休業損害|事故後にもらえない場合の対策

最終更新日:2025年05月20日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q事故後に休業損害がもらえない場合、どうすればよいですか?

まずは、休業や減収を証明する書類を整理して保険会社に再請求しましょう。それでも認められない場合は、労災保険や人身傷害保険が使えないか検討しましょう。

ただし、被害者本人だけで判断するのは難しいことも多いため、早めに交通事故に強い弁護士へ相談することをおすすめします。

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休業損害とは

休業損害とは、交通事故によって仕事を休まざるを得なくなり、その結果として収入が減少した場合に、その損失分について加害者に賠償を請求できる損害項目です。

事故がなければ本来得られていたはずの収入が、けがや通院などによって失われた場合、その減少分を金銭で補うことが認められています。たとえば、入院や通院のために仕事を休んだ、痛みによって通常の業務ができなくなった、といったケースが該当します。

ただし、休業損害を請求するには、「実際に仕事を休む必要があったこと」「どのくらいの期間働けなかったのか」などを証明する必要があります。

そのためには、自賠責用の診断書や、勤務先が発行する休業損害証明書などの資料が不可欠です。

適切な証拠をそろえていないと、補償額が減額されたり、そもそも請求が認められなかったりすることもあるため、早めに準備しておくことが重要です。

保険会社が休業損害を払わないパターン

交通事故でけがをしても、すべての場合に休業損害が支払われるわけではありません。保険会社が「今回は休業損害の対象外」と判断する理由はいくつかあります。

ここでは、よくある3つのパターンを紹介します。

休業の証明がない

まず、「本当に仕事を休んだのか」がはっきりしないと、保険会社は休業損害を支払いません。たとえば、会社からの証明書や医師の診断書などがないと、働けなかった期間がわからないからです。

会社勤めの人であれば、「休業損害証明書」を職場に書いてもらうのが一般的です。自営業や個人事業主の場合は、仕事の記録や通帳の入金履歴などが証拠になることもあります。

証明できなければ、たとえ実際に休んでいたとしても、休業損害としては認められない可能性があります。

事故による収入減の証明がない

次に問題になるのは、「収入が減ったかどうか」です。けがをしていても、収入が減っていなければ休業損害は発生しません。

たとえば、事故後も給与がそのまま支払われている場合は、損害が出ていないと判断されることがあります。

また、定額の役員報酬をもらっていたり、事故後もほぼ休まずに個人事業を続けていたりなど事故の影響を受けにくい収入については、減額が確認できないと補償されにくくなります。

このようなときは、源泉徴収票や確定申告書などで収入の変化を示す必要があります。

なお有給休暇を使用した場合は、収入減がなくとも休業損害は認められます。

事故のけがで仕事ができないとの証明がない

最後に、「けがが本当に仕事に支障を与えたのか」という点も重要です。保険会社が「働くことは可能」と判断した場合、休業損害は支払われません。

判断の根拠として、医師の診断内容や、被害者の仕事内容が確認されます。軽いけがであれば、日常業務に大きな支障はないとみなされることもあります。また、保険会社が医師に確認した結果、「就労は可能」と記録されていれば、支払いを拒否されることがあります。

こうしたときは、主治医に仕事内容をきちんと説明し、けがとの関係を明確にした診断書を出してもらうことで、再検討の余地が生まれることもあります。

対策① 加害者の任意保険会社に証拠をそろえて治療中に請求

保険会社から「休業損害は支払えない」と言われることは珍しくありません。しかし、そのまま何もせず諦めるのは早計です。多くの場合、「必要な証拠が足りない」ことが支払い拒否の理由となっています。

そこで重要なのが、事故の治療が続いている段階から、証拠となる書類をしっかり準備しておくことです。加害者側の任意保険会社に対して、こちらの主張と根拠をそろえた上で請求を行えば、状況が変わる可能性もあります。

ここでは、職業ごとに必要な資料と対処法を紹介します。

会社員の場合

会社員が休業損害を求める際は、「いつからいつまで休んだのか」「その間の収入がどうなったのか」を、書類で明確に示すことが不可欠です。

保険会社が支払いを拒むとき次の書類がきちんと提出されているか確認し、不足しているようであればあらためて提出することで再検討を求めることができます。

必要に応じて、医師の休業に関する診断書で就労が困難だったことを補足しましょう。

自営業者の場合

自営業者の場合、「本当に収入が減ったのか」「事故の影響なのか」といった点で争いになることがほとんどです。証明が不十分な場合、保険会社は支払いを拒む可能性があります。

そのようなときは、次のような資料を追加で提出することが有効です。

  • 確定申告書の控え(前年の所得を示す)
  • 月ごとの売上記録や帳簿、支払明細(事故前後の変化を説明)
  • 預金通帳の入出金履歴(売上減の裏づけとして有効)

資料の整備が難しい場合でも、可能な範囲で収入の変化を数値化し、「実際に損害が出ていること」を主張することが大切です。

会社役員の場合

会社役員が休業損害を請求しても、保険会社から「報酬は変わっていないので損害はない」と判断されることがあります。実際に、役員報酬は労働時間ではなく役職や決定機関の判断で決まるため、一般の労働者とは異なります。

そのため、報酬が下がった、または役員業務ができなかったことを次の資料を用いて客観的に説明する必要があります。

  • 法人の決算書
  • 法人税申告書
  • 報酬に関する資料(源泉徴収票、通帳・帳簿・明細など)

