抜釘をしないままの症状固定

最終更新日:2026年07月23日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q抜釘をしないまま症状固定するとどうなりますか?

抜釘とは、手術により体内に残った異物や金属ネジを取り出すことです。

抜釘をしないまま症状固定を迎えると、おもに次の3つの影響があります。

  1. 症状固定後に抜釘した場合、その手術費用は原則として自己負担になります。
  2. 体の中にボルトやプレートが入っていることを前提に、後遺障害等級が審査されます。
  3. 抜釘の有無や時期によって、受け取れる保険金の金額が変わることがあります。

抜釘するかどうか、いつ抜釘するかの判断は、その後の賠償に関わります。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士へご相談ください。

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抜釘とは

抜釘は、骨折の手術で体内に入れたボルトやプレートを取り出す手術です。

レントゲンなどで骨のつながりが確認でき、固定具がなくても日常の動作に耐えられる状態になってから行います。なお、抜釘は必ず行うものではなく、金属を体内に残したままにすることもあります。

ここでは、骨折の治療方法、抜釘の時期、メリットとデメリットを順に見ていきましょう。

骨折後の治療方法

骨折後の治療法は、大きく次の2つに分かれます。

  1. 保存療法

    保存療法とは、ギプスやサポーターで外から固定する方法です。骨のずれが小さい軽めの骨折で選ばれます。手術療法と比べて、体への負担は軽く済みます。

  2. 手術療法

    手術療法とは、体内にボルトやプレートを入れ、内側から固定する方法です。骨のずれが大きい場合や、関節に近い部分が折れた場合に選ばれます。

    皮膚を切り開き、骨に直接ボルトやプレートを取り付けて固定するため、内固定(ないこてい)とも呼ばれます。

    体内に入れる金属には、人の体になじみやすい医療用チタンなどが使われます。長期間体内に入れておいても害が少ない素材です。

抜釘

抜釘とは、骨が十分にくっついたあとに、体内のボルトやプレートを取り出すことをいいます。

金属を残したままでも、生活に大きな支障がないケースもあります。しかし、違和感や将来の不具合を避けるため、抜釘を選択する方も少なくありません。

抜釘では、体内に入っているボルトやプレートを取り出すため、再び皮膚を切開する必要があります。体への負担や費用、仕事・生活への影響もふまえて、医師とよく相談したうえで判断しましょう。

抜釘の時期

抜釘の時期は、骨の癒合(ゆごう・骨がつながること)の状態や年齢、全身の状態をもとに、医師から提案されます。患者本人は、医師の意見をふまえたうえで、最終的に抜釘を受けるかどうか、いつ受けるかを判断します。

部位ごとの抜釘時期の目安は次のとおりです。

部位 抜釘の時期の目安
腕や手などの上半身 手術から6か月〜12か月
脚や腰などの下半身 手術から12か月以降

下半身が抜釘時期が遅くなるのは、抜釘後の再骨折のリスクが大きいためです。抜釘の直後はボルトを抜いた跡に穴が残り、骨が一時的にもろくなります。下半身は立ったり歩いたりするたびに体重がかかるため、骨がしっかり強度を取り戻すまで待ってから抜釘する必要があるのです。

また、年齢によっても時期は変わります。子どもや若い人は骨の回復が早いため、抜釘の時期も早めになる傾向があります。一方、年配の方は骨の回復に時間がかかるため、抜釘の時期も後ろにずれていきます。

抜釘するメリット

抜釘するかどうかを判断するには、メリットとデメリットの両方を知っておく必要があります。まずはメリットから見ていきましょう。具体的には、次のようなメリットがあります。

