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交通事故知識ガイドせき柱及びその他の体幹骨

脊椎の圧迫骨折

せき柱その2 脊椎の圧迫骨折

脊椎圧迫骨折とは、背骨(脊椎の椎骨)が、押し潰されるように変形する骨折です。骨折とはいうものの、折れるというよりは潰れるという表現のほうが近いです。

交通事故では、自動車が横転したり転落したりしたときなどや、バイクや自転車が転倒したときなどに伴い、尻もちをついたときに発生するのが典型です。

椎骨に縦方向の直達外力が加わり、その外力に耐えきれずに押し潰されて圧迫骨折が生じます。

右の画像は側面から撮影したレントゲン写真です。脊椎の椎体前方がくさび形に変形しているのが分かります。

このように潰れる箇所が椎体前方だけにとどまることもありますが、椎体が全体的につぶれて不安定になり、後方に突出して脊髄の通り道(脊柱管)に影響を及ぼしてしまって下肢の痺れや麻痺に至ることもあります。これは脊髄損傷と呼ばれます。

脊椎(側面)レントゲン

骨粗鬆症が進んでいる方ですと、重い物を持ち上げたりくしゃみをしたりして生じることもあります。転倒などのきっかけがなく徐々に発症することもあります。
このように、骨粗鬆症の方は骨折しやすい状態にありまして、軽微な追突事故の被害に遭ったときでも、その衝撃で、胸椎や胸椎と腰椎の移行部で圧迫骨折を発症することがあります。

このような場合、損害賠償の場面では、素因減額が問題になってきます。骨粗鬆症が年齢相応のものだったか、それを超えて進行していたものだったかが問題になります。
なお、いくつもの場所に多発的に椎体の圧迫骨折が生じると身長が低くなったり背中が丸くなったりします。(円背。)高齢の方に多くみられます。(老人性円背。)

治療は、麻痺が起こっておらず、骨折部が安定していて遅発性の麻痺のおそれもないときは、保存的治療がされます。入院してギプスやコルセットで固定して安静に過ごし、疼痛軽減や骨の形成を図ります。やがて骨は形成し、疼痛も和らいできます。
骨折部位が不安定なときや、椎体の圧迫骨折の程度が大きくて骨片が椎体の後方の脊髄や神経根を圧迫していて、痛みや痺れが発生していたり、上肢や下肢の感覚が失われていたり、力が入らなくなったりしているときなどは、手術が行われます。手術の目的は、神経組織に対する圧迫を取り除くことだったり、不安定な椎骨を固定することだったりします。
上肢や下肢に麻痺が残ったときは、装具の装用や、リハビリ治療で改善を目指します。

数か月を経過しても疼痛が緩和しないときは、人工骨や骨セメントを骨折部へ注入する治療が行われることもあります。(経皮的椎体形成術。)これは、潰れてしまった椎体を、骨折前の形に近づけることによってその部位を安定させ、疼痛を和らげることを目的として行われます。日本では、平成22年までは自費診療でしか行うことができませんでしたが、平成23年1月から、公的保険の適用対象にもなりました。

人工骨や骨セメントの注入

  1. ①皮膚から針を挿入して骨折部分にバルーンを挿入する。
  2. ②バルーンを膨らませることにより、骨折した椎体の形をできるだけ回復する。
  3. ③風船を抜き、そのあとにできた空間に骨セメントを充填する。

交通事故により圧迫骨折が起こり、麻痺や痺れといった神経症状が生じた若年の被害者に対しては、椎体固定術が行われることが多いようです。圧迫骨折に隣接する上下の椎体をねじで固定する手術です。手術後は、ねじが緩むなどしてはいけませんので、硬性コルセットを装着して生活する必要があります。

脊柱の圧迫骨折における後遺障害のポイント

1)圧迫骨折を脊柱の変形と捉えます。

脊柱の障害・変形障害
6級5号 脊柱に著しい変形を残すもの
8級2号に準じる 脊柱に中程度の変形を残すもの
11級7号 脊柱に変形を残すもの

脊柱の変形障害については、

  1. ①脊柱に著しい変形を残すもの
  2. ②脊柱に中程度の変形を残すもの
  3. ③脊柱に変形を残すもの

この3段階で等級を認定することとされています。

このうち、「脊柱に変形を残すもの(11級7号)」は、次のいずれかに該当するものです。

  • a 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン写真等により確認できるもの
  • b 脊椎固定術が行われたもの(ただし、移植した骨がいずれかの脊椎に吸収された場合は除きます。)
  • c 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

