クロス払い・相殺払い

最終更新日:2026年07月21日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Qクロス払い・相殺払いとは何ですか?

クロス払いとは、交通事故の当事者がそれぞれ相手に損害賠償を支払い合うことです。相殺払いとは、交通事故の当事者が互いの損害賠償を相殺し、一方のみが残額を支払うことです。

最終的な負担額に大きな差はありません。ただ、保険を使うかどうかや、相手が無保険のときの回収リスクなど、選び方で結果が変わる場面はあります。

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交通事故の過失相殺

クロス払いと相殺払いについて正しく理解するためには、交通事故における「過失相殺」という考え方を押さえておく必要があります。

交通事故は、どちらか一方だけが100%悪いとは限りません。走行中の車同士の事故では、双方に何らかの落ち度があるケースが多くみられます。

法律の世界では、事故の原因となった落ち度のことを「過失」と呼びます。前をよく見ていなかった、スピードを出しすぎていた、信号を見落としたなど、本来払うべき注意を怠っていた状態のことです。

双方に過失があるとき、それぞれの過失がどの程度事故の原因になったのかを割合で示します。これが過失割合です。「自分10%:相手90%」とあれば、自分に10%、相手に90%の過失があるという意味になります。

自分にも過失があるときは、その割合分だけ相手に請求できる賠償金が減らされます。これが過失相殺です。先ほどの「自分10%:相手90%」のケースで、自分の車の修理費用が100万円だったとすると、相手に請求できるのは相手の過失分90%にあたる90万円までとなります。

クロス払い

「過失相殺」という考え方を踏まえたうえで、ここからは、物損事故の清算方法の1つであるクロス払いについてより具体的に説明していきます。

クロス払いとは

交通事故では、自分だけでなく、相手にも損害が発生していることがあります。この場合、相手に生じた損害については、自分の過失割合に応じた範囲で賠償責任を負うことになります。

つまり、相手から自分への支払いと、自分から相手への支払いが、1つの事故から同時に発生するのです。

この2つの支払いをそれぞれ別々に行うのがクロス払いで、物損事故では、よく使われる清算方法です。

たとえばAさんとBさんの事故であれば、AさんからBさんへ、BさんからAさんへと、お金の流れが交差することからクロス払いと呼ばれています。

実務では、当事者同士が直接やり取りをするのではなく、それぞれが加入する自動車保険を通じて支払いが行われるのが一般的です。

ここで使われるのは、主に「対物賠償保険」です。対物賠償保険とは、交通事故で相手の車や物を壊したときに、その修理費用などを補償する保険です。

クロス払いの具体例

クロス払いについて、具体的な数字で見ていきましょう。

Aさんの車とBさんの車が交差点で衝突したとします。Aさんの車の修理費用は50万円、Bさんの車の修理費用は15万円です。話し合いの結果、過失割合は「Aさん10%、Bさん90%」と決まりました。

Aさん Bさん
損害額 50万円 15万円
過失割合 10% 90%
相手から受け取る金額 50万円×90%=45万円 15万円×10%=1万5000円
相手に支払う金額 1万5000円 45万円

お互いの支払額は次のようになります。

  • Aさん→Bさんへの支払い額
    Bさんの損害15万円のうち、Aさんの過失分10%にあたる1万5000円
  • Bさん→Aさんへの支払い額
    Aさんの損害50万円のうち、Bさんの過失分90%にあたる45万円

この2つの支払いを、それぞれ別々に行うのがクロス払いです。AさんからBさんへ、BさんからAさんへと、お金が双方向に流れていきます。

クロス払いのメリット

クロス払いには、主に2つのメリットがあります。

  1. 仕組みがわかりやすい

    それぞれの支払いが、自分の過失分にそのまま対応しています。「自分の過失10%分は自分が払う」「相手の過失90%分は相手から払ってもらう」という関係が一目でわかるため、計算過程もお金の流れもシンプルです。

  2. 保険会社同士で処理しやすい

    お互いに対物賠償保険を使うときは、保険会社同士のやり取りで処理が進むのが一般的です。そのため、当事者が直接お金をやり取りする必要はなく、心理的な負担も軽くなります。