① 体内に金属がある違和感が軽くなることがある

ボルトやプレートが皮膚の近くにあると、動いたときに引っかかる感じや異物感を覚える方がいます。抜釘によって、こうした日常の違和感がやわらぐことがあります。

② 金属の周囲で起きる感染症のリスクが下がる

体内に異物が長くとどまると、まれに感染症の原因になることがあります。抜釘によって、こうしたリスクを丸ごと取り除けます。

③ ボルトやプレート周辺の骨が弱くなることを防げる

固定具が入ったままだと、その周辺の骨に十分な力がかからず、骨密度が下がることがあります。抜釘により、骨が本来の力強さを取り戻しやすくなります。

④ 関節の動きが制限されている場合、動く範囲が広がることがある

ひじやひざなどの関節の近くにボルトやプレートが入っていると、金属が骨や周りの組織にあたり、関節を曲げ伸ばししにくくなることがあります。

このような場合、抜釘によってボルトやプレートを取り除くことで、関節を動かしやすくなる可能性があります。さらに、抜釘後にリハビリを続けることで、曲げ伸ばしできる範囲が広がるケースもあります。

抜釘のデメリット

一方で、抜釘には次のようなデメリットがあります。

① 再び手術が必要になる

抜釘は、体内のボルトやプレートを取り出すために皮膚を切り開いて行う本格的な手術です。麻酔を使うほか、状態によっては入院が必要になることもあります。

また、手術後は一定期間、仕事や家事を休まなければならない場合もあるため、生活への影響は小さくありません。

② 手術にともない、合併症が起こるリスクがある

手術である以上、感染症や神経のしびれといった合併症のリスクはゼロではありません。リスクの程度は手術の部位や本人の体調によって変わるため、事前に医師から十分な説明を受ける必要があります。

③ 抜釘して、半年から1年ほどは骨がもろくなるリスクがある

ボルトやプレートを取り出した直後の骨には、ネジ穴が残ります。穴がふさがり、骨が本来の強度を取り戻すまでには、半年から1年ほどかかります。この期間に強い負荷をかけると、再骨折につながるおそれがあります。

症状固定とは

抜釘を予定している場合に注意したいのが、症状固定のタイミングです。

症状固定とは、治療を継続しても効果が見込まれず、症状の改善がない状態のことです。

交通事故では、症状固定を迎えると、治療費休業損害などの請求が原則として終了し、その後は後遺障害に関する賠償の検討に移ります。

そのため、抜釘費用についても、症状固定の前に必要になった手術か、症状固定後に予定された手術かによって、賠償の対象になるかどうかの判断が変わることがあります。

骨折のケースでは、症状固定までの期間は6か月から1年半ほどが1つの目安です。ただし、ボルトやプレートを入れる手術を受けた場合は、骨の癒合の状態や抜釘の予定をふまえて、これより長くなることもあります。

なお、症状固定は本来、医師が医学的に判断するものです。保険会社から「そろそろ症状固定にしてください」と打診されることもありますが、慌ててすぐに応じる必要はありません。

まだ痛みや関節の動きの制限が残っている場合は、主治医に治療の見通しを確認したうえで判断しましょう。

抜釘の費用

抜釘にかかる費用を加害者側へ請求できるかどうかは、症状固定の前か後かによって扱いが分かれます。

症状固定の前であれば、抜釘費用は治療費として認められやすい一方、症状固定後に行う抜釘の費用は、加害者側への請求が原則として難しいです。

そのため、抜釘の時期は、受け取れる賠償金にも関わる重要なポイントです。

症状固定前に抜釘した場合

症状固定の前に抜釘を行う場合、その手術費用は治療費として扱われます。

事故とけがとの間に因果関係があり、抜釘が必要な治療と認められる場合は、加害者側の保険会社へ抜釘の費用を請求できる可能性があります。具体的には、抜釘に伴って発生する次のような費用が対象になります。

  • 入院費
  • 手術費
  • 麻酔代や薬代
  • リハビリ費
  • 通院のための交通費

ここで注意したいのが、保険会社から治療費の打ち切りを打診されるケースです。

保険会社から「そろそろ治療は十分ではないか」「症状固定にしてはどうか」と言われることがあります。しかし、医師が抜釘を必要と判断している場合は、治療がまだ終了していないと考えられるため、そのまま応じる必要はありません。

