交通事故の被害者がやりがちなNG行動10選
最終更新日:2025年06月09日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の被害者がやってはいけないことはどのようなことですか?
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次のようなことはやってはいけません。注意しましょう。
- 事故現場で安易に示談する
- 警察への届出を怠る
- 症状があっても診察を受けなかったり、通院を途中でやめる
- 通院の間隔をあけすぎたり、過度に通院しすぎる
- 医師の診察を無視する
- 保険会社の提案を鵜呑みにしたり、安易に同意する
- 健康保険や労災保険の利用をためらう
- 事故状況や症状について過大又は過少に申告をする
- SNSに感情的な投稿をする
- 治療や交渉の疑問点を専門家に相談しない

目次

① 事故現場で安易に示談する
交通事故の直後、相手から「すぐに済ませたい」「大ごとにしたくないから、今示談してほしい」と言われることがあります。
しかし、事故の現場で示談するのは非常に危険です。なぜなら、その時点では、けがの状態や車の損傷など、すべての被害が明らかになっていないことが多いからです。
たとえば、事故直後は痛みがなくても、数日たってから体に異変が出ることがあります。また、車についても、見た目には壊れていなくても、内部の部品に損傷が見つかることがあります。
そうした損害が後から発覚しても、すでに現場で示談してしまっていれば、追加でお金を請求するのが難しくなります。
示談は、本来、損害の内容がはっきりしたうえで行うものです。事故の直後に、感情や焦りで安易に決めてしまうと、不利な条件で終わってしまうことになります。
交通事故の被害を受けたときは、その場で示談せず、まずは状況を正しく把握することが大切です。不安な場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
② 警察への届出を怠る
交通事故が起きたら、まずやるべきことの一つが警察への通報です。
道路交通法では、交通事故に関わった人はすぐに警察に連絡し、事故の日時や場所、けがの有無などを報告しなければならないと定められています。これを守らないと、あとで大きな問題になることがあります。
とくに注意したいのが、「交通事故証明書」が発行されなくなるという点です。これは、事故が実際に起きたことを証明するための公的な書類です。保険会社に損害賠償や保険金を請求する際にも、この書類がなければ手続きがスムーズに進まないことがあります。
また、事故から日数が経ってしまうと、現場の状況やけがの証拠が残っていないこともあります。そのため、「あとで連絡すればいい」と先延ばしにすると、警察に事故として認められない可能性も出てきます。
もし、その場で警察に通報できなかった場合でも、できるだけ早く最寄りの警察署へ行って事情を説明してください。遅れてしまっても、状況によっては交通事故証明書を発行してもらえることがあります。
事故の当事者の中には「おおごとにしたくない」と言って警察を呼ばないよう頼んでくる人もいますが、それに応じるのは危険です。事故の記録が残らなければ、あなた自身が損をする結果になるかもしれません。
交通事故の直後は混乱してしまうこともありますが、まずは冷静に対応し、警察に連絡することを忘れないでください。
③ 症状があっても診察を受けなかったり、通院を途中でやめる
交通事故のあと、痛みを感じなかったり、「たいしたことはない」と思って病院に行かない人がいます。しかし、これは大きなリスクをともないます。
事故の直後は、興奮していたり、体が緊張しているため、けがをしていても痛みに気づかないことがよくあります。翌日になってから首や腰に痛みが出てきた、というケースも少なくありません。
事故から日数が経過して病院に行っても、「事故との関係がわからない」とされてしまい、治療費や慰謝料の請求ができなくなる可能性があります。加害者側の保険会社に「そのけがは事故とは関係ない」と判断されると、費用を出してもらえないことがあるのです。
また、最初は病院に行っていたものの、途中で自己判断して通院をやめてしまうのも危険です。一度継続的な通院を止めてしまうと、保険会社は治療費の支払いを終了します。その場合、特別の事情がない限り、治療費の支払いが再開されることはありません。
さらに、通院の頻度が低いと「軽いけが」と見なされて、慰謝料の金額が下がってしまうこともあります。入通院慰謝料は、通院した日数や期間をもとに計算されるためです。
治療の必要性や通院のタイミングについては、医師の判断に従うことが大切です。
④ 通院の間隔をあけすぎたり、過度に通院しすぎる
「忙しくて通院できない」「痛みが少し落ち着いたから大丈夫」と思って通院の間隔を空けてしまう人がいます。しかし、あまりにも間隔が空いてしまうと、保険会社から「すでに治っている」と判断され、治療費の支払いが早く打ち切られる恐れがあります。