ここで、運動障害についても述べておきますと、むち打ち損傷において、頚部や腰部の可動域制限が生じることがあります。レントゲン写真等で圧迫骨折が認められず、固定術を行ったわけでもなく、周辺の軟部組織に器質的な変化があることが画像上確認できないときは、こうした可動域制限が後遺障害として認定されることはありません。(局部の神経症状と捉えられることはありえますが、これは別の問題です。)

2)圧迫骨折の程度(11級)

どの程度の圧迫骨折が残れば「脊柱に変形を残すもの(11級7号)」に当たると判断するのかについて、公表された基準がないのが実情です。 ほんの少し椎体前方がへこんだものも、圧迫骨折であることには違いませんが、損害賠償の世界では、後遺障害と扱われないことも事実です。

そこで、「椎体骨折評価基準」を参考にしてみます。日本骨形態計測学会・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本医学放射線学会・日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会・日本骨折治療学会による椎体骨折評価委員会は、「椎体骨折評価基準」を定めています。最新のものは「椎体骨折評価基準(2012年度改訂版)」です。

それによると、次のいずれかの場合を椎体骨折と判定することとしています。

  • a  A/Pが0.75未満
  • b  C/A、C/Pのいずれかが0.8未満
  • c  椎体の高さが全体的に減少する場合(扁平椎といいます。)は、上位または下位の椎骨と比較し、A、C、Pがいずれも20パーセント以上減少しているとき

椎体骨折の形状

椎体骨折の形状には、椎体の前縁の高さが減少する楔状椎、椎体の中央がへこむ魚椎、椎体の全体にわたって高さが減少する扁平椎の3つがあります。
外傷性の圧迫骨折は、大多数が楔状椎変形です。そうすると、上記のaが問題になります。椎体骨折評価基準によると、A/Pが0.75未満のとき(言い換えると、前方椎体高が25パーセント以上減少したとき)、椎体骨折と判定されることになります。

なお、椎体骨折があったとして、その評価は、次のとおりとされています。

椎体骨折の評価

前記椎体骨折評価基準によると椎体骨折と判定されるものなのに、自賠責では後遺障害に当たらないと判断されるということは、常識的にないといえるでしょう。
そうすると、前方椎体高が25パーセント以上減少したもの(A/Pが0.75未満のもの)は、「脊柱に変形を残すもの(11級7号)」に当たると認定されることになると考えられます。

3)圧迫骨折は、新鮮例のものか、陳旧性のものか

普段の生活で尻もちをついただけでも圧迫骨折が生じることがあります。さらに、骨粗鬆症を患っている方ですと、勢いよく椅子に腰かけたという程度や、場合によっては特に何のきっかけもなく発生することがあります。

そこで、圧迫骨折の所見があるとき、それが新鮮な骨折か、それとも陳旧性のものかが問題になります。事故後まもなく撮影された画像に圧迫骨折の所見があっても、それが陳旧性のものであれば、事故によって生じたものではない(事故前から圧迫骨折が存在していた。)ということになります。

したがいまして、陳旧性の圧迫骨折であると判断されれば、圧迫骨折が生じたことによる後遺障害は非該当ということになります。

新鮮な圧迫骨折のMRIでは、椎体付近に出血があるため、他の椎体と違う濃度で描出されます。
一方、圧迫骨折が陳旧化すると、椎体付近が出血している状態は収まりますので、椎体付近に水分がある所見が出ません。
このことから、元からあった陳旧性骨折なのか新鮮骨折なのかの判定を、受傷直後のMRI画像から行うことができます。例を挙げます。

第11胸椎圧迫骨折のMRI画像

上の画像は、62歳女性の第11胸椎圧迫骨折のMRI画像です。左のT1強調画像では、黒く映っており、右のT2強調画像では、圧迫骨折部位周辺の一部が白く映っています。
このことを専門的には、「T1強調において低輝度で、T2強調において高輝度である。」などと表現します。
これは、圧迫骨折部位の周辺に出血や浮腫があることを示しており、したがって新鮮例であると判断されます。
圧迫骨折の所見があったときは、受傷直後のMRI撮影を行っておき、新鮮なものか陳旧性のものかを明らかにしておく必要があります。