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交通事故知識ガイド神経系統の機能又は精神の障害

交通事故における頭部外傷その3

【交通事故における頭部外傷】その3 傷病名

自賠責保険において高次脳機能障害として認定がされるためには、脳の器質的損傷の存在が前提となります。したがいまして、頭部外傷を示す傷病名が診断書に記載されていることが要件になるといえます。

  1. ①脳挫傷
  2. ②急性硬膜外血腫
  3. ③前頭骨陥没骨折、外傷性てんかん
  4. ④びまん性軸索損傷
  5. ⑤対側損傷
  6. ⑥外傷性くも膜下出血
  7. ⑦外傷性脳室内出血
  8. ⑧急性硬膜下血腫
  9. ⑨慢性硬膜下血腫
  10. ⑩脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷の合併例

①脳挫傷

頭部外傷を示す傷病名の1つが、脳挫傷です。
脳挫傷とは、強い衝撃により頭蓋骨内部で脳が衝撃を受けて脳本体に損傷を生じる病態です。局所の脳組織が挫滅し、そこからの小出血や浮腫が生じます。

下のCT画像では、中央部右側に白い○状の形があるのが読み取れます。これが脳挫傷が生じた部分です。
これは、バイクを運転していたところ、自動車と出合い頭で衝突した方のものでして、左顔面部を強打し、左下顎骨骨折、左頬骨骨折となり、左下からの突き上げる衝撃で、左側頭葉に局在性の脳挫傷を来したものです。
脳挫傷

下のCT画像は、自転車に乗っていたところ、軽自動車と出合い頭で衝突した方のものでして、左側頭部を骨折し、その衝撃により、打撲部位の直下の脳組織が挫滅を来したものです。 これも、局在性の脳挫傷となります。

脳挫傷
上の頭蓋骨は、CTの3D画像で骨折線が確認できます。

脳挫傷

②急性硬膜外血腫

急性硬膜外血腫も、頭部外傷を示す傷病名の1つです。
急性硬膜外血腫は、頭蓋骨と硬膜の間に出血がたまって血腫になったものです。通常、頭部外傷に伴う頭蓋骨骨折に合併します。
硬膜の外側にある硬膜動脈が、頭蓋骨骨折に伴って損傷して出血し、硬膜と頭蓋骨の間にたまって硬膜外血腫になります。
画像左側に凸レンズ状に白く広がっているのが急性硬膜外血腫です。

急性硬膜外血腫
急性硬膜外血腫

③前頭骨陥没骨折、外傷性てんかん

前頭骨陥没骨折、外傷性てんかん

頭部外傷を受けた場合に、数か月から数年の間に突然発作が繰り返して現れてしまうことがあります。
このようなタイプのてんかんを外傷性てんかんといいます。

頭蓋骨骨折、脳挫傷の被害者には、外傷性てんかんの予防的措置として、一定期間、抗痙攣剤が投与されています。その結果、外傷性てんかんが発生することはほとんどありません。

しかし、頭蓋骨陥没骨折の傷害を負ったときは、高確率で外傷性てんかんが発生するようです。
外傷によって脳の実質部に残った瘢痕を除去するためには、手術によって摘出するほかありません。
この瘢痕部が時間をかけて、過剰興奮してしまうようになり、外傷性てんかんが発症するものと考えられています。

発作を繰り返すことにより、周辺の正常な脳神経細胞も傷つき、性格変化や知能低下の精神障害を来し、高度になると痴呆・人格崩壊に至ります。

この障害はとても深刻ですが、治療は、抗てんかん薬の投与が一般的です。
投薬で発作を抑えられないケースでは、発作焦点となっている脳の部分切除がなされますが、このケースでも、術後は長期にわたる薬物療法が続けられます。
投薬を続けながら、てんかんを示すスパイク波・鋭波が消失していくのを待ちます。消失したかどうかは、脳波の検査により確認します。
抗てんかん剤を内服中の女性は妊娠を避ける必要があります。

