交通事故の民事裁判
最終更新日:2026年10月05日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の民事裁判とはどのようなものですか?
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交通事故の民事裁判は、事故による損害賠償について、裁判所に判断を求める手続きです。
被害者は加害者などに訴えを起こし、事故状況や過失割合、損害額などについて主張します。最終的には、判決や裁判上の和解などにより終了します。

目次

交通事故の民事裁判
交通事故の民事裁判は、事故で生じた損害の賠償を、裁判所に判断してもらう手続きです。
被害者が原告(訴えを起こす側)となって加害者などに損害賠償を求め、過失割合や後遺障害、賠償金の額などを争います。
まずは、示談交渉などほかの解決方法との違いを見ていきましょう。
示談交渉との違い
示談交渉は、被害者側と加害者側が話し合い、損害賠償額や支払方法を決める方法です。
双方が合意すれば比較的早く解決できますが、過失割合や賠償額などで折り合えなければ示談は成立しません。
これに対して民事裁判では、双方が合意できなくても、最終的には裁判所が判決を出して解決できます。
ただし、裁判を起こした後も話し合いはできます。裁判の途中で双方が合意し、和解によって解決することもあります。
調停やADRとの違い
示談や民事裁判のほかに、調停やADRを利用して解決する方法もあります。
民事調停とは、裁判所の調停委員会が当事者の間に入り、話し合いによる解決を目指す手続きです。
ADRとは「裁判外紛争解決手続」のことで、裁判所以外の第三者機関を利用してトラブルの解決を目指します。交通事故では、交通事故紛争処理センターが代表的です。
交通事故紛争処理センターでは、法律相談や和解のあっせん、審査を無料で利用できます。審査で示された結論(裁定)について、センターと協定を結ぶ保険会社にはその結論に従う義務があります。被害者が裁定に同意すると、和解が成立する仕組みです。
調停やADRは、裁判より負担が少ない一方、あくまで話し合いがベースです。これに対して民事裁判は、双方が合意できなくても、判決によって決着をつけられる点が異なります。
主な違いは、次のとおりです。
| 解決方法 | 特徴 |
|---|---|
| 示談交渉 | 当事者同士の話し合い。合意しないと解決しない |
| 民事調停 | 裁判所の調停委員会を介した話し合い。合意しないと解決しない |
| 交通事故紛争処理センター | 中立の弁護士があっせん。審査の裁定を保険会社は尊重する義務がある |
| 民事裁判 | 裁判所が判断。合意できなくても判決で決着する |
刑事裁判との違い
交通事故では、民事裁判とは別に刑事裁判が行われることもあります。
刑事裁判は、加害者に犯罪が成立するか、どのような刑罰を科すかを判断する手続きです。
これに対して民事裁判は、被害者が加害者などに損害賠償を求めるための手続きです。
そのため、加害者が刑事裁判で有罪になっても、被害者への損害賠償額が自動的に決まるわけではありません。損害賠償については、示談や民事裁判などで別に解決する必要があります。
民事裁判になりやすいケース
交通事故の多くは示談で解決するため、すべての事故で民事裁判をするわけではありません。
民事裁判になりやすいのは、過失割合や後遺障害、賠償金の額などについて、話し合いでは解決できないときです。事故状況について双方の言い分が大きく異なり、過失割合で争っているケースや、後遺障害の有無や程度について意見が分かれているケースなどが代表的です。
死亡事故や重い後遺障害などで損害額が大きく、保険会社の提示額と被害者側の請求額に大きな差があるときも、裁判を検討することがあります。
民事裁判の流れ
民事裁判は、裁判所に訴状を提出することから始まります。その後、双方が主張や証拠を出し、必要に応じて和解や尋問を行います。和解が成立しなければ、裁判所が判決を出します。
手続きの進み方や解決までの期間は、事件の内容によって異なります。交通事故の裁判では、和解で解決することもあれば、判決まで進んで1~2年程度かかることもあります。

- 裁判期日は複数回開かれます。
- 証人尋問とは、当事者などが裁判所で話す手続きです。行われる場合と行われない場合があります。
訴訟提起
民事裁判を始めるには、裁判所に「訴状」を提出します。訴状とは、誰に対して、いくらの支払いを求めるのか、その理由は何かなどを記載した書面です。
交通事故では、事故の日時や場所、事故状況のほか、治療費や休業損害、慰謝料など、請求する損害の内容を整理して記載します。
また、裁判を起こす裁判所は、請求する金額などによって異なります。請求額が140万円以下であれば原則として簡易裁判所、140万円を超えるときは地方裁判所が「第一審」の裁判所となります。第一審とは、その事件について最初に審理し、判断する裁判所のことです。
