交通事故の被害者がSNSに投稿するリスク
最終更新日:2025年06月13日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の被害者がSNSに投稿するリスクには何がありますか?
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交通事故の被害者がSNSに投稿すると、次のようなリスクがあります。
- 不正確な投稿で、けがが軽かったり治っているという反論を招く
- 不正確な投稿で、けがが軽かったり治っているという反論を招く
- 名誉毀損罪や侮辱罪になる
- 名誉・プライバシー・肖像権侵害などで損害賠償請求される
- 個人情報関連の道義的責任を負う
- 投稿内容が炎上する

目次

① 不正確な投稿で、けがが軽かったり治っているという反論を招く
交通事故の被害にあった方がSNSに投稿する際、注意すべき点のひとつが「投稿内容と実際のけがの程度が合っていない」とみなされるリスクです。
たとえば、実際にはまだ首や腰が痛くて通院を続けているのに、SNSには「遊園地に行ってきました!」と笑顔の写真を投稿してしまった場合、損害賠償請求(慰謝料や治療費など)に対する信ぴょう性を疑われる原因になります。たとえ実際には痛みを我慢していただけだったとしても、SNSに投稿された「元気そうな姿」だけが一人歩きし、被害者側の主張が弱くなる可能性があるのです。
また、治療中であるにもかかわらず「もう元気になりました!」という投稿をしてしまうと、「けがはすでに完治している」と受け取られ、後から治療費を請求しづらくなる場合もあります。
交通事故の損害賠償交渉では、被害者のけがの程度や治療期間、生活への影響が非常に重要なポイントになります。そのため、SNSへの投稿は、たとえ善意であっても、誤解を招く表現や写真を載せないように注意が必要です。
② 不正確なSNS投稿と、主張している内容の矛盾を指摘される
交通事故の被害にあったあと、加害者側と損害賠償の交渉を進めるうえで、もっとも重視されるのは「一貫性のある主張」です。ところが、被害者本人のSNS投稿が、これまでに主張してきた内容と食い違っていた場合、それが“矛盾点”として加害者側に突かれる可能性があります。
たとえば、次のようなケースが典型的です。
- 示談交渉では「事故のあと、外出もままならず、友人とも会えない生活を送っている」と説明していたのに、SNSでは「久しぶりに集まって飲み会」という投稿をしていた。
- 後遺症について「左肩の可動域が制限されていて、洗濯物を干すのもつらい」と主張しているにもかかわらず、SNSにはキャンプでアクティブに過ごす様子の写真が投稿されていた。
これらの投稿は、見方によっては「本当はそこまで困っていないのでは?」という印象を持たれる恐れがあります。そして、こうした矛盾があると、加害者側の保険会社や代理人は、次のような主張をしてくることがあります。
- 「精神的な苦痛はそれほど大きくない」
- 「日常生活に支障が出ていないなら、後遺障害にはあたらない」
- 「治療の必要性が薄い」
つまり、SNSに投稿した何気ない言葉や写真が、「不利な証拠」として扱われてしまうのです。
特に、保険会社は被害者のSNSをチェックしているケースもあり、投稿内容と提出された診断書や被害者主張との整合性を確認することがあります。こうしたリスクを避けるには、「SNSに投稿する前に、事故や生活状況に関する内容は弁護士に相談する」ことが安全です。
③ 名誉毀損罪や侮辱罪になる
交通事故の被害者として怒りや不安を感じたとき、その気持ちを誰かに聞いてもらいたくなり、ついSNSで「事故の加害者がひどい対応をしてきた」「この人のせいで人生がめちゃくちゃだ」といった投稿をしてしまうことがあります。
しかし、こうした投稿内容が加害者の社会的評価を下げるものだった場合、刑法上の「名誉毀損罪」や「侮辱罪」に該当するリスクはゼロではありません。
名誉毀損罪(刑法230条)は、「公然と事実を摘示し、人の社会的評価を下げる行為」に対して成立します。つまり、下記の3つが揃うと成立する可能性があります。
- 加害者の実名を挙げて「無免許運転だった」など、具体的な事実を示す
- 誰でも見られるSNSに投稿し、不特定多数が閲覧可能
