同じ「頚椎捻挫(むちうち)」の病名でも大幅に賠償額が違う理由
最終更新日:2025年09月24日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q同じ「頚椎捻挫(むちうち)」の病名でも大幅に賠償額が違うのはなぜですか?
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頚椎捻挫(むちうち)の賠償額は、病名だけで決まるのではなく、通院期間や通院頻度、計算基準、後遺障害の有無など複数の要素によって決まるためです。
通院が長期になれば入通院慰謝料や治療費が増える可能性があり、算定基準(自賠責保険基準・任意保険基準・裁判所基準)の違いでも金額が変わります。さらに、後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益も加わり、総額が大きくなります。

目次

頚椎捻挫(むちうち)とは?
頚椎捻挫(むちうち)とは、交通事故などで首に強い衝撃が加わり、しなるように不自然に動いたことで生じる首の捻挫です。診断名としては、頚椎捻挫のほかに、頚部挫傷、外傷性頚部症候群、外傷性神経根症などが使われます。
人間の頭部は体重の約10%もの重さがあります。これが事故の衝撃で前後に大きく振られると、頭を支える首には大きな負担がかかります。事故直後は症状が軽くても、数時間から数日後に痛みや違和感が出ることも珍しくありません。
主な症状は次のとおりです。
- 首や肩の痛み・こり
- 腕や手指のしびれ、痛み
- 頭痛、めまい、吐き気
- 耳鳴り、集中力の低下
これらは首周辺の筋肉や靭帯の損傷だけでなく、頭部から背骨に沿って走る神経への影響によっても起こります。事故後にこうした症状がある場合は、早めに整形外科などを受診し、医師に症状を詳しく伝えることが大切です。
賠償金の主な項目
交通事故で頚椎捻挫(むちうち)になった場合、請求できる主な項目は次のとおりです。
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医療機関や整骨院などで治療を受けた費用。必要かつ相当と認められる場合は全額が対象になります。
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通院にかかった電車・バス代、自家用車のガソリン代などです。
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付添費用
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けがで働けなかった期間の収入減や、有給休暇を使った分などの補償です。
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後遺障害によって将来の収入が減る損害です。等級や年齢などによって計算されます。
賠償金が大幅に変わる理由
同じ頚椎捻挫(むちうち)という診断名であっても、受け取れる賠償金額は人によって大きく異なります。その主な理由は、治療期間や慰謝料計算の基準、後遺障害の有無などにあります。
① 通院期間などにより慰謝料が増える
頚椎捻挫(むちうち)での通院期間が長くなると、入通院慰謝料は増額されます。入通院慰謝料とは、けがによる通院・入院で受けた精神的苦痛に対して支払われるお金で、治療期間が延びるほど支払額も大きくなるルールです。
慰謝料の算定では「通院期間」と「実通院日数」の両方が重視されますが、通院期間を基準として計算することが多いです。
さらに、通院期間が延びれば、慰謝料だけでなく実際に休業した部分の休業損害なども増える可能性があります。
適正な慰謝料や関連費用を受け取るためには、主治医の指示に従って継続的に通院することが大切です。自己判断で治療を中断すると、症状が悪化するだけでなく、賠償額の減額にもつながりかねません。
② 慰謝料には3つの基準がある
同じ頚椎捻挫(むちうち)でも、どの算定基準で計算するかによって入通院慰謝料の金額は大きく変わります。ここでは、それぞれの基準の特徴と違いを説明します。
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自賠責保険基準
自賠責保険とは、自動車を運転するすべての人が必ず加入しなければならない強制保険です。正式名称は「自動車損害賠償責任保険」で、被害者への最低限の補償を目的としているため、金額は3つの基準の中でもっとも低く設定されています。
入通院慰謝料は1日あたり4,300円で計算されます。
計算式は「実通院日数×2」または「治療期間の日数」の少ない方に4,300円をかけて計算します。
重傷か軽傷かにかかわらず、通院日数が同じであれば金額は同額です。 -
任意保険基準
任意保険会社が独自に定めている慰謝料の算定基準で、原則として非公開です。
金額は自賠責保険基準と同等か、やや高い程度が一般的です。ただし、裁判所の基準と比べると低いことがほとんどです。
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裁判所の基準(弁護士基準)
弁護士が交渉する場合や裁判になった場合に適用される基準で、3つの基準の中でもっとも高額です。過去の裁判例をもとに作られており、被害者の精神的苦痛をより適正に評価します。
自賠責基準や任意保険基準よりも高く、場合によっては自賠責保険基準の2倍以上になるケースもあります。
裁判所基準の入通院慰謝料は表形式で定められ、自賠責保険基準と異なり入院と通院を区別して計算します。表は、レントゲンなどで異常が見られない頚椎捻挫(むちうち)や打撲などの比較的軽傷な場合(別表Ⅱ)と、それ以外の場合(別表Ⅰ)の2種類が用意されています。
③ 後遺障害の認定を受けると逸失利益と後遺障害慰謝料が増える
後遺障害の認定を受けると、請求できる損害賠償の項目が増え、賠償額が大幅に増額される可能性があります。
具体的には、「後遺障害逸失利益」と「後遺障害慰謝料」を新たに請求できるようになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償で、金額の目安は後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級は1級から14級まであり、数字が小さいほど障害の程度が重いとされます。
