人身事故扱いにすることによって加害者に与える影響

最終更新日:2025年08月01日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q人身事故扱いにすることによって、加害者にはどのような影響がありますか?

人身事故扱いにすることによって、加害者は、刑罰・行政処分・損害賠償のいずれも、より重い責任を負う可能性があります。

交通事故でけがを負ったとき、「人身事故として届け出るかどうか」は被害者自身が判断を求められる場面です。

中には「加害者に申し訳ない」「保険で済むなら物損のままでもいいのでは」と迷う方も少なくありません。

しかし、人身事故扱いにすると、加害者には刑事処分や行政処分が科される可能性が高まり、賠償責任も拡大することがあります。

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人身事故と物損事故とは

交通事故は、被害の内容によって「人身事故」と「物損事故」に分類され、警察への届出もその区分に応じて行われます。

人身事故とは、事故によって人が負傷した場合に扱われるもので、むちうちや骨折といった明らかな外傷がある場合はもちろんのこと、打撲や違和感程度の痛みであっても、医療機関の診断書があれば人身事故として届け出ることができます。

これに対して物損事故は、人にけががなく、壊れたものだけが被害対象となった場合の扱いです。たとえば、車両の破損、ガードレールの損傷、家屋の外壁への衝突などが該当します。

事故直後に被害者自身が「けがはありません」と口頭で伝えてしまうと、警察はそのまま物損事故として処理してしまうことがあります。

しかし、事故直後は緊張や動揺で痛みに気づかないこともあり、数日経ってから体の痛みや不調が現れ、通院が必要になるケースも少なくありません。

そのような場合には、速やかに人身事故への切り替え手続きを行う必要があります。

この切り替えを行わないと、警察による「実況見分調書」が作成されず、加害者の過失や事故状況を証明する重要な証拠が残らないまま、損害賠償請求や示談交渉を進めなければならなくなるおそれがあります。

つまり、「人身事故か物損事故か」という区分は、単なる届出上の違いではありません。

その後の治療費の請求や慰謝料の支払い、示談交渉、さらには加害者の法的責任にまで大きく影響を及ぼす重要な判断です。事故直後の段階から慎重な対応が求められます。

人身事故の加害者への影響

人身事故として処理されると、加害者が負う法的責任は一段と重くなります。

単なる物の損壊にとどまらず、人の身体への被害が発生したと認定されることで、加害者に対して科される制裁や義務の内容も大きく変わってくるのです。

ここでは、加害者にどのような影響が生じるのかを、刑事責任・行政処分・民事責任という3つの側面から詳しく解説していきます。

刑事処分が重くなりやすい

刑事処分とは?

交通事故が人身事故として届け出られると、加害者には刑事処分が科される可能性が生じます。刑事処分とは、法令違反に対して国家が科す制裁であり、交通事故では主に罰金刑・禁錮刑・懲役刑といった刑罰がこれにあたります。

加害者の行為が「過失運転致傷罪」(刑法)や「道路交通法違反」に該当する場合、捜査機関が介入し、刑事裁判を経て処分を受ける可能性があります。

たとえば、信号を無視して歩行者にけがを負わせた場合には、過失運転致傷罪が成立し、略式罰金や正式裁判での有罪判決につながるケースもあります。

人身事故と物損事故の刑事処分の違い

ここで重要なのは、事故が人身事故として処理されたかどうかによって、加害者に科される処分の重さが変わってくるという点です。

人身事故では「けが人が出た」という事実が明確になるため、検察官や裁判所の判断にも影響を及ぼしやすく、罰金だけで済まず、拘禁刑といったより重い刑罰が選択される可能性も高まります。

一方で、物損事故として処理された場合には、そもそも加害者の行為について捜査が行われず、刑事責任が問われないまま終わってしまうことも少なくありません。

なお、物損事故であっても、飲酒運転や無免許運転、公共物の重大な破損といった悪質なケースでは、例外的に刑事処分が科されることもありますが、あくまで少数例です。

実務上は、人身事故として処理されなければ、加害者に対して重い刑事処分が科されることはほとんどありません。

このように、被害者として加害者の刑事責任を明確に問いたい場合は、人身事故としての届出が不可欠といえます。

行政処分が重くなりやすい

行政処分とは?

