前腕の後遺障害

最終更新日:2025年06月11日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

前腕とは肘から手首までの部分のことです。

この記事では、前腕の骨折である、橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折やモンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折について、これらの骨折の原因や治療法、後遺障害の認定基準などを交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

前腕の後遺障害は専門的な判断が必要です。気になることや悩みがある場合、まずはよつば総合法律事務所へお問い合わせ下さい。

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橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折とは

橈骨と尺骨

前腕とは、肘から手首までの部分のことで、橈骨とうこつと尺骨の2本の長い骨があります。

親指側にあるのが橈骨で、この橈骨の中央部分の骨折を橈骨骨幹部骨折といいます。
小指側にあるのが尺骨で、尺骨の中央部分の骨折を尺骨骨幹部骨折といいます。

前腕の中央部分に強い力が加わると、橈骨骨幹部と尺骨骨幹部を同時に骨折することがあります。

橈骨骨幹部骨折・尺骨骨幹部骨折の原因

交通事故では、直接前腕を強打したときや、飛ばされるなどして手を地面についたときに、橈骨及び尺骨が骨折する例が多く見られます。

両骨を同時に骨折する事例では、かなり強い外力が加わっていることが多く、大きく骨がずれて転位しているものがほとんどです。

橈骨及び尺骨に短軸方向(横方向)から力が加わって骨折を起こしたときは、両骨の骨折部位は同一となることが多いです。

一方、骨に沿って長軸方向(縦方向)の外力により捻りの力が加わって橈骨及び尺骨が骨折を起こしたときは、骨折部位が異なることがあります。たとえば、尺骨の骨幹部と橈骨の近位端部が骨折することがあります。

橈骨と尺骨の両方を骨折すると、激痛を感じ、大きく腫れます。特に前腕の中央部は大きく変形します。

診断は、単純XP撮影により容易に確認できることが多いです。

下の画像は、上段が前腕の横方向から、下段が前腕の正面からそれぞれ撮影したX線画像です。
橈骨と尺骨の中央部分が横に折れており、明らかに骨がずれて転位していることがわかります。

橈骨骨幹部骨折・尺骨骨幹部骨折

橈骨骨幹部骨折・尺骨骨幹部骨折の治療

橈骨と尺骨を同時に骨折する事例では、転位している例が多いため、通常AOプレートとスクリューによる固定が行われます。

かつて橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折に対し、徒手整復+ギプス固定による治療が行われていたことがありました。しかし、尺骨や橈骨の骨幹部は細く血流が少ないため、この治療法では骨癒合が遅れてしまい、偽関節となってしまう例が報告されていました。

近年は手術を行うことが多いため、こうした問題は少なくなっています。

モンテジア脱臼骨折とは

尺骨骨幹部骨折と肘にある橈骨頭の脱臼が同時に発生したものをモンテジア脱臼骨折と呼びます。

単なる骨折ではなく、骨折と脱臼が同時に起こっているため、見落とされやすく、適切な治療がされないと肘の機能障害が残る危険があります。

モンテジア脱臼骨折

モンテジア脱臼骨折の原因

転倒して腕をついたときや、前腕がねじられながら強い外力を受けた時などに見られます。

短軸方向の衝撃が尺骨から橈骨頭に伝わると、モンテジア脱臼骨折となります。

事故直後は、尺骨骨折の痛みが強く、肘関節での橈骨頭脱臼が疑われないままであることも多いです。肘のレントゲンだけでは見落とされることがあるため、前腕全体の撮影が必要です。

橈骨頭の前方脱臼が起きたときは、前方を走行する後骨間神経を絞扼・圧迫することにより、指を伸ばせなくなり、下のイラストのような下垂指という変形をきたすことがあります。この場合、後骨間神経麻痺を合併することがあります。

下垂指

モンテジア骨折の治療

骨折・脱臼の位置が安定している場合は、整復後ギプス固定がなされますが、多くの成人例では手術により尺骨のプレート固定、橈骨頭の整復が必要になります。

脱臼については、再脱臼を防ぐため、尺骨の骨の長さや角度を正しく治すことが大切です。

モンテジア骨折の発見が遅れ、受傷から6か月程度経過すると、尺骨がズレたまま癒合してしまい、また橈骨頭の脱臼が残ってしまい、肘関節に可動域制限が残ってしまいます。

このようなケースでは、尺骨の矯正骨切り術や延長術(一度くっついた尺骨をわざと再び切って、正しい形・長さに直す手術)を行い、橈骨頭の整復が図られます。 橈骨頭の変形が著しいときは、橈骨頭切除術が実施されます。

ガレアッチ脱臼骨折とは

橈骨骨幹部骨折と遠位橈尺関節の尺骨関節の尺骨脱臼が同時に生じた状態を、ガレアッチ脱臼骨折といいます。

モンテジア骨折が肘関節で起きる骨折と脱臼のセットであるのに対し、ガレアッチ骨折は手首で起きる骨折と脱臼のセットになります。

ガレアッチ脱臼骨折

ガレアッチ骨折の原因

転倒して手をつくことによって橈骨骨幹部骨折が生じたとき、その転位(ずれ)が大きいと、手関節側の橈骨と尺骨の関節(遠位橈尺関節)の尺骨骨頭が脱臼し、ガレアッチ骨折となります。

受傷直後は骨折した橈骨側の痛みが強いため、手関節に脱臼が生じていることが疑われないと、遠位橈尺関節の尺骨脱臼が見過ごされてしまう可能性があります。

橈骨や尺骨の骨幹部が単独で骨折しているときは、ガレアッチ骨折やモンテジア骨折を疑い、近位(肘側)と遠位(手首側)の橈尺関節に脱臼がないかどうか確認する必要があるとされています。

