車の修理代が時価を超える場合(全損)の正しい対応方法

最終更新日:2025年12月12日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q物損事故で修理費が時価を超えると言われた場合、どうすればよいですか?

修理費が車の時価を超える「経済的全損」と判断されたときは、保険会社から修理見積書や時価額に関する資料を入手し、提示されている修理費や時価額が適正なのかを確認しましょう。

その上で、レッドブックや中古車相場などの客観的な資料をもとに、「事故時の車両の時価+買い替え諸費用」の範囲で賠償額を保険会社と交渉します。

足りない分をご自身で負担して修理するか、買い替えるかは、状況に応じて検討しましょう。

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全損とは

交通事故における「全損」には、「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。

物理的全損

物理的全損とは、事故によって車が物理的に修理不可能なほど壊れてしまった状態のことです。また、外見上は修理できるように見えても、車体の骨格など本質的な構造部分に重大な損傷が生じている場合、物理的全損と判断されることがあります。

経済的全損

経済的全損とは、車の修理費用の見積額が事故時点での車両の時価額を上回る状態を指します。現実的には修理可能だとしても、損害賠償の考え方では、経済的な合理性の観点から「全損」として扱われることになるのです。

全損の場合の補償額

車が物理的全損または経済的全損と判断された場合、加害者側に請求できる損害賠償額は、原則として「事故当時の車両時価相当額」と「買い替え諸費用」を合わせた金額となります。

事故当時の車両時価相当額

全損の場合、損害賠償の基本は修理費ではなく、事故が起きた時点での車両の客観的な価値、つまり「時価相当額」になります。これを「価額賠償」と呼び、保険会社は、この時価額を算定して、賠償額として提示してきます。

買替諸費用

車両本体の時価相当額に加えて、事故との法的な因果関係が認められる範囲で、買い替えに必要な諸費用も損害賠償の対象になる可能性があります。

たとえば、車両等の登録手続き費用、車庫証明手数料、納車費用などがこれにあたります。

保険会社から全損と言われた場合のチェックポイント

加害者側の保険会社から「経済的全損」と告げられた場合、その言葉をそのまま受け入れるのではなく、次の3つのポイントを冷静に確認することが重要です。

① 車両の時価を確認

保険会社が提示する時価額は、あくまで保険会社の算定した金額であり、絶対的なものではありません。特に年式の古い車や希少車の場合、市場での人気などが十分に考慮されず、不当に低く見積もられているケースも少なくありません。

裁判実務では、「オートガイド自動車価格月報(通称:レッドブック)」や中古車情報サイトなどを参考にしつつ、車種、年式、走行距離、車両の状態などを総合的に考慮して時価額を判断しています。

保険会社の提示額に疑問がある場合は、その算定根拠を明確にするよう求め、ご自身でも中古車情報サイトなどで同程度の車両の市場価格を調べてみることをおすすめします。

② 修理代の見積書を取得

修理費は、修理工場と保険会社のアジャスターが修理の範囲や単価を協議し、確認して決まることが一般的です。これを協定といいます。ただし、修理工場に車を入庫していない場合は、アジャスターの判断のみで修理見積が作成されることもあります。

修理費の額に疑問がある場合は、保険会社から修理費の見積書を入手し、修理工場に内容を確認、相談しましょう。

修理代については、修理の範囲、方法(板金・塗装)などの点で争いになることがあります。保険会社の提示する見積書が不相当である場合は、修理工場に正しい見積書を発行してもらい、根拠を具体的に記載してもらうことが、後の交渉で有利に働きます。

修理工場は依頼者(被害者)の意向に沿って修理を行う立場にあり、保険会社は原状回復に必要な範囲で費用を支払う立場にあるため、両者の見解が異なることは珍しくありません。修理の必要性について、修理工場から技術的な観点で説明してもらうことが有効な手段です。

③ 修理と廃車のいずれかを選択

客観的な時価額と修理費を把握した上で、最終的に車を修理するのか、それとも廃車にして買い替えるのかを判断します。この判断は、あくまで車両の所有者であるご自身が行うものです。

保険会社との間で修理内容や価格について合意に至らない場合でも、修理工場と保険会社の双方から説明を受け、ご自身で修理内容や費用を十分に検討して決定することができます。

