環軸椎脱臼・亜脱臼
環軸椎脱臼・亜脱臼
首の骨は7本あるとよく言われます。7本の骨とは、具体的には椎骨です。頚椎は7個の椎骨から構成されており、その中でも1番上にあるC1(環椎ともよばれます。)及び上から2番目にあるC2(軸椎とも呼ばれます。)は、独特な形状をしています。
軸椎には歯突起と呼ばれる上方へ隆起している部分があり、環椎と結合して環軸関節を構成しています。歯突起は環軸の輪の中に入り込んで靭帯に囲まれて、回転運動の軸となり、頸部が左右に回ることができるようになっています。
環椎と軸椎との間には椎間板がありません。軸椎以下の頸椎は、椎間板という軟骨によって連結されています。このことが、頸部の伸展動作や屈曲動作に役立っています。
環軸関節の位置は、正面からみると、口の辺りの高さに位置しています。 環椎はその上にある頭蓋骨を支えています。環椎は英語でatlasといいますが、これは、頭蓋骨を支える環椎を、天空を支えたとされるギリシア神話の巨人アトラスにたとえたのが由来です。
交通事故では、後頭部方向から大きな外力が加わり、過屈曲が強制されることで、軸椎の歯突起が骨折し、環軸椎亜脱臼・脱臼が発生することがあります。
転位(ずれ)が高度で環軸関節が完全にはずれてしまったものを環軸椎脱臼といい、はずれかかった状態を環軸椎亜脱臼といいます。
この部位は脊柱管の太さに余裕があるのですが、転位の程度が大きいときには、脊柱管の中を走行する脊髄が圧迫を受けたり損傷したりすることがあります。脊髄が圧迫を受けたときの症状としては、手足の運動麻痺、感覚異常、呼吸障害、排尿障害・排便障害などがあります。頸椎の側方を走行する椎骨動脈が圧迫され、脳への血流障害が生じてめまいが起きることもあります。
環軸椎亜脱臼に対しては、保存療法として、ソフトカラーやフィラデルフィアカラーといった頸椎カラーによる固定がなされています。万が一脊髄症状があることを示す重症例では、手術により脊髄圧迫状態を解消することが必要です。現在では、スクリューにより固定する手術が行われています。
環軸椎脱臼・亜脱臼における後遺障害のポイント
後遺障害は、脊柱の変形障害、脊柱の運動障害、神経系統の機能障害の3つの視点が必要です。
①脊柱の変形障害
環椎または軸椎の変形・固定(環椎と軸椎との固定術が行われた場合を含みます。)により、次のいずれかに該当するものは、8級2号に準ずる「脊柱に中程度の変形を残すもの」となります。
- A 60度以上の回旋位となっているもの
- B 50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの
- C 側屈位となっており、レントゲン、MRIまたはCTの画像により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
この内、AおよびBについては、軸椎以下の脊柱を可動させず、当該被害者にとっての自然な肢位で、回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定します。
②脊柱の運動障害
頭蓋・上位頸椎間に著しい異常可動性が生じたものは、8級2号「脊柱に運動障害を残すもの」となります。
③神経系統の機能障害
軸椎の脱臼骨折が発生し、その後固定術が実施されたとき、その目的は、脊髄損傷を最小限にとどめることにあったと考えるのが通常です。
手術により脊髄を開放しても、脊髄は一度損傷したことから、脊髄症状が残ることがあります。固定術後の被害者に、上肢や下肢の麻痺、痺れ、疼痛や排尿障害など、重い脊髄症状が残存していれば、神経系統の機能障害での等級認定を考慮しなければなりません。
9級10号、7級4号、5級2号が考えられます。残った障害の程度によります。膀胱機能障害は、併合の対象となります。 その立証は、「脊椎の破裂骨折」にお書きしたとおりです。