交通事故の高次脳機能障害における障害年金申請の注意点
最終更新日:2026年09月24日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の高次脳機能障害です。障害年金申請の要件や注意することは何ですか?
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障害年金を受け取るには、①初診日、②障害の程度、③保険料の納付状況という3つの要件を満たす必要があります。
高次脳機能障害は主に「精神の障害」として審査されるため、症状の実態が伝わる診断書と申立書の準備がとても大切です。
また、加害者側から損害賠償金を受け取るときは、障害年金との間で支給の調整がある点にも注意が必要です。
この記事では、よつば総合法律事務所の弁護士が、申請の要件と注意点をわかりやすく解説します。

目次

高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、交通事故などで脳が傷ついた結果、記憶力や注意力、感情のコントロールに支障が出る障害です。
新しいことを覚えられない、集中が続かない、怒りっぽくなった、段取りよく作業ができない、といった症状があらわれます。手足のけがと違って外から見えにくいため、「見えない障害」と呼ばれることもあります。
診断では、CTやMRIといった脳の画像検査に加えて、記憶力や注意力を調べる神経心理学的検査を行い、症状を総合的に評価します。専門の医師による検査結果は、障害年金の申請でも重要な資料になります。
障害年金とは
障害年金は、病気やけがで生活や仕事に支障が出たときに、国から支給される公的年金です。
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があります。どちらの対象になるかは、初診日にどの年金制度に加入していたかで決まります。
| 種類 | 主な対象者 | 等級 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 | 自営業、専業主婦(夫)、学生など国民年金の加入者 | 1級・2級 |
| 障害厚生年金 | 会社員や公務員など厚生年金の加入者 | 1級・2級・3級(※3級に該当しない軽い障害は障害手当金の対象となる場合があります) |
会社員が事故にあったときは、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受け取れる可能性があります。老後の年金とは違い、現役世代でも受け取れる制度です。
障害基礎年金の要件
障害基礎年金を受け取るには、①初診日要件、②障害等級、③保険料納付要件という3つの要件をすべて満たす必要があります。順番に確認していきましょう。
① 初診日要件
障害の原因となったけがについて、初めて医師の診療を受けた日を「初診日」といいます。
障害基礎年金を受け取るためには、初診日に国民年金の加入者であることが必要です。加入をやめた後でも、60歳以上65歳未満で日本国内に住んでいる間に初診日があれば対象になります。
交通事故で高次脳機能障害を負った場合、事故直後に救急搬送された病院の受診日が初診日になることが多いです。
なお、20歳前の年金制度に加入していない時期に初診日があるときは、保険料の納付状況を問わずに障害基礎年金の対象になることがあります。学生や未成年の方が事故にあったときは、確認してみてください。
② 障害等級
「障害認定日」の時点で、法令が定める1級または2級の障害状態にあることが必要です。
障害認定日とは、原則として初診日から1年6か月がたった日のことをいいます。なお、特定の障害や状態によっては1年6か月を待たずに障害認定日となる特例もありますが、高次脳機能障害では原則通り1年6か月経過時点とされるのが一般的です。
では、1級、2級とはどの程度の状態を指すのでしょうか。目安として、1級は他人の助けがないと日常生活を送れない程度、2級は日常生活に大きな制限を受ける程度です。
なお、自賠責保険の「後遺障害等級」と障害年金の「障害等級」は、名前が似ていますが、認定する機関も基準もまったく違います。混同しやすいので、違いを整理します。
| 比較項目 | 自賠責の後遺障害等級 | 障害年金の障害等級 |
|---|---|---|
| 認定する機関 | 損害保険料率算出機構 | 日本年金機構など(加入していた年金制度の実施機関) |
| 主な目的 | 損害賠償(慰謝料や逸失利益)の算定 | 生活保障としての年金の支給 |
| 等級の範囲 | 1級〜14級 | 1級〜3級(障害基礎年金は2級まで) |
| 評価の中心 | 体の部位ごとの障害の程度 | 日常生活や仕事への支障の程度 |
③ 保険料納付要件
障害年金は、事故の前から保険料をきちんと納めていなければ、受け取ることはできません。
納めていたかどうかは、初診日の前日の時点の状況で判断します。
原則として、初診日のある月の前々月までの加入期間のうち、加入義務が生じた時点から起算して、保険料を納めた期間と免除された期間の合計が3分の2以上あれば、納付要件を満たします。
「免除された期間」とは、収入が少ないときなどに、申請して保険料の支払いを免除してもらっていた期間のことです。未納とは違い、納付要件の計算では、納めた期間と同じように数えてもらえます。