経済的全損であっても、賠償額を超える部分をご自身で負担することで、愛車を修理して乗り続けるという選択も可能です。

車両保険の利用も選択肢の1つ

ご自身が加入している自動車保険に車両保険が付いている場合、その利用も選択肢の一つです。相手方からの賠償を待たずに、ご自身の保険を使って修理や買い替えを進めることができます。

ただし、車両保険からの保険金がいくら支払われるか、また保険を使うことで翌年度以降の保険料がどうなるか(等級ダウン)は、ご自身の保険契約の内容によって決まります。

利用を検討する際は、保険契約の約款をよく確認するか、保険会社に問い合わせて、メリット・デメリットを十分に比較検討することが大切です。

加害者側の対物超過特約の利用も選択肢の1つ

加害者が加入している自動車保険(対物賠償保険)に、「対物超過修理費用補償特約」が付帯されている場合があります。

通常、対物賠償保険の補償額は相手車両の時価額までに制限されています。そのため、修理費用が時価額を超えた場合、超過分は自己負担となるのが原則です。

このようなケースで特約が付帯されていると、時価額を超えた修理費用の差額部分についても補償される可能性があります。補償される上限は、多くの保険で50万円程度に設定されています。(契約によっては無制限や50万円以上の金額の場合もあります。)

ただし、特約によって支払われる金額は、過失割合が適用された後の額となります。つまり、超過修理費用の全額が補償されるわけではなく、事故の過失割合を踏まえた金額のみが対象です。

さらに注意が必要なのは、この特約の利用は加害者側の任意であるという点です。加害者が特約を付けていたとしても、被害者側からその使用を強制することはできません。実際に特約を使って補償がされるかどうかは、示談交渉の中で加害者側の判断を確認する必要があります。

よくあるご質問

ここでは、車両の全損に関してよくいただくご質問にお答えします。

裁判をすれば修理代をもらえますか?

「どうしても修理して乗りたいから、裁判で修理費全額を認めてほしい」というご相談は数多く寄せられます。

しかし、残念ながら、裁判になった場合でも損害賠償額は原則として事故当時の車両の時価額が上限となります。修理費が時価額を上回っている「経済的全損」のケースで、修理費全額の支払いが認められることは極めてまれです。

泣き寝入りになってしまいませんか?

経済的全損だからといって、必ずしも「泣き寝入り」になってしまうわけではありません。

交通事故でけがをしている場合には、修理費用とは別に次のような損害を請求できます。

その結果、たとえ車については「経済的全損」と判断され、十分な修理費・買い替え費用が支払われなかったとしても、けがに対する慰謝料や休業損害などが支払われます。そして、保険会社が提示する慰謝料などは交渉や弁護士に委任することで増額する余地があります。

つまり、「経済的全損=完全な泣き寝入り」ではなく、人身部分の賠償でどこまでカバーできるかが重要なポイントになります。

経済的全損でも修理して乗り続ける選択肢はありますか?

経済的全損でも修理して乗り続ける選択肢はあります。

加害者側からの賠償は時価額(車を手元に残す場合は、時価額からスクラップ価値を差し引いた金額)が上限となります。その賠償金を修理費の一部に充て、不足分をご自身で負担して修理することは可能です。

修理を行うかどうかは、最終的には車の所有者であるご自身の意思によって決まります。

保険会社は、原状回復の範囲を超えた部分の修理費用を支払う義務はありませんが、被害者がご自身の負担で修理すること自体を禁止する権限はありません。

まとめ:現実的な方法をおすすめ

交通事故で愛車が「経済的全損」と判断された場合、法律上の賠償原則は「時価額」が上限となります。この原則があるため、修理費全額を要求しても、残念ながらその主張が認められることは非常に困難です。

しかし、それは保険会社に言われるままに、すべてを受け入れなければならないという意味ではありません。まず行うべきは、保険会社が提示する時価額や修理費が客観的に見て妥当なものなのかを検証することです。そのために、ご自身でも修理見積もりを取るなどして、交渉の材料となる客観的な資料を集めることが重要となります。

特に保険会社が時価額を低く見積もっていたり、買替諸費用を考慮していなかったりというケースがあります。

その上で、賠償額の増額交渉を行ったり、自己負担を加えて修理したり、あるいは買い替えを選択したりと、ご自身の希望に沿った現実的な解決策を検討しましょう。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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