民法改正に伴い損害賠償のルールが変わります(法定利率)

2020年4月1日から、いよいよ債権法分野における改正民法が施行されます。
同改正により交通事故の分野でも、損害賠償額の算定のルールが大きく変わることになります。
ここでは、改正のポイントの一つ、法定利率に関してご説明させていただきます。
1 改正の概要
法定利率とは当事者の取り決めがない場合に適用される法定の利率のことです。従来の民法において法定利率は年5%と規定されていました。
もっとも、この利率については現在の金融市場の実態に比べて高すぎるという指摘がありました。
そこで、改正民法では、法定利率を年3%に引き下げることになりました。また同利率について変動制が導入され、将来の市中金利の変動に伴い、一定の指標を基準として3年ごとに自動的に変動し得ることとされました(改正民法404条)。
この法定利率の引き下げは、交通事故実務において、@遅延損害金A逸失利益の算定に大きな影響を及ぼします。
2 遅延損害金
交通事故被害者は、事故による損害賠償請求権(元本)に加えて、事故があった日から支払日まで遅延損害金を付加して支払えと請求することができます。これは、法律上、交通事故による損害賠償請求権(不法行為債権)は、事故があったそのときに支払うべきものとみなされ、不法行為時に直ちに遅滞に陥るものとされているためです。
遅延損害金は法定利率によって計算されますので、被害者にとっては、法定利率が高いほど、遅延損害金が多くなり有利であると言えます。
例えば、交通事故により、1億円の損害賠償請求権が発生し、支払日まで2年を要した場合、従来の民法の規定によれば、被害者は遅延損害金として1,000万円を請求することが出来ます。
一方で、改正民法の規定によれば、被害者は遅延損害金として600万円を請求することが出来ます。
なお、いずれの規定を採用するかという点に関しては、事故発生時の法律の規定に基づくものとされています。
→改正により金額が減少する。
3 逸失利益
例えば不幸にも事故により亡くなってしまった場合、事故がなければ得られるはずの利益(給料収入や年金であることが多いです)を請求することが出来ます。これを法律上、逸失利益といいます。
逸失利益は、毎月お給料や年金が支払われたはずのタイミングで受け取るのではなく、示談等をした際に一括して賠償されます。そうすると将来受け取るべき金額を一括して先に受け取ることになりますので、法定利息分を控除して支払われるルールになっています。これを中間利息控除といいます。
被害者にとっては、法定利率が低いほど、控除される金額が少なくなり有利であると言えます。
例えば22歳の独身サラリーマンが死亡した場合の逸失利益についてみてみましょう。
現行法(法定利率年5%)で算定すると金額は約5,944万円になります。
一方で改正法(法定利率年3%)で算定するとこの金額が約8,200万円になります。
なお、いずれの規定を採用するかという点に関しては、遅延損害金と同様に、事故発生時の法律の規定に基づくものとされています。
→改正により金額が増加する。
※同算定にあたり就労可能年数は67歳まで(45年間)、生活費控除率は50%、基礎収入は平成30年賃金センサス大卒男子全年齢平均を採用
4 まとめ
今回の法定利率に関する規定は、被害者にとってメリット、デメリットあるものですが、実務上遅延損害金が付加されるのは訴訟等の場合に限られることが多いことを考えると、多くの交通事故被害者にとってはメリットの方が大きい可能性が高いといえそうです。
なお、法定利率は3年ごとに自動的に変動し得るものとされているため、今後も注意が必要です。
法務省からも民法改正と交通事故に関するパンフレット(pdf)が配布されておりますので併せてご参照ください。
(文責:弁護士 粟津 正博)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。
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