抜釘を予定しているのに治療費の打ち切りを打診された場合は、主治医に今後の治療方針を確認しましょう。対応に迷うときは、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

症状固定後に抜釘する場合

症状固定の後に抜釘を行う場合、その費用は加害者側に請求できないのが原則です。

症状固定とは「これ以上治療を続けても、大きな改善は見込めない」と判断された状態です。したがって、症状固定後の治療は、事故によるけがに必要な治療とは認められにくくなるのです。

ただし、症状固定後の抜釘費用が、必ず自己負担になるとは限りません。

たとえば、症状の悪化を防ぐために抜釘が医学的に必要といえる場合や、症状固定前の段階で将来の抜釘費用について保険会社と合意できた場合には、費用を請求できる可能性があります。

症状固定後の抜釘費用を請求できるかどうかは、けがの内容や骨癒合の状態、抜釘の必要性、医師の判断、保険会社との交渉状況などによって変わります。

そのため、抜釘を予定している場合は、主治医へ治療の見通しを確認し、症状固定の前に、必要に応じて弁護士へ相談しておくと安心です。

抜釘と後遺障害の関係

抜釘をするかどうかは、手術費用だけでなく、後遺障害等級の認定にも関わることがあります。

ただし、「抜釘をしなければ後遺障害が認定されやすい」「体内にボルトやプレートが残っていれば必ず等級がつく」というわけではありません。

後遺障害にあたるかどうかは、痛みやしびれ、関節の動きの制限、骨の変形、画像検査の結果などをもとに判断されます。

ここでは、抜釘と後遺障害の関係について、特に注意すべきポイントを解説します。

抜釘しないから後遺障害が認定されるわけではない

「体内にボルトが残っていれば、後遺障害が認定されやすいのでは?」と考える方は少なくありません。

しかし、後遺障害の認定は、ボルトやプレートの有無だけで決まるものではありません。次のような事情に基づいて総合的に判断されます。

  1. 残った痛みやしびれはどの程度か?
  2. 関節の動く範囲がどのくらい制限されているか?
  3. 骨の変形やゆがみがあるか?
  4. 画像検査で異常が確認できるか?

つまり、ボルトやプレートが体内に残っていても、痛みや関節の動かしにくさが軽い場合や症状の裏付けとなる所見がない場合は、後遺障害にあたらないことがあります。反対に、抜釘をしたあとでも、痛みや可動域制限、骨の変形などが残っていれば、後遺障害が認定される可能性があります。

また、抜釘をしたことで症状が改善した場合には、後遺障害等級が認定されにくくなることもあります。たとえば、抜釘後のリハビリによって関節の動く範囲が広がった場合などです。

大切なのは、ボルトやプレートが残っているかどうかではなく、事故によってどのような症状が残っているか、その症状の裏付けとなる画像上の所見が認められるかです。

偽関節

腕や脚の骨のうち、関節と関節の間にある部分を骨折したとき、骨同士がうまくつながらず、その場所に異常な動きが残ってしまうことがあります。この状態を偽関節(ぎかんせつ)といいます。

本来は動かないはずの場所が、まるで関節のように動いてしまうことから、こう呼ばれます。

偽関節になると、その部分に力が入りにくくなったり、体重を支えにくくなったりすることがあります。特に脚に偽関節が残った場合は、プラスチックや金属でできた硬めの装具(硬性補装具)をつけなければ、歩行が難しくなることもあります。

偽関節が残っている場合、体内にボルトやプレートが入っているかどうかとは関係なく、後遺障害として等級認定の対象になります。

後遺障害等級は、硬性補装具がどの程度必要かによって変わります。

等級 内容 後遺障害慰謝料の目安
7級9号 腕に偽関節を残し、常に硬性補装具が必要なもの 約1000万円
7級10号 脚に偽関節を残し、常に硬性補装具が必要なもの 約1000万円
8級8号 腕に偽関節を残すもの(常時の装具までは不要なもの) 約830万円
8級9号 脚に偽関節を残すもの(常時の装具までは不要なもの) 約830万円

