学生の逸失利益の基礎収入

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損害賠償の基準
(赤い本と青い本は賠償基準をまとめた本です。自賠責保険は加入義務のある保険です。)
赤い本の損害賠償基準
- 賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別の全年齢平均の賃金額を基礎とする。
- 女子年少者の逸失利益については、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的である。
- なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合がある。大卒の賃金センサスによる場合、就労の時期が遅れるため、全体としての損害額が学歴計平均額を使用する場合と比べ減ることがあることに注意を要する。
青い本の損害賠償基準
- 基本的には、賃金センサスの平均賃金額を基礎収入額とする。
- 年少女子については、最近は女性労働者平均賃金を基礎収入額とするのではなく、全労働者・学歴計・全年齢の平均賃金額を基礎収入額とするのが裁判例の傾向である。
自賠責保険の損害賠償基準
- 全年齢平均給与額の年相当額とする。
学生の逸失利益の基礎収入Q&A
- Q具体的な逸失利益の基礎収入はいくらですか?
- A年489万3100円です。
【解説】
- 令和3年の賃金センサス第1巻第1表の男女計・学歴計の平均年収は年489万3100円です。
- 賃金センサスの平均年収は毎年変更となります。
- Q賃金センサスの平均年収以上が認められることはありますか?
- A個別の職業に就く見通しが具体的にある場合、賃金センサスの平均年収以上が認められることがあります。
【解説】
- 具体的に職業に就くための勉強をしているなどの事情が通常は必要です。
- 被害者本人が希望する職業があるという程度では難しいでしょう。
- Q学生は賃金センサスを利用する確率が高いですか?
- A高いです。
【解説】
- 実際に仕事をしていたり、主婦をしていたりする場合、その仕事内容に応じた年収を基礎とすることが多いです。
- 他方、学生児童幼児などの場合、将来の仕事が具体的に決まっていないことが多いです。そのため、平均値である賃金センサスを利用することが多いです。
- 仕事を実際にしている方の逸失利益の基礎収入は以下をご参照下さい。
参考:有職者の逸失利益の基礎収入の解説
参考:自営業の逸失利益の基礎収入の解説
参考:会社役員の逸失利益の基礎収入の解説
参考:主婦の逸失利益の基礎収入の解説
- Q18歳未満の学生の場合、具体的にどのように計算しますか?
- A基礎収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数(症状固定時から67歳までの係数-症状固定時から18歳に達するまでの係数)で計算します。
【解説】
- 労働能力喪失率とは、後遺障害等級ごとに決められたりしている一般的な割合です。
- ライプニッツ係数とは、「将来もらうお金」を「今もらうことにしたお金」に再計算する数字です。詳細は、中間利息控除の解説をご参照下さい。
参考:中間利息控除の解説
過去の具体的な事例
東京地方裁判所平成30年3月23日判決
【結論】
- 賃金センサス女性医師全年齢平均947万7100円が基礎収入と認められた
【理由】
- 理由
- 高校生の19歳の女性
- 事故後に大学医学部に進学
- 全体の平均ではなく女性医師の平均が相当
東京地方裁判所平成29年12月20日判決
【結論】
- 賃金センサス男性大卒全年齢平均賃金646万200円が基礎収入と認められた
【理由】
- 大学卒業後の26歳の男性
- 税理士を目指して勉強中
- 全体の平均ではなく男性大卒の平均が相当
まとめ
- 学生の逸失利益の基礎収入は男女学歴合計の全年齢賃金で通常は決まります。
- 令和3年の賃金センサスの場合、年収489万3100円として計算します。
- 個別の職業に就く可能性が高いような場合、個別の職業の平均年収を基礎収入とすることがあります。