相殺払い

続いて、物損事故におけるもう1つの清算方法である相殺払いを見ていきます。

相殺払いとは

相殺払いとは、当事者双方に過失があり、お互いに賠償義務を負うときに、支払額を差し引いて清算する方法です。

クロス払いでは、AさんからBさんへ、BさんからAさんへと、双方がそれぞれ支払いを行いました。

これに対して、相殺払いでは、2つの支払額を相殺し、最終的に支払うべき金額が多い側だけが差額を支払います。

相殺払いの具体例

クロス払いのときと同じ事故で考えてみましょう。Aさんの損害が50万円、Bさんの損害が15万円、過失割合がAさん10%、Bさん90%のケースです。

それぞれの支払額は、次のとおり確定しています。

  • Aさん→Bさんへの支払額:1万5000円
  • Bさん→Aさんへの支払額:45万円

相殺払いでは、この2つの支払額の差額である、43万5000円をBさんからAさんへ支払います。その結果、AさんからBさんに1万5000円を支払う必要はなくなります。

相殺払いのメリット

相殺払いには、主に3つのメリットがあります。

  1. 片方が差額を支払うだけで手続きが終わる

    クロス払いでは双方が振込手続きを行うのに対し、相殺払いでは差額を一方が支払うだけで済みます。振込先の確認や送金手続きが片方だけで済むため、事務的な負担が軽くなります。

  2. 相手から支払われないリスクを避けやすい

    クロス払いでは、自分から相手への支払いと、相手から自分への支払いを別々に行います。そのため、自分が先に支払ったあと、相手からの支払いが遅れたり、支払われなかったりするおそれがあります。

    相殺払いでは、あらかじめお互いの支払額を差し引いて、差額だけをやり取りします。そのため、相手から支払われないというリスクを避けやすくなります。

  3. 自動車保険の等級ダウンを避けられる場合がある

    自動車保険には等級制度があり、対物賠償保険を使うと、翌年から等級が原則として3つ下がります。等級が下がると保険料が上がるため、少額の支払いで保険を使うと、支払額よりも翌年以降の保険料アップの方が大きくなることがあります。

    自分が相手に支払うべき賠償額が少額である場合、その分を保険(対物賠償保険)から支払わずに、相手から受け取る賠償金から差し引く(実質的に自腹で支払う)ことで、対物賠償保険の適用を見送り、翌年以降の等級ダウンを避けるという選択肢があります。

クロス払いと相殺払いの選択

ここまでクロス払いと相殺払いの仕組みを見てきましたが、結局どちらを選べばよいのでしょうか。それぞれが向いているケースをご紹介します。

クロス払いを使う場合

物損事故では、双方が対物賠償保険を使う場合、クロス払いで処理されることが多いです。

クロス払いでは、お互いの支払額を差し引かず、それぞれが相手に支払います。もっとも、双方が保険を使う場合は、保険会社を通じて支払いが行われるのが一般的です。

そのため、当事者同士が直接お金をやり取りしなくて済み、手続きの負担を軽くできます。

相殺払いを使う場合

一方、相殺払いが特に役立つのは、次の2つの場面です。

  1. 相手が保険に入っていない場合

    相手が無保険だと、賠償金の支払いは相手本人が自腹で行うことになります。本人が十分な資金を持っていなければ、合意した金額を予定どおり支払われないおそれがあります。

    クロス払いでは、自分から相手への支払いと、相手から自分への支払いを別々に行います。そのため、自分が先に支払ったあと、相手からの支払いが遅れたり、支払われなかったりするおそれがあります。

    一方、相殺払いなら、お互いの支払額を差し引いたうえで、差額だけをやり取りします。そのため、自分から相手へ先にお金を支払う必要がなく、回収できないリスクを避けやすくなります。

  2. 自分が支払う金額が少ない場合

    自分が相手に支払う金額が少ないときは、保険を使わずに相殺払いで処理する方が有利な場合があります。

    対物賠償保険を使うと、通常は翌年から自動車保険の等級が原則として3つ下がります。等級が下がると、翌年以降の保険料が上がることがあります。

    そのため、少額の支払いのために保険を使うと、支払う金額よりも保険料アップの方が大きくなり、かえって損をすることがあります。自分の対物保険を使わずに相殺払いなら、このようなデメリットはありません。

    相殺により減ってしまう金額と、対物保険を使って翌年以降上がる保険料を比較検討し、保険を使わない方が有利であれば、相殺払いを選択するケースが多いです。

よくあるご質問

クロス払いと相殺払いについて、よつば総合法律事務所に寄せられるご質問のうち、特に多いものをまとめました。

相殺払いとクロス払いで最終的にもらえる金額に差はある?