どの地域の裁判所に訴えるかは、被害者や加害者の住所地、事故が起きた場所などをもとに決まります。
口頭弁論
訴状を提出して裁判が始まると、被害者側と加害者側がそれぞれの主張と証拠を裁判所に提出します。
「口頭弁論」とは、裁判所で双方の主張や証拠を確認しながら審理を進める手続きです。実際の裁判では、事前に提出した書面をもとに主張を確認していきます。
裁判所は、双方の言い分を確認しながら「どの点について意見が食い違っているのか」「判断するためにどの証拠が必要なのか」を整理します。このように、裁判で判断する必要があるポイントを「争点」といいます。
和解
民事裁判を起こしても、必ず判決まで進むわけではありません。裁判の途中で、裁判所を通じて話し合い、和解によって解決することもあります。
裁判の途中で双方が解決内容について合意することを「裁判上の和解」といいます。裁判上の和解が成立すると裁判はそこで終了し、合意した内容には確定判決と同じ効力が生じます。
そのため、相手が和解で決めた賠償金を支払わないときは、財産を差し押さえるなどの強制執行を申し立てることもできます。
和解に応じるか、それとも判決まで進むかは、提示された和解内容だけでなく、証拠の状況や判決の見通し、解決までにかかる時間なども踏まえて判断しましょう。
尋問
和解が成立せず、事故状況などの事実関係について双方の言い分が食い違っているときは、尋問を行うことがあります。
尋問とは、被害者や加害者、事故を見ていた人などが裁判所で質問に答え、事故状況などを説明する手続きです。被害者や加害者本人に質問するものを「当事者尋問」、目撃者などの証人に質問するものを「証人尋問」といいます。
ただし、すべての交通事故裁判で尋問を行うわけではありません。書面や資料などから判断できるときは、尋問をせずに和解や判決に進むこともあります。
判決
最終的には、裁判所が判決を出します。
「判決」とは、双方の主張や証拠をもとに、裁判所が最終的な判断を示すものです。
交通事故の裁判では、加害者側に賠償責任があるか、過失割合をどのようにするか、どの損害をいくら認めるかなどを裁判所が判断します。
被害者が請求した金額が、そのまま全額認められるとは限りません。そのため、裁判を起こす前に、証拠の内容などからどの程度の請求が認められそうかを検討することが重要です。
控訴・上告
第一審の判決に納得できないときは、「控訴」という手続きで、上級の裁判所にもう一度判断を求めることができます。
たとえば、地方裁判所が第一審であれば高等裁判所に、簡易裁判所が第一審であれば地方裁判所に控訴します。控訴できる期間は、原則として判決書が手元に届いた日(送達を受けた日)の翌日から2週間以内です。
さらに、控訴審の判決に不服があるときの手続きが「上告」です。ただし、上告できる理由は法律で限定されているため、控訴と比べて利用できる場面は限られます。
控訴や上告には期限があるため、判決の内容に納得できないときは、早めに対応する必要があります。
民事裁判のメリット
ここでは、交通事故で民事裁判をする主なメリットを見ていきましょう。
裁判官に判断をしてもらえる
示談では、相手が合意しなければ解決できません。これに対して民事裁判では、双方の主張や証拠をもとに裁判官が判断するため、相手が合意しなくても、判決によって争いに決着をつけることができます。
さらに、裁判官が判断することは、賠償額の面でもメリットになります。示談より有利な金額で解決できる可能性があるためです。
その理由の一つが「裁判基準」です。裁判基準とは、過去の裁判例などをもとに、裁判で損害額を判断するときに用いる基準です。
一方、保険会社は、示談交渉で「任意保険基準」という独自の基準を用いることがあり、提示額が裁判基準で算定した金額より低くなることがあります。さらに、裁判基準をもとに示談交渉をしていても、早期解決のために、裁判基準で算定した金額から一定程度減額して合意することも少なくありません。
これに対して民事裁判では、このような早期解決のための減額をせず、裁判基準100%の金額で解決できる可能性が高まります。
ただし、裁判を起こせば必ず裁判基準100%の金額が認められるわけではなく、個別の事情や証拠をもとに裁判所が判断します。
弁護士費用相当額を請求できる
交通事故の損害賠償請求では、裁判で請求が認められたときに、弁護士費用の一部が損害として認められることがあります。
実務上は、過失相殺やすでに支払われた金額などを反映した、裁判で認められた賠償額(認容額)の10%程度が目安となります。ただし、必ず10%が認められるわけではなく、事案の内容や認められた損害額によって異なります。
そのため、実際に弁護士へ支払う費用の全額を、相手に請求できるわけではありません。
遅延損害金を請求できる
交通事故の損害賠償では、賠償金そのものに加えて、事故日からの遅延損害金を請求できます。<
遅延損害金とは、損害賠償金の支払いが遅れていることに対して加算されるお金です。