ガレアッチ骨折の治療

成人では、整復ギプス固定では不安定ですので、保存療法ではなく観血的手術が選択され、金属プレートを用いて橈骨を内固定します。橈骨の内固定を行うことにより、脱臼した尺骨も整復されることが多いです。

整復できなかったときは、これも観血的に整復します。

整復が不十分ですと、手関節の可動域に問題を生じかねません。

橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折やモンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折の後遺障害

橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折やモンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折で認定されうる後遺障害は、機能障害、変形障害、神経障害の3種類です。

機能障害
8級6号 1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
10級10号 1上肢の三大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号 1上肢の三大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
変形障害
12級8号 長管骨に変形を残すもの
神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

機能障害(関節の動く範囲の制限)

機能障害は、関節が動く角度を測定し、異常があるときの後遺障害です。動かない程度が大きいほど上位の等級になります。

8級6号 1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
10級10号 1上肢の三大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号 1上肢の三大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

橈骨骨幹部骨折・尺骨骨幹部骨折は骨幹部の骨折ですので、機能障害を生じる可能性は低いです。

モンテジア骨折は肘関節の脱臼を含みますので、肘関節の可動域制限が残る可能性があります。
肘関節の可動域制限の場合、原則として屈曲と伸展による運動を参照します。

ガレアッチ骨折は手関節の脱臼を含みますので、手関節の可動域制限が残る可能性があります。
手関節の可動域制限の場合、原則として屈曲と伸展による運動を参照します。

可動域の測定にはルールがあります。詳細は関節可動域表示並びに測定法(日本リハビリテーション医学会)をご確認ください。

認定のためには、単に数値上の基準を満たすだけではなく、そのような可動域の制限が生じることについて医学的な説明ができることが必要です。

「用を廃したもの」(8級)

「用を廃したもの」(8級)とは次のいずれかの場合です。

  1. 関節が全く動かない場合
  2. 関節の可動域が、負傷していない側の1/10以下に制限されている場合
  3. 人工関節置換術を行い、可動域が負傷していない側の1/2以下に制限されている場合

著しい機能障害(10級)

「関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級)とは次のいずれかの場合です。

  1. 関節の可動域が、負傷していない側の1/2以下に制限されている場合
  2. 人工関節置換術を行った場合

機能障害(12級)

「関節の機能に障害を残すもの」(12級)とは次の場合です。

  1. 関節の可動域が、負傷していない側の3/4以下に制限されている場合

変形障害(骨折部の偽関節や変形)

変形障害とは、骨折した部分がくっつかなかったり、変形して癒合した場合の後遺障害です。後遺障害認定基準は次のとおりです。

12級8号 長管骨に変形を残すもの

「長管骨に変形を残すもの」(12級)とは、橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折、モンテジア脱臼、ガレアッチ脱臼骨折は骨幹部の骨折ですので、以下の場合に該当します。

  • 橈骨及び尺骨の両方が15度以上屈曲して不正癒合したもの(ただし橈骨又は尺骨のいずれか一方のみの変形であっても、その程度が著しいものはこれに該当する)
  • 橈骨又は尺骨の骨幹部に癒合不全を残すもので、硬性装具を必要としないもの
  • 橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が2分の1以下に減少したもの

なお、ケースは少ないですが、偽関節の程度が重かったり、硬性装具を要するような場合には、以下の後遺障害に該当する可能性もあります。

  • 「橈骨及び尺骨の両方の骨幹部に癒合不全を残し、常に硬性装具を必要とするもの」(7級8号・1足をリスフラン関節以上で失ったもの)
  • 「橈骨及び尺骨の両方の骨幹部に癒合不全を残し、常には硬性装具を必要としないもの」(8級8号・1上肢に偽関節を残すもの)
  • 「橈骨または尺骨の一方の骨幹部に癒合不全を残し、時々硬性装具を必要とするもの」(8級8号・1上肢に偽関節を残すもの)

神経障害(手関節周辺の痛み)

神経障害の後遺障害認定基準は次のとおりです。

12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折やモンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折後に痛みやしびれを残すときは12級か14級になることがあります。

12級は、画像から客観的に異常が分かり、痛みが残ることが医学的に証明できる場合です。

たとえば、次のような場合は12級になることがあります。
  1. 骨が変形してあるいは不正に癒合して、これが原因で痛みが生じる場合
  2. 関節面に不正を残して骨癒合して、これが原因で痛みが生じる場合

また、神経損傷を合併し、その存在が客観的に証明できる場合もこれらを原因として、12級が認定されることがあります。

14級は、痛みが残ることが医学的に証明されているとまではいえないが、医学的に説明可能な場合です。

つまり、画像上痛みが生じる原因は明らかとはいえないものの、当初の受傷態様や治療内容、症状の一貫性などから、将来にわたり痛みが残ることが医学的に説明できる場合です。

まとめ

橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折、モンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折、橈骨茎状突起骨折、尺骨茎状突起骨折は、前腕に強い衝撃を受けたり、転倒して手をついた際によく起こる症状です。

後遺障害は、主に機能障害・変形障害・神経障害があり、8級~14級まで等級があります。

骨がずれたままくっついてしまったり、神経損傷を伴う場合に後遺障害が認定される可能性があります。

特に、モンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折は脱臼を伴うため、脱臼が見逃されたり放置された場合、関節が拘縮してしまい可動域制限による後遺障害が認定される可能性があります。

橈骨骨幹部・尺骨骨幹部骨折、モンテジア脱臼骨折、ガレアッチ脱臼骨折の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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