- その結果、相手の社会的信用や評価が下がる
たとえ、その内容が「真実」であったとしても、目的が公益を図るものでなければ処罰される可能性があります。
また、具体的な事実を示さずとも、「バカ」「最低の人間」「死ねばいいのに」などの表現で相手の名誉を害した場合、侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。こちらもSNSなど不特定多数の目に触れる場所で行われた場合は、特に問題視されやすくなります。
こうしたトラブルを防ぐためには、まず事故に関する感情的な発信をSNS上でしないことが第一の対策です。「真実だから大丈夫」と考えるのではなく、「第三者の目にどう映るか」を意識することが重要です。
もし、加害者への不満や処遇に納得がいかない場合は、SNSではなく、弁護士を通じて法的手段を検討しましょう。弁護士であれば、冷静かつ適切な形で加害者側に対応する方法を提案してくれますし、投稿によって自分が加害者にされるようなリスクも避けられます。
④ 名誉・プライバシー・肖像権侵害などで損害賠償請求される
SNSに投稿された内容によっては、加害者や第三者から民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。たとえば、事故相手の名前や顔写真、ナンバープレート、勤務先などの情報を、相手の許可なくSNSに掲載した場合、「名誉権」や「プライバシー権」「肖像権」を侵害したとされ、損害賠償を求められることがあるのです。
名誉権とは、個人が社会的に正当な評価を受ける権利を意味し、これを不当に損なう言動は名誉毀損にあたる可能性があります。
また、プライバシー権は私生活上の情報を不当に開示されない権利であり、事故現場でのやり取りや加害者の個人的背景などをSNSに書き込むことも、この権利を侵害すると評価され得ます。
肖像権は、本人の許可なく写真を撮られたり公開されたりしない権利であり、とくに事故現場で撮影した加害者や関係者の顔写真などをSNSに投稿する行為は、違法と判断されるリスクが高くなります。
被害者の立場からすると、「自分は悪くないのに、なぜ投稿するだけで責められるのか」と感じるかもしれません。しかし、法律上は他人の人格的権利を尊重する義務があり、たとえ怒りや悲しみが正当なものであっても、それをインターネット上で公にすることが常に許されるわけではありません。
仮に慰謝料等の交渉がうまく進んでいたとしても、こうした投稿が原因で逆に法的トラブルに発展する恐れがあります。SNSは多くの人の目に触れる媒体であり、情報が一度拡散されると完全に削除することが難しくなります。感情に任せて投稿してしまった一言が、大きな責任を生むことになるかもしれないのです。
交通事故に関する情報をインターネット上に発信する際は、「誰かの権利を侵害していないか」という視点を必ず持ち、可能であれば投稿前に弁護士に確認をとることが望ましいでしょう。
⑤ 個人情報やその他の権利に関する社会的・道義的責任を負う
交通事故の被害者がSNSに投稿する内容は、たとえ違法とは言えない場合でも、社会的・道義的な責任を問われることがあります。とくに近年は、個人情報の保護に対する意識が高まっており、「法に触れなければ何を投稿しても自由」とは言えない状況になっています。
たとえば、加害者の名前や住所、職業、車のナンバー、勤務先などの情報を投稿した場合、たとえそれが公に入手可能な情報であっても、「相手を特定できる情報を不特定多数にさらした」という行為が強く批判されることがあります。こうした投稿は、閲覧者の中に感情的な反応を引き起こし、加害者やその家族、勤務先に対して攻撃的な言動が向けられる「ネット私刑(ネットリンチ)」を誘発することも少なくありません。
その結果、被害者自身が「過剰に他人を追い詰める人」として非難され、加害者とは別の意味で炎上や社会的批判を受けることになってしまう可能性もあります。さらに、個人情報の取り扱いに関する意識の低さが露呈すれば、たとえ刑事責任や損害賠償請求の対象にならなかったとしても、職場や友人関係など、社会的な信用を損なう事態に発展することもあります。