④びまん性軸索損傷

頭部に衝撃が加わり、その衝撃が脳に対する回転力として伝わることがあります。その場合、脳深部は脳表部より遅れて回転し、脳がいわばねじれてしまう状態になります。
その結果、脳の神経線維(軸索)が強く引っ張られ、広範囲に損傷した状態になります。ヘルメットを着用したオートバイ事故で、頭部に直接の打撲がない場合でも、強く脳が揺れることにより起こりえます。

びまん性軸索損傷では、相当に深刻な後遺障害が予想されます。

びまん性軸索損傷

上の図は、頭頂部から頭蓋底に至る24枚のMRI画像の内の6枚目に映し出されたもので、前頭葉、両側頭葉に黒い点がいくつか映っているのが分かります。これは、脳表面の広範囲に広がる点状出血が画像として映ったものでして、びまん性軸索損傷があることを示します。
この画像は、症状固定段階で、T2スター強調のMRIの撮影を行ったものです。

点状出血を矢印で示したものが下の画像です。

脳外傷

脳外傷は、局所性脳損傷とびまん性脳損傷に大きく分けられます。

局所性脳損傷は、脳の限られた部位に生じるもので、たとえば、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血などがあります。
これらも重傷であることには違いありません。とはいえ、局所性脳損傷においては、挫滅した部分の脳の機能のみが失われることから、重篤な後遺障害、認知障害を残すことは、一般的には、びまん性脳損傷よりは少ないといえます。
一方、びまん性脳損傷は、脳全体に損傷が生じるものをいいます。

上の画像の件では、被害者はフルフェイスのヘルメットを装用しており、頭蓋骨骨折や脳挫傷はありませんでした。
しかし、上記の画像で認められる広範囲の点状出血に伴う軸索の損傷があり、遂行機能障害、失語、記憶、聴覚や嗅覚、言語理解、認知の領域で、脳は大部分の機能を喪失していました。

びまん性軸索損傷では、6時間以上持続する意識消失を起こします。
脳神経外科の臨床では、頭部外傷のうち、受傷直後から6時間を超える意識消失が認められるときは、びまん性軸索損傷と診断がなされています。脳の表面に大きく広がる点状出血は、CTやMRIで捉えられないことが多く、通常は、明らかな脳組織の挫滅、脳挫傷や血腫が認められないものの、意識喪失の原因を、脳の細胞レベルの損傷が広範囲に生じたためと推定して、びまん性軸索損傷と診断するという取り扱われ方がなされています。

受傷直後のCTやMRI画像では、一見正常のように見えることもあります。しかし、精度の高いMRI撮影が行われていれば、微小な点状出血や浮腫が確認できることも多いです。
ところが、受傷から時間の経っていない時期にこうした撮影が行われているとは限りません。受傷から三、四週間が経過したときは、損傷所見が消失することもあり、こうなってからMRIを行っても、有意な画像所見が得られません。

それでも、等級の認定の場面では、画像所見が求められます(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」と題する報告書には、「MRI、CT等によりその存在が認められることが必要である。」と明確に記載されています。)。
そのような場合でも、症状固定段階のT2スター強調のMRI画像を撮っておくことで対応できる場合もあります。

⑤対側損傷

頭部外傷では、衝撃が加わった部位と反対側の部位に脳挫傷や脳内出血などの脳損傷を発症することがあります。これは、対側損傷と呼ばれています。
対側損傷

対側損傷

頭部に強い衝撃が加わったとき、脳は強い力で一方に進行し、頭蓋骨内面に衝突します。その反動で脳が反対方向に引き戻され、対側の頭蓋骨に衝突して損傷するというメカニズムです。(直撃損傷。)
直撃損傷に加え、打撃部の反対側は、陰圧(圧力が低くなる状態)を生じて脳と骨との間が空洞化し、気泡が形成された後に元の圧力に戻る際、気泡が破裂して脳挫傷を生ずるというということもあります。このようにして衝撃を受けた部位と反対側の部位に生ずる脳損傷を、対側損傷(反衝損傷、反動損傷ともいいます。)を発生させることがあります。
後頭部に衝撃が加わったときは、後頭部よりむしろ前頭葉や側頭葉に対側損傷による脳損傷が生じやすいです。