また、後遺障害の等級認定にも影響が出る可能性があります。通院が不規則だと、症状の一貫性がないと判断され、「事故によるけが」と認められにくくなるからです。特に30日以上通院しない期間が空くと、その後の治療や慰謝料の支払いを拒否されるリスクが高くなります。
一方で、「通院回数を増やせば慰謝料も増える」と思って、必要以上に毎日通院するのも避けた方がよい行動です。通院が多く、必要以上に治療費が増えてしまうと、保険会社から治療費の支払いが打ち切られてしまう可能性もあります。
⑤ 医師の診察を無視する
交通事故にあった後、治療を続けるうえで大切なのが「医師の診察と指示を守ること」です。自己判断で治療をやめたり、通院の頻度を減らしたりすると、思わぬ不利益を被ることがあります。
医師はけがの程度を見て、「どのくらいの頻度で通院すればよいか」「いつまで治療が必要か」といった具体的な方針を示します。
このとき、自分の判断で「もう大丈夫」と通院をやめたり、「忙しいから」と頻度を減らしたりするのは危険です。保険会社は、医師の指示に従っていない場合、「もう治ったのではないか」と考え、治療費や慰謝料の支払いを打ち切ることがあります。
また、整骨院や接骨院を利用したい場合でも、先に医師の許可をもらっておくことが重要です。医師の指示がないと、「医学的に必要な治療ではない」とみなされる可能性もあります。
さらに、必要がないのに何度も病院を変えたり、通院を急にやめてしまったりする行動も注意が必要です。保険会社から「治療の必要がなくなった」と判断され、支払いを拒否されるリスクがあります。
治療の内容や頻度、病院の選び方などは、自分で決めるのではなく、必ず医師と相談しながら進めることが大切です。
⑥ 保険会社の提案を鵜呑みにしたり、安易に同意する
交通事故の治療中、相手方の保険会社から「そろそろ治療を終わりにしませんか?」と打診されることがあります。これは、今後は治療費や慰謝料を支払わないという意思を示すものです。
このような申し出に対して、医師と相談せずに応じてしまうのはとても危険です。たとえ体に痛みが残っていても、保険会社の指示どおりに治療をやめてしまうと、治るものも治らなかったり、適正な慰謝料や損害賠償を受けられなくなる恐れがあります。
たとえば、まだ完治していないのに治療を打ち切ると、治療期間が短くなったとみなされ、入通院慰謝料が減額されてしまいます。また、症状が残った場合でも、治療を続けなかったことが理由で「後遺障害等級」が認定されず、後遺障害慰謝料や逸失利益が受け取れなくなるケースもあります。
さらに、休業損害についても注意が必要です。保険会社が「治療終了」(症状固定)と判断すると、それ以降の休業日には補償がつかなくなってしまいます。実際には仕事ができない状態でも、支払いの対象外とされる可能性があるのです。
保険会社はあくまでも加害者側の代理であり、あなたの味方ではありません。言われるがままに従ってしまうと、本来受けられるはずの補償が受けられなくなる恐れがあります。少しでも疑問や不安がある場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。
⑦ 健康保険や労災保険の利用をためらう
交通事故にあったとき、「これは加害者のせいだから、自分の健康保険は使えない」と思い込んでしまう方がいます。しかし、これは誤解です。交通事故の治療でも、健康保険や労災保険を使えるケースは多くあります。
とくに、治療費を一時的に自分で立て替える場面では、健康保険を使うことで費用負担を大きく減らすことができます。
特に、被害者に過失がある場合、これを利用せずに自由診療(健康保険を使わない診療)で治療を続けてしまうと、あとで損をする恐れがあります。
交通事故では、加害者にすべての責任があるとは限りません。被害者にも少しでも落ち度があると「過失割合」がつき、その分だけ損害賠償が減額されます。
このとき、自由診療で高額な治療費が発生していると、その一部を自分で負担しなければならなくなります。一方で、健康保険を使って治療していれば、全体の治療費が抑えられるため、結果として自己負担も少なくて済みます。
また、加害者が自賠責保険しか加入していない場合、補償額には上限があります。たとえば、けがに関する支払いは最大で120万円です。これを超える部分は、加害者本人に直接請求することになりますが、必ずしも支払ってもらえるとは限りません。支払いが遅れたり、踏み倒されたりすることもあります。
このような場合も、健康保険で治療費を抑えておけば、自賠責の範囲内でより多くの損害をカバーできる可能性が高くなります。
すでに自由診療で通院を始めてしまった方でも、あとから健康保険に切り替えることは可能です。医療機関によっては「交通事故では保険は使えません」と案内されることがありますが、法律上交通事故でも健康保険を使うことができます。
また、勤務中や通勤中に起きた事故であれば、労災保険が使えるケースもあります。ただし、労災と健康保険は併用できないため、どちらを使うかは状況に応じて判断する必要があります。
⑧ 事故状況や症状について過大又は過少に申告をする