この原則を満たさなくても、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がなければ納付要件を満たしたと認められる特例があります。この特例を使えるのは、初診日が2036年3月31日までにあり、初診日の時点で65歳未満のときです。
注意したいのは、判定の基準が「初診日の前日」である点です。事故の後にあわてて未納分を納めても、納付要件の判定には反映されません。
障害厚生年金の要件
障害厚生年金も、考え方は障害基礎年金とほぼ同じです。ただし、対象になる等級の幅が広いという違いがあります。
① 初診日要件
初診日に厚生年金の加入者であることが必要です。
会社員や公務員として働いている間に交通事故にあったときは、この要件を満たすことが多いです。厚生年金の加入者は同時に国民年金にも加入しているため、1級、2級に該当すれば、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受け取れる可能性があります。
② 障害等級
障害厚生年金には、1級、2級に加えて3級があります。
3級は、労働に大きな制限を受ける程度の障害が目安です。日常生活はある程度送れるものの、仕事に支障があるという方でも対象になる可能性があります。
さらに、3級に満たない障害でも、一定の条件を満たせば「障害手当金」という一時金を受け取れることがあります。障害基礎年金だけの方と比べて、救済の幅が広い制度です。
③ 保険料納付要件
保険料納付要件は、障害基礎年金と同じです。
初診日の前日の時点で、加入期間の3分の2以上の納付・免除があるか、直近1年間に未納がないことが求められます。厚生年金の保険料は給与から天引きされるため、会社員の期間は未納にならないのが通常です。
障害年金の後遺障害認定基準(精神障害)
障害年金には、けがや病気の種類ごとに、国の障害認定基準があります。高次脳機能障害は、主に「精神の障害」の基準で審査され、診断書も「精神の障害用」の様式を使います。
国の障害認定基準では、高次脳機能障害のように脳そのものが傷ついたことで起きる障害について、およそ次のような目安で等級を判断します。
| 等級 | 障害の程度の目安 |
|---|---|
| 1級 | 高度の認知障害や人格の変化などがあり、常に他人の援助が必要な状態 |
| 2級 | 認知障害や人格の変化などがあり、日常生活に著しい制限を受ける状態 |
| 3級 | 認知障害などにより、労働に制限を受ける状態 |
審査では、記憶障害や注意障害などの症状の内容に加えて、日常生活能力を総合的に評価します。具体的には、食事、身のまわりの清潔保持、金銭管理、対人関係、危険への対応、社会性といった項目について、どの程度自分でできるかを見ます。
就労の状況も重要な要素です。働いているから不支給、というわけではありませんが、仕事の内容や職場の配慮の有無は評価に影響します。
高次脳機能障害は、短時間の診察では症状が見えにくく、日常生活での支障などが医師に十分伝わらないことがあります。そのため、家庭での実際の様子を主治医に正しく伝えたうえで、診断書を作成してもらうことが大切です。
障害年金の後遺障害認定基準(肢体の機能の障害)
交通事故では、脳の損傷によって高次脳機能障害と手足の麻痺などが同時に残ることがあります。また、脳の損傷とは別のけがが原因で、手足や関節などに障害が残ることもあります。
このようなときは、精神の障害だけでなく、「肢体の機能の障害」としての認定もあわせて検討します。肢体の障害は、関節の動く範囲や筋力、日常生活動作がどの程度できるかを基準に評価します。
同じ脳の損傷から高次脳機能障害と麻痺の両方が生じているときは、症状を1つずつ切り分けるのではなく、全体像をみて総合的に等級を判断するのが原則です。
原因の異なる障害が複数あるときなどは、障害を併せて等級を決める「併合認定」という方法をとることもあります。どちらの場合も、精神の障害用と肢体の障害用など、複数の診断書の提出が必要になることが多いです。
複数の障害があると手続きは複雑になりますが、精神の障害だけではなく、肢体の機能の傷害を併せて申請したほうが重い等級になることがあります。どの障害で申請するか迷うときは、専門家に相談しながら進めると安心です。
障害年金の申請方法
障害年金は、必要書類をそろえて年金事務所や市区町村の窓口に提出して申請します。自動的に支給される制度ではありません。
一般的な流れ
障害年金の申請は、次の順番で進めることが多いです。
- 初診日を特定する
- 年金事務所で加入記録と納付状況を確認する
- 主治医に診断書を作成してもらう
- 「病歴・就労状況等申立書」を作成する
- 年金請求書と書類一式を窓口に提出する
① 初診日を特定する
まず、障害の原因となった傷病で初めて医師等の診療を受けた初診日を特定します。
初診から現在まで同じ病院に通っている場合は、診断書内の記載で初診日を証明できるため、別途の証明書は不要です。
初診時の病院と現在の診断書作成機関が異なる場合は、初診の病院から「受診状況等証明書」を取得します。受診状況等証明書は、障害の原因となった病気やけがで初めて受診した日を証明する書類です。
② 年金事務所で加入記録と納付状況を確認する
