っていた矢先、保険会社からは次のような連絡がきます。
「事故直後に病院を受診していないこと、骨折等はなくはっきりとした痛みの原因も不明であること、人身事故としての届け出もなされていないことから、3か月で治療費の支払いを打ち切りたい。」
被害者としては、「事故が原因なのだから当然治療費は支払ってもらえるだろう」と思っていたため、大きなショックを受けました。
交通事故の損害賠償では、まず「事故によってそのけがが生じた」こと、つまり因果関係があることが大前提になります。症状があるからといって、必ず治療費を払ってもらえるとは限らず、特に治療が3カ月を超えてくると、因果関係が問題視されることも少なくありません。
どこまで治療期間をみるかは個別事案によりますが、今回は、受診が遅れてしまったこと、人身事故の届出をしていないことを、軽症であり治療期間は3カ月程度が妥当であると判断することの口実にされてしまったのです。
けがが軽く思えても自己判断せず、整形外科を早めに受診しましょう。そして医師の診断を受け、人身事故として警察に届け出ることが、自分を守ることにつながります。
物件事故であるという理由だけで、治療費を打ち切られることは稀ですが、今回のように受診遅れ、検査画像の異常などの所見がないといった事情と併せて、物件事故であることを打ち切りの口実にされてしまうことがあります。
事例④ 休業補償が早めに打ち切られた
アルバイト勤務の被害者は、交通事故のあと体に違和感があったものの、加害者から「人身事故にはしないでほしい」と懇願され、物件事故として処理しました。
そのまま数日働いたものの、痛みが悪化し、仕事を休んで通院に専念することにしました。
加害者の保険会社に休業損害を請求し、当初1か月は支払いがされましたが、2か月目以降の請求については、以下のように対応されてしまいました。
「軽微な物損事故であり、人身事故として届け出ていない。事故直後も通常通り勤務されているため、休業損害の支払いはこれ以上難しい」
入院をしていたり、骨折をして杖をついていたりすれば、事故と休業損害の因果関係は明らかです。他方、今回のケースのように、軽微なけがでは、休業の必要性の判断が難しいケースが多いです。
この件では、物損の態様が軽微であることや事故直後は働けていたことが保険会社の打ち切りのきっかけになっていますが、物件事故扱いであることも打ち切りの理由の一つとされてしまいました。
事例⑤ 後遺障害が認定されなかった
事故により首や肩に痛みが出たものの、「骨も折れていないし、穏便に済ませたい」と考えた被害者は、物損事故として警察に届出します。症状が軽いと判断し、人身事故としての届出や診断書の提出は不要と考えてしまったのです。
その後、被害者は6か月間にわたり通院を続け、症状は徐々に回復しましたが、首の痛みが残ります。そこで、後遺障害診断書を作成し、保険会社に後遺障害申請を依頼しました。しかし、結果は「非該当」というものでした。
資料をよく確認してみると、人身事故証明書入手不能理由書に「受傷が軽微で、検査通院のみ(予定を含む)であったため」という記載がありました。
むちうちで後遺障害14級が認定されるかどうかは、判断が微妙なケースが多いです。人身事故証明書入手不能理由書の記載を非該当の理由の1つにされないよう、人身事故の届出は行うのが望ましいです。
仮に、物件事故扱いのままでも「受傷が軽微」という説明は極力避けるべきです。
まとめ:けがをした場合は人身事故の届出がおすすめ
交通事故でけがをした場合は、事故の時点で人身事故として警察に届け出ることをおすすめします。
物損事故として届け出てしまうと、あとになって刑事罰や行政罰を求めたいと思っても手遅れになったり、過失割合が結果的に不利になってしまったり、治療費の支払いや後遺障害の認定の判断の中で不利に働いたりすることがあります。
もしすでに物損事故として届け出てしまっていた場合でも、一定の期間内であれば人身事故に切り替えることができます。
ただし、事故から日数が経ちすぎると警察が対応できないこともあるため、なるべく早く切り替えを行いましょう。
加害者や保険会社から「物損で処理してほしい」と言われることがあります。加害者にとって人身事故の届出がないことは大きなメリットがありますが、被害者にとってそのメリットは少ないのが実情です。
判断を急がず、自分の身体と今後の生活を守るために、事故の初動から正しく対応することが大切です。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博