裁判所の基準では、たとえば「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)は110万円、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)は290万円が目安です。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって将来的に労働能力が低下し、その結果収入が減少することによる損害を補うための賠償です。
金額は被害者の年齢・職業・年収額・労働能力喪失率・喪失期間などによって決まります。
適正な賠償金を受け取るための5つのポイント
頚椎捻挫(むちうち)になった場合、慰謝料や治療費などの賠償金を適正に受け取るには、後悔しないために押さえておくべき5つの重要なポイントがあります。
① 症状を正しく医師に伝える
診察時には、痛みやしびれ、頭痛、めまいなどの症状を漏れなく正確に医師に伝えることが重要です。症状の記録がカルテや診断書に残っていなければ、後遺障害認定や賠償請求で必要な証拠として認められないおそれがあります。手足の痛みやしびれについてはどの部分に症状が出ているかも正確に伝えましょう。
「今日は少し楽だから」と言って軽く伝えてしまうと、症状が軽いと誤解されるおそれがあるため、痛みや不調はその程度や頻度をありのまま正確に申告しましょう。
② 自己判断で治療をやめたり減らしたりしない
保険会社から治療の打ち切りや中断を促されることがありますが、治療の必要性を判断できるのは保険会社ではなく医師です。
医師が継続の必要を認めている限りは、打ち切りや中断の提案には慎重に対応しましょう。
③ 治療が終わっても症状が残るときは後遺障害の申請を考える
治療を続けても痛みやしびれ、可動域制限などの症状が残る場合は、症状固定の診断を受けた上で、後遺障害認定の申請を検討します。
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を追加で請求でき、賠償額が大幅に増える可能性があります。ただし、認定は提出書類と医療記録をもとに判断されるため、診断書の記載や検査結果、通院記録などの証拠を十分に揃えることが不可欠です。
④ 示談前には慎重に金額を確認する
示談書に署名・押印すると、その後に示談内容を超える追加の賠償請求をすることは原則としてできなくなります。提示された金額が妥当かどうか、必ず算定基準(自賠責基準・任意保険基準・裁判所基準)の違いを踏まえて確認しましょう。
特に保険会社の提示額は、自賠責基準や任意保険基準で計算されていることが多く、弁護士基準より低額なケースが少なくありません。
⑤ 交通事故に詳しい弁護士に相談する
弁護士に相談すれば、慰謝料を裁判所の基準で請求できるため、賠償額が大幅に増える可能性があります。また、後遺障害認定に必要な証拠の収集や、過失割合の交渉なども任せられるため、被害者ご自身の負担を減らせます。
弁護士は過去の裁判例や交通事故案件の解決実績をもとに、被害者に有利な条件での示談成立を目指します。「適正な賠償金を受け取れているか不安」という段階でも相談する価値があります。
よくあるご質問
頚椎捻挫(むちうち)の治療や示談交渉に関して、多くの方が悩まれる点について、Q&A形式で解説します。
治療費が打ち切りになりそうです。どうすればよいですか?
保険会社から治療費の打ち切りを告げられても、医師が必要と認めている限りは安易に同意せず、慎重に対策を検討しましょう。状況に応じて、保険会社から主治医に医療照会をしてもらうよう依頼するなどの対応が考えられます。
また、「あと〇か月で治療終了予定」など具体的な見込みを示し、症状の改善状況や検査結果を保険会社に伝えると延長される可能性があります。治療期間の交渉を行う場合は、主治医に相談して、主治医の考えとして伝えるとうまくいくことがあります。
交渉が難しい場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談するのも有効です。
示談交渉ではどのような点に注意すればよいですか?
相手の保険会社は中立ではなく加害者側の利益を守る立場にあります。そのため、被害者が十分な知識を持たずに交渉すると、不当に低い金額で示談がまとまってしまうおそれがあります。
まずは、未精算の治療費、交通費、休業損害の請求漏れがないかをしっかりと確認しましょう。
そして、示談交渉を有利に進めるためには、まず慰謝料や損害賠償の計算基準の違いに注意しましょう。自賠責保険基準は最も低額で、裁判所基準(弁護士基準)が最も高額です。不当に低い基準で計算された金額には安易に応じないことが重要です。
また、感情的な不満を述べるよりも、「この金額で示談であれば示談に応じる」といった具体的な金額と、その算定根拠を提示することで、交渉が円滑に進みやすくなります。過去の裁判例を根拠に示すことも有効です。
さらに、弁護士に相談すれば、裁判所基準での損害額計算や、過去の類似裁判例を踏まえた有利な交渉が可能になります。示談交渉が始まったら、一度は交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。もし保険会社の金額提示があれば、具体的にどのくらい増額可能か回答することが可能です。
まとめ:頚椎捻挫の賠償金で悩んだらまずは弁護士へ
頚椎捻挫(むちうち)は、外見上は重症に見えにくい一方で、保険会社との交渉次第で慰謝料や治療費などの賠償額が変わります。適正な賠償金を受け取るためには、計算基準や後遺障害認定などの知識が欠かせません。
もし金額や対応に少しでも不安を感じたら、早めに交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。専門家が介入することで、裁判所の基準での請求や有利な示談交渉が可能になり、本来受け取るべき金額を確保できる可能性が高まります。

- 監修者
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弁護士 粟津 正博