2020年4月1日以降に発生した交通事故では、法定利率は原則として年3%です。
適用される利率は事故が起きた時期によって異なるため、具体的な遅延損害金を計算するときは、事故日を確認する必要があります。
民事裁判のデメリット
一方、民事裁判にはデメリットもあります。裁判を起こせば必ず示談より有利になるわけではありません。裁判をする前に、予想される結果と負担を比較することが大切です。
時間がかかる
裁判は、示談交渉より解決までに時間がかかります。
訴状を提出した後も、双方が主張や証拠を提出し、争点を整理します。必要に応じて和解協議や尋問も行うためです。
争点が少なければ比較的早く終わることもありますが、過失割合や後遺障害、損害額など複数の争いがあると、1~2年以上かかることもあります。
示談交渉時から金額が下がるリスク
裁判をしても、示談交渉で提示されていた金額以上の賠償金を必ず受け取れるわけではありません。
裁判所は、被害者側と加害者側の主張や証拠を改めて確認して損害額を判断します。
たとえば、被害者にも過失があると判断されれば、過失相殺によって賠償額が減ります。証拠が不十分で、一部の損害が認められないこともあります。
その結果、示談交渉時の提示額より、最終的な受取額が少なくなる可能性もあります。
裁判所に納める費用(印紙代)
民事裁判を起こすには、裁判所へ手数料を納める必要があります。
訴状に収入印紙を貼って納めるため、一般に「印紙代」と呼ばれています。金額は、裁判で請求する金額によって変わります。たとえば、請求額が300万円なら2万円、1000万円なら5万円です。
くわしい金額は、裁判所のWebサイトで確認できます。
このほか、郵便料などの費用もかかります。弁護士に依頼するときの弁護士費用は、裁判所へ納める訴訟費用とは別に支払わなければなりません。
よくある質問
最後に、交通事故の民事裁判についてよくいただくご質問にお答えします。
民事裁判になったら裁判所に行く必要はある?
弁護士に依頼している場合、被害者本人が毎回裁判所へ行く必要はありません。通常の裁判手続きは、弁護士が代わりに対応できます。
ただし、被害者本人の尋問を行うときなどは、裁判所への出席が必要になることがあります。
加害者は法廷に来る?
加害者本人が毎回裁判所に来ることは通常ありません。加害者が任意保険に加入しているときは、保険会社を通じて加害者側に弁護士がつき、その弁護士が裁判に対応することが一般的です。
ただし、事故状況などについて加害者本人から話を聞く必要があるときは、加害者が裁判所に出席し、尋問で質問に答えることがあります。
保険会社が訴えてくることもある?
交通事故では、被害者側から裁判を起こすだけでなく、加害者側から裁判を起こされることもあります。
たとえば、示談がまとまらないときに、加害者側から「これ以上の損害賠償を支払う義務はない」などと裁判所に確認を求めることがあります。
裁判所から訴状が届いたときは、放置せず、誰がどのような内容を求めているのかを確認して対応しましょう。
弁護士費用や裁判所に納める費用(印紙代)を相手に全額請求できる?
弁護士費用をそのまま全額、相手に請求できるわけではありません。ただし、交通事故の裁判では、損害賠償請求が認められた場合、その一部が弁護士費用相当額として損害に上乗せされることがあります。
印紙代などの訴訟費用は、敗訴した側が負担するルールとなっていますが、精算手続きが複雑であるため、事実上は支払った当事者の自己負担となることが多いです。
裁判手続き中も時効期間は進む?
裁判を起こすと、その裁判が続いている間は、原則として時効は完成しません。これを「時効の完成猶予」といいます。つまり、裁判をしている間に時効を迎え、損害賠償を請求できなくなることは原則としてありません。
その後、確定判決や裁判上の和解などによって損害賠償を受ける権利が確定すると、裁判手続きが終わったときから時効期間が新たに進み始めます。これを「時効の更新」といいます。
一方、訴えを取り下げた場合など、権利が確定しないまま裁判が終わったときは、裁判が終わった後も6か月間は時効が完成しません。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
交通事故の民事裁判は、示談などで解決できない損害賠償の問題について、裁判所に判断を求める手続きです。
相手と合意できなくても、判決によって解決できるのが裁判の強みです。一方で、時間や費用がかかり、希望する金額が必ず認められるとも限りません。
示談を続けるか、ADRを利用するか、裁判を起こすかは、事故の内容や証拠、相手の提示額などを踏まえて判断することが大切です。
よつば総合法律事務所では、交通事故の被害者やご家族からのご相談を受け付けています。交通事故の民事裁判でお悩みのときは、お気軽にご相談ください。

- 監修者
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弁護士 粟津 正博