なお、後遺障害慰謝料の金額は裁判基準で計算した目安です。裁判基準とは、過去の裁判例をもとに作られた算定基準です。実際の金額は、けがの内容や後遺障害の程度、事故の状況などによって変わります。

脊柱変形

背骨(脊柱・せきちゅう)を骨折したときは、ボルトやロッドを使って背骨を固定する手術(脊椎固定術)が行われることがあります。

背骨を固定すると、その部分は曲がらなくなります。この状態は「脊柱に変形を残すもの」として、後遺障害11級7号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料の目安は約420万円です。

ここで注意したいのが抜釘のタイミングです。

後遺障害の等級は、症状固定の時点で残っている状態をもとに認定されます。脊椎固定術を受けた方の場合、症状固定を迎えてから抜釘すれば、背骨が固定された状態のままの審査となるため、11級7号が認定される可能性があります。

ところが、症状固定を迎える前に抜釘すると、「背骨を固定していること」そのものを理由とする11級7号の認定は受けられなくなる可能性があります。

ただし、抜釘した後であっても、骨折自体によって背骨に変形(圧迫骨折など)が残っている場合や、痛み・しびれが続いている場合は、別の基準で後遺障害に認定される可能性があります。

このように、抜釘のタイミングは後遺障害等級の認定に影響することがあります。脊椎固定術を受けた方は、抜釘の前にぜひ弁護士へご相談ください。

よくあるご質問

ここからは、抜釘について多くの方から寄せられる質問にお答えします。

抜釘手術をするかどうかは、誰が決める?

抜釘をするかどうかは、医師の意見を尊重しながら、最終的には患者本人が決めます。

抜釘が医学的に必要かどうか、いつ行うのがよいかは、骨の癒合の状態や全身の状態によって変わります。そのため、まずは主治医の診察を受け、抜釘の必要性や適切な時期について説明を受けましょう。

そのうえで、手術を受けるかどうかを患者自身で判断します。抜釘には、痛みや違和感が軽くなる可能性がある一方で、再手術による負担や感染などのリスクもあります。

生活や仕事への影響も含めて、納得したうえで決めてください。

抜釘と抜糸の違いは?

抜釘と抜糸は、名前は似ていますが、まったく別の処置です。

抜糸(ばっし)は、手術やけがの処置で縫合した糸を取り除く処置です。外来で行われ、短時間で終わることが一般的です。麻酔も不要なケースがほとんどです。

これに対して抜釘は、骨を固定していたボルトやプレートなどの金属を取り出す手術です。麻酔を使い、皮膚を切り開いて行うため、入院が必要になることもあります。

名前は似ていても、処置の内容や体への負担は大きく異なります。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

抜釘は、骨折の手術で体内に入れたボルトやプレートを取り出す手術です。

抜釘をするかどうか、いつ行うかは、骨の状態や現在の症状、今後の生活への影響などをふまえて慎重に判断する必要があります。

特に交通事故の賠償では、抜釘の時期が問題になることがあります。

症状固定の前に抜釘を行う場合は、手術費用を治療費として加害者側に請求できる可能性があります。一方で、症状固定の後に抜釘を行う場合は、治療費としての請求は原則として難しいです。

また、脊柱の固定手術を受けたケースなどでは、抜釘の時期が後遺障害等級の判断に影響することもあります。抜釘後に状態が改善すると、当初想定していた等級が認定されない可能性もあるため注意が必要です。

このように、抜釘は、治療費の請求や後遺障害等級の判断に影響することがあります。判断に迷う場合は、自己判断で進めず、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

よつば総合法律事務所では、交通事故で骨折し、ボルトやプレートが入っている方からのご相談もお受けしています。抜釘をするべきか、症状固定に応じてよいか迷っている方は、1人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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