上のCTは、前頭葉左側部の頭蓋骨骨折と脳挫傷の合併症ですが、対側損傷が発生し、対角線上の右後頭部に脳挫傷を発症しています。
対側損傷が生じるときのメカニズムは上記のとおりですが、その中間部位では外力が不均衡に伝わる結果、びまん性軸索損傷を伴うことも多いです。したがいまして、対側損傷の所見があり、かつ、重度な意識障害のあるときは、びまん性軸索損傷が疑われます。早期に精度の高いMRIを用いた撮影を行いたいところです。

⑥外傷性くも膜下出血

くも膜と軟膜(脳表面)の間に出血が広がったものを、くも膜下出血と言います。
通常脳脊髄液が満たしている箇所に、出血が生じます。

くも膜下出血というと、脳動脈瘤の破裂により起こるものだというイメージがあるかもしれません。
そこで、外傷を原因とするものは、外傷性くも膜下出血と診断されています。
外傷性くも膜下出血

外傷性くも膜下出血
外傷性くも膜下出血

通常は、脳挫傷からの出血がクモ膜と軟膜との間にひろがって、くも膜下出血の状態になります。
少量のくも膜下出血が、びまん性軸索損傷により生じることもあります。脳挫傷の所見がないのにくも膜下に出血が生じていることが確認されるときは、びまん性軸索損傷が生じている可能性があります。
くも膜下出血を手術で取り除く効果はほとんどないため、手術は通常、行われません。出血は自然に吸収されます。
予後の程度は、合併する脳挫傷やびまん性軸策損傷の有無と程度によります。
脳脊髄液の流れが滞って、あとから脳室が拡大して周囲の脳を圧迫する外傷性正常圧水頭症をきたすことも予想されます。

⑦外傷性脳室内出血

外傷性脳室内出血

外傷性脳室内出血とは、外傷によって、脳の中心部にある脳室と呼ばれる空洞に出血が生じたものをいいます。脳が外傷によって脳室の壁が損傷を受け、そこからの出血が脳室内にたまるものです。

普段、脳室は脳脊髄液で満たされており、その脳脊髄液はいくつかの脳室を順に流れていきます。
脳室と脳室の間は非常に狭い孔や通路でつながっているのですが、脳室内出血によって脳脊髄液の通り道が詰まってしまうと、脳室が急速に拡大して、周囲の脳を圧迫します。(これを急性水頭症といいます。)また、徐々に流れが滞り、脳室が大きくなることもあります。(これを正常圧水頭症といいます。)
脳挫傷に伴って脳室の壁が損傷を受けたとき、そこからの出血が脳室内にたまって脳室内出血に至ります。

急性水頭症では、脳室が拡大して頭蓋骨の内側の圧力が高まり、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。
さらに、脳室の拡大による圧迫が脳ヘルニアの状態にまで進行すると、深部にある脳幹が侵されて呼吸障害などを生じ、最悪の場合には死に至ります。

急性水頭症に対しては、局所麻酔をかけて頭蓋骨に小さな孔をあけ、脳室にチューブを挿入し、脳脊髄液とともに、脳室内の出血を取り除く脳室ドレナージ術が、緊急に行われます。
上記の画像の中央部に白く細長い像がありますが、これは、脳室内出血を抜き取るためのドレインチューブが映ったものです。

⑧急性硬膜下血腫

CT画像
急性硬膜下血腫-CT画像

MRI画像
急性硬膜下血腫-MRI画像

三日月型の急性硬膜下血腫

上の画像は、巨大な三日月型の急性硬膜下血腫です。

急性硬膜下血腫とは、頭蓋骨のすぐ内側で脳を覆っている硬膜と、脳の間に出血がたまって血腫となったものです。
脳挫傷が生じ、そこからの出血が脳の表面と硬膜の間に流れ込み、短時間のうちにゼリー状に固まって、脳を圧迫します。これが急性硬膜下血腫となります。
脳挫傷の局所の反対側の部位に急性硬膜下血腫が認められることも、多数例あります。

血腫による圧迫と脳挫傷のため、頭蓋内圧力が亢進すると、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。血腫による圧迫によって脳ヘルニア状態にまで進行し、深部にある脳幹が侵されて呼吸障害などを生じるようになると、最悪の場合には死に至ります。

