歯の後遺障害の逸失利益と後遺障害慰謝料

最終更新日:2026年05月27日

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
Q歯の後遺障害の逸失利益と後遺障害慰謝料はいくらですか?

歯の後遺障害では、治療で人工の歯を入れた本数に応じて第10級~第14級の後遺障害等級が認定される可能性があります。

逸失利益(将来得られたはずの収入の減少分)は、人工の歯で機能が回復したと評価されやすいため、一般的には認められにくい傾向があります。

しかし、力仕事で歯を食いしばる必要がある職業や、発音が仕事に影響する職業の場合には、逸失利益が認められることもあります。また、逸失利益が認められない代わりに慰謝料が増額されるケースもあります。

後遺障害慰謝料の目安は、自賠責基準で32万円(14級)~190万円(10級)、裁判基準では110万円(14級)~550万円(10級)です。

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歯の後遺障害

交通事故による強い衝撃で歯が折れたり抜けたりすることがあります。また、治療のためにやむを得ず歯を抜くこともあります。

こうして歯を失ったり、歯が大きく欠けたりした状態を「歯牙(しが)障害」といいます。「歯牙」とは「歯」のことです。

歯科補綴を加えたもの

歯の後遺障害として認定されるためには、失った歯や大きく欠けた歯に対して、歯科補綴(しかほてつ)を加えていることが条件です。歯科補綴とは、失われた歯や大きく欠けた歯を人工物で補う治療のことをいいます。

「大きく欠けた歯」とは、歯の頭の部分である歯冠部の体積が4分の3以上失われた状態を指します。

具体的な治療としては、入れ歯(有床義歯)、ブリッジ(架橋義歯)、インプラント、合金やレジンによる修復などが含まれます。

ただし、次のケースは補綴の本数にカウントされませんので注意が必要です。

  • 詰め物のみを行った歯
  • ブリッジを支えるために健康な歯を削って冠をかぶせた歯
  • 入れ歯を固定するためのバネをかけただけの歯

歯の後遺障害の認定基準

後遺障害等級は、歯科補綴を行った本数に応じて次の5段階に区分されています。本数が多いほど重い等級になります。

後遺障害等級 内容
10級4号 14歯以上に歯科補綴を加えたもの
11級4号 10歯以上に歯科補綴を加えたもの
12級3号 7歯以上に歯科補綴を加えたもの
13級5号 5歯以上に歯科補綴を加えたもの
14級2号 3歯以上に歯科補綴を加えたもの

なお、歯の大きさや形には個人差があるため、実際に失った歯の数と、補綴に使用した義歯の数が一致しない場合があります。こうした場合は「現実に失った歯の数」を基準として等級が判断されます。

歯の後遺障害の逸失利益

後遺障害等級が認定されると、その等級に応じた「逸失利益」を請求できる可能性があります。

ただし、歯の後遺障害は、手足や視力などほかの部位の後遺障害とは異なり、逸失利益が認められにくい傾向があります。

逸失利益とは

逸失利益とは、後遺障害がなければ将来にわたって得られたはずの収入の減少分のことです。次の計算式で算出されます。

  1. 基礎収入
    事故前の年収です。給与所得者の場合は実際の収入、主婦・学生などは別途算定します。
  2. 労働能力喪失率
    後遺障害によって失われた労働能力の割合です。
  3. 労働能力喪失期間
    原則として症状固定時から67歳までです。
  4. ライプニッツ係数
    将来の収入を一括で受け取ることで生じる利息分を、あらかじめ差し引くために使う数字です。

等級ごとの労働能力喪失率の目安は次のとおりです。

後遺障害等級 労働能力喪失率
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

逸失利益が認められやすいケースと認められにくいケース

歯の後遺障害では逸失利益が否定されるケースが多いのが現状です。

その理由は、歯科補綴によって噛むことや発音といった歯の機能がほぼ回復すると考えられるためです。「人工の歯を入れてしまえば、その後収入が下がるほどの影響はない」と判断されやすい傾向にあります。