さらに、「痛みのため現場に出ることができなかった」「事故によって取締役会に出席できなかった」「営業活動ができず業績が落ちた」など、具体的な支障の内容を文書で整理することで、保険会社の再判断を引き出せる可能性があります。

対策② 加害者の任意保険会社に示談交渉でまとめて請求

任意保険会社から休業損害の支払いを断られても、それですべて終わりではありません。事故による損害全体を「示談交渉」でまとめて請求する方法があります。

示談では、休業損害だけでなく、治療費通院交通費慰謝料なども含めた金額を一括で話し合います。そして、示談交渉にて休業損害が認められていないとしても、「休業損害として主張している金額も含めて調整して総額の示談金が支払われる」ケースもあります。

たとえば、次のような説明と資料があれば、個別の交渉時に認められなかった休業損害も、全体の示談交渉時には認められたり、全体の示談金額に吸収される形で反映されることがあります。

  • 「後遺障害認定されていることからこのくらいの期間は働けなかったと推測できる」
  • 「通院回数も多く一定の休業があることはわかる」
  • 「これまでの通院状況や後遺症の可能性を踏まえて、将来の損害もある程度見込める」

重要なのは、交渉の材料となる証拠をしっかりそろえることです。次のような書類を準備しましょう。

  • 休業損害証明書、源泉徴収票、給与明細など(事故前後の収入差)
  • 自営業者であれば帳簿や確定申告書など

医師の意見は大事な証拠ですが、自賠責用の診断書にこの点が記載されていない場合は、別途休業に関する意見書や診断書を取り付けることもあります。

示談交渉は被害者自身でも行うことができますが、保険会社とのやりとりに不安がある場合は、弁護士に依頼するのが有効です。交通事故に強い弁護士であれば、交渉の方針を立てたうえで、休業損害の扱いも含めて納得できる賠償金額での解決を目指してくれます。

対策③ 労災保険に請求

交通事故が勤務中または通勤中に発生した場合は、労災保険を利用して休業補償を受けることができます。

労災保険では、仕事を休まざるを得ない期間に対して「休業補償給付」が支給されます。原則として、事故による休業のうち、4日目以降の分について、1日あたり賃金の約8割(60%の基本補償に加えて、特別支給金20%)が支給される仕組みです。

請求にあたっては、勤務先を通じて所轄の労働基準監督署に必要書類を提出します。会社の協力が必要な場面も多いため、早めに上司や人事担当者に相談しておくとスムーズです。

ただし、労災保険と自賠責保険など他の補償制度との間には併用の制限や調整ルールがあります。どの制度を優先的に利用するか、重複請求を避けるためには、事前に専門家に相談することをおすすめします。

対策④ 人身傷害保険に請求

ご自身や家族が加入している自動車保険に「人身傷害補償保険」が付いていれば、そちらを利用できる可能性もあります。

これは、相手の過失の有無にかかわらず、事故による損害をカバーしてくれる保険です。

人身傷害では、治療費だけでなく、休業損害も補償の対象になります。相手の任意保険会社から休業損害の支払いを拒否された場合、先にこちらから受け取ることが可能です。

加入している保険の内容によって対象範囲が異なるため、まずは保険証券や契約書を確認し、保険会社に問い合わせてみましょう。

対策⑤ 自賠責保険に請求

相手の任意保険から支払ってもらえない場合でも、自賠責保険(強制保険)から一定額の補償を受けることができます。

自賠責保険では、休業損害として原則1日あたり6,100円が支払われます。ただし、休業損害証明書や自賠責用の診断書を提出し、事故との因果関係や就労不能を証明することが必要となります。

自賠責保険は加害者も被害者も請求することができます。

仕事に復帰する選択肢を検討

状況によっては、補償を待ち続けるよりも、可能な範囲で早めに職場復帰を目指すことが現実的な選択となることもあります。

もちろん、けがが完全に治っていない段階で無理をして復帰すると、健康に悪影響が出ることもあるため注意が必要です。医師の判断をあおぎながら、「短時間勤務」「在宅勤務」「軽作業への変更」など、無理のない働き方を上司や会社と相談するのも一つの方法です。

仕事への復帰はメリットとデメリットがありますので慎重な判断が必要です。悩んだら、交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

まとめ:休業損害を事故後にもらえない場合の対策

交通事故でけがをして仕事を休んだにもかかわらず、保険会社から休業損害が支払われないケースは少なくありません。

その背景には、「書類が足りない」「収入の減少が証明できない」「働けなかったことが医師に認められていない」など、さまざまな理由があります。

しかし、あきらめる前にできることはたくさんあります。

まずは、治療中の段階で必要な書類をそろえ、任意保険会社に改めて請求することが基本です。それでも支払われないときは、示談交渉の中で慰謝料などとあわせて総額で調整する方法もあります。

また、事故の状況によっては、労災保険・人身傷害保険・自賠責保険など、他の制度を活用して補償を受けることも可能です。

そして、どうしても収入が不安定な状態が続く場合には、体調と相談しながら職場復帰を検討することもひとつの選択肢です。短時間勤務や在宅業務など、無理のない形で再スタートできる環境づくりも重要です。

休業損害は「証明の難しさ」が壁になることがありますが、正しい方法で粘り強く対処すれば、支払われる可能性は十分にあります。状況に応じて、交通事故に詳しい弁護士に相談することも視野に入れながら、できる対策をひとつずつ進めていきましょう。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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