また、SNSでは事故と無関係の第三者にまで影響が及ぶことがあります。たとえば、投稿内に偶然写り込んだ通行人や、救助にあたった人の姿が明確に映っていた場合、それらの人物のプライバシーや肖像権にも十分な配慮が求められます。本人の承諾なくその写真を投稿することは、たとえ悪意がなかったとしても、無用なトラブルの火種となる可能性があります。
このように、SNSにおける情報発信は、法律だけでなく「社会的なマナー」や「他者への配慮」が問われます。「誰にも迷惑をかけていないと思っていた投稿」が、知らず知らずのうちに他人の人権を侵害しているということもありえるのです。
⑥ 投稿内容が炎上する
交通事故の被害にあった直後は、精神的にも不安定になりやすく、誰かに話を聞いてほしい、理解してほしいという気持ちからSNSに思いの丈を綴る方も少なくありません。しかし、たとえ正当な怒りや悲しみであっても、その投稿が「炎上」につながるリスクがあることを理解しておく必要があります。
炎上とは、ある投稿がSNS上で一気に拡散され、多くの第三者から批判や非難のコメントが殺到する状態を指します。投稿者の意図とはまったく異なる方向で受け取られ、予想外の反応が広がることも多く、いったん炎上が始まると、投稿を削除しても収束しないケースが大半です。
たとえば、事故相手を非難する投稿であっても、「感情的すぎる」「被害者なのに加害者を追い詰めすぎている」と見なされることで、今度は被害者自身が“ネット上の加害者”として扱われてしまうことがあります。とくに、加害者の個人情報や写真を載せていた場合、「やりすぎではないか」といった声が集まり、投稿者のプライバシーまでもが掘り返されるなど、二次被害につながることも珍しくありません。
また、投稿の一部が誤解されたり、切り取られたりすることで、まったく意図しない形で内容が広まることもあります。こうした状況では、もはや自分では収拾がつけられなくなり、勤務先や家族、友人にまで影響が及ぶことすらあります。
一度SNSで拡散された投稿は完全に消すことができず、スクリーンショットや転載によって半永久的にネット上に残ってしまう可能性があります。炎上のリスクは、発信の内容そのものだけでなく、投稿のタイミングや言葉選び、見る人の受け取り方に大きく左右されるため、「自分には関係ない」とは言い切れません。
感情が高ぶっているときほど、「いったんスマートフォンを置いて深呼吸する」「本当に今、誰かに伝える必要があるのかを考える」ことが大切です。被害を受けた自分がさらに傷つくような事態を招かないよう、自分自身を守るためにも、SNSへの投稿は慎重に判断すべきです。
まとめ:SNSへの投稿は慎重に
交通事故の被害を受けたとき、つらさや怒り、不安といった感情をどこかに吐き出したくなるのは自然なことです。とくにSNSは手軽に使えるツールであり、誰かに共感してほしい、状況を知ってほしいという思いから、つい投稿してしまいたくなるかもしれません。
しかし、不用意なSNS投稿には多くの落とし穴があります。投稿の内容が加害者側に利用されて損害賠償の交渉が不利になったり、名誉毀損やプライバシー侵害などで逆に訴えられたりする恐れもあります。たとえ真実を語ったつもりでも、言葉の選び方や写真の掲載範囲によっては、法的・社会的責任を問われる事態に発展する可能性があるのです。
被害者として正当な権利を主張するためには、まず冷静になることが重要です。そして、事故に関する情報や不満、相手への対応については、SNSに書くのではなく、信頼できる弁護士に相談しましょう。弁護士であれば、法律にもとづいた適切な手段であなたの主張を整理し、加害者や保険会社に対して正当な権利を主張するサポートをしてくれます。
SNSへの投稿は、一度公開してしまうと完全に削除するのが難しく、想像以上に多くの人の目に触れ、誤解や批判を招くことがあります。たった一つの投稿が、あなたの立場を不利にしてしまうかもしれません。だからこそ、投稿前に「これは本当に今書くべきことか」「誰かの権利を侵していないか」と立ち止まって考えることが大切です。
事故の被害者であるあなた自身を守るために、SNSではなく専門家に頼るという選択をおすすめします。感情を発信する前に、まずは法的に正しい行動をとることで、より確実にあなたの権利を守ることができます。

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弁護士 粟津 正博