認められにくいケース

事務職や管理職など、歯の状態が仕事の成果に直接結びつかない職業の方の場合、逸失利益は認められにくい傾向にあります。

裁判例でも、噛んだり話したりするということが仕事に直結しないケースでは、労働能力の喪失が否定されている事案が見受けられます。

認められやすいケース

一方で、職業の性質や具体的な業務内容によっては、労働能力への影響が認められることがあります。

  1. 歯を食いしばる必要がある職業

    重い荷物を運ぶなど、力仕事を伴う職業では、歯を食いしばれないことで仕事の効率が下がることがあります。

    実際の裁判例でも、事故前に力仕事をしていた被害者について労働能力の喪失を認めている事例などがあります。

  2. 発音・コミュニケーションが業務の核心となる職業

    外国語を使う営業職や、介護士やカウンセラーなどの対人援助の仕事では、歯の欠損によって発音に支障が出て、業務に支障が生じることがあります。

    実際の裁判例でも、作業療法士の被害者に労働能力喪失を認めている事例などがあります。

  3. 若年者・学生

    将来の職業がまだ決まっていない若年者・学生でも、職業選択の幅が狭まる可能性が考慮されることがあります。

    実際の裁判例でも、高校生などに労働能力喪失を認めている事例などがあります。

歯の後遺障害の後遺障害慰謝料

歯の後遺障害が認定された場合、後遺障害慰謝料を請求できます。

後遺障害慰謝料とは

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことで将来にわたって受け続ける精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。

後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じた基準をもとに算定されます。算定基準には次の3種類があり、一般的に裁判基準が最も高額になります。

  • 自賠責基準:法律で定められた最低限の補償の基準
  • 任意保険基準:任意保険会社が独自に設けている基準
  • 裁判基準(弁護士基準):過去の裁判例にもとづく基準

次に、歯の後遺障害における慰謝料の具体的な金額を見ていきましょう。

歯の後遺障害慰謝料の目安

後遺障害慰謝料の目安は次のとおりです。

等級 自賠責基準 裁判基準(弁護士基準)
第10級 190万円 550万円
第11級 136万円 420万円
第12級 94万円 290万円
第13級 57万円 180万円
第14級 32万円 110万円

※任意保険基準は、保険会社が独自に設定しており公開されていないため、表には載せていません。

自賠責基準は、あくまで最低限の補償額です。任意保険基準も、自賠責基準よりは高額になる傾向にあるものの、裁判基準には満たないことが多いです。

弁護士に交渉を依頼することで裁判基準への引き上げを目指すことができます。

逸失利益がない場合には慰謝料増額の可能性

歯牙障害は、歯科治療によって機能の回復が可能と評価されることが多く、労働能力への影響が小さいとして逸失利益が否定されることが多いです。

しかし、逸失利益が認められないからといって、被害者の損害がなくなるわけではありません。歯牙障害は、日常生活にさまざまな不便や精神的な苦痛をもたらします。

逸失利益として金額を計算するのは難しくても、これらの不利益を全く考慮しないのは不公平です。そこで実務では、慰謝料の額を増やすことで、逸失利益では補えない損害を埋め合わせる調整が行われることがあります。

実際に、東京地方裁判所平成16年8月25日判決では、次のような判断を示しています。

この事案は、45歳の男性会社員について、腰椎変形(腰の骨の変形、11級相当)と歯牙障害(11級)が認められたケースです。

歯牙障害については労働能力の喪失が認められず、逸失利益が否定されました。しかし、その代わりに、後遺障害全体の慰謝料を基準額よりも高い700万円としました。

このように、歯牙障害では逸失利益が認められない場合であっても、その不利益が慰謝料の増額という形で反映される可能性があります。

よくあるご質問

ここでは、歯の後遺障害の逸失利益と後遺障害慰謝料について、よくいただくご質問にお答えします。

歯が3本以上折れたら必ず後遺障害になる?

いいえ、必ず後遺障害になるわけではありません。

歯の後遺障害の対象となるのは、事故や治療により歯の頭の部分である歯冠部の体積が4分の3以上失われた状態です。つまり、単に歯が少し欠けた程度でエナメルの部分が4分の3以上失われていない場合は、後遺障害として認定されません。

なお、基準上は「歯科補綴を加えたもの」となっていますが、特に処置をせず欠損したままの状態あっても、歯冠部の体積が4分の3以上失われた状態であれば後遺障害の対象になります。

事故前から一部歯がない場合の後遺障害のルールは?

事故前にすでに歯を失っていたり、治療済みの歯があった場合には通常とは異なるルールで後遺障害等級や賠償額が判断されます。

事故前から歯牙障害があった方が、交通事故によってさらに歯を失い、より重い等級に該当するようになった場合は、「加重障害」として扱われます。

加重障害では、事故後の等級に対応する補償額から、事故前の既存障害に対応する補償額を差し引き、事故によって増えた損害部分を評価します。

具体的には、次のように計算します。

「事故後の等級に対応する補償額」-「事故前にすでにあった障害の等級の補償額」=賠償の対象額

たとえば、事故前から5歯に歯科補綴を加えていた方が、交通事故によってさらに4歯に歯科補綴を加えることになり、合計9歯となったケースを考えてみましょう。

この場合、事故後は「7歯以上に歯科補綴を加えたもの」として12級相当になります。一方、事故前から「5歯以上に歯科補綴を加えたもの」として13級相当の歯牙障害があったため、「第12級の補償額」から「第13級の補償額」を差し引いた金額が、事故による損害として評価されます。

この場合の賠償額は、「第12級の補償額」から「第13級の補償額」を差し引いた金額となります。

なお、事故前の歯の状態や、今回の事故によって歯科補綴が必要になった歯数の評価によって、認定される等級が変わることがあります。主治医が記載した後遺障害診断書の内容を弁護士と一緒に確認することで、より適切な認定につながる場合があります。

事故で直接歯が欠けていなくても後遺障害になる?