人身事故として扱われると、加害者は「行政処分」の面でも重い責任を問われる可能性があります。

行政処分とは、交通違反や事故を起こした際に、運転免許に対して都道府県公安委員会が科す制裁のことです。代表的なものに、「違反点数の加算」「免許の停止・取消」などがあります。

人身事故と物損事故の行政処分の違い

人身事故の場合、加害者には原則として事故内容に応じた違反点数が加算されることになります。たとえば、軽傷事故であっても基本的に3点以上が加算され、状況次第ではさらに高くなります。点数の累積によっては、30日〜180日の免許停止処分や、場合によっては免許取消となることもあるのです。

一方で、物損事故であれば、違反行為がなければ点数加算はされません。つまり、人身事故扱いにするかどうかで、加害者の免許に与える影響が大きく変わってくるということです。

たとえば、「免許停止になっては仕事に支障が出る」として、加害者がなんとか物損事故で処理したいと希望することもあります。

しかし、けがをしているにもかかわらず物損事故として処理すれば、被害者自身が本来受けられる補償や権利が不利になる可能性があるため、安易に応じるべきではありません。

行政処分は加害者の社会生活に直接影響を与えるため、人身事故として届け出ることには現実的な重みがあるのです。

損害賠償義務が重くなることがある

損害賠償義務とは?

人身事故として扱われた場合、加害者には民事上の損害賠償義務も発生します。
これは、被害者が負った身体的な損害に対して、加害者が金銭的に責任を負うというものです。

人身事故と物損事故の損害賠償義務の違い

民事責任の範囲は、物損事故と人身事故とでは大きく異なります。

物損事故では壊れた車や持ち物の修理代が中心ですが、人身事故となれば、治療費通院交通費休業損害慰謝料後遺障害に関する逸失利益など、賠償の対象が広がります。

たとえば、むちうちや打撲など一見軽いけがであっても、通院が数か月~6か月になれば数十万円~100万円を超える賠償額になることもあります。

さらに、後遺障害が残るような事故であれば、将来の収入減や介護費用なども含めて、数百万円から数千万円規模の賠償金が発生することもあるのです。

しかし、事故直後に「大したけがではないから」「加害者が物損で済ませたいと言っているから」といった理由で物損事故として処理してしまうと、治療費や慰謝料などの賠償請求がスムーズに進まないこともあります。

なぜなら、事故直後に「物損事故」にしていたということは、仮にけががあったとしても重傷ではないと思われてしまうことがあるからです。

人身事故と物損事故で保険会社の対応が異なる可能性

また、人身事故として届け出ることで、保険会社の対応にも違いが出てきます。

物損事故の場合、保険会社が「軽微な案件」として簡易的に処理してしまい、被害者の通院や後遺症に関する事情が十分に考慮されないこともあります。

一方で、人身事故として届け出されていれば、治療状況や損害の内容に応じた正当な補償を受けやすくなるのが実情です。

加害者にとっては、人身事故扱いにより保険料が上がる、保険会社から厳しい対応を受けるといった不利益が生じることもありますが、それはあくまで加害者側の事情にすぎません。

被害者としては、自身の身体的・経済的損害をきちんと回復するために、人身事故として届け出ることが必要な事案もあります。

事故直後には症状が軽くても、数日後に悪化するケースもあります。
「あとで治療費を請求しよう」「様子を見よう」と思っていても、届出の段階で人身事故として処理していなければ、適切な補償が受けられなくなるリスクがあります。

少しでも不安がある場合は、早めに医療機関を受診し、事故の内容を正しく申告しましょう。

まとめ:人身事故の届出に悩んだら弁護士へ相談

「加害者に責任を取ってほしいけれど、損害もきちんと補償してもらいたい」
「警察に相談しているけど、このまま放っておいてよいのか不安」
「相手方から示談を提案されたが、これで終わらせてよいのかわからない」

交通事故の被害にあった方の多くが、このような悩みや迷いを抱えています。 中でも、「人身事故として届け出るかどうか」は、その後の刑事処分や損害賠償に大きな影響を及ぼす、極めて重要な判断になります。

しかし、法律や保険の制度は複雑で、加害者側の対応や警察の説明も十分とはいえない場面が少なくありません。

そのまま自己判断で手続きを進めてしまった結果、「本来受け取れるはずの補償を受けられなかった」「加害者の責任が十分に問われなかった」という事態に陥ることもあります。

そうした事態を避けるためにも、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

事故直後の届出の仕方や証拠の確保、保険会社とのやり取り、示談交渉の進め方まで、制度の仕組みや過去の事例に照らして助言を受けることで、被害者の不利益を最小限に抑えられる可能性が高まります。

「自分だけで判断するのは不安」「何を基準に決めればよいのかわからない」と感じたときは、ひとりで抱え込まずに、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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