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交通事故知識ガイド上肢及び手指

上肢その13~14 上腕骨遠位端骨折

上肢その13 上腕骨遠位端骨折

上腕骨の遠位端骨折
上腕骨の遠位端部は、前腕の尺骨と橈骨とで肘関節を形成しています。
上腕骨と尺骨の関節を腕尺関節といい、上腕骨と橈骨の関節を腕橈関節といいます。
交通事故においては、上腕骨遠位端骨折は自転車やバイクに乗車していた方に発生することが多いです。

上腕骨遠位端骨折はいくつかのパターンに分類されますが、そのうち代表的なものを2つ取り上げます。

1)腕骨顆上骨折 (じょうわんこつかじょうこっせつ)

上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆上骨折
肘関節の痛みや腫れが主な症状で、痛みや腫れのため肘関節を動かすことができません。時間が経つにつれて腫れは増強していきます。単純XP撮影で診断が可能ですが、亀裂骨折にとどまるときは発見できないこともあります。CT撮影が有用です。

徒手整復を行い、骨折部位をギプスで固定する方法と、骨折した方の腕を上から垂直牽引=上から引っ張る、による保存的治療があります。どうしても整復位が得られない場合(骨の前後の厚みが薄い部分なので、整復後も再び転位しやすいです。)や血管神経障害が疑われる場合は、手術が行われることもあります。
牽引徒手整復時にさらなる組織損傷や、神経や血管を障害することを引き起こす可能性もあります。また、何らかの整復操作を行った後に牽引を行うことも多いです。

上腕骨顆上骨折が発生したとき、フォルクマン拘縮という重篤な急性合併症が起こることがあります。

その他に、神経麻痺が合併することがあります。ただし、神経が完全に断裂することはまれで、ほとんどは、骨片による神経圧迫または転位による神経過伸展障害です。これらの多くは二、三カ月で回復します。橈骨神経麻痺や正中神経麻痺が発生する傾向がありますが、尺骨神経麻痺は少ないです。

肘が内側に曲がったまま骨癒合するケースがあります(内反肘変形治癒)。これを原因とする遅発性の尺骨神経麻痺が起こったということもあります。
肘関節の拘縮が発生することもあります。

2)上腕骨外顆骨折 (じょうわんこつがいかこっせつ)

肘関節の痛みや腫れが主な症状で、単純XP撮影で診断が可能です。
転位が少ないと思われる場合には保存的治療を行うこともありますが、整復後の固定中に再転位が起こることがありますので、経過観察を適切に行うことが重要です。
手術を行うことが多いです。キルシュナー鋼線やスクリューを用いて内固定が行われます。

重篤な後遺症として、偽関節に至ることがあります。初期の転位が少なかったために保存的治療が行われたものの、ギプス固定中に骨片の転位が進行してしまうことによるものと思われます。転位が放置されたままでは、固定を続けても骨癒合は得られません。
成長につれて外反肘(腕を伸ばすと、肘が外側に過度に曲がる変形障害)となり、運動制限や遅発性尺骨神経麻痺の原因になります。

外反肘の状態です。

上腕骨遠位端骨折における後遺障害のポイント

1)骨折が肘関節内に及んでいないものは、その後の骨癒合状況をみながら、それでも肘関節の可動域に問題がないか調べる必要があります。

2)上腕骨顆上骨折も上腕骨外顆骨折も、7歳前後の子どもに多発しています。 顆上骨折のときは、それは関節内の骨折ではなく、また骨端線が損傷されたわけでもありません。そのため、肘関節の機能にも成長にも影響を及ぼさないのが通常です。 フォルクマン拘縮を排除できれば、後遺障害が残ることはほとんどありません。

3)顆上骨折、外顆骨折で手術が実施されたときは、骨癒合状況をチェックしつつ、可動域の状況を見ていきます。

なお、被害者が子供の場合は、後遺障害が残ることはほとんどありません。

上肢その14 フォルクマン拘縮

上肢その13「上腕骨遠位端骨折」にもお書きしましたが、フォルクマン拘縮は、上腕骨顆上骨折の重篤な合併症です。(上腕骨顆上骨折に限られるわけではありません。)

骨折とともに血管が損傷したり圧迫を受けたりすると、前腕の筋肉組織内で阻血(血液が足りない状態)が起こり、静脈が閉鎖することによって筋肉内の圧力が高まり、さらに循環障害を来すという悪循環になることがあります。筋肉壊死によって瘢痕や収縮が生じ、やがて手指や手関節が屈曲したまま拘縮する状態に至ります。

典型例では5つのPの症状を呈します。
5つのPの症状とは、

  1. ①Pain(疼痛)
  2. ②Paleness(蒼白)
  3. ③Paresthesia(知覚障害)
  4. ④Paralysis(運動麻痺)
  5. ⑤Pulselessness(脈拍消失)

を指します。

受傷から数時間して、前腕部に腫れや痛みが生じる、ほかの人が指を伸ばそうとすると痛みを訴えるために伸ばすことができない、指が痺れるなどの症状が悪化していきます。フォルクマン拘縮は動脈が閉鎖してから6時間から8時間してから生じますので、初期対応が大切です。
フォルクマン拘縮まず、可能な限り骨折の整復やギプスで圧迫などの阻血の要因を取り除きます。それでも改善しないときは、緊急的に筋膜切開を行い、筋肉内の圧力を減少させます。

フォルクマン拘縮における後遺障害のポイント

1)早期発見・早期治療による壊死を防止することが最優先です。フォルクマン拘縮は一晩で完成し、一生残ってしまうというものです。骨折後の固定をしてもらった後にも生じえます。

2)フォルクマン拘縮が起こってしまったとき、重度のものにおいては、筋肉がカチカチに拘縮し、正中神経麻痺や尺骨神経麻痺が生じ、手が変形したままになってしまいます。
立証は、神経伝達速度検査もしくは針筋電図検査で行います。
後遺障害は、6級6号「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」及び7級7号「1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの」が認定され、併合されます。

しかし、5級4号「1上肢を手関節以上で失ったもの」よりは重くないので、併合6級が認定されることになります。

3)フォルクマン拘縮が進み、筋肉の壊死に至ると、基本的に、治療法はありません。
陳旧性では、線維化した筋肉を切除して、再建手術を行わなければなりませんが、完全に回復することは期待できません。整形外科の教科書では、手術後8年経って辛うじて指が伸ばせる状態になった事例が紹介されていました。
初期症状が出現すれば、即座に医師の診断を受けることが必要です。