相殺払いとクロス払いで、最終的に手元に残る金額そのものに差はありません。

どちらの方法でも、過失割合に応じて算出された金額をもとに清算するため、計算結果は同じです。

相手が無保険の場合はどちらがよい?

相手が無保険の場合は、相殺払いのほうが有利になりやすいです。

クロス払いでは、自分から相手への支払いと、相手から自分への支払いを別々に行います。そのため、自分が先に支払ったあと、相手からの支払いが滞ると、その分を回収できなくなるおそれがあります。

相殺払いなら、相手から受け取る金額から、自分の支払い分を差し引けます。そのため、少なくとも自分が相手に支払うはずだった金額分については、回収できないリスクを避けられます。

片側賠償(片倍・かたばい)とは?

片側賠償とは、双方に過失があっても、加害者側が被害者側への損害賠償請求権を放棄することで、加害者側だけが賠償責任を負う解決方法です。実務では「片倍(かたばい)」とも呼ばれます。

たとえば、過失割合が「加害者側90%:被害者側10%」のケースを考えてみます。本来であれば、被害者側も、加害者側の損害について10%分を負担します。しかし、片側賠償では、この被害者側の負担分を加害者側が請求しません。そのため、最終的には、加害者側だけが被害者側に賠償金を支払う形になります。

示談では、「加害者側90%:被害者側0%」のように、被害者側に支払いを求めない形で整理されることがあります。

加害者側にとっては、争った結果「100%:0%」となって全額を負担するリスクを避けられます。被害者側にとっては、「被害者側なのに加害者側へお金を支払う」という納得しにくい状況を避けられます。

双方にメリットがあるため、被害者側の過失割合が低い事案では、早期解決のための和解案として提案されることがあります。

片側賠償と相殺払いの違いとは?

相殺払いは、お互いの支払額を差し引いて、差額だけを支払う方法です。

これに対して、片側賠償は、加害者側が被害者側に請求せず、加害者側だけが賠償金を支払う方法です。

つまり、相殺払いでは被害者側の支払分が差し引かれますが、片側賠償では差し引かれません。

この違いは、被害者側の手元に残る金額にも影響します。以下の事案で具体的に計算してみましょう。

  • 被害者側の損害1000万円
  • 加害者側の損害500万円
  • 過失割合は加害者側90%、被害者側10%。
相殺払い(90%:10%) 片側賠償(90%:0%)
加害者側から被害者側への支払額 900万円 900万円
被害者側から加害者側への支払額 50万円 0円(放棄)
被害者側が手元に残せる金額 850万円 900万円

相殺払いでは、被害者側の10%分の支払額50万円が差し引かれるため、最終的に手元に残るのは850万円です。

一方、片側賠償では、加害者側が10%分の請求権を放棄するため、被害者側は差し引きなしで900万円を受け取れます。同じ過失割合でも、片側賠償のほうが被害者側の手元に多く残るのです。

片側賠償とクロス払いの違いとは?

クロス払いは、双方が相手に賠償金を全額そのまま支払い合う方法で、お金の流れは双方向です。片側賠償は、加害者側だけが被害者側に支払う方法で、お金の流れは一方向です。

被害者側の手元に残る金額の差については、「片側賠償と相殺払いの違い」と同じ仕組みです。クロス払いでは被害者側に10%分の支払いが発生する一方、片側賠償ではその支払いがなくなるため、被害者側の手元には多く残ります。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

クロス払いと相殺払いは、どちらも交通事故の損害賠償を清算する方法です。

クロス払いはお互いの支払額を別々に処理し、相殺払いはお互いの支払額を差し引いて差額だけを支払います。

最終的にやり取りされる金額そのものは、いずれの方法をとっても基本的に同じです。ただし、保険の使い方や等級への影響、相手が無保険のときの回収リスクなどによって、どちらを選ぶべきかは変わります。

また、過失割合で争いになっているときは、片側賠償という解決方法が提案されることもあります。

ご自身のケースでどの方法が有利か判断に迷ったときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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