次に、初診日の前日時点での年金加入状況や保険料の納付状況を確認します。
最寄りの年金事務所の窓口で直接調べる方法のほか、郵送による申請や、インターネット上の専用サイト「ねんきんネット」を活用する方法があります。
③ 主治医に診断書を作成してもらう
主治医に、障害の状態に関する「診断書」の作成を依頼します。診断書は原則として障害認定日から3か月以内のものが必要です。
認定日から1年以上経過してから遡って請求する場合は、「障害認定日から3か月以内」のものと「申請前3か月以内」のものの計2枚の診断書が必要になります。
④「病歴・就労状況等申立書」を作成する
発病から現在までの病状の経過や、日常生活、就労の状況などを「病歴・就労状況等申立書」に記載します。
この書類は、医師が作成する診断書では網羅しきれない具体的な不自由さや支障を、認定医に伝える役割を担っています。
⑤ 年金請求書と書類一式を窓口に提出する
年金請求書に必要事項を記載し、診断書や病歴・就労状況等申立書などの必要書類とあわせて、年金事務所などの窓口へ提出します。
年金請求書や診断書等の必要な書類は、全国の年金事務所、街角の年金相談センター、市区町村役場、日本年金機構のホームページで入手できます。
請求書には基礎年金番号や氏名、初診日、傷病名、受取希望口座などの基本情報のほか、加算対象者の有無や、交通事故などの第三者行為によるものかといった事項を記載します。
なお、交通事故など第三者の行為が原因で障害を負った場合は、通常の書類に加えて「第三者行為事故状況届」「交通事故証明書」「確認書・同意書」「示談書など損害賠償金の内容が分かる書類」の提出も必要です。
提出後は日本年金機構で審査があり、結果が出るまで3〜4か月かかるのが一般的です。書類の準備期間も考えると、申請を思い立ってから支給開始まで半年近くかかることもあるため、早めに動き出すことをおすすめします。
申請時の注意点
障害年金を申請するときに注意したいのは、大きく次の3つです。
- 時間が経過すると初診日を証明できないことがある
- 診断書の記載が実態より軽くなってしまうことがある
- 症状の実態が伝わらないおそれがある
① 時間が経過すると初診日を証明できないことがある
1つ目は、時間がたつと初診日を証明できなくなるおそれがあることです。
初診の病院と治療を続けた病院が違うときは、初診の病院の証明書が必要になります。時間が経過しすぎて当時の医師がいなくなってしまったり、カルテの保存期間が過ぎると証明が難しくなるため、証明書は早めに取得してください。
② 診断書の記載が実態より軽くなってしまうことがある
2つ目は、診断書の記載が実態より軽くなってしまうケースがある点です。軽い内容のまま提出すると、本来より低い等級になったり、不支給になったりする可能性があります。
着替えや買い物などできなくなったことや、仕事で受けている制限、事故前と比べた変化、治療やリハビリの頻度を整理して、主治医に具体的に伝えましょう。
③ 症状の実態が伝わらないおそれがある
3つ目は、病歴・就労状況等申立書で症状の実態が伝わらないおそれがある点です。
高次脳機能障害は周囲から見えにくいため、家族が気づいた変化や失敗のエピソードをメモしておき、申立書に反映させてください。
あわせて、診断書と申立書の内容に食い違いがあると審査で不利に働くことがあるため、全体の整合性にも気を配りましょう。
障害年金と加害者への損害賠償請求の関係
交通事故の被害者は、加害者側への損害賠償請求と障害年金の申請をどちらも行えます。
ただし、同じ損害について賠償金と障害年金を二重に受け取ることはできません。障害年金と損害賠償金のどちらを先に受け取ったかによって、調整の方法が異なります。
保険会社が損害賠償金を支払う際の調整
障害年金を先に受け取ったときは、加害者側の保険会社が支払う損害賠償金から、受給済みの年金額を差し引かれることがあります。これを「損益相殺」といいます。
差し引かれる可能性があるのは、逸失利益(事故がなければ得られたはずの収入)や休業損害など、収入の減少を補うための賠償金です。働けなくなった分の収入を補うという役割が、障害年金と同じだからです。
一方、慰謝料は精神的な苦痛を償うお金、治療費は実際にかかった費用を補うお金です。障害年金とは目的が違うため、慰謝料や治療費から差し引かれることは基本的にありません。
注意したいのは、保険会社が「年金を受け取っているから」という理由で、賠償金を必要以上に低く提示してくるケースです。差し引きの範囲が適正かどうかは、示談する前に弁護士に確認することをおすすめします。
障害年金を支給する際の調整
反対に、加害者側から損害賠償金を先に受け取ったときは、年金側で調整されることがあります。
具体的には、受け取った賠償金のうち、逸失利益や休業損害といった年金と役割が重なる部分の金額に応じて、一定期間、障害年金の支給が止まります。ここでも、慰謝料や治療費にあたる部分は調整の対象になりません。
支給が調整・停止される期間は、原則として最長36か月間(3年間)と定められています。ただし、事故日や障害年金の受給権が発生した時期により具体的な計算方法が異なるため、個別での確認が必要です。
よくある質問
最後に、交通事故の高次脳機能障害における障害年金の申請について、よくいただくご質問にお答えします。
障害認定日とは?