認定される可能性があります。

後遺障害の対象となる喪失歯には治療上抜歯した歯を含むものとされています。

たとえば、事故の衝撃が原因で歯根(歯の根元)が大きくダメージを受け、保存できないと判断して抜歯した歯も対象となります。

親知らずを失った場合も後遺障害になる?

いいえ、原則としてなりません。

第3大臼歯(いわゆる親知らず)は、後遺障害等級の認定対象から除外されています。事故によって親知らずを失っても、後遺障害等級の認定を受けることはできません。

歯や口を損傷した場合、他に認定されうる後遺障害は?

歯牙障害以外にも、口まわりの損傷によって次のような後遺障害が認定される可能性があります。

  1. 咀嚼(そしゃく)機能障害

    下あごの骨折や、あごの関節の脱臼などにより、噛み合わせや口の開閉に支障がある状態です。

    支障の程度に応じて、軽い方から順に、次の3段階で後遺障害の程度が評価されます。

    • 固形食に制限がある(障害を残すもの)
    • お粥程度しか食べられない(著しい障害)
    • 流動食しか食べられない(機能を廃したもの)
  2. 言語機能障害

    くちびるや舌の損傷により、正常な発音ができなくなった状態(構音障害)です。

    次の4種類の音のうち、何種類の発音ができないかによって等級が決まります。

    • 口唇音(こうしんおん):くちびるを使う音(ま行・ぱ行・ば行など)
    • 歯舌音(しぜつおん):舌を歯に当てて出す音(さ行・た行・な行・ら行など)
    • 口蓋音(こうがいおん):舌を口の天井(口蓋)につけて出す音(か行・が行・や行など)
    • 喉頭音(こうとうおん):のどの奥から出す音(は行など)

    なお、脳の損傷による失語症は、言語機能障害ではなく、脳の後遺障害として別途評価されます。

  3. 味覚障害

    頭や顔の損傷で味覚をつかさどる神経がダメージを受け、味がわからなくなった状態です。

    甘味・酸味・塩味・苦味の4つの味について検査をすることで判定されます。4つの味のうち、いくつ感じられなくなったかによって、等級が決まります。

  4. 外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)

    顔や頭、首などの目立つ部位に傷跡や変形が残った状態です。

    傷跡の場所や大きさによって、等級が決まります。

歯牙障害と咀嚼・言語機能障害が両方ある場合の等級は?

歯牙障害と咀嚼・言語機能障害の原因が同一かどうかで取り扱いが異なります。

  1. 原因が別々の場合

    たとえば、あごの骨折による噛み合わせの異常(咀嚼障害)と、歯の欠損(歯牙障害)が両方ある場合は、それぞれの等級を「併合」して全体の等級を決めます。

    併合とは、身体の異なる部位や性質の後遺障害が2つ以上ある場合に、それらをまとめて一つの等級にする手続きのことです。その際、重い方の等級を繰り上げる処理を行います。

    具体的には、次のルールにより繰り上げます。

    • 5級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の等級を3級繰り上げる
    • 8級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の等級を2級繰り上げる
    • 13級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の等級を1級繰り上げる
  2. 歯牙障害が原因の場合

    歯を失ったことそのものが原因で、噛むことや発音に影響が出ている場合は、歯牙障害の等級と機能障害の等級のうち、重い方の等級を一つ選んで認定します。

    この判断は専門的な医学的・法律的知識を要するため、疑問がある場合は弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談

歯の後遺障害は、見た目の変化だけでなく、食事や会話など、毎日の生活にも深く関わるものです。

しかし、保険会社からは「補綴治療で機能は回復しているので逸失利益はゼロです」と主張されるケースが非常に多くあります。その結果、十分な補償を受けないまま示談してしまうケースも少なくありません。

適切な賠償を受けるためには、ご自身の職業や日常生活への影響を法的に正しく整理し、主張することが欠かせません。

よつば総合法律事務所では、交通事故による歯の後遺障害に関するご相談をお受けしています。

「保険会社の提示額が妥当かどうかわからない」「逸失利益が認められるか知りたい」といった疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

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