運転者に過失があるときの同乗者の過失相殺

最終更新日:2026年09月28日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 加藤 貴紀
Q運転者に過失がある場合、同乗者も過失相殺されますか?

車に乗せてもらっていて事故に遭った人(同乗者)は、自分に落ち度がなければ、過失相殺されないのが原則です。

ただし、運転していたのが配偶者や同居の家族であるときは、その運転者の過失を「被害者側の過失」として考慮し、同乗者が運転者の過失を理由に過失相殺されることがあります。

また、同乗者にシートベルトの不着用などの落ち度があるときも、過失相殺されることがあります。

過失相殺による減額が妥当かどうかは、事故状況や運転者との関係により変わります。納得できないときは弁護士への相談をおすすめします。

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過失相殺とは

過失相殺(かしつそうさい)とは、交通事故の被害者にも不注意があったとき、その程度に応じて賠償金を減らす仕組みです。法律上、このような不注意を「過失」といいます。

民法722条2項は、被害者に過失があったとき、裁判所が賠償額を決める際に考慮できると定めています。事故による損害のすべてを加害者だけに負担させるのは公平ではない、という考え方に基づく制度です。

たとえば、損害額が100万円で、被害者の過失が2割と判断されたとします。この場合、受け取れる賠償金は20万円減額され、80万円となります。

このことからもわかるように、過失割合がどのように判断されるかによって、最終的に受け取れる金額が大きく変わります。

では、交通事故により、運転者ではなく、同乗者がけがをした場合、賠償請求や過失相殺はどうなるのでしょうか。

同乗者も加害者に損害賠償を請求できる

同乗者も、事故でけがをした被害者です。そのため、同乗者にも運転者と同じように、加害者に対して損害賠償を請求する権利があります。

同乗者が請求できる損害賠償の内容も、運転者が被害者である場合と変わりません。治療費や通院交通費、休業損害、入通院慰謝料などを請求でき、後遺症が残った場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益も請求の対象となります。

また、相手方の車との事故で、同乗していた車の運転者にも過失があるときは、同乗者は、相手方だけでなく、乗せてもらっていた車の運転者に対しても損害賠償を請求できます。双方に過失がある事故では、両方の運転者がそろって同乗者に賠償する責任を負うからです(共同不法行為・民法719条)。

運転者の過失で同乗者が過失相殺されないのが原則

では、運転者に過失があるとき、同乗者の賠償金は減額されるのでしょうか。

ポイントとなるのは、運転者と同乗者の過失は、原則として別々に考えるということです。

運転者に過失があっても、それは運転者本人の過失であって、同乗者の過失ではありません。同乗者は車に乗せてもらっていただけなので、同乗者自身には過失がないと考えるのが一般的です。

そのため、運転者に過失があるというだけで、それを理由に同乗者の賠償金が減額されることは、原則としてありません。

ただし、例外もあります。どのようなときに過失相殺されるのか、詳しく見ていきましょう。

運転者の過失が同乗者の過失と同視されるケース(被害者側の過失)

運転者の過失を理由に同乗者の賠償金が減額されるのは、運転者が、被害者である同乗者と家庭や家計を共にしているような場合です。このような場合は「損害の公平な分担」という観点から同乗者が相手方に全額請求できるという結論は妥当ではないですし、紛争の一回的解決、求償の循環を防ぐために運転者の過失が同乗者の過失と同視されます。

夫が運転する車の助手席に妻が乗っていて相手方の車とぶつかり、妻の損害が100万円、過失割合が夫2割、相手方8割だったケースで考えてみましょう。

夫と相手方の双方に過失がある事故では、2人はそろって妻に賠償する責任を負います。妻は、どちらに対しても、損害の全額100万円を請求できます。(ただし、二重に受け取ることはできず、受け取れるのは合計100万円までです。)

もっとも、夫婦の間で賠償金を請求することは通常ないので、実際、妻は相手方に全額の100万円を請求することになります。

しかし、相手方が最終的に負担すべきなのは、自分の過失分の80万円だけです。100万円を妻に支払った相手方は、夫の過失分の20万円を肩代わりしたことになるので、あとからこの20万円を夫に請求できます。これを「求償」といいます。