障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。それより前に症状が固定し、治療の効果が期待できない状態になった場合は、その日が障害認定日となります。
障害年金では、障害認定日時点の障害の程度をもとに、等級や受給の可否を判断します。
なお、障害年金の障害認定日と、交通事故の示談で用いられる「症状固定」は別の制度上の考え方であり、時期が一致しないこともあります。
障害年金はいつまでに申請すればよい?
障害認定日の時点で要件を満たしていた場合、申請そのものに一律の期限はありません。認定日から何年かたって申請しても、障害認定日にさかのぼって年金を受け取れます。
ただし、時効により、さかのぼって受け取れるのは原則として申請時から過去5年分までです。申請が遅れると、それより前の分は受け取れません。
障害認定日の時点では障害が軽く、その後悪化した場合は、「事後重症」として申請できることがあります。この場合は、65歳の誕生日の前々日までに申請する必要があります。いずれの場合も、早めの申請をおすすめします。
過去に年金未納期間があっても申請できる?
過去に年金未納期間があっても、障害年金を申請できる可能性があります。
原則として、初診日のある月の前々月までの加入期間のうち、保険料を納めた期間と免除された期間を合わせて3分の2以上あれば、納付要件を満たします。
この原則を満たさなくても、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がなければ納付要件を満たしたと認められる特例もあります。ただし、初診日の後に未納分を納めても判定には反映されないため、注意してください。
障害年金が認定されるといくらもらえる?
金額は、等級、家族構成、給与などで変わります。
もらえる障害基礎年金や障害厚生年金の金額は、日本年金機構のWebサイトでご確認ください。
障害年金は一生もらえる?支給停止になるのはどんな場合?
障害年金は、必ず一生受け取れるとは限りません。一定期間ごとに障害の状態が審査され、症状が軽くなったと判断されると、等級が下がったり、支給が停止されたりすることがあります。
また、交通事故の加害者側から損害賠償金を受け取った場合は、障害年金と重なる部分について、一定期間支給が調整されることがあります。
なお、20歳前の傷病による障害基礎年金は、本人が保険料を納めていない特別な年金のため、前年の所得が一定額を超えると全額または半額が止まるなど、独自の制限があります。
障害年金の申請結果に納得ができない場合どうすればよい?
不支給や等級に不服があるときは、審査請求という不服申立てができます。決定があったことを知った日の翌日から3か月以内という期限があるため、早めに動くことが大切です。
審査請求でも認められないときは、決定書が届いた日の翌日から2か月以内に、さらに再審査請求ができます。
また、認定後に症状が悪化したときは、等級の見直しを求める額改定請求という方法もあります。
どの手続きが適切かは状況によるため、専門家への相談をおすすめします。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
交通事故による高次脳機能障害の障害年金の申請は、初診日の証明、診断書や申立書の準備など、専門的な判断が必要な場面が多くあります。
さらに、加害者への損害賠償請求との調整もからむため、示談の進め方しだいで受け取れる金額に影響が出る可能性があります。
自分のケースで申請できるか、どう進めるべきか判断に迷うときは、早めに専門家へ相談してください。
よつば総合法律事務所は、交通事故の被害者の方を数多くサポートしてきました。高次脳機能障害の後遺障害認定や損害賠償請求とあわせて、障害年金の観点からもアドバイスが可能です。お気軽にご相談ください。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博