交通事故のあと、事故の状況やけがの症状を正しく伝えることはとても重要です。実際よりも大げさに申告するのはもちろん、逆に軽く申告することにもリスクがあります。ここでは、その両方のケースについて説明します。
「むち打ちがひどい」「日常生活が困難」など、実際よりも症状を大きく見せて慰謝料を多くもらおうとする行為は、非常に危険です。
もし嘘が発覚した場合、保険会社から不正請求とみなされ、支払われた保険金を返還するよう求められることがあります。すでに使ってしまっていた場合でも、返済義務は残ります。
さらに悪質なケースでは、「保険金詐欺」として刑事事件になることもあります。
保険会社は詐欺に対して非常に厳しい姿勢を取っており、模倣犯を防ぐためにも、告訴や刑事告発に踏み切るケースが多くあります。「少しくらいならバレないだろう」という軽い気持ちが、取り返しのつかない事態を招くことになるのです。
一方で、「たいしたことはない」と思って、症状を軽く伝えてしまうことも問題があります。
たとえば、痛みを我慢して医師に「大丈夫です」と伝えてしまうと、診断書に正確な症状が記載されません。
すると、あとになって痛みがひどくなったとしても、保険会社から「事故とは関係ない痛みだ」と言われ、治療費や慰謝料の支払いを断られる可能性があります。特に後遺症が出た場合でも、初期の記録が不足していれば「後遺障害等級」が認定されないこともあります。
事故直後は動揺していたり、周囲に遠慮して症状を正確に伝えられなかったりすることもあります。しかし、保険や賠償の手続きは、最初の申告や診断書をもとに進むため、あとから修正するのは難しくなります。
医師には症状を正直に伝え、事故状況についても事実をそのまま報告するようにしましょう。
⑨ SNSに感情的な投稿をする
交通事故にあった後、つらさや怒りからSNSに感情的な投稿をしてしまう人もいます。ですが、この行動は予想以上に大きなリスクを生む可能性があります。
たとえば、加害者やその保険会社を名指しで非難したり、過剰に批判することは止めましょう。「慰謝料でたくさん儲けたい」といった軽率な投稿をした場合、それが保険会社に発見されると、信用性を疑われてしまうことがあります。
また、SNSの投稿は証拠として使われることがあります。たとえば、「首が痛くて動けない」と診断書を提出していたにもかかわらず、SNSに「休みの日にスポーツを楽しんだ!」などと書いていた場合、その内容が事故との因果関係や症状の信ぴょう性を否定する根拠になってしまいます。
交通事故の被害にあったときは、感情をSNSで発信するのではなく、家族や信頼できる専門家に話すようにしましょう。不安や怒りは当然ですが、後悔のない対応をするためにも冷静さを保つことが大切です。
⑩ 交渉の疑問点を専門家に相談しない
交通事故に関する示談交渉や保険手続きには、専門的な知識が必要です。しかし、こうした疑問点を誰にも相談せず、「自分でなんとかしよう」と対応してしまう人が少なくありません。
たとえば、保険会社から提示された示談金の額が妥当かどうかを判断できずにそのままサインしてしまい、本来受け取れるはずだった金額より大幅に少ない賠償で終わってしまうことがあります。
また、後遺障害等級の申請で適切な資料を揃えられず、認定されるべき等級を逃すケースもあります。
このような結果に至る原因の多くは、「誰にも相談しなかった」ことにあります。
交通事故の補償交渉では、相手側の保険会社が有利に話を進めようとするのが通常です。専門的な言葉や数字が並ぶなかで、素人が正しい判断をするのは困難です。
そのため、「これで合っているのかな」「他にできることはないか」と思った時点で、誰かに相談すべきなのです。
弁護士などの専門家に相談せずに進めてしまうことは、結果として泣き寝入りにつながる可能性があります。少しでも疑問や不安があるなら、一度立ち止まり、相談先を見つけることが大切です。
まとめ:1人で決めずにまずは弁護士に相談
交通事故の被害を受けたとき、最も重要なのは「正しい選択」を積み重ねていくことです。
事故現場での対応、通院の記録、保険会社とのやりとり、示談の可否――そのすべてが、最終的な補償金額や後遺障害の認定に影響します。
ひとつでも判断を誤れば、数十万円、場合によってはそれ以上の損失が生じる可能性もあります。
だからこそ、事故対応は「1人で決めない」ことが基本です。
交通事故の解決に必要な知識や手続きは、一般の人にはなじみのないものばかりです。そんなとき、弁護士は「判断の軸」になってくれる存在です。
交渉や手続きの代行はもちろん、「今の判断が正しいか」を冷静に見極め、被害者にとって最も有利な選択を一緒に考えてくれます。
「今はまだ相談するほどでもない」と思っている段階こそ、相談のチャンスです。あとになって取り返しがつかない事態を避けるためにも、早めの行動がカギになります。
正しい補償を受けるために、そして精神的な安心を得るために、まずは一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博