「重症頭部外傷治療・管理のガイドライン」では、血腫の厚さが1センチメートル以上あり、明らかな圧迫所見があるもの、血腫による神経症状を呈するものについては、緊急開頭血腫除去手術を行うのが望ましいとされています。

受傷当初は意識障害がない例でも、一旦意識障害が発現するとその後は急激に悪化することが多く、予後はきわめて不良です。

⑨慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後慢性期(通常1~2か月後)に、頭蓋骨のすぐ内側で脳を覆っている硬膜と脳との間に血(血腫)が貯まり、血腫が脳を圧迫するものです。全く異常がなかったのに、だんだん痛みだし、片麻痺、意識障害が徐々に出現・進行してきたり、認知症に似た症状が発生したりします。

高齢の男性に多く、好発部位は前頭、側頭、頭頂部です。右か左かの一側性の血腫が大半です。ときには両側性のこともあります。
上記のCTでは、両側に慢性硬膜下血腫が認められています。

頭部打撲をきっかけにして、硬膜と脳との間に少量の出血が起こり、これに脳脊髄液が混ざって血液の量が増えていきます。その反応でつくられる膜から少しずつ出血が繰り返され、血腫が大きくなると考えられています。

受傷直後は、出血は微量にとどまっていて、CTで確認することはできません。
血腫によって脳が圧迫されると、症状が出現し、このときはCTで確認できます。
慢性の血腫では血液濃度が薄いときがあり、CTでは灰色=等吸収域、黒色=低吸収域で映ることもあります。もちろん、MRIも診断に有用です。

外傷後、無症状の期間を経て、3週間~数か月以内に発症します。
症状は年代によってかなり差がみられ、若年者では、頭痛、嘔吐を中心とした頭蓋内圧亢進症状、片麻痺、失語症を中心とした神経症状がみられます。
一方、高齢者では、潜在する脳萎縮により頭蓋内圧亢進症状は少なく、痴呆などの精神症状、失禁、片麻痺による歩行障害などが主な症状です。

呆けだけを発症する慢性硬膜下血腫もあり、事故後、急な呆け症状が見られたときは、慢性硬膜下血腫を疑うことも重要です。(この呆け症状は、治療可能な痴呆症です。)

また、急激な意識障害、片麻痺を発症し、さらには、脳ヘルニアで生命に危険を及ぼす急性増悪型慢性硬膜下血腫も存在します。このときは脳出血・脳梗塞と似た症状になります。

症状より壮年~老年期の男性で頭痛、片麻痺、歩行障害や上肢の脱力、記銘力低下、意欲減退、見当識障害、痴呆の精神症状が徐々に進行するときは、慢性硬膜下血腫を疑うことが必要です。
高齢者などでは、老人性痴呆、脳梗塞として診断されることが少なくありません。
もちろん成人でも、男女を問わず、頭部外傷後数週間を経過してから前述の症状が見られたときは、慢性硬膜下血腫を疑うべきです。
画像診断を確実にするには、CTあるいはMRIが有効です。

治療は、血腫が少量で症状も軽いときは、自然吸収を期待して経過観察とすることもありますが、通常は局所麻酔下の手術が行われます。
慢性の血腫はさらさらした液状のため、大きく開頭しなくても小さな孔から取り除くことができます。

意識障害を伴う重篤な症状であるときは、緊急手術が行われます。後遺障害を残すこともあります。

⑩脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷の合併例

脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷
脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷
脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷
脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷

傷病名だけで絶望的になってしまうような感じがしますね。

外傷による局所の脳組織の挫滅・衝撃により組織が砕けるような損傷が生じます。それが脳挫傷です。
脳挫傷からの出血が脳の表面(脳表)と硬膜の間にたまると急性硬膜下血腫、さらに硬膜の内側にある薄いくも膜と脳の間に出血が広がっていくと外傷性くも膜下出血となります。
脳表面の広い範囲に点状出血が認められます。これはびまん性軸索損傷まで生じていることを示します。相当の重症例です。