ここで、夫婦の家計全体で考えてみましょう。妻が受け取った100万円は、夫婦の家計に入りますが、夫が求償に応じて相手方に20万円を支払うと、夫婦の家計から20万円が出ていきます。結局、夫婦の家計に残るのは80万円です。

それなら、はじめから夫の過失分20万円を差し引いた80万円を相手方が妻に支払えば、結果は同じで、お金のやり取りも一度で済みます。

家庭も家計も共にする夫婦のように、運転者と同乗者が一体とみられる関係にある場合は、運転者の過失を「被害者側の過失」として考慮し、その分を同乗者の賠償額から差し引くことがあります。これにより、相手方がいったん賠償金の全額を支払い、後から運転者に求償するという二段階のやり取りをせず、一度に解決できます。

判断基準

最高裁判所は、運転者の過失を「被害者側の過失」として同乗者の賠償額の計算に反映させるかどうかについて、運転者と同乗者が「身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」にあるかどうかを基準にしています。

少しわかりにくい表現ですが、「運転者と同乗者に夫婦や親子のような身分関係があるか、生活や家計を実質的に一つにしている関係かどうかを基準に判断する」、というイメージです。

具体的には、身分関係と生活の実態を合わせて、総合的に判断します。名字が同じ、血縁関係があるといった事情だけで、自動的に結論が決まるわけではありません。

被害者側の過失が認められやすい場合

運転者の過失が被害者側の過失として考慮されやすい典型例は、運転者と同乗者が夫婦である場合です。

最高裁判所は、法律上の夫婦について、婚姻関係がすでに破綻に瀕しているなどの特段の事情がない限り、夫の過失を被害者側の過失として考慮できると判断しました。

そのため、夫が運転する車に妻が同乗していた事故では、妻自身に不注意がなくても、夫の過失割合に応じて、妻が相手方から受け取る賠償金が減額されることがあります。

つまり、婚姻届を出している夫婦であれば被害者側の過失が認められやすいということです。

内縁の夫婦や親子の場合

一方、婚姻届を出していない内縁の夫婦や親子などは、生活の実態から判断します。

内縁の夫婦でも、同居して家計を共にするなど、法律上の夫婦と変わらない生活をしているときは、運転者の過失が被害者側の過失として認められる可能性があります。たとえば、「内縁の夫が運転する車」に「内縁の妻が同乗」していた事故では、内縁の妻の賠償金から内縁の夫の過失分が差し引かれることがあります。

親子も、同居して生活や家計を共にしていれば、運転者の過失が被害者側の過失として認められる可能性があります。たとえば、「親が運転する車」に「幼い子どもが同乗」していた事故では、子どもの賠償金から親の過失分が差し引かれることがあります。

ただし、親族であれば、必ず被害者側の過失が認められるわけではありません。運転者と同乗者がどのような関係にあるかに加え、同居の有無、家計の状況などを個別に見て判断します。

被害者側の過失が認められにくい場合

一方で、運転者と同乗者が、身分上または生活関係上、一体とはいえない場合には被害者側の過失は否定されます。

たとえば、友人や知人、職場の同僚などは、親しい関係であっても、通常は別々に暮らし、家計も別です。友人が運転する車に乗せてもらって事故に遭っても、その友人の過失が、同乗者の賠償金から差し引かれることは、原則としてありません。

恋人同士についても、結婚や同居をしておらず、それぞれが別の生活や家計を営んでいる場合には、「身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」とは判断されず、被害者側の過失は認められにくいでしょう。

実際に、最高裁判所は、約3年間交際していた恋人の運転する車に同乗して事故に遭った事案で、結婚も同居もしていない関係では、運転者の過失を理由に同乗者の賠償金を減額することはできないと判断しました。

また、親子や兄弟姉妹などの親族であっても、別居して家計を別にしている場合には、生活関係が一体とはいえず、被害者側の過失が否定されることがあります。たとえば、離れて暮らす兄が運転する車に弟が乗せてもらって事故にあっても、兄の過失分は弟の賠償金から差し引かれない、ということです。

つまり、運転者と同乗者が、親しい間柄や血のつながりはあっても、生活や家計までは一つにしていない関係にとどまるときは、その関係だけを理由に運転者の過失分を同乗者の賠償額から差し引くことはできません。運転者と同乗者が、実際に生活や家計を共にしているかどうかが、被害者側の過失の成否を判断する重要な要素となります。

被害者側の過失を主張された場合の交渉のポイント

保険会社から同乗者に対して、「運転者はご家族ですから、その過失分を同乗者の賠償額から差し引きます」と言われることがあります。

しかし、家族だからという理由だけで、運転者の過失分が、同乗者の賠償金から当然に差し引かれるわけではありません。

このように、保険会社から被害者側の過失を主張されたときは、事故当時の生活関係を具体的に示し、減額の根拠があるのかを確認しながら交渉することが大切です。

運転者との生活関係を具体的に伝える

被害者側の過失を主張された場合、どのように反論するかは、運転者と同乗者の関係によって変わります。

運転者と同乗者が夫婦であるときは、反論が難しくなります。婚姻届を出した夫婦は、法律上一つの家庭を築く関係とされ、別居していても、家計を分けていても、原則として一体とみなされるからです。

そのため、事故当時、婚姻関係がすでに破綻に瀕していたといえる事情がなければ、被害者側の過失を否定するのは難しく、運転者の過失分が同乗者の賠償金から差し引かれる可能性が高くなります。

一方、運転者と同乗者の関係が、親子やそのほかの親族、内縁の相手であるときは、生活の実態がそのまま判断材料になります。

別々の住居で生活していたこと、生活費をそれぞれ負担していたこと、預貯金や収入を別々に管理していたことなどを示して反論することによって、被害者側の過失が否定され、運転者の過失分が同乗者の賠償金から差し引かれずに済む可能性があります。

減額の根拠を具体的に示すよう求める

保険会社は、被害者側の過失を主張し、運転者の過失を理由に同乗者の賠償額を減らそうとすることがあります。

減額を提示されても、その場で受け入れる必要はありません。まず、保険会社に対して、減額の根拠を具体的に説明するよう求めましょう。

被害者側の過失を理由に減額を求めているのは、保険会社です。そのため、減額の根拠を説明する責任も保険会社側にあります。

「ご家族ですから」「親しいご関係ですから」という説明だけでは、根拠として十分とは限りません。運転者と同乗者が家族や親しい関係だというだけでなく、なぜ生活や家計まで一体といえるのか、その具体的な説明を求めることが大切です。

保険会社に示された根拠がはっきりしないときや、その内容に納得できないときは、示談の前に交通事故に詳しい弁護士へ相談すると安心です。

同乗者自身にも過失がある場合は過失相殺がされる

運転者との関係にかかわらず、同乗者自身の行動が事故の発生に影響した場合や、同乗者のけがを生じさせたり重くしたりした場合には、過失相殺により、同乗者が受け取る賠償金が減額される可能性があります。

過失相殺の対象となるかどうかは、同乗者に法律違反があるかどうかだけで決まるわけではありません。事故やけがの発生・拡大について、同乗者にも不注意といえる行動があった場合には、その程度に応じて過失相殺される可能性があります。

代表例が、次に説明するシートベルトやヘルメットの不着用です。

シートベルトやヘルメットの不着用

同乗者がシートベルトをしていなかったことが原因でけがを負ったり、けがが重くなったりした場合には、同乗者自身の過失として賠償金が減額されることがあります。減額割合のおおよその傾向は次のとおりです。

状況 減額割合の目安
助手席でシートベルトを着用していなかった場合 5〜20%程度(10%程度と判断された例が多い)
後部座席でシートベルトを着用していなかった場合 5〜10%程度

ただし、これらはあくまで目安です。実際の割合は、事故の態様やけがの部位などによって異なります。同乗者がシートベルトをしていても同じけがを負ったと考えられる場合には、減額されないこともあります。

後部座席のシートベルト着用については、かつて減額を認めるかどうかの判断が分かれていました。しかし、法改正によって全席でシートベルトの着用が義務付けられた後は、不着用を理由に減額を認める例が増えています。

バイクの後部座席に乗っていた人がヘルメットを着用していなかった場合にも、頭部のけがについて、過失相殺されることがあります。

運転者の危険な運転を助長した場合

運転者が危険な状態だと知りながらあえて同乗したときや、同乗者自身が危険な運転をあおったときは、同乗者自身に落ち度があったとして、同乗者の賠償金が大幅に減額される可能性があります。

具体的には、運転者の飲酒を知りながら同乗する、無免許運転と知りながら同乗する、同乗者が運転者に対しスピードを出すよう促す、などの行動です。

裁判例には、運転者が飲酒していると知りながら同乗した事故で、同乗者の賠償金を25%減額したものがあります。また、運転者が無免許であると知りながら車を提供し、自らはシートベルトもせずに乗り込んだ同乗者について、40%の減額を認めた死亡事故の例もあります。

もっとも、運転者の危険な状態を知っていたというだけで、必ず減額されるわけではありません。その危険な事情が事故の発生や同乗者の負ったけがに影響していなければ、過失相殺が認められないことがあります。

たとえば、運転者が無免許であると知りながら同乗していても、事故の原因が信号の見落としであれば、無免許であること自体は事故に影響していません。そのため、無免許運転と知っていたことだけを理由に、同乗者の賠償額を減額することは難しいでしょう。

保険会社から減額を主張されたときは、指摘された事情が本当に事故の原因といえるかも確認しましょう。

よくある質問

最後に、同乗中の事故や過失相殺について、よくいただくご質問にお答えします。

好意同乗とは何?

好意同乗とは、運転者の好意により、無償で車に同乗させてもらうことです。

好意同乗中に、運転者の不注意で事故が起き、同乗者がけがをした場合、同乗者は運転者に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償を請求できます。

かつては、無償で乗せてもらった以上、同乗者が運転者に賠償金の全額を請求するのは公平でないとして、運転者が支払う賠償額を減らす考え方もありました。

しかし、現在の実務では、無償で同乗したという事情だけで、運転者が同乗者に支払う賠償金が減額されることは基本的にありません。無償で車に乗せてもらったこと自体は、事故について同乗者に落ち度があるとは言えないからです。

配偶者が運転している車に同乗して事故に遭った場合、自分の車の自賠責保険や人身傷害保険に請求できる?

自賠責保険は、条件を満たせば請求できる場合があります。自賠責保険は、被害者ご自身がそのお車の所有者(保有者)でない場合など、一定の条件を満たせば請求可能です。

人身傷害保険も、契約内容によりますが、補償対象となるケースが多くあります。詳しくは保険証券や約款をご確認いただくか、保険会社・弁護士にご相談ください。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

同乗中の車が事故に遭っても、原則として、運転者の過失を理由に同乗者の賠償額が減額されることはありません。

ただし、運転者と同乗者が夫婦である場合など、両者が身分上または生活関係上一体と評価されるときは、運転者の過失が「被害者側の過失」として考慮され、同乗者が相手方から受け取る賠償金が減額されることがあります。

また、同乗者がシートベルトを着用していなかった場合や、危険な運転に関与した場合には、同乗者自身の過失を理由に賠償金が減額される可能性があります。

減額が妥当かどうかは、運転者と同乗者の関係や生活の実態、事故状況、同乗者の行動、けがの内容などによって異なります。保険会社から提示された過失割合や賠償額が、必ずしも適正とは限りません。

保険会社の提示内容に疑問があるときは、示談を成立させる前に、交通事故に詳しい弁護士へ相談してみてください。

よつば総合法律事務所は、交通事故のご相談を多数承っております。ひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